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TOD  作者: ナナシノススム
ハーフタイム
162/272

ハーフタイム 27

 春来にとって、春翔に付き合う形でペットショップに行くことが日常になりつつあった時、店長から重要な話があると切り出された。

 それは、この店を取材した内容が、番組で放送される日が近いといったもので、店長はそのことを春来だけでなく、春翔などにも伝えた。

「テレビに出るなんてすごい! 絶対見る!」

 これまで何も聞いていなかった春翔は、素直に喜んでいた。一方、春来はまだ心配が残っていたものの、ただただ喜んでいる春翔を見て、心配し過ぎかもしれないといった考えに変わっていった。

 そして、番組が放送される日、春来と春翔は一緒に見ようと、テレビの前で待っていた。また、そこには、春来達だけでなく、両親達も一緒にいた。

「あ、始まった!」

 番組が始まってから少し経った後、一つの特集といった形で、それは始まった。

 まず、野良犬や野良猫によるトラブルが紹介され、被害に遭っている人の話などがあった。それ自体は、以前から知っていた話で、特に新しい情報などはなかった。

 しかし、そうした問題が起こっている原因の一つとされたのは、無数にあるペットショップだといった話に入ったところで、春来は嫌な予感がした。そして、特に個人で経営しているような、小さなペットショップが悪いといった話になった後、いつも行っているペットショップと、その店長が紹介された。

 店長は、モザイクがかけられているだけでなく、声も加工されていて、まるで犯罪者のような扱いだった。さらに、話している内容は、普段店長が言っていることと、全然違っていた。

「動物を飼いたいと言っている人がいたら、すぐに売ってしまう」

「こういったことをしないと、店の経営は難しい」

「知識もなく、動物を飼ってしまう人も悪い」

 そんな発言をテロップ付きで紹介された後、今度は店内の映像に切り替わった。しかし、店員が少ないことや動物が放し飼いになっていることに対して、ひどい環境だといったナレーションが追加されるだけでなく、BGMも緊迫したもので、見ているだけで不快になるものだった。

 そこでまた映像が切り替わると同時に、BGMも明るいものに変わった。それから、大手のペットショップの紹介が始まった。

 それは、多くの従業員に、充実した設備といった紹介で、先ほどと正反対のことを伝えながら、小さなペットショップより、大きなペットショップの方がいいといった内容だった。

 そして、最後に大手のペットショップを経営する社長が、ペット問題はペットショップの問題でもあるから、真摯に向き合っていくといった、それこそいつも店長が言っているようなことを言って、特集は終わった。

 特集が終わった後、春来達は、しばらく何も言えなかった。

「……何これ?」

 ようやく、そんな声を上げたのは、春翔だった。それからすぐ、春来の父親がため息をついた。

「これは、想像した以上にひどいね」

「ひど過ぎるよ! あんな悪者みたいに紹介するなんて!」

「マスメディアというのは、こういうこともするんだよ。そのうえで言うけど、もう春翔ちゃんと春来は、あの店にかかわらないようにしてほしい」

 そんな言葉に対して、春翔は身を乗り出すほど感情的になった様子で、口を開いた。

「何で!? だって、こんなの……」

「春翔、落ち着いてよ。父さん、前にも話したけど、ビーさんに相談できないかな?」

 春来は、春翔を止めると同時に、ビーに協力を頼めないかと提案した。それに対して、また父親はため息をついた。

「前に話したけど、ビーさんはマスメディアの問題を暴露するため、危険なこともしているんだよ。だから、かかわるだけで、こちらにも危険があるかもしれないし……これは、あの店も同じで、仮にビーさんの協力を得られたとしても、それによって今後も目を付けられる可能性があるんだよ」

 以前、朋枝の件で助けてもらった時は、あくまで抑止力のような形で、直接マスメディアとかかわることもなかった。しかし、今回はマスメディアと直接かかわることになる可能性が高く、ビーでも協力しづらいはずだ。そういったことを父親から詳しく説明され、春来は納得した。

 ただ、春翔は違った。

「そんなの嫌だ! だって、あんなの全然違うじゃん!」

 それから、両親達が必死に説得したものの、春翔が納得することはないまま、解散することになった。

 そうして、春翔と別れた後、春来は両親から改めて話があると言われた。

「春翔ちゃんは、納得していないし、この後も首を突っ込むと思うから……」

「僕には、春翔を止めることなんて無理だよ。だって、春翔は『特別』じゃん? きっと、今までと同じように、何とかできると思って、止まることは絶対にないよ」

 春来はそう伝えた後、自分から提案することにした。

「本当に、ビーさんに助けてもらうことは無理なのかな? せめて、こういったことがあったって話をするだけでもできないかな?」

 春来がそう言うと、両親は複雑な表情を見せた。

「春来と春翔ちゃんの気持ちは、痛いほどわかるわ。あそこは本当にいいペットショップだったし、私もどうにかしたいわよ。でも、こうなっちゃったら……」

「僕が、取材なんて受けるべきじゃないって、説得できなかったのが悪いんだよね?」

 春来は、もっとできることがあったんじゃないかと思って、自然とそんな言葉が溢れた。すると、そんな春来の言葉に対して、両親はすぐに反応した。

「そんなことないわ! 春来は、ちゃんとできることをしたわ!」

「僕の話だって、春来は伝えてくれたんだし、春来が悪いなんてことはないよ!」

 そんな風に言ってもらったものの、春来は店長を説得できなかったことを後悔した。そして、それはまだ自分が子供だからだといった、そんな考えを持った。

 それから、少しでも何かできることを探すため、春来はパソコンを操作すると、ペットショップのSNSを確認してみた。

 そこには、番組が始まる直前に投稿された、この後テレビで紹介されるといった内容があった。そして、その投稿の返信欄を見ると、「あんなひどいことをしているのに、テレビに出られるのが嬉しいなんて、どんな神経なんだ」といった、批判のコメントで溢れていた。

 番組の中では、具体的にどこのペットショップなのか紹介していなかったのに、このSNSの投稿によって、どこのペットショップか特定させる形になってしまったようだった。そして、次々と投稿される批判に、春来は目を通していった。

「あれ?」

 その時、春来は思わず声が漏れてしまうほど、大きな違和感を持った。ただ、何に対して違和感を持ったのかまではわからず、混乱してしまった。

 それから、違和感の正体を探そうと、改めて投稿を見返していた時、ペットショップから新たな投稿があったことに気付いた。それは、番組で紹介された内容が事実と違うといったもので、実際の取材ではどう答えていたかといったことを詳しく書いていた。

 それ自体は、春来が両親から聞いて、店長にアドバイスしたことだ。しかし、そうした投稿に対して返ってきたコメントは、「批判されて、怖くなったんだな」とか「こんな長文で、言い訳するな」といった、やはり批判するものばかりだった。

 そうしたコメントに対しても、どこか違和感を持ちつつ、SNSで事実を伝えるという手段が何の効果もないどころか、むしろ逆効果になっているように見えて、春来はため息をついた。

「春来?」

 その時、そんな父親の声が聞こえて、春来は振り返った。

「SNSの方、僕も確認したよ。結局、僕達のアドバイスは役に立たなかったね」

「本当にどうにもできないのかな? こんなの……春翔が絶対に納得しないよ」

 春来がそう言うと、父親は困った表情を見せつつ、何か考えがある様子だった。

「確かに、春来の言う通りだと思うよ。だから……乗り気はしないけど、少しだけ協力してあげるよ」

「え?」

「ビーさんに、このことを伝えるだけ伝えてみるよ。でも、期待はしないでほしいかな」

「ありがとう!」

「とりあえず、今すぐ連絡してみるね。ただ、何度も言うけど、期待はしないでよ」

 父親はそう言ったものの、ビーが協力してくれるなら、きっと解決できる。そんな期待を春来は持っていた。

 そして、父親は春来の目の前で、ビーに連絡を取った。しかし、話をする父親の表情は、終始深刻なものだった。

「やっぱり、そうですよね。話だけでも聞いてもらって、ありがとうございました」

 そして、父親の言葉から、ビーの協力を得られなかったのだろうということは、すぐにわかった。

「ビーさん、今は手が離せないようで、協力できないって言っていたよ。まあ、それがなくても、さっき言った通り、既にマスメディアが動いているから、協力は難しいみたいだね」

「……うん、わかったよ」

 そこで、何で取材を受けないよう、店長を説得できなかったのだろうかといった後悔を、春来はさらに強く持った。

 こういった問題が起こる可能性があるといったことは、元々わかっていた。それなのに、未然に防ぐことができなかった。だったら、どうすれば防ぐことができたのだろうか。他に方法はなかったのだろうか。そういった疑問が、春来の中で渦を巻いていた。

「春来、今回の件は、ただ春翔ちゃんを止めることだけ考えてもらえないかな?」

 父親は、気を使うような様子で、そんな提案をしてきた。

「春翔ちゃんは、またペットショップへ行こうとすると思うし、それを止める……のは、難しいだろうね。それじゃあ……春来がずっと春翔ちゃんの近くにいて、守ってほしい」

「うん、言われなくてもそうするよ」

 以前、春翔が自分の近くにいたいと言ってくれた時、本当に嬉しいと感じた。そして、春来も春翔の近くにいたいと強く思った。そのため、こんな状況かどうかなど関係なく、春来は春翔の近くにいるつもりだった。

「うん、そうしてほしい」

 そして、父親は最後にそれだけ言うと、どこか嬉しそうな様子で部屋から出て行った。

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