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TOD  作者: ナナシノススム
ハーフタイム
161/272

ハーフタイム 26

 その日の晩、春来の母親から、春翔の両親に話をしたことで、春来と春翔がペットショップに通うことは許してもらえた。

 また、宣伝も兼ねて、友人にペットショップのことを話すといいんじゃないかといった提案を春翔に伝えた。すると、春翔は自分にもできることがあると知り、喜んでいた。

 そして、次の日になると、春翔は早速ペットショップの話を友人達にした。

「それなら、今度の休みに行ってみようかな」

「私、猫を飼いたいと思ってたから、今度行ってみるよ」

 春翔の伝え方が良かったのと、先日の捨て犬のことがあったからか、ペットショップの噂は、その日のうちに学校中へ広がっていった。

 そして、学校が終わると、春来と春翔は、ペットショップに寄った。

「春翔ちゃん、春来君、いらっしゃい」

 店長は、昨日と同じように、笑顔で迎えてくれた。

「今日、学校でここのことを話したの! それで、ここに来たいって子がたくさんいたんだよ!」

 春翔は、自慢するようにそんなことを言った。

「春翔ちゃん、ありがとう。確かに、もっとたくさんのお客さんが来てくれたら、この子達も喜んでくれると思うよ」

 そして、店長は嬉しそうにそう言った。その際、あくまでここにいる動物達のことを一番に考え、それで喜んでいるということが感じられて、春来も何か助けになりたいと思った。

「この店のこと、もっと色々な人に知ってもらうため、何か宣伝みたいなことってできないかな?」

「そういうことなら、妹が……SNSだっけ? それで店のことを色々と書いてくれてるみたいだよ」

 春来は、幼い頃からインターネットを利用しているため、SNSがどういうものか、理解している。ただ、店長はそういったことに疎いのか、SNSがどういうものかということも、あまり知らないようだった。

「それ、僕にも見せてくれないかな?」

「ああ、ちょっと待ってね。スマホで見られるから、取りに行ってくるよ」

「それなら、僕も一緒に行くよ」

 店長が、スタッフの使っている部屋へ行こうとしたタイミングで、春来はそう切り出した。

「春翔、僕の分も、みんなと遊んでいてもらっていいかな?」

「うん、いいよ!」

「それじゃあ、行ってくるね」

 そうして、動物達に囲まれた春翔を残す形で、春来は店長と一緒にスタッフの使っている部屋に入った。

「ちょっと待ってね。確か……」

 店長は慣れない様子でスマホを操作した後、画面を春来に向けた。

「うん、これだよ」

 それは、多くの人が利用しているSNSだった。そして、見せてくれたアカウントは、この店にいる動物達や、店の様子を写真付きで載せた投稿が中心になっていた。

「妹は中学生なんだけど、家がちょっと遠くて、ここに来るのは時々なんだよね。ただ、私がしてることは応援してくれてて、これも妹がやるべきだって言って、始めてくれたものなんだよ」

「父さんと母さんも、何かしらか自分達で発信できるものがあった方がいいと言っていたよ。ただ……あまり見ている人はいないみたいだね……」

 各投稿のアクセス数などを調べてみると数件程度で、このSNSを使った宣伝が真面に機能していないことは、すぐにわかった。

「やってるのが妹だしね。私も、こういうのは苦手で……」

「僕も詳しいわけじゃないけど、写真だけじゃなくて、動画も入れたらどうかな? スマホで簡単に撮れるし、やっぱり動いている動物を見る方が、興味を持ってくれる人が増えるんじゃないかな?」

「なるほど! 妹に言ってみるよ!」

「あと、気になったことがあって……」

 SNSの話をしながら、春来は本題に入るタイミングを考えていた。ただ、実際にそれを切り出そうとしたところで、少しだけ迷いを持ってしまい、上手く言葉が出てこなかった。

「うん、春翔ちゃんに聞かれたくない話があるんだよね?」

「え?」

「春来君、誤魔化すのは苦手みたいだね。私にだけ話したいことがあるって、すぐにわかったよ。きっと、春翔ちゃんも気付いてるよ?」

「そうなのかな?」

 そうなると、春翔から後で追及されるかもしれない。そんな不安もあり、春来は伝えようとしていたことを、店長に伝えない方がいいんじゃないかといった考えを持った。

 しかし、そんな春来の考えを否定するかのように、店長は急に笑い出した。

「春翔ちゃんも色々と知ったうえで、春来君と私の二人で話をさせようって思ってくれてるんだよ? そういったことは気付かないんだね」

「え?」

「まあ、理解できなくてもいいから、春来君の言いたいことを言ってよ」

 色々とわからないことがあったものの、店長からそんな風に言われ、春来は本題に入ることにした。

「母さんが気付いたんだけど、何か取材を受ける予定があるんだよね?」

 そんな質問をすると、店長は困った表情になった。そんな店長の表情から、母親の言う通りなんだろうといった確信を、春来は持った。

「取材を受ける予定があることを誰かに言っちゃいけないって話も、母さんと父さんから聞いているよ。だから、このことは、春翔にも言わないよ」

 そう伝えると、店長の表情は少しだけ穏やかなものになった。

「うん、そうしてくれると助かるよ」

「だから、どんな取材を受ける予定なのか、僕にだけ話してくれないかな? その……取材を受けた人が、自分の伝えたいことを伝えてもらえなかったって話、たくさん知っているから……」

 言いながら、ただの小学生である自分が聞いたところで、何が変わるのかといった疑問があり、春来は言葉に詰まってしまった。

「内容としては、ペット問題に関する特集をテレビでやりたいってもので、うちみたいに小さなペットショップが抱えてる問題とかを聞きたいみたいだよ」

 ただ、店長がすんなりと話をしてくれて、むしろ春来は戸惑ってしまった。

「取材を受けた人が、自分の伝えたいことを伝えてもらえなかったって話は、私も聞いたことがあるよ。だから、多分、今回も私が伝えたいことのうち、ほんの少ししか伝えてもらえないと思ってるよ。それでも、ほんの少しだけペット問題のことが誰かに伝わるなら、それでいいと思ってるの」

「でも、もしかしたら、伝えたいことと、まったく逆の内容にされてしまう可能性だってあるんだよ?」

「心配してくれて、ありがとう。ただ、仮にそうだとしても、わかってくれる人はわかってくれるし、現状、何もできてないのを、少しでも変えられるなら、それでいいと思うんだよ」

 店長は、様々なことを覚悟したうえで、取材を受けると決めているようだった。それを感じて、春来は反対するのをやめた。その代わり、両親から聞いたことを伝えることにした。

「父さんと母さんが言っていたんだけど、取材を受けるなら、こっちも録音とか撮影をして、何かしらか記録を残した方がいいって言っていたよ。そうすれば、こっちの意図と違うことを伝えられた時、実際は何を言っていたかって証明になるよ」

「確かに、そうかもね」

「ただ、そうしたことを禁止される可能性も高いって言っていたよ。その場合、せめてメモを取るとかして、何を話したか、少しでも残すといいみたいだよ。それで、こっちの意図と違うことを伝えられた時、さっき言っていたSNSとかで、すぐに訂正するとか、そういったことぐらいはできるよ。でも、これは番組の反響によっては、あまり効果がないかもしれないから、できればさっき言った通り、録音とか撮影ができると一番みたいだよ」

 そこで、春来は一瞬だけ、その先を言うべきか迷ったが、両親から聞いたことは全部伝えることにした。

「録音とか撮影を許可してもらえなかった時は、バッグにボイスレコーダーを入れたり、防犯カメラを切らないでそのままにしたり、そうしたことをするのも考えた方がいいそうだよ。ボイスレコーダーなら、父さんとかが普段使っているのを貸すことができるよ。防犯カメラの方は、起動している時に光るライトをテープで隠すとか、そうしたことをすれば、起動していても気付かれにくいみたいだよ」

「色々とアドバイスありがとう。でも、そういった隠し撮りみたいなことは少しやりたくないかな」

「僕もそう思ったんだけど、それぐらいのことをやるべきだって、父さん達は言っていたんだよ」

「確かに、そこまで警戒するのが一番なのかもしれないけど、この前、話をしに来てくれた記者さんは、色々とこっちの話も聞いてくれたよ。それに、ここの防犯カメラ、映像だけで音声は録音できないんだよね」

 春来が伝えたことは、それこそ最悪のケースといえるような内容だ。実際、良心的な人が取材してくれる可能性もあるといった話を、両親はしていた。

 そのため、店長がそう言うなら、これ以上話すのは、ただ無駄な不安を与えるだけになってしまうかもしれない。そう思って、春来は、ここで話を切り上げることにした。

「何か困ったことがあったら、父さん達が助けてくれるからね。あと、僕なんかの話を聞いてくれて、ありがとう」

 春来がそう言うと、店長は笑った。

「春来君の話、ためになってるよ。私にとって、春来君は転生者だしね」

「この前も言っていたけど、その転生者って、何なのかな?」

「うーん、ちょっと説明が難しいから、自分で調べてみてよ。それより、そろそろ戻ろうか」

 最後にそんな話をして、春来と店長は、部屋を後にした。そして、その後は特に取材のことなどに触れることなく、動物達と触れ合うだけだった。

 その日だけでなく、それからも春翔に付き合う形で、春来はペットショップを訪れた。そうして何日も通っていると、また見えてくるものがあった。

 まず、近所の評判がいいといった話を裏付けるように、動物の餌やおもちゃを持ってくる人や、ちょっとしたお土産を持ってくる人が時々いた。それだけでなく、挨拶がてら店に寄っては、動物達と遊ぶ人もいた。

 また、春翔を中心に、学校でペットショップの噂を広げたことをきっかけに、他の生徒が来ることも少しずつ増えていった。中には、動物をレンタルする子や、それが発展して実際に動物を飼うことになった子もいて、宣伝としては上手くいっているようだった。

 そうした変化に店長は喜び、感謝の気持ちを伝えてくれた。ただ、それで取材を受けるのをやめるといった考えになることはなかった。

 そんなある日、店長から取材を受ける日が決まったといった話を、春来は切り出された。

「春来君の言った通り、こっちが録音とか撮影をするのは控えるようにってことだったよ」

 取材に関して、詳細な説明があったようで、その中には、そんな内容が含まれていたとのことだった。

「ただ、それは番組のルールみたいなもので、今回に限った話じゃないみたいだよ」

「そうだとしても、やっぱり信用できないよ。取材、受けない方がいいんじゃないかな?」

「大丈夫。この前も言ったけど、記者さんもいい人そうだし、これで少しでも救われる動物が増えたら嬉しいよ」

 結局、春来は最後まで心配だったが、店長の意思が固かったため、説得は諦めた。そのうえで、少しでも店長の伝えたいことが伝わることを改めて願った。

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