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TOD  作者: ナナシノススム
ハーフタイム
149/272

ハーフタイム 14

 次の日、春来と春翔は学校へ向かいながら、今日行うことを話していた。

「本当に、僕からみんなにお願いするのかな? 春翔からお願いした方がいいと思うんだけど……」

「絶対、春来の方がいいよ!」

 相変わらず、自分からお願いすることに春来は抵抗を持っていた。ただ、春翔は絶対に考えを変えてくれなかった。

 そうして、春来達が学校に到着すると、門の所で男子二人が待ち構えていた。

「おはよう。僕達を待っていたのかな?」

「ああ、そうだ。昨日、先生から電話があって、朋枝のお見舞いは控えろとか言われたんだよ」

「これまでの話を聞いてたけど、電話があった時はビックリしたぜ」

 予想していたことだが、これで男子二人は協力してくれなくなるんじゃないかと不安になった。ただ、そんな春来の心配と違い、二人は穏やかな表情だった。

「ただ、俺達は朋枝と会ってねえことになってるだろうし、みんなに協力してもらうってことなら、問題ねえだろ」

「先生の監視は、俺の方でするぜ」

「……ありがとう」

 男子二人が変わらずに協力的で、春来は嬉しかった。

「ところで、春来は何てお願いするか、ちゃんと考えてきたのか?」

「いや……そもそも僕からお願いするのが本当にいいのかな?」

「まだそんなこと言ってんのかよ。春来が言うのが一番だって」

「俺もそう思うぜ」

 男子二人も、春翔と同じ考えで、変える気はないようだった。

「それより、あまり話す時間がねえから、みんなには放課後に集まってもらうよう、お願いするのがいいんじゃね?」

「だったら、俺達の秘密基地に集めようぜ」

「ああ、それがいいな」

 勝手に男子二人が話を進めていて、多少の戸惑いがありつつ、その提案は嬉しいものだった。

「でも、秘密基地なんだよね? そこ、みんなに教えちゃっていいのかな?」

「こういう時のための秘密基地だから、何の問題もねえよ。秘密基地の場所は……」

 それから、春来と春翔は、秘密基地の場所を教えてもらった。

「他のみんなにも、俺達から教えるよ」

「わかったよ。ありがとう」

「じゃあ、みんな一旦帰ってから集まるようにしようよ」

「ああ、それがいいな」

 そうして、ある程度の話がまとまった時には、もう始業時間が近付いていた。

「それじゃあ、時間もねえし、早く行こう」

「俺は職員室を見張ってくるぜ」

 男子一人だけが職員室を目指し、一方の春来達は教室へ急いだ。そして、教室に入ると、春来を中心にする形で、教壇に立った。

「本当に、僕が言うのかな?」

「何度言わせるの? 春来が言うべきだよ」

「でも、何を言えばいいのかな?」

「春来の言いたいことを言えばいいんだよ」

 春翔の言葉は、何の説明にもなっていなかった。そのため、春来は何も言えないまま、立ち尽くしてしまった。

 そうしていると、職員室を見張っていたはずの男子が、予定よりも早く教室に入ってきた。

「会議、すぐ終わったみたいで、もうすぐ先生が来るぜ」

 そんな風に言われ、いよいよ追い詰められてしまった。そうして、何も浮かばないまま、春来は口を開いた。

「みんなに協力してほしいことがあって……今日の放課後、集まってくれないかな?」

 結局、言えたのは、その一言だけだった。

「集まる場所は、後で俺が教える」

「俺も知ってるから、俺からも教えるぜ」

「あと、先生には内緒にしてほしいの。だから、みんなはいつもどおりにして」

 春翔達がそんな風にフォローしてくれたものの、ほとんど何も伝えられなかった。ただ、もうすぐ担任教師が来てしまうため、春来達は席に着いた。

 それから少しして、担任教師が教室に入ってきた。

 今日も朋枝は学校に来ていなかったが、その理由を担任教師は風邪のためだと説明していた。また、感染すると良くないという理由で、お見舞いに行かないようにとも言っていた。昨日、朋枝が買い物しているのを見ているため、それが嘘であることは明らかだった。ただ、そのことを伝えても無駄だと思い、春来達は黙っていた。

 また、担任教師は、今日も春来と春翔を警戒している様子だった。ただ、その分、他の人が警戒されていないおかげで、男子二人を中心に、秘密基地の場所を伝言ゲームのように伝え合うことができているようだった。

 そうして放課後になり、いつもどおり春翔が春来の方にやってきた。この時、担任教師が相変わらず警戒するように自分達のことを見ていると気付き、春来は頭を働かせた。

「今日は公園でサッカーをやろうよ」

「え? あ、うん! いいよ!」

 春翔は少し戸惑いつつも、こちらに合わせてくれた。おかげで、春来と春翔は、すぐに教室を出ることができた。

 ただ、この時、春来は気になることがあった。それは、教室に残って話す人や、校庭で遊ぼうとする人がほとんどで、すぐに帰ろうとしているのが春来達だけだったことだ。とはいえ、それはしょうがないことだと思えた。

 今朝、春来はほとんど何も言えなかったものの、男子二人がみんなに話をしているのは確認していた。ただ、休み時間でも担任教師がほとんど教室にいたため、朋枝の話はできていないようだった。そのため、春来が協力を求めているとしか、みんなには伝わっていない状態だ。

 そんな状態で、みんなが集まってくれるわけない。そう思いつつ、少なくとも男子二人は来てくれるし、他にも何人か来てくれるかもしれないと信じて、春来は春翔と一緒に早足で家に帰った。

 そして、ランドセルだけ置くと、春来達はすぐに家を出た。

 男子二人から教わった秘密基地というのは、近くにある廃墟のことだった。そこは、小さな会社が使っていたものの、会社が倒産して以降、そのまま残されているようだった。当然、立ち入り禁止なものの、管理する者がいないのか、ほったらかしになっているため、子供達の遊び場になっているという噂は聞いていた。ただ、春来達がここに来るのは、初めてだった。

 中に入ると思ったより広く、食堂らしき部屋や、何かの機械が置かれた部屋などがあった。また、二階もあり、そちらはドラマなどで見る、いわゆるオフィスのような感じの部屋や、会議室などがあった。

 そして、どういうわけか電気や水道などが通っているようで、春来と春翔は明かりをつけつつ、探検するように建物の中を回った。ただ、そうして一通り回ってみたところで、まだ誰も来ていないことがわかった。

「みんな、まだ来ていないみたいだね」

「うん、そうだね……」

「春来、どうかしたの?」

 あからさまに落ち込んだ態度を取ってしまったため、春翔は心配した様子で聞いてきた。それを受け、春来は自分が持つ不安を吐き出すことにした。

「きっと、誰も来てくれないよ」

「そんなことないよ。きっとみんな来てくれて……」

「僕と春翔は違うんだよ!」

 思わず、春来は大きな声で叫んでしまった。そして、そのことを反省すると、気持ちを落ち着かせた。

「ごめん、春翔に言っても、しょうがないよね」

「ううん、全部言ってよ。私は、春来の気持ち、全部聞きたいから」

 春翔は、真っ直ぐな目でそう言った。それを受けて、春来は少しだけ迷いつつ、話を続けた。

「春翔は、いつもみんなと楽しそうに話しているし、いつもみんなが困っている時にすぐ気付いて助けているし、だからみんなと仲良くできるんだよ。それは、春翔だからできることだよ。でも、僕はそんなことできないし、みんなと仲良くなんてできないし、そんな僕があんなお願いをしたって、誰も来てくれるわけないよ」

 春来の話を、春翔は黙って聞いてくれた。だから、春来は自分の思いを全部吐き出すことができた。

「何度も言っているけど、僕は春翔がいてくれたから一人にならなかっただけで、朋枝と同じなんだよ。だから、朋枝の力になりたいし、助けたいと思っているよ。でも、僕にできることなんて、何もなくて……諦めるしかないのかな?」

「……うん、春来は朋枝ちゃんと似ているかもしれないね」

 春翔は、少し迷っているかのような様子で、そんな風に言った。ただ、それからすぐに笑顔を見せた。

「一人じゃないのに、一人だと勘違いしているところなんて、特にそっくりだよ」

「え?」

「私だって、何度も言うよ。私がいなくても、春来は一人じゃなかったはずだよ」

 そんな風に言われたものの、今、誰も来ていない現状で、春来は否定しかできなかった。

「だって、もう結構経ったのに、誰も来てくれないじゃん! やっぱり、みんな僕のお願いなんか、聞いてくれるわけないし、僕は一人なんだよ!」

「そんなことないよ。もう少し待ったら……待つ必要ないみたいだね」

 春翔がそんな風に言った直後、後ろから男子二人が来たことに気付き、春来は振り返った。

「遅くなってごめん。先生が警戒してるからってことで、みんなで先生をかく乱してたんだ」

「裏道を使って先生は振り切ったから安心していいぜ」

「俺はすぐここに来るつもりだったから、マジでやばかったな」

「先生があれだけ俺達のことを警戒してたのに、気付かないとかありえないぜ」

 男子二人の会話を聞いて、春来は今日のことを振り返った。

「そういえば、朝の会議も早く終わったし、先生が休み時間もずっと教室にいたのは、変だったね。てっきり、僕達が警戒されているだけかと思ったけど……」

「俺達から、あれだけみんなに話したら、さすがにばれるぜ。まあ、それも利用して先生をかく乱できたし、ここには来ないはずだぜ」

「ありがとう。助かったよ」

 この男子がいなかったら、今頃ここに担任教師が来ていてもおかしくなかった。そんな考えから、春来は礼を言った。

「それより、何でこんなとこにいるんだよ? 声がしたから気付いたけど、来てねえのかと思ったよ」

「ああ、ごめん……」

「とにかく、みんな待ってるから、早く下りて来いよ」

「……みんなって、何人かは来てくれたのかな?」

「いや……説明がめんどくせえな。とにかく来いって」

 そんな風に言われ、春来と春翔は、男子二人についていくような形で、階段を下りた後、食堂に入った。その瞬間、そこに広がった光景を、春来は信じることができなかった。

「……何で、みんないるのかな?」

 ほんの数人だけでも来てくれたら嬉しいと春来は思っていたが、そこにいたのは、クラスメイト全員だった。

「何でって、春来君がお願いしたんじゃん」

「先生から逃げるので、少し遅くなっちゃったよ」

「でも、何かこういうのって、ドキドキするね」

 みんなは、詳しい事情など知らないまま、春来が今朝お願いしたことだけを聞いて、集まってくれたようだった。しかも、ほとんどの人がランドセルを持ったままで、学校から直接ここへ来たことを表していた。

「みんな、直接ここに来たのかな?」

「ああ、一旦帰ろうと思ったけど、先生が家まで来るかもしれねえし、直接来られる奴は、そのまま来てもらったんだ」

「単に集まってほしいとしか言えなかったのに、何でみんなはここまでしてくれるのかな?」

 春来がそんな風に言うと、突然春翔が笑い出した。

「春来、さすがに自信を持ってくれてもいいんじゃない?」

「……どういうことかな?」

「みんな、春来が今朝お願いしただけで、集まってくれたんだよ」

「いや、そんなことあるわけないじゃん」

「もう、みんなからも言ってくれないかな?」

 春翔が呆れた様子でそんな風に言うと、みんなも笑い出した。

「春翔ちゃんの言うとおりで、私達は春来君のお願いを聞いて、ここに集まったんだよ?」

「いつも春来君達には助けてもらってるもんね」

「春来、何か困ってるんだろ? だったら、俺達が協力してやるよ」

 春来は、人付き合いが苦手なため、春翔がいないとあまりみんなと話せないし、春翔がいたとしても上手く話を合わせることができないと自覚している。それなのに、こんな風にみんなから言われて、意味がわからなかった。

「いや、春翔はいつもみんなを助けているけど、僕はただ見ているだけで……」

「春来が見てくれることで、みんな助かっているんだよ」

 春翔は、穏やかな表情でそんな風に言った。

「春翔ちゃんの言うとおりだよ。この前、ケンカになりそうになった時、春来君が見ててくれたから、何か気持ちが落ち着いて、普通に話せて、すぐ仲直りできちゃったよ」

「悪戯しようとしても、春来が見てるとできないからな」

「いや、悪戯する方が悪いでしょ。そんなの、しちゃダメだよ」

「でも、おかげでいじめとかもないし、みんな仲良しだよね」

「春来君の話に合わせられなくて、いつもごめんね。春来君の話、難しくって……」

「春来って、難しい言葉も知ってるし、頭いいよな」

「でも、私達が上手く反応できなかった時、春来君が不安になって変なことを言うのも楽しいんだよね」

「いつも、それを春翔ちゃんが拾ってくれるのも楽しいしね」

 みんなから、そんな風に思われていたと知らなくて、春来は話を聞くたびに驚いていた。ただ、そうした驚きは、信じられないという気持ちに変わっていった。

「春来は一人じゃないって、気付いてくれた?」

「いや、これは春翔のおかげなんだよね?」

「え、どういうこと?」

「春翔だけじゃなくて、二人も色々としてくれたんだよね?」

 この秘密基地を教えてくれた、男子二人にそんなことを言うと、二人ともため息をついた。

「いや、ホントに気付いてねえのかよ?」

「マジでビックリだぜ」

「まあ、それが春来だもんね」

 春翔達は、どこかバカにしているというか、呆れているような反応だった。

 それから、少し間を空けて、春翔は笑顔を見せた。

「春来がそう思うなら、それでいいよ。でも、みんなが協力してくれるってことは、わかってくれたよね? だったら、私達のするべきことは、決まっているよね?」

 誘導されるような言い方だったため、春来は春翔の言いたいことをはっきり理解できた。

「うん、わかっているよ」

 そして、春来は一呼吸置いた後、改めてみんなに目を向けた。

「みんなに協力してもらいたいことがあって……」

 そんな前置きをした後、春来は話を始めた。

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