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TOD  作者: ナナシノススム
ウォーミングアップ
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ウォーミングアップ 13

 翔は可唯についていく形で、ある廃墟に入っていた。

「この辺りの廃墟、いつも使っているが、本当に大丈夫なのか?」

「今までだって大丈夫やったやんけ」

「そうだが、いつホームレスや不良が来てもおかしくないだろ」

「この辺は廃墟ばっかで、半分ゴーストタウンみたいなもんやし、その可能性も否定できひんけど……まあ、わいが見張るから安心してええよ」

 可唯は普段から、こんな形で、いわゆるお調子者といった印象を与える人物だ。そのため、少しだけうんざりしつつも、翔は気持ちを切り替えた後、鏡やメイク道具、すぐに落とせる髪染めなどを出した。

 まず、ムースタイプの髪染めで髪を赤く染めると、オールバックにセットした。それだけでも、普段の翔とは大きく印象が変わった。

 それから、白めのファンデーションで全体的に色白にしたり、切れ目になるようにアイラインを引いたり、顔の印象が変わるようなメイクをしていった。

「すっかり慣れたもんやね」

「しっかり監視しろ」

「誰も来いひんし、来てんとしてもすぐわかるで」

 可唯とそんな話をしつつ、メイクを進め、最後にカラーコンタクトをつけると、完全に別人の顔が完成した。

「てか、わざわざそんな変装してまで、ライトとかかわるのは何でやねん?」

「何度も言うが、理由は話したくない」

「何度も聞いてんやし、ぼちぼち答えてや。たく、秘密主義な奴やな」

 可唯の言った「ライト」というのは、ある不良グループの名前だ。ただ、不良グループといっても社会や学校に馴染めない者が集まっているだけで、行っていることはボランティア活動やイベントの手伝いなど、不良らしくないことばかりだ。

 元々、翔はライトの存在を知っていて、可能であれば近付きたいと考えていた。しかし、方法が見つからず、少しずつ調べる程度のことしかできなかった。

 そんな状況が変わったのは、可唯と出会ってからだ。


 ある日、何かしらかライトに近付く方法はないかと、翔が探っていた時、突然話しかけてきた人物がいた。

「やあやあ、わいは工平可唯やで。よろしゅうな」

 いきなりそんな風に話しかけられたが、どこか不自然な関西弁などから、翔は不信感しか持てず、無視した。しかし、可唯はそんな翔の態度を気にすることなく、話を続けた。

「わいら――ライトのことを調べとるみたいやけど、何やねん?」

 その言葉で、可唯がライトに属していることはわかった。ここで警戒されれば、ライトについて調べるのは難しくなる。翔はそう考えて、しらを切るつもりだった。

「気のせいじゃないか? 俺は別に……」

「堂崎翔君、わいは情報通やから、全部わかってんねん」

 自分の名前をはっきり言われ、翔は一気に警戒心を強めた。

「豪邸で何不自由なく暮らしてそうやけど、反抗期とかで、不良グループに興味持ってもた感じなんか?」

「……ライトと、それに関連するものについて知りたいことがある。そのためにライトのことを調べているし、可能なら近付きたい……入りたいと思っている」

 こちらの情報を知られている以上、変な言い訳をすることなく、翔は自分の目的を伝えた。

「なるほど、わかったで」

 可唯は何か考えている様子のまま、ゆっくりと近付いてきた。それから、ある程度近くまで来たところで、突然地面を蹴ると、一気に距離を詰めてきた。

 翔は咄嗟に距離を取ろうと後ろへ下がったが、気付いた時には目の前に可唯がいた。そして、可唯は低い姿勢からアッパーをするようにパンチを繰り出してきた。

 翔は右足で地面を蹴り、自分の体を左へやった。そのおかげで、可唯の拳は自分の体のすぐ横を通り過ぎていった。

 しかし、それで可唯の攻撃は止まらず、今度はフックのような軌道で左腕を振ってきた。

 翔は、その攻撃を両腕で防御しつつ、また距離を取ろうと後ろへ下がった。しかし、そうした翔の動きが読まれているのか、すぐに可唯が距離を詰めてきた。

 可唯は身長が低く、小柄な体型だ。それを活用するように、身軽で素早い動きをするだけでなく、低い位置からの攻撃を中心にしていて、翔は対処に手間取った。

 その時、可唯が蹴りを繰り出そうとしたのを察すると、翔も蹴りを出して、お互いの右膝付近がぶつかった。そこで、翔はバランスを崩したが、可唯は一気に体勢を低くすると、翔の顔に向かってパンチを繰り出してきた。こちらは防御も回避もする余裕がなく、可唯の攻撃を受けるしかない。そう確信したところで、可唯の拳が目の前で止まった。

 そのまま、翔は改めて可唯と距離を取った。先ほど可唯の攻撃が突然止まった理由も、今距離を詰めることなく足を止めている理由もわからず、翔は警戒を解かずにいた。

「わい、ライトで結構活躍してて、一目置かれるほどやし、格闘には自信あるんやけど、翔もやるやんけ」

 可唯が何を言っているのか、翔は上手く理解できなかった。自身の自慢をしているのと同時に、そんな可唯に圧倒された翔を褒めるという、理解不能な言動に、どう返せばいいかもわからなかった。

「翔は何でライトにかかわりたいねん?」

「……答えたくない」

「おいおい、答えてくれへんの?」

「情報通なんだろ? それぐらい、俺が言わなくてもわかるんじゃないか?」

 それは、可唯を拒絶するような言葉だったが、可唯の反応は意外なもので、とにかく楽しそうだった。

「ええで。わいが無理やり入れたるよ」

「そんなことできるのか?」

「ああ、できるで。わいは一目置かれてるって言うたやん?」

 その言葉をどこまで信用していいのかと思いつつ、可唯に任せれば、何とかライトに入れそうだと理解した。そのうえで、翔は追加でお願いをすることにした。

「俺は自分の正体を隠して、ライトに入りたい。変装もするし、呼び名も別なものにする」

「好きにすればええんちゃうの? 今んとこ、わい以外は翔に気付いてへんようやし、問題ないで」

「じゃあ、自由にやらせてもらう」

 いい加減な態度に戸惑いつつ、翔は可唯に任せることを決めた。


 それから少しして、翔はランと名乗り、ライトに入ることになった。これまで何度か集まりにも参加して、今のところは目的を達成するために順調といったところだ。

「今夜、活躍の場を用意してくれ。それで信頼を得たい」

「ああ、ええで。ほな、まだ時間もあるし……」

 可唯が投げたボクシンググローブを翔はキャッチした。

「ウォーミングアップに、いつものやろうや」

「ああ、いいだろう」

 翔と可唯はお互いに、グローブを着けた。それから、翔は足首を回しながら手をブラブラとさせた。

 翔と可唯がいつもしていること――それは手合わせのようなものだ。お互いに格闘の練習がしたいと考えた結果、こうして勝負するのが日課になった。

 当初は可唯に圧倒されていた翔も、最近は善戦するようになってきた。しかし、今のところ翔が可唯に勝ったことは一度もない。

「今日はランに自信を持たせるため、加減した方がええか?」

「そんなの必要ない。お互い、ハンデなしだ」

「わかったで! ほな……始めるで?」

 その言葉を合図に、翔と可唯はお互いに構えた。

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