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TOD  作者: ナナシノススム
ハーフタイム
139/272

ハーフタイム 04

 春来と春翔がよく行っている、家の近くの公園は、サッカーをやるだけでなく、何かお互いに話したいことがあった時にも利用していた。その際は、広場に設置されたベンチに座り、いつも長い時間話していた。

 そして、今日も春来と春翔はベンチに座った。

「どっちから話そうか?」

「春翔からでいいよ。多分、同じ話だと思うけど……」

「それじゃあ、私から話すよ。春来、朋枝ちゃんのことで、色々と頑張ったね」

 そんな風に言われたものの、春来は意味がよくわからなかった。

「いや、僕は何も……」

「朋枝ちゃんと友達になったり、手助けしてあげたり、色々したでしょ?」

「それは春翔がしたことじゃん。僕なんて、ほとんど何もできなかったし……」

「そんなことないよ」

 春翔は真っ直ぐ春来を見ると、微笑んだ。

「春来から話しかけたり、色々と気にしてあげたり、朋枝ちゃんも嬉しかったと思うよ」

「そうかな?」

「それに、春来がそういったことするの、珍しいよね。だから、頑張ったんだなって思ったよ」

「それは……みんなと仲良くできるようになりたいと思って、それで何かできることがあればと思って……」

 そこで、春来は上手く言葉が出てこなくなってしまった。ただ、春翔は黙ったまま、春来を待ってくれた。

 いつも春翔がこうしてくれるから、春来は落ち着いて、少しでも伝えたいことを言葉にすることができた。

「一人で困っている朋枝が、何だか僕と同じのように感じて、それで僕がしてほしいことをしようと思ったんだよ。こんなことしても、無駄だったかもしれないけど……」

「そんなことない!」

 春翔は強い声でそう言った後、また微笑んだ。

「できることがあるって、特別なことだよ。だから、少しずつでもできることをしようよ」

「……僕がしたこと、無駄じゃなかったのかな?」

「絶対に無駄なんかじゃないよ。さっき言ったとおり、朋枝ちゃんも嬉しかったと思うし、これからもできることを少しずつしていこうよ」

 それは、自分のしたことを肯定してくれる言葉で、春来は嬉しかった。ただ、嬉しいという気持ちと同じぐらい、不安もあった。

「わかったよ。でも、僕にできることなんて、本当に少しだけどね。春翔みたいに、もっと周りのことに気付いて、色々と行動できればいいんだけど……」

 春翔は自分と違って、様々なことができる。だからこそ、クラスの中心といった形で、多くのことをしてきている。そんな春翔と比べて、自分にできることがあまりにも少ないと、春来は感じた。

 すると、突然春翔が笑った。

「春来は、もっと自信を持った方がいいよ。自信がないせいで、できることをしないのは、本当にもったいないよ」

「……どういうことだよ?」

「まあ、言ってもわからないよね。ただ、一つだけ言わせて。私、周りのことに気付いてなんていないよ? それで、私が色々と行動できるのは……春来を見ているからだよ」

 どこか照れくさそうな様子で、春翔はそう言った。

「春来は、何を言われたのか、わからないだろうね」

 春翔の言うとおりで、春来は何も言えなかった。

「少しずつでもいいから、春来が気付いてくれるのを待つよ。だから、今は朋枝ちゃんのために春来ができること……今日みたいに、ちょっとした時に話しかけたり、手助けしてあげれば、いいと思うよ」

「でも、変なことを言って、傷付けたり、追い込んだりするかもしれないし……」

「春来は周りを気にし過ぎだから、もっと色々と言っていいよ」

「いや、いつも変なことを言ってしまうし、そもそも何も言えない時もあるし……」

「そういうところで、もっと自信を持ってほしいんだけどね」

 春翔は少し不満げな表情を見せた後、笑った。

「何か変なことを言っちゃった時は、私がフォローするよ。だから、安心してよ」

「……うん、わかった」

「ただ、朋枝ちゃんと二人きりになるのは禁止だからね」

 不意にそんなことを言われ、春来は戸惑った。

「え、何でだよ?」

「春来と二人きりになるのは、私だけでいたいからだよ。なんて私が言うのも、春来は何でかわからないんだろうね」

 そう言うと、春翔はからかうような感じで笑った。

「ごめん、意地悪だったね。それで、春来の話は何だったの?」

「僕も朋枝のことで話がしたくて、だからもう話せちゃったよ」

「ううん、そうじゃないよ。春来は、朋枝ちゃんのことで、何が話したかったの? それは、私が話したかったことと違うはずだよ?」

 そう言われたものの、春来は朋枝のことで何か話したいといった程度にしか考えていなかったため、困ってしまった。ただ、春翔の言うとおり、意識していないものの、何か話したいことがあったはずだと思い、少しの間、考えてみた。

「どう言えばいいのかな? 上手く言えないんだけど、春翔は朋枝を見て……朋枝と一緒にいて、どう感じたかな?」

「どうって……」

 言ってから、曖昧過ぎる質問だったかと春来は思った。ただ、春翔は真剣に考えてくれている様子だった。

 そうして、しばらく時間を置いた後、春翔は何か思うところがあったのか、表情を変えた。

「先に、春来がどう感じたかを教えてくれない?」

 不意に質問を返されて、春来は戸惑った。

「いや、僕がどう感じたかなんて言っても無駄だし……」

「私が先に言ったら、それに春来は合わせるでしょ? だから、春来が先に言ってよ」

 実際、春翔がどう感じたかを聞いて、それで納得するつもりだったため、春来は否定のしようがなかった。だからこそ、こうして自分がどう感じているかを聞かれ、ちゃんと自分の考えを伝えようと思えた。

 そうして、また時間をもらい、春来は朋枝と一緒にいて、感じたことを頭の中で整理させていった。

「最初は、さっき言ったとおり、僕と同じのように感じたんだよ。僕には春翔がいるから、みんなとも一緒にいられているけど、そうじゃなかったら、誰とも話せないで困っていたと思うし……朋枝もそうなのかなって、そんな風に感じたんだよ」

 上手く伝わっているかわからないものの、春来は続けた。

「でも、春翔のおかげで少しだけ朋枝と話せて、何かおかしいと思ったんだよ。最初は緊張しているだけだと思ったけど、結局、朋枝はずっと敬語で、謝ってばかりだったじゃん? それに、別れる時も、もう二度と会えないのかなって思うようなことを言ってきて……何かはわからないけど、何かある気がしたんだよ」

「うん、春来がそう感じていると思って、話を途中で止めたりしたよ。多分、それで良かったんだろうね」

「え?」

「ただ、私は朋枝ちゃんのこと、何もわからなかったよ。だから、春来がもっと朋枝ちゃんのことについて、気付いてあげてよ」

 そんな風に言われ、春来は困ってしまった。

「いや、そんなの……」

「春来ができることをしてくれればいいよ。気付けなかったとしても、それは春来のせいじゃないからね」

 そして、春翔は微笑んだ。

「もう一度言うね。できることがあるって、特別なことだよ。だから、少しずつでもできることをしようよ」

 これまで、春来は自分にできることなんて全然ないと思っていた。それは、春翔が自分と違い、何でもできる人だからだ。ただ、こんな自分にもできることがあるなら、春翔の言うとおり、少しでもそれをしようと思い始めていた。

 そして、みんなと仲良くできるようになりたいという思いをさらに大きくしつつ、春来は朋枝のためにできることを探そうと決めた。

「まあ、私達にできないことがあったら、みんなに話したり、それでもダメなら、ママとパパに話そうよ」

「うん、そうだね」

 自覚していないものの、春来と春翔は、精神的な面で他の同級生よりも成長していた。その理由は、こうした話をする機会が、これまでも多くあったからだ。

 小学一年生で、3月生まれ――早生まれとなると、周りの生徒の方が成長しているように感じるのが普通だ。実際、体格などは周りの生徒の方が良く、春来と春翔は、背の順で前の方だった。

 ただ、二人で一緒にいる時だけでなく、両親達と一緒にいる時も、お互いの悩みを話し、他の人はどう思うかといった話をしていた。それは、両親同士が赤の他人から仲良くなったことも関係していて、自然と春来と春翔に影響を与えていた。

 そうして、春来と春翔は、周りのことに気付き、行動できる二人になっていた。

 春来は、自分の周りで起こっていることを敏感に察知する才能を持っていた。時には、背後で起こったことすら気付くという、他の人にできないこともできた。ただ、自信がなかったため、何か気付いても、何の行動も起こせずにいた。

 春翔は、ただ春来だけを見ていた。そうしていると、春来の気付いたことに、すぐ気付くことができた。そして、自信のない春来の代わりに、自分が行動するようにしていた。ただ、そうして行動するたびに、何で自分は気付けなかったのか。自分なら気付けたはずだと、思っていた。

 自信がない春来と、自信がある春翔。正反対の二人は、お互いに誤解しながら、自身のことを反省していた。そのことも、他の同級生より、精神的な面で成長するきっかけになっていた。

 そして、そんな春来と春翔だからこそ、朋枝が抱えている問題と真剣に向き合おうと決心できた。

「明日から、自分のできることをもっとするよ」

「うん、それがいいと思うよ。ただ、朋枝ちゃんと二人きりになるのは禁止だからね」

「さっきも言ったけど、何でだよ?」

「さっき言ったでしょ? 春来と二人きりになるのは、私だけでいたいからだよ」

 これまで春来は、春翔や両親達としか、真面に二人きりで話したことがないため、むしろ他の誰かと二人きりになれと言われたら、困ってしまうぐらいだ。そうした理由で、春来が春翔の言葉を理解するのは、到底無理なことだった。

「それじゃあ、そろそろ帰ろうか。遅くなると、ママとパパが心配するもんね」

「うん、そうだね」

 そうして、春来と春翔は話を終えると、公園を後にした。

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