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TOD  作者: ナナシノススム
ハーフタイム
138/272

ハーフタイム 03

 みんなと仲良くできるようになりたい。そんな意識を持ったものの、春来はどうしていいかわからなかった。

 そして、いつもどおり、春来は春翔と一緒に登校すると、春翔の机に集まり、みんなが色々と話すのを聞いていた。

「昨日のドラマ見た? もうビックリしたんだけど!」

 ふと、女子の一人が、そんなことを言った。それに対して、離れた席に座る女子が慌てた様子を見せた。恐らく、これからそのドラマを見る予定で、まだ内容を知りたくないのだろう。そんな風に春来は感じたものの、どう言って止めればいいかわからず、困ってしまった。

「まだみんな見ていないかもしれないし、その先は言っちゃダメだよ」

 そう言ったのは、春翔だった。その瞬間、慌てた様子だった女子が、安心したように息をついた。

「あ、そうだよね! ごめんごめん!」

 春翔が止めていなかったら、いわゆるネタバレになってしまい、それこそケンカになったかもしれない。それを春翔は瞬時に感じて、簡単に止めてしまった。

 それから、普段はもっと話す男子が、全然話していないことに気付いた。その男子は、顔も俯いているし、具合が悪そうだった。そのため、春来は大丈夫だろうかと、その男子のことをしばらく見ていた。

「あれ? 何か調子悪そうだけど、大丈夫?」

 そうしていると、春翔がその男子に近付き、覗き込むように顔を見た。

「……ああ、何か朝から頭が痛くて……」

「無理しないで、辛かったら帰った方がいいよ?」

「うん、ありがとう」

 何故、春翔はこんなに周りで起こっていることに気付けるのだろうか。そんな疑問を持ち、春翔を見ていると、春翔がこっちを見てきて、自然と視線が合った。

「ん? どうかしたの?」

「いや、別に何でもないよ」

 思えば、春翔はいつもこうして、周りのちょっとした変化に反応するように行動している。だから、春翔はクラスの中心といった感じで、みんなから好かれているのだろう。そう思うと、やっぱり自分が一緒にいるべきじゃないといった考えが、また春来の中に生まれた。

 その時、教室に入ってきた生徒がいて、春来は振り返った。その生徒は女子で、このクラスで初めて見る顔だった。それから、事故にあって、入学式から来られなかった女子がいるといった話を思い出した。というのも、席が隣で、いつもそこが空いていることを気にしていたからだ。

 そして、入学式から半月ほどが経った今日、ようやく登校できたのだろうと春来は判断した。

 ただ、他の人は、彼女に気付いていないのか、気付かないふりをしているのか、入り口で困った様子の彼女に、誰も話しかけなかった。そうして、一人でいる彼女のことが、何だか自分と似ているように春来は感じた。

 その時、彼女がこちらに目を向けてきて、目が合った。そして、彼女は助けを求めるように、ずっと春来のことを見てきた。そうしたことを受けて、何かしてあげたいと思いながら、どうしていいかわからず、春来は動けずにいた。

 その時、春翔が席を立ち、彼女の方へ駆け寄った。

万場まんば朋枝ともえちゃんだよね?」

 そんな風に春翔が質問すると、その女子は驚いた様子を見せた。

「すいません、そうですけど……えっと……」

「いきなり話しかけてごめんね。私は藤谷春翔だよ! 春翔って呼んで!」

 春翔がそんな風に挨拶すると、朋枝は戸惑っているような反応を見せた。

「朋枝ちゃんって呼んでもいいかな?」

「えっと……いいですよ」

「朋枝ちゃん、入学式の前に事故にあったんだよね? 色々と大変だったと思うし……いや、今が一番大変だよね。これからみんなと仲良くなれるかとか、不安かもしれないけど、そんなこと心配しないでいいから! とりあえず、私を朋枝ちゃんの友達一号にしてくれないかな?」

 そう言った後、春翔はわざとらしく、春来の方へ顔を向けた。

「あ、でも、最初に朋枝ちゃんに気付いたのは春来だから、友達一号は春来の方がいいかな?」

 そう言いながら、朋枝の手を引いて、春翔はこちらにやってきた。そんなことをされると思っていなかったため、春来は戸惑ってしまった。

 ただ、自信なさげに顔を俯かせている朋枝を見て、改めて自分と同じだと感じた。だから、こんな時、春来はどうしてほしいかを考えた。そして、その答えはすぐに出た。

「僕は緋山春来だよ。気付いてすぐに話しかけられなくて、ごめん」

「いいえ、あの、ありがとうございます」

「それで、友達一号は私と春来、どっちにする?」

 春翔がそんな風に言うと、朋枝は困った様子を見せた。

「いえ、私なんか友人にしても、楽しくないですよ」

「楽しいか楽しくないかなんて関係ないよ。ただ、友達になりたいって言っているの」

「その……」

 何も言えなくなってしまった朋枝を見て、春来は口を開いた。

「僕も人付き合いは苦手だし、面白いことも言えないけど、もし良かったら友達になろうよ」

 それから少しの間、朋枝は黙っていたが、何か決心した様子で、頷いた。

「すいません、それじゃあ……お二人を最初の友人にしたいです」

 朋枝がそんなことを言って、春来と春翔はお互いに顔を見合わせると、思わず笑ってしまった。

「朋枝ちゃんを友達にする勝負は、引き分けかー」

「そんなのを勝負にするなよ! まあ、改めて緋山春来だよ。よろしく」

「私も改めて、藤谷春翔だよ。よろしく」

 そうした言葉を受け、朋枝は嬉しそうに笑った。

「えっと……春来さん、春翔さん、ありがとうございます」

 そうしていると、他の生徒も寄ってきた。

「初めまして」

「ようやく来れたんだね」

「何か困ったことがあったら言ってね」

「あ、その……」

 一気に色々と話しかけられて、朋枝は困っている様子だった。

「もう、急にみんなで話しかけたら、朋枝ちゃんが困っちゃうでしょ?」

 春翔がそんな風に言ったのと同じタイミングでチャイムが鳴り、みんな自分の席に戻っていった。その直後、担任教師が教室に入ってきて、朋枝の方へ顔を向けた。

「ああ、万場ちゃん、直接こっちに来ていたんだね。改めて、みんなに紹介するよ」

 朝のホームルームが始まり、朋枝は緊張した様子で、みんなの前に立った。

「もう話した子もいるみたいだけど、万場朋枝ちゃんだよ。色々と不安だったり、困ったりすることもあるかもしれないけど、みんな助けてあげてね。万場ちゃん、一言ぐらい挨拶できる?」

「はい、すいません。万場朋枝です。これから、よろしくお願いします」

 朋枝は簡単な挨拶だったが、みんなから拍手を受け、照れくさそうに笑った。

 それから、朝のホームルームが終わると、一限目が始まるまでの短い時間を利用するように、多くの生徒が近付いてきた。

「朋枝ちゃんって呼んでもいいかな?」

「事故って大変だったでしょ?」

「わからないことがあったら聞いてね」

 まるで転校生のような扱いで、朋枝は戸惑っていた。そのため、大丈夫だろうかと見ていると、不意に朋枝がこちらに目を向けた。それは、何かしらか助けを求めているようだった。

「もう、また朋枝ちゃんが困っているよ?」

 その時、こちらが困っているのを察したようで、春翔はそんな風に言いながら来てくれた。

「でも、色々と大変だと思うし……」

「それなら、席が隣だし、春来が色々と助けてあげてよ。私も協力するから」

「え?」

 急な提案だったが、それが一番丸く収まるだろうと春来も感じ、春翔の言うとおりにすることにした。

「朋枝、困ったことがあった時とか、僕で良かったら、何でも言ってよ」

 そう言うと、朋枝は嬉しそうに笑った。

「はい、春来さん、お願いしてもいいですか?」

「あと、別に敬語じゃなくていいよ」

「すいません、その……」

 緊張しているせいで、朋枝は敬語になっているんだと思っていた。ただ、朋枝の態度を見て、何かおかしいと春来は感じた。

「朋枝ちゃん、無理に敬語をやめなくてもいいよ。春来だって、別にいいでしょ?」

「ああ、まあ、別にいいよ」

 気になったものの、あまり初対面で踏み込むのは良くないと考え、春来はこれ以上聞かないでおいた。

 それから、春来は休み時間になるたび、春翔に協力してもらいつつ、校内を簡単に案内したり、どこまで授業が進んでいるか教えたり、朋枝の手助けをした。

「わからないところがあったら、僕とか春翔が教えるから、何でも聞いてよ」

「すいません。ありがとうございます」

「まあ、僕達で教えられないことがあったら、一緒に先生に聞こうか」

 いつも、春来は周りの目を気にして、何を話そうか迷ったり、変なことを言ってしまったりしている。ただ、自分と同じように周りの目を気にしている様子の朋枝に対して、同じことをするのは良くないと考え、話すことを優先するようにした。

 それは正解だったようで、朋枝は時々笑顔を見せつつ、春来に接してくれた。

「朋枝ちゃん、私達の友達も紹介していいかな?」

 タイミングを計っていたのか、春翔は給食後のお昼休みに入ったところで、そんな提案を朋枝にした。

「すいません。こんな私で良ければ、是非お願いします」

 相変わらず、朋枝が周りに気を使っている様子なのが気になったが、それでも快く受けてくれて、春来は安心した。そして、朋枝はたどたどしくも、みんなに自己紹介をして、友人を増やしていった。

 そうして過ごし、放課後になると、いつもどおり春翔がこちらにやってきた。

「春来、帰ろ。ところで、朋枝ちゃんの家はどこなのかな? 近くだったら一緒に帰らない?」

「えっと……」

 朋枝はどう説明しようか戸惑いつつ、家の近くにある建物などを挙げていった。その結果、春来達の家とは、ほぼ真逆の所に家があるとわかった。

「それじゃあ、一緒に帰れないかー」

「すいません」

「いや、謝ることじゃないから、謝らないでよ!」

 これまで、朋枝は返事をするように何度も謝っている。そのことも気にしつつ、春来は触れないでおいた。

「それじゃあ、朋枝ちゃん、また明日ね」

「はい、さようなら」

 朋枝の言い方が、何だかもう会えないかもしれないと思わせるもので、春来は戸惑った。そうして固まっていると、朋枝がこちらに顔を向けた。

「春来さん、それに春翔さんも、すいませんでした。私なんかのために色々してくれて……」

「朋枝は何も悪いことなんてしていないんだから、謝らないでよ」

「そうそう、こういう時は、ありがとうでいいよ」

 そんな風に伝えると、朋枝は笑顔を見せた。

「初めての学校で不安だったんですけど、お二人のおかげで、たくさん友人ができました。本当にありがとうございました」

「どういたしまして」

 それから、改めて挨拶した後、春来と春翔は他の友人達と一緒に教室を出て、帰り始めた。そして、いつもどおり家の近くで他の友人と別れた後、春翔がこちらに顔を向けた。

「春来、少しだけ話せないかな?」

「うん、僕も話したいと思っていたよ」

「それじゃあ、公園に寄っていこうか」

 春来と春翔は、お互いにそうした思いを伝え合うと、いつもの公園に寄った。

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