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TOD  作者: ナナシノススム
前半
131/272

前半 71

 一通り、警棒の扱い方を教わった後、翔は、冴木から銃の扱い方も教えてもらっていた。

「翔と美優に銃を使わせるつもりはないが、いざという時、自分達を守る手段として、覚えてほしい」

 冴木はそんな前置きをした後、銃の仕組みも含め、丁寧に様々なことを教えてくれた。

 これまで、インターネットで情報を集めたり、モデルガンを購入したり、翔は銃についての知識を多少なりとも得ていた。ただ、当然ながら実銃とモデルガンは違うため、そうした知識がそのまま通用するというわけにはいかなかった。とはいえ、まったく役に立たないというわけでもなく、おかげですんなりと覚えられた。

「待たせて悪かったな。こっちの準備はできた。それと、いくつか報告がある」

 鉄也からそんな風に言われ、翔達は話を聞くことにした。

「そういえば、言い忘れてたんですけど、冴木さんから預かった、オフェンスのスマホ、簡単に解析しました。まず、スマホに何か仕掛けなどはなかったです。それと、メッセージの送り元を追ってみましたけど、残念ながら特定はできませんでした」

 鉄也が敬語で話すのは珍しく、こうして聞いていると違和感しかなかった。そうした思いは、圭吾や和義も同じなようで、複雑な表情だった。ただ、話を遮るのは良くないと思っていることをそれぞれが察しているのも感じたため、翔は何も言わないでおいた。

「まあ、しょうがないな」

「ただ、いくつかあったメッセージの内容を見て感じたんですけど、このメッセージは、オフェンス全員に送られたものだと思います。もしかしたら、TODを運営してる者が送ったのかもしれません」

 その言葉を聞いたところで、翔はある疑問を持った。

「何で、オフェンス全員がそのメッセージを受け取ったって思うんだ?」

「業務連絡といった感じで、不特定多数に送ってるような内容だったからだ。それに、ケラケラも現れたんだ。オフェンス全員に送ったと考えるのが自然だろ?」

「だとしたら、どうして悪魔は来なかったんだ?」

「別に、遠くて行けなかったとかじゃねえのか?」

「それはない。俺は少し遅れてバイクで向かったが、それでも着いたんだ。バイクを使っている悪魔が、俺よりも遅いどころか、到着すらしないというのは、考えづらい」

 結果的に、悪魔が来なくて良かったと思いつつ、今後のことも考え、その理由は知りたかった。

「悪魔にはメッセージが届かなかったか……もしも届いてたんだとしたら、何か理由があって、行けなかったってことか?」

「悪魔は、人を殺すことが一番の目的って感じの奴だ。そんな奴が、他のことを優先したってことか?」

「俺に聞かれてもわからねえ」

 鉄也だけでなく、冴木達も含め、その答えを見つけるのは難しいようだった。そのため、翔は頭の片隅に置きつつ、一旦この疑問から思考を外した。

「あと、JJがまた姿を現した」

 それから、鉄也はデータベースにあった情報を簡単に説明してくれた。結局、またJJを捕まえることができなかったと知り、翔は軽くため息をついた。

「それじゃあ、本題に入る。さっき話したとおり、位置情報を誤魔化すツールは完成した。これからは、このスマホを使え」

「何か、スマホを変えてばかりだな。これまで使っていたスマホは、どうすればいい?」

「誰かから連絡があるかもしれねえし、俺が預かっておく。何か重要な連絡があったら、そっちに転送する」

「大丈夫か? 位置を特定された理由がスマホにあるとしたら、ここが特定される可能性があるんじゃないか?」

「元々、この場所には何も存在しねえと認識されるよう、仕掛けはしてある。それに、いざという時のため、既にダークとライトのメンバーは、他の場所に散ってもらってる。ホームレス達も他の場所に移動してもらったから、襲撃された時の心配はするな」

 そう言った後、鉄也は不敵な笑みを見せた。

「もし、ここを襲撃してくるようなら、地下の迷宮に迷い込ませてやる」

「あまり無茶はするなよ?」

「その台詞、おまえには、言われたくねえ」

 鉄也の言うとおりで、翔は苦笑した。

「それと、これから連絡する時は、盗聴されてる可能性を考えて、なるべく通話を避ける。メッセージも、単にテキストを送るんじゃなくて、画像データに変換してから送るようにする。そのツールもスマホに入れておいたから、使ってくれ」

「画像データにしたとして、内容を確認されたら、あまり意味がないんじゃないか?」

「ああ、俺もそう思うから、ちゃんと対策してある。このツールは、テキストを画像ファイルに変換するだけでなく、暗号化したテキストを一緒に送ることもできるんだ」

 それから、鉄也はツールの使い方を説明してくれた。テキストを画像データに変換するだけでなく、テキストを暗号化する方法。そうして暗号化されたテキストを複合して読めるようにする方法。それらは簡単で、すぐに覚えられた。

「これなら、盗聴されてもすぐ特定されねえだけでなく、上手く使えば、相手の裏をかけるだろ?」

「鉄也、何が目的でこんなものを作ったんだ? さっきの今じゃなく、あらかじめ作ってたものだろ?」

 圭吾の疑問は、もっともなものだった。それに対して、鉄也は軽く笑った。

「俺達ダークが普段どこにいるか、圭吾は調べようとしてただろ? それに光が協力したら、すぐ特定されると思って用意してた。ここに圭吾が来た時点で、こんなものは無駄になったからな。丁度使えて良かった。ああ、あとランに伝えておくことがあった。ちょっと来てくれ」

 鉄也がそう言ったため、翔は近くに寄った。

「メモを見せるから、そのとおりにしろ」

「メモ?」

「見ればわかる。あと、これは俺とランだけで共有する。他の奴には教えるな」

「……何かわからないが、わかった」

 鉄也の意図がわからないまま、翔はメモに書かれた内容を確認した。

「このメモは、すぐに破棄する。覚えたか?」

「ああ、これぐらい、すぐに覚えられる」

 翔がそう言うと、鉄也はメモを丸めた。

「ホントに大丈夫か?」

「ああ、絶対に守らない」

「……それでいい」

 周りからしてみれば、翔と鉄也が何を話しているか、まったくわからないはずで、不思議そうな顔をしていた。ただ、鉄也が二人だけで共有すると言ったため、何が書かれていたか、翔は一切話さないことにした。

「それと、用意した潜伏先を教える。既に和義が選んだとこは外してるから、ここから好きに選べ」

「ああ、ありがとう。これは、冴木さんの判断に任せていいですか?」

「わかった。後で慎重に選ぶ」

 どこを選択するかは、鉄也達にも伝えないようにするつもりだ。近くを選ぶのか、遠くを選ぶのかも含め、翔は冴木の判断に任せることにした。

 ここまで徹底して、位置が特定されないように対策するのは、普通に考えて、やりすぎといえる。ただ、これまで何度も位置が特定されてきたことを考えると、むしろまだ足りないかもしれないといった不安が残った。

「移動手段は、何を使えばいい?」

「ここに何台か車があるから、それを使えばいいんじゃねえか?」

「襲撃があった時の、脱出経路などはどうなっている?」

「場所によって違うが、大人数に囲まれても、逃げるだけならどうとでもできるようにしてある。ダークが用意した車やバイクの位置も教えておくから、移動手段を失った時は、それを使え」

 鉄也がここまで徹底した形で協力してくれて、翔は少しずつ不安が消えていった。むしろ、ここまでしてくれていいのかといった、別の不安を持ちそうだった。

「鉄也、本当に助かる。ありがとう」

「ランとも決着がついてねえからな。全部終わったら、ケンカの続きをやるからな」

「……ああ、わかった」

 ダークから襲撃を受けた時のことを思い返すと、このような会話を鉄也とすることになるとは、到底思えなかった。そのため、色々と思うところがありつつ、翔は強い口調で言葉を返した。

 それから、翔は圭吾に目をやった。

「圭吾さん、引き続きバイクを借りたままで、いいですか?」

「ああ、今更確認する必要なんてないぞ。好きに使っていい」

「鉄也、もしもの時のため、このバイクもどこかに置いておきたいんだ。頼んでもいいか?」

 そんなお願いをすると、鉄也は嫌そうな顔になった。

「そんなじゃじゃ馬、真面に乗れる気がしねえから、圭吾に頼め」

「バイク屋をやってる身として、あまり法に触れることはやらないぞ?」

「圭吾が組んだバイクだろ? それぐれえはやれ」

「たく……わかった。どこに移動させればいいんだ?」

「ありがとうございます。ただ、それは潜伏先を決めた後でいいですか?」

「わかった、構わないぞ」

 潜伏先のすぐ近くに置いてもらうつもりはないが、全然違った場所に置いてしまうと、いざ逃げる時に、そこまで行くことが難しい状況になるかもしれない。そのため、翔はどこにバイクを置いてもらうか、慎重に考えることにした。

「あと、可唯のことなんですが、相変わらず単独行動を取っていて、先ほどもJJと対峙したそうじゃないですか?」

「可唯の単独行動を止めたいと言うなら、それは難しいぞ?」

「はい、わかっています。ただ、連絡を取り合うとか、そういったことをお願いしたいんです。これまで使っていたスマホは、鉄也に預けますし、無闇に連絡するのも、お互いの位置が特定される危険があるので、避けたいんです」

「ライトのリーダーとして、可唯の心配は俺もしてる。だから、できる限りのことはするが、期待はするな」

 そう言った後、圭吾は複雑な表情を翔に向けてきた。

「むしろ、可唯のことは、ランの方がわかるんじゃないか? よく一緒にいただろ?」

「一緒にいたと言っても、手合わせすることがほとんどでした。自分がセレスティアルカンパニーに近付こうとしているのを手伝ってもくれましたが……思えば、その時から可唯の目的は全然わからなかったですね」

「可唯には、理由も目的もないのかもしれない。そんな風に俺は感じるぞ」

「同感です」

 それから、圭吾は軽く微笑んだ。

「まあ、俺からしてみれば、ランも似たようなもんだぞ?」

「……そうですよね」

 これまで、翔は圭吾だけでなく、ライトのメンバーと一線を引いていた。そのため、こんなことを言われるのは、当たり前だった。

「悪い、今のは嫌味だ。話したくないことは、話さなくていい。そして、話したいことは、いくらでも聞くから話してほしい」

「……ありがとうございます」

 もっと何か言うことがあるはずだと思いつつ、翔はそれしか言えなかった。

「それじゃあ、そろそろ出発しようか。俺は早くセレスティアルカンパニーのシステムを解析したいしね」

 既に和義は荷物を持っていて、今すぐ出発できそうな状態だった。

「俺も一台、車を借りてくね」

「和義、気を付けろ。何かあればすぐに逃げて、俺に連絡しろ」

「言われなくても、そうするよ」

 セレスティアルカンパニーのシステムを解析した結果、核心に迫る可能性は十分にある。ただ、それは同時に危険なことでもある。そのことをよく理解しているようで、鉄也は心配した様子だった。

「だったら、俺達も行こう。鉄也、圭吾、世話になったな」

「いえ、冴木さんも気を付けてください。あと、さっき話したとおり、全部が解決した後の話になりますけど、俺は冴木さんの活動に、本気で協力したいと思ってますから」

「ああ、俺もそう思っている」

 冴木と鉄也の間で、何があったのだろうかと思いつつ、翔は後で聞くことにした。

「それじゃあ、美優、翔、俺達も出発しよう」

「はい、わかりました」

 このまま、ここで潜伏しているだけでも安全じゃないか。反対に、ここが安全じゃないとしたら、圭吾や鉄也に危険が及ぶんじゃないか。そんな考えが頭の中をグルグルと回り、翔はすぐに動けなかった。

「ラン、俺達は大丈夫だぞ」

「ここのことを知らねえ圭吾が言うな。さっき言ったとおり、襲撃されてもすぐ逃げるし、反対に敵をここに閉じ込めてやるから、心配するな」

「確かに俺はここのことを知らないが、鉄也がこう言ってるなら、大丈夫なんだろう。だから、ランは自分達の心配をしろ」

 圭吾と鉄也がそう言ってくれて、翔は頷いた。

「はい、わかりました」

 状況は良くなっていないかもしれない。また、位置を特定されて、襲撃を受けるかもしれない。そんな不安を持ちながらも、それでも大丈夫だと翔は自分に言い聞かせると、美優と冴木に顔を向けた。

「それじゃあ、行きましょう」

 そう言った翔に、美優と冴木は穏やかな表情を見せた後、頷いた。

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