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TOD  作者: ナナシノススム
前半
126/272

前半 66

 放課後になり、孝太は荷物をまとめると、一息ついた。それから、大助を引っ張って駆け寄ってきた千佳に目をやった。

「それでは、第一回『美優と翔のため、私達にできることをしよう会』を始めます!」

 妙に千佳のテンションが高く、孝太は少しだけ圧倒された。ただ、それよりも周りに人がいる中、そんなことを大声で言っていいのだろうかと疑問を持った。そうした懸念に近い疑問を持つのは正しかったようで、周りにいた人は、こちらに注目してきた。

「美優と翔、何かあったの?」

「一昨日のこともあるし、停学とかになってんのか?」

「でも、美優は別に何もなかったよね?」

 一昨日、急に不良達が学校を襲撃してきて、その際に翔が対応したらしい。不良達は、翔を狙って襲撃してきたらしい。ほとんどの人は、そんな少ない情報しか持っていないため、妙な噂が広がり始めていた。

 それは、今日、美優と翔が学校を休んだこと。担任の須野原先生まで休んだこと。そうしたことも尾ひれをつける形で加わり、様々な憶測だけが広がる形になっていた。

 昨日は学校が休みになったわけで、何かがあったということは、ほぼ全員が共通の認識として持っていることだ。ただ、実際に何があったのか、ほとんどの人は知らない。そこに、変な詮索をするなといった教師達の妙な圧力が加わり、誰か知っていそうな人に聞くということもできない状況にされた。

 ただ、美優や翔が何かしらか関係しているとしたら、孝太や千佳は何があったか知っているだろうし、何があったか聞きたい。そんなみんなの思いを何となく孝太は察していた。そのうえで、孝太自身、何も話すつもりはないといった態度を取っていた。

 そんな中、教師のいなくなった放課後、千佳が美優と翔のことを大声で口にしたわけで、少しは聞いてもいいんじゃないかと思わせる理由になったようだ。孝太達は、他の生徒に囲まれ、質問攻めにあってしまった。

 そこで、ふと孝太は千佳に目をやった。大声で言ったぐらいだし、千佳は、こうなることを想定していたんじゃないかという期待を……一切することなく、勢いのまま言ったのだろうといった想像どおり、ただただ慌てていた。

「えっと……」

「悪い、僕達もそこまで詳しい話を聞いてるわけじゃねえんだ。ただ、たとえ何があっても、美優と翔には、また今までどおり学校に来てほしいと思ってる。それなのに、僕達が変な気を使ったら、二人ともいづらくなるだろ? だから、千佳の提案で、僕達は二人が戻った時、いつもどおり迎えられるよう、毎日パーッと遊ぶことにしたんだ」

 孝太が説明したことに、ほとんど嘘はない。唯一、嘘をついたことは、詳しい話を聞いていないという部分だけだ。

「美優と翔が戻ってきた時、色々と思うこともあるだろうけど、みんなも変な気を使わねえで、今までどおりにしてほしい」

「うん、私もそうしてほしいと思ってるから! 大助もそうだよね!?」

「あ……はい」

 何もないなら、わざわざこんなことを言う必要はない。だから、孝太達のしていることは、何かあったけど、詮索しないでほしいと、お願いしているようなものだ。そう気付き、言わない方が良かったかもしれないと孝太は感じた。

 ただ、周りにいる人の表情は、穏やかなものだった。

「孝太がそこまで言うなら、わかったよ」

「うん、聞くにしても、二人が戻った時に聞こうよ。あ、無理に聞いたりはしないからね!」

「先生に怒られてもあれだし、俺達は待つよ」

 自分が同じ立場だったら、何があったかわかるまで、質問し続けただろう。ただ、みんな深く詮索することをしないでくれた。それは、自分のことを信用してくれているからだろうと感じて、孝太は嬉しかった。

「それで、その『何とか会』っていうのは、誰でも参加できるのか?」

「私も今日は暇だし、参加したい!」

 そんなことを言われたものの、孝太は一瞬だけ千佳に目をやった後、どう答えるべきか決めた。

「いや、悪いけど、今日は僕達だけでやろうって決めてたんだ。明日とか、またやる時に誘うから、その時に参加してほしい」

「うん、わかった」

「絶対に誘えよな」

「明日、空けておくね」

 そんな言葉を聞いて、みんな何があったのか知りたいのだろうと、改めて感じた。ただ、どこまで話すべきかということも含め、しっかり考える必要があったため、今日は三人だけで集まることにした。そして、恐らく千佳と大助も同じ考えだろうと、孝太は感じた。

 そうして、孝太と千佳、大助の三人で学校を出て、周りに生徒がいなくなったところで、千佳が大きな息を吐いた。

「孝太、ごめん! あと、助かったよ! ありがと!」

「いや、僕もどこまで話していいかわからなくて、戸惑った。ただ……みんな、美優と翔のことを心配してるってわかって、嬉しかったよ」

「うん、私も孝太と同じ気持ちだよ!」

 美優と翔が戻ってくる時、今までどおりということはないのだろう。実のところ、孝太はそんな風に感じている。特に、翔は自分達から離れてしまうかもしれない。

「今日は私達だけでやるけど、明日はもっと大勢で『美優と翔のため、私達にできることをしよう会』をやろうね!」

 ただ、千佳の言葉を受け、孝太はネガティブな考えを持たないようにしようと決めた。そして、TODを潰して、すべてが解決すれば、翔が抱えている問題も一緒に解決する。絶対にそうだと、自分に言い聞かせた。

 それから、千佳が案内するような形で、孝太達は近くのカラオケに入った。

 部屋も空いていて、すぐに案内される形で部屋に入った。

 大助は普段からカラオケで歌わないため、今日は孝太か千佳のどちらかが歌うだけだ。そして、千佳が真っ先にマイクを手に取ったため、千佳が先に歌うのだろうと孝太は思った。

 しかし、千佳はそのまま曲を予約することなく、マイクを口に近付けた。

「孝太、何か悩んでるよね!? 今すぐ話して!」

 不意に千佳がそんなことを叫んで、孝太は固まった。

「いや、どうしたんだよ?」

「それは、こっちの台詞だよ! お昼、何か呼び出されてたけど、それから帰ってから、孝太はおかしいよ! いや、もっと前から、何かおかしかったかも。孝太、何か隠してるんでしょ!?」

 もしかしたら、表情などに出てしまっていたのかもしれない。とにかく、千佳の言うとおりで、孝太は答えに困ってしまった。ただ、少し考えて、何を伝えるべきか決めると、それを話すことにした。

「僕から話すべきことじゃねえと思って、話せねえことはある。ただ、それは隠してるってことじゃねえんだ。その……上手く言えねえけど、僕の胸に置いておきたいことがあるんだ」

 どう言えば伝わるか。こう言って伝わるのか。そんなことを思いつつ、孝太は話を続けた。

「美優と翔が戻ってきて、少しでも元通りになってほしいって気持ちは、みんな同じだと思うんだ。隠してるって言われて、それを否定できねえけど……二人のためだってことは、わかってほしい」

 結局、具体的なことは何も説明しなかったため、これで千佳が納得してくれるだろうかと、不安だった。ただ、そんな孝太の不安をよそに、千佳は笑顔を見せてくれた。

「変に聞いちゃって、ごめん! うん、孝太も同じ気持ちだよね!」

 無理やり自分を納得させようとしている雰囲気だったが、千佳はそう言ってくれた。それを受け、本当に話さなくていいのかと、改めて孝太は自分に問いかけた。そして、答えが変わらないことを確認した。

 翔の過去に関すること。そこには、速見から聞いた、堂崎団司に関する話も含まれている。それらは、TODの件が解決したとしても、ここに翔が帰ってくることはないかもしれないといった不安を孝太に与えるものだった。

 だからこそ、孝太は千佳や大助に話すことなく、自分の胸に仕舞っておくことにした。そして、自分のそうした不安が、杞憂に終わってほしいと願った。

「よし、それじゃあ歌うよ!」

 千佳はマイクを握ったまま、いつも歌っていて、それこそ十八番ともいえる曲を予約すると、すぐに歌い始めた。

 普段、この三人に美優を加えた四人で、よくカラオケに来ているから、千佳の歌は聞き慣れている。そして、孝太はいつも歌っている曲を手慣れた操作で予約した。

 考えると、嫌な結論しか出てこなくて、どうしても不安になってしまう。だから、孝太は考えることをやめると、ここに美優と翔を含めた、五人が集まる日が来ることを夢見た。

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