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TOD  作者: ナナシノススム
前半
115/272

前半 55

 孝太は普通に学校生活を送っていたものの、美優達のことはやはり心配だった。

 警察がTODに関する調査を妨害してくる可能性があるため、表向きはライトやダークによる調査を控えたように見せていること。美優がどこにいるかといった情報が、また闇サイトに投稿されたこと。そうした事実は、孝太を不安にさせた。

 それは千佳も同じのようで、休み時間の度にそうした思いを語り合った。ただ、そうして話した後、結論はお互いに変えなかった。

「僕達は、美優と翔が無事に帰ってくるのを待とう」

「うん、そうだよね。光さん達は引き続き動いてくれるみたいだし、私達はみんなに任せようね」

 本当は、何か自分達にできることがあるんじゃないかという思いもある。でも、そんな思いは必死に誤魔化した。そして、自分達は無事な状態で、美優と翔を迎える。ただそれだけを目指すと、孝太達は決めた。

 そうして昼を迎えると、孝太達は屋上で昼食を取ることにした。しかし、教室を出ようとしたところで、孝太は先生に呼び止められた。

「何か、速見とかいう記者が来ているらしい」

「速見さんが?」

 これまで取材をしてくれた篠田の同僚に、速見という記者がいることを孝太は覚えていた。速見のことは篠田から紹介されただけでなく、篠田の代わりとして取材を受けたこともある。そんな速見が突然来たということで、孝太は会うべきだとすぐ判断した。

「ごめん、ちょっと行ってくるよ」

「僕達も、一緒に話を聞きに行きましょうか?」

「いや、僕だけで行くよ。多分、篠田さんのことで、僕にだけ伝えたい話とかがあるんじゃねえかな」

「それじゃあ、先に大助と二人で食べてるよ。大助、行くよ!」

 そうして、千佳が引っ張っていく形で、二人は屋上の方へ向かった。それを見送りつつ、孝太は速見が待っている、職員室の方へ向かった。

 速見が職員室の前で待っているのが見えたため、孝太は足早に近付くと、頭を下げた。

「速見さん、こんにちは」

「孝太君、こんにちは。突然来て悪いわね」

「いえ、大丈夫です。それで、どうしたんですか?」

「ここだとちょっと……外で話せないかしら?」

 速見の提案から、あまり人に聞かれたくない話なんだろうと孝太は察した。そして、その理由も何となくわかっていた。

「わかりました。それじゃあ、外で話しましょう」

 そのため、孝太は速見の提案をすぐに受け入れた。

 そして、孝太達は外に出ると、この時間なら周りに人がいない正門の近くで話すことにした。

「悪いわね。それじゃあ……どこから話したらいいかしらね?」

 速見が困った様子を見せたため、孝太は自分から切り出すことにした。

「篠田さんが亡くなった……殺された件ですか?」

「え? 何で知っているのかしら?」

「その……色々と知ってます。速見さんは知らないかもしれないんですけど……TODのことも知ってます」

 孝太の言葉を受け、速見は明らかに動揺した様子だった。それは、速見もTODについて知っているということを表していた。

「美優がターゲットに選ばれて、美優を守るために翔がTODに深くかかわるようになって……僕も何かできないかと色々やってたんです。でも、それは危険だからやめてほしいと翔からお願いされて、今はもう日常に戻ってるんです」

「篠田がTODのことを知って、今回参加したことも、ターゲットに美優ちゃんが選ばれたことも、一応は知っているわ。私は止めたんだけどね。ただ、危険だからこそ私は避けて、TODについてほとんど何も知らないわ。もしかしたら、孝太君の方が詳しいかもしれないわね」

「いえ、そんなことないです。今日、速見さんが来たのは、篠田さんのことを知らせるためですか?」

「ええ、篠田が亡くなったことは報道規制がされているし、知らないと思って、知らせに来たというのが一番の理由よ。それと、これを孝太君に渡しに来たのよ」

 そう言うと、速見はバッグからボイスレコーダーを取り出した。それは、いつも篠田が孝太の取材をする際、使っていたボイスレコーダーだった。

「知っていたと思うけど、篠田は孝太君の取材に力を入れていて、孝太君の取材をする時にだけ使うボイスレコーダーまで用意していたの。古いボイスレコーダーだけど、まだ使えるし……というか、孝太君のプライベートの話がたくさん入っているから、孝太君が持っているのが一番だと思って、持ってきたのよ。形見だなんていうと、少し違う気がするけど、受け取ってもらえないかしら?」

 これまで、孝太は篠田に対して様々なことを話してきた。それは、篠田を信用してのことで、篠田は孝太が話した内容から、どれをどう記事にするべきかをしっかり考えてくれたうえで記事にしてくれた。だからこそ、孝太は篠田に心を開き、それこそ家族に近い存在として様々な場面で本音を話してきた。

 そんな篠田が亡くなってしまった。その事実を改めて実感し、孝太は複雑な思いだった。

「その……篠田さんは、どういう状況で亡くなったんですか?」

「……私が第一発見者なんだけど、銃で撃たれたみたいよ。多分、逃げる間もなくって感じだったんじゃないかしら?」

「何か、手掛かりみたいなものは残ってなかったんですか?」

「どういうわけか、パソコンなどが壊れてしまっていて、特に情報は残されていなかったわ。篠田が何を調べていたのかも……いえ、孝太君には話しておくわ」

「え?」

 速見が不意にそう切り出したため、孝太は反応に困った。

「堂崎家の息子、堂崎翔は危険かもしれないわ」

「いや、どういうことですか?」

「詳細は伏せるけど、プリンターにいくつか資料が残されていたの。多分、調べていたことを印刷していたみたいで、途中までしか印刷されていなかったんだけど、そこに堂崎家の息子……正確には、堂崎団司が息子に対して何をしていたかが載っていたのよ」

 翔が自分のことや堂崎家について深追いしないよう言っていたことと、速見からの警告は深いかかわりがあるように感じた。そのうえで、孝太は話を聞くことにした。

「堂崎団司は、何をしてたんですか?」

「どう言えばいいかしらね。兵士……いえ、殺し屋とか、そういった表現の方がいいかしら。ただ人を殺すことだけを目的にした、そういう存在を作ろうとしていたみたいよ。そして、堂崎団司は自らの息子をその対象にして、マインドコントロールや、薬を使った身体能力の向上なんてこともやっていたみたいよ」

 そんなことをする人がいるのかと、孝太は信じられない気持ちを持ちつつ、TODにオフェンスとして参加している、悪魔と呼ばれる存在のことをすぐ思い出した。

「その人、悪魔って呼ばれている人だと思います。多分、篠田さんを殺したのも、そいつです」

「実は、さっき堂崎翔が訪ねてきたの。もしかしたら、私がその事実を知っているんじゃないかと、殺しにきたのかもしれないわ」

「それは絶対にないです! 翔は……上手く言えませんけど、絶対に悪魔じゃないです」

「彼を信用したい気持ちはわかるわ。でも……」

「とにかく、違います!」

 翔が悪魔でないという確信を孝太は持っている。ただ、それを上手く説明することができず、もどかしかった。

「わかったわ。でも、堂崎団司が彼を悪魔にしようとしていたこと、それだけは覚えておいて」

「その……はい、わかりました」

 まだ言いたいことがあったが、孝太はここで話を切り上げた。それより、速見に伝えたいことがあるため、それを優先することにした。

「速見さん、身の危険を感じてるなら、光さん……セレスティアルカンパニーの副社長に連絡しましょうか? 今回、TODを潰せないかと協力してくれてて、速見さんの情報なども役立つと思うんです」

「ありがとう。でも、私は独自に動くわ。どこに敵がいるか、わからないしね」

「そうですか……」

 速見の情報を基に、光などが調べてくれれば、多くの手掛かりが見つかるだろう。しかし、速見が光などを信用できないという気持ちも理解できた。

「だったら、少しでもいいので情報をくれませんか? それによって、美優や翔を救うことができるかもしれないんです」

 そのうえで、孝太は速見から少しでも情報を得られないかと試みることにした。

「そう言われても、何を話せばいいか……」

「篠田さんは、TODについて詳しいようでした。どうやって調べたか、わかりますか?」

「ああ、それなら……実を言うと、きっかけは私なの。孝太君のことも紹介したけど、期待の高校生を紹介するって特集を雑誌でよくやったでしょ? それで私が取材していた、神保じんぼじゅん君が、先月TODのターゲットに選ばれたみたいなの」

「え?」

 意外な形で知りたかった情報を得ることができて、孝太は動揺した。

「以前、TODのターゲットに選ばれた人が殺されてるみたいなんです。それで、先月のTODでターゲットに選ばれた人しか、もう残ってないそうで、その人が危険だからとみんなで調べてたんです。神保純って、確か野球部のピッチャーをやってる人でしたっけ?」

「そんなことになっているの? 孝太君の言うとおり、純君は野球部のピッチャーで活躍していて、私が取材していたの」

「確かサウスポーで、速球だけでなく複数の変化球も使える器用なピッチャーみたいなことが書かれてましたよね?」

 孝太のことが紹介された雑誌は、毎回もらえていたこともあり、掲載されている記事は全部読んでいた。その中で、自分と同じように期待されている高校生として紹介されていた神保純の記事も、孝太は読んでいた

「私の記事、読んでくれてありがとう。先月、純君に取材した時、TODのターゲットに選ばれたなんて話をしていたの。それで、これまで緋山春来について調べていた篠田がTODとの関連を疑って、色々と調べていたみたいね」

「篠田さん、色々と知ってたみたいですけど、どこまで知ってたんですかね? というか、どうやって調べたんですか?」

「ああ、それはうちのネットワークが特殊で、普通は手に入らないような情報も手に入るのよ。まあ、今回のことでシステムごと壊されちゃったのか、使えなくなってしまったけどね」

 話を聞いて、孝太はダークゴーみたいなものかと解釈した。それより、神保純が危険だという、最も重要なことを思い出し、慌ててしまった。

「そうだ! とにかく、その神保純って人、命を狙われてて危険なので、何か連絡するなどできませんか?」

「わかったわ。今すぐかけてみるわね」

 速見はそう言うと、スマホを操作した。しかし、相手が出なかったようで、少ししてため息をついた。

「出ないわね。一応、すぐ連絡するようメッセージを送っておくわ」

「僕も、光さんに知らせて、対応してもらいます。いいですよね?」

「別に私は独自に動くってだけで、私の情報は自由に使っていいわよ」

「ありがとうございます」

 許可をもらえたため、孝太はすぐ光にメッセージを送った。

「それじゃあ、私はそろそろ行くわ。篠田が残したものを継いで、色々と調べたいこともあるしね」

 まだたくさん話を聞きたいとも思ったが、これ以上速見を止めるのは悪いと、孝太は判断した。

「わかりました。くれぐれも気を付けてくださいね」

「ありがとう。孝太君こそ、あまり詮索し過ぎて、危険なことに巻き込まれないようにしてね」

「はい、わかりました」

「それじゃあ、またね」

 速見を見送った後、孝太は学校に戻り、そのまま屋上に向かった。そこには、もう昼食を食べ終えた千佳と大助がいた。

「遅い! もうすぐ昼終わっちゃうよ?」

「ああ、長話になっちゃったよ」

「どんな話をしたんですか?」

「篠田さんが亡くなったこと、僕が知らねえと思って、報告に来てくれたんだよ。それから、篠田さんの思い出話とかしてた」

 悪魔の正体に迫る情報や、先月のターゲットに関する情報など、そうしたことを孝太は伝えないでおいた。その理由は、特に千佳などが深追いし、何か危険があるかもしれないと思ったからだ。

 また、もしかしたら篠田が殺されたのは、これらの情報を調べていたからかもしれない。そう推測すると、孝太も危険な状況だ。

「てか、急いで食べねえと!」

 そのため、孝太は改めて日常に戻ろうと強く決心するように、空元気に近い大きな声をあげた。

「焦って食べるのは良くないって聞いたよ? 落ち着いて食べないと!」

「そうですよ。先生も事情を知っていますし、ゆっくりでいいんじゃないですか?」

 そして、そんな孝太に合わせるように、千佳と大助も元気な声を返してくれた。

 それを受け、孝太は今、日常にいると強く実感することができた。

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