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TOD  作者: ナナシノススム
前半
114/272

前半 54

 翔は光から聞いたことを報告しようと、冴木と美優に連絡したが、二人とも出なかったため、何かあったのだろうと察した。それは、最悪の事態も考えられ、美優達と離れるべきじゃなかったんじゃないかといった後悔もあった。

 ただ、二人がどこにいるかもわからない今、翔にできることは連絡を取り続けることしかない。そう思っていたところで、光から連絡があり、翔はすぐに出た。

「光さん、また何かあったんですか?」

 先ほど話したばかりなのに、また連絡があるのは不自然だ。そんな考えは、何か良くないことが起きているのだろうという不安にすぐ変わった。

「闇サイトの方に、また美優ちゃん達がどこにいるかって情報が投稿されたんだよ」

「本当ですか? 確認します」

 翔は通話を繋いだままスマホを操作し、闇サイトを開いた。そこには、確かに美優達がどこにいるかを示す投稿があった。

「この情報、本当なんですか?」

「それは僕がしたい質問だよ。ラン君は、二人と合流するところでしょ? この情報の位置に向かっているのかな?」

「それが、二人と連絡が取れないんです。離れないで一緒にいれば……いや、せめてもっと早く合流しておくべきでした」

 思えば、これまで後悔は何度もしてきた。もっと早くこうしていれば良かった。もっと自分にできることがあれば、あんなことにはならなかった。そう思って変わろうとしたのに、今も自分は後悔している。それは、どこか自分に甘いところがある……覚悟が足りないということなのかもしれない。翔はそんな思いに心が侵食されていった。

「ラン君、最悪な事態を考えるのは後にして、今どうするべきかを考えようよ」

「……この場所に今すぐ行きます。今、手掛かりはこれだけですから」

「いや、一人で何でもしようとしないで、もっと僕達を頼ってほしい! 圭吾や鉄也に連絡するから、一緒に……」

「自分だけで大丈夫です。これ以上……誰も巻き込みたくない」

 翔は通話を切ると、スマホを仕舞った。それから、ミサンガを着けた左手首を右手で強く握った。

 そして、ヘルメットを被ろうとしたところで、スマホが鳴った。それは先ほど使っていたスマホでなく、美優達と連絡するために用意してもらったスマホに連絡が来たことを示していた。翔はすぐにスマホを取り出すと、冴木からの連絡と確認しつつ、すぐに出た。

「冴木さん、美優は無事ですか!?」

「ああ、俺達は二人とも無事だ。やはり、こちらの状況を知っているようだな」

「いえ、ほとんど何も知りません。今、闇サイトに美優と冴木さんがどこにいるかという情報が投稿されて、それで向かおうとしていたんですが……」

「そうなのか? 他の者と連絡を取らないようにしたが、無意味だったのかもしれないな」

「闇サイトの件、知らなかったんですか? それじゃあ、さっき連絡したのに出なかったのは何でですか? てっきり、また襲撃があったのかと……」

「襲撃はあった。それで出られなかったんだ」

「それは、どういう……?」

 焦りもあるためか、冴木と話が合っていない気がして、翔は一旦落ち着こうと、深呼吸をした。そして、頭を整理させると、まずするべきことは何かを考えた。

「すいません、自分はとにかく合流したいです。二人は今、どこにいますか?」

「この状況だと、位置を隠す意味がないな。位置情報をそっちに送る」

 それからすぐに冴木から位置情報が送られてきた。その位置は、闇サイトに投稿された位置とほとんど同じだった。投稿された後、少し移動していることを考えると、あの情報は正確な情報だったのだろう。そう考えつつ、翔はイヤホンマイクで通話できるようにすると、美優達の位置情報が常に把握できるよう、スマホをバイクのハンドル付近に設置した。

「今すぐ向かいます。走りながらでも話せるので、何があったか教えてください。自分も光さんから聞いた情報などを伝えます」

 そう伝えた後、翔はヘルメットを被り、バイクに乗ると、すぐに出発した。

「翔、話せるか?」

「はい、大丈夫です。何があったんですか?」

「先に翔の話を聞きたい。すぐに移動するようにメッセージを送ってきた理由は何だ? こちらの位置が特定される理由が、何かわかったからか?」

「全部がわかったわけではないので、一部光さんの推測も入りますが、説明します」

 それから、翔は光から聞いたことを順に説明していった。

「光さんの推測では、TODを開催している者が、美優達がどこにいるか特定して、公開しているんじゃないかとのことでした。そうなると、いつまた位置が特定されるかわからないので、すぐ移動した方がいいと光さんは判断したんです」

「そういうことか。それで、今も俺達の位置は闇サイトに公開されているのか?」

「はい、また情報が更新されて……どうやら、追跡されているようです。スマホか車か、それとも別の何かなのかわかりませんが、どれかがハッキングされているのかもしれません」

「どれも用意したばかりのものだ。ハッキングされているとは考えづらい……いや、オフェンスの一人が使っていたスマホを今持っているから、それを追跡されている可能性はあるな」

 一瞬、冴木が何を言ったのか、翔は理解に苦しんだ。

「何があったんですか?」

「琴原という名前のオフェンスと、ケラケラが襲撃してきた」

「大丈夫だったんですか!?」

「車はボロボロにされたが、さっき言ったとおり、俺も美優も無事だ。とにかく、こちらも何があったかを説明する」

 そうして、これまで何があったか冴木から話があり、翔は黙ってそれを聞いた。

「どうにかケラケラから逃げて、今はそちらの方へ向かっているところだ。簡単だが、これまでの状況は以上だ」

「その琴原という奴は信用できるんですか? 位置が特定された原因、そいつが何かやったんじゃないですか?」

「それなら美優を助ける必要がない。それがなくても、俺は信用できると感じた」

「あと、ケラケラを殺すことはできなかったんですか? 怪我を負わせたとはいえ、また襲ってくる可能性が……」

「翔、そんなこと言わないで!」

 口を挟むように美優が声を上げたため、翔はそれ以上言うのをやめた。

「琴原のスマホに届いたメッセージについて話そう。光はTODを開催している者……運営といえばいいか。その運営が俺達の位置を特定していると言ったそうだが、俺は少し違う考えを持っている。というのも、運営からの連絡は常にメールだが、琴原に届いたメッセージは通知のような形で、届いているんだ」

「どういうことですか?」

「光などに調べてもらわないとわからないが、独自のアプリか何かでメッセージを受信しているようだ。もしかしたら、何かハッキングされている可能性もあるかもしれない」

「それを運営がやった可能性はないですか?」

「普通に運営がターゲットの位置を知らせるなら、メールを使えばいいはずだ。わざわざこんなことをする理由がわからない」

 翔は冴木の話を受け、自分の考えを伝えることにした。

「実は、自分も運営がやっていることじゃないと思っているんです。冴木さんの言うとおり、運営がやっていると考えた時、どこか違和感があるんです。ただ、誰がやっているかとなると、まったく見当が付かなくて……理由や目的みたいなものが、全然見えてこないんです」

「このスマホを調べれば、何かわかることがあるかもしれない。とにかく、今はそちらの方に向かっているが、どこで合流するか決めよう」

「こちらはバイクで移動中です。冴木さん達がどこにいるか、都度知らせてもらえれば、どこかで合流できるはずです。むしろ、闇サイトに位置が公開されているとなると、特定の場所で合流する方が難しいと思います」

「確かにそうだな」

 こんな状況だからこそ、冷静に考えるべきだとお互い察した形で、翔と冴木は少しだけ間を空けた。

「とにかく、残りのオフェンスはケラケラと悪魔の二人だ。今後もオフェンスに何かしらか情報が送られる可能性はあるが、二人だけなら対処もしやすいだろう。問題は闇サイトの方だな。現状は大丈夫だが、今後襲撃を受ける可能性は十分ある。そうなると、真っ直ぐそちらへ向かうというのは難しいかもしれない」

「二人がどこへ行っても、自分は必ずそこへ行きます。だから、とにかく逃げることを優先してください」

「わかった。もしものことを考えて、翔には美優の位置情報を常に送るようにしておく。万が一、俺に何かあったとしても、翔は美優と合流してくれ」

 その言葉を、翔は素直に受け取ることができなかった。

「冴木さんに何かあれば、残された美優がどれだけ悲しむか、わかっていますか? 冴木さんも、絶対無事でいてください」

「……わかった」

 冴木の返事は、どこか歯切れの悪いものだったが、翔はそれ以上言わないでおいた。

「とにかく、美優の位置情報を送る。それを追ってきてくれ」

「わかりました。すぐに行きます」

「翔、無茶はしないでね」

「ああ、わかっている。大丈夫だ」

 美優が心配しているようだったため、翔は強い口調で、そう返した。

「それじゃあ、お互い運転に集中しよう。一旦、通話は切る」

「わかりました。それじゃあ、必ず合流しましょう」

「ああ、必ずだ」

 最後にそう伝え合った後、通話は切れた。それから、美優の位置情報が送られてきたため、翔は少しだけバイクを止めると、常にそれを確認できるようにした。

 それから、翔は意識を集中させると、バイクを急発進させた。

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