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TOD  作者: ナナシノススム
前半
109/272

前半 49

 圭吾は鉄也と通話しながら、ダークの本拠地にバイクで向かっていた。

「鉄也、もうすぐ着くぞ」

「見えてるから言わなくていい」

「その監視カメラ、そんなに俺を追えるのか?」

「あらかじめマークした奴を自動的に追うように、俺と和義でシステムを作った。今は圭吾が乗ってる、そのお気に入りのバイクを追ってる」

「……乗り換えろってことか」

 今は協力しているが、TODの件が片付いた後のことを考えると、ダークが監視カメラを掌握しているのは、深刻な問題だった。しかし、今考えてもしょうがないと、圭吾は頭を切り替えた。

「ゲートを開ける。すぐに閉めるから、サッサと抜けてくれ」

「わかった。そっちこそ、サッサと開けろ」

「たく、すぐ開けてやる」

 ゲートが開き、圭吾はバイクの速度を落とすことなく抜けた。それから、背後でゲートが閉まるのをミラー越しに確認しながら奥へ進むと、適当な所にバイクを置いた。

「バイクはここでいいか?」

「ああ、適当にその辺でいい」

「あと、ここへ来るのに、毎回連絡しないといけないのは面倒だぞ? 孝太や千佳みたいに、俺もゲートを開けられるようにした方が面倒じゃないだろ」

「ふざけるな。全部終わった後、こっちは本拠地を移す必要がある。時間稼ぎのため、ここへは自由に入らせねえ。バイクを乗り換えるだけでいい圭吾とは違うんだ」

「バイクを乗り換えるだけでいいだと? このバイクは長年乗ってるものだ。こんな場所と一緒にするな」

「こんな場所だと? ここは俺達が長年かけて作った場所だ。そんな小汚いバイクと一緒にするな」

「やはり、鉄也とは決着をつけるべきのようだ」

「そうだな。俺もそう思ってたとこだ」

「ああ、鉄也さん! 圭吾さんも、今後の方針を決めるために集まったんですよね!?」

 ダークの一人が慌てた様子で声を上げたため、圭吾と鉄也はお互いに顔を見合わせた。

「日が変わったが、今は協力関係だってこと、忘れるんじゃないぞ?」

「それは俺の台詞だ。忘れるな」

 そうして、お互いに気持ちを落ち着かせると、当初の目的だった、今後の話に入った。

「ついさっき、光から面倒な報告があった。詳細は聞いてねえから、通話して詳しく聞くとこから始める」

「面倒な報告って何だ? 俺は移動中で見てないぞ?」

「説明が面倒だ。光と話しながら聞け」

「いや、先に……」

 どんな報告があったかだけでも確認しようとしたところで、鉄也が勝手にスマホを操作し始めたため、圭吾は慌てて光からの報告を確認した。それは、一目見ただけで驚かされるものだった。

「鉄也、どうしたのかな?」

「変な報告を寄こしやがって、それはねえだろ」

「そう言うと思って、あの報告にしたからね」

 そんな光と鉄也の会話を聞きつつ、圭吾も言いたいことがあった。

「圭吾だ。光、俺は今見たとこだが、これは何だ?」

「圭吾もいるってことは、近くにライトやダークのメンバーもいるんだよね?」

「ああ、いねえ方がいいなら、出てもらうか?」

「いや、みんなにも見てもらったとおりだから、出てもらう必要はないよ。元々、警察はTODの捜査を進めるどころか、浜中さんとかTODの捜査をしていた人の妨害までしていたわけだけど、JJがTODの元ターゲットを標的にしているってバレたのが原因みたいだね。今後は僕達に対しても、これまで以上に警察の妨害があると思うよ」

 そうした報告が浜中からあったことは、データベースの方にも共有されていた。問題は、その続きだった。

「それで、浜中さんはJJに関する調査を控えるように言ってきたんだけど、普通に考えて、TODの調査そのものを控えるべきじゃないかと思ったんだよね」

「TODの調査を控えろって、それじゃあ、俺達は何もできることがねえだろ!」

「鉄也の言うとおりだぞ。それに、俺達は元々、警察の妨害など関係なく、TODを潰すために協力すると決めたんだ」

「そう言うのもわかるよ。でも、実際のところ、警察の妨害が強くなったと感じることはないかな?」

 光の質問を受け、圭吾は思うところがあった。それは、鉄也も同じのようで、険しい表情になった。

「ライトの方は、いつも以上に警察が声をかけてくるって報告があったぞ。でも、それだけだと……」

「監視カメラを見ると、はっきりわかるが、色んな所に警官が配備されてる。ダークもマークされてるみてえで、動きづらくなってる」

 鉄也の言葉で、警察が本格的に自分達の妨害をしてきていることは明らかだと圭吾は感じた。

「そうだろうね。だから、ライトとダークに動いてもらうのは、これで終わりってことだよ」

「ふざけるな! これで終わりにできるわけねえだろ! 光、今どこにいる!?」

「どこって、セレスティアルカンパニーに泊まり込みしているって言ったでしょ?」

「だったら待ってろ! 今すぐ行って、直接文句を言ってやる!」

「わかったよ。圭吾も一緒に来るのかな?」

 光の言葉は、他の人にとって質問に聞こえただろう。ただ、圭吾にとっては、誘い……むしろ、命令のように感じた。

「わかった。俺も行くぞ」

「それじゃあ、待っているよ」

「すぐ行くから待ってろ!」

 そうして通話を切ると、鉄也は怒り心頭といった様子で、わかりやすく肩で息をした。

「ふざけやがって! 誰か車を用意しろ!」

「バイクの方が速いから、俺はバイクで行くぞ?」

「うるせえ! 言われなくてもわかってる! 俺もバイクで行く!」

 鉄也は近くに置いてあったバイクに近付くと、ヘルメットを被った。

「圭吾、どちらが先に到着するか競争だ」

「いいぞ。絶対に負けな……」

「二人とも、警察が警戒してるんです! 安全運転で行ってください!」

 そんなことを強く言われ、圭吾と鉄也は、お互いにため息をついた。

「競争は、またの機会にするぞ」

「言われなくてもわかってる」

 そして、圭吾もヘルメットを被ると、バイクに乗ってエンジンをかけた。

 それから、圭吾と鉄也はバイクを走らせ、セレスティアルカンパニーを目指した。競争はしないつもりだったが、途中で鉄也が煽ってきたため、圭吾は対抗するようにして、速度を上げた。

 そうして、完全に二人ともスピード違反だったが、幸いなことに警察の厄介になることはないまま、セレスティアルカンパニーに到着した。

「俺の方が速かったぞ」

「止める場所がわからなかっただけだ。そこまでは俺の方が速かった」

「素直に負けを認めるんだな」

「それは俺の台詞だ。俺の速度に全然ついてこれなかっただろ? そんな時代遅れのポンコツに乗ってるからだ」

「長年愛されてるこいつをポンコツだと? いいぞ。改めて競争……」

「圭吾、鉄也、よく来てくれたね!」

 そう声をかけてきたのは、瞳だった。

「光の言うとおり、迎えに来て良かった。案内するから、二人とも一緒に来て」

 そう言われ、圭吾と鉄也は瞳についていく形で、セレスティアルカンパニーに入った。

「鉄也は久しぶりだけど、全然変わらないね」

「そう言う瞳も変わらねえな」

「ありがとう。お世辞でも嬉しいよ」

「別に、お世辞なんかじゃねえ」

 瞳と鉄也の関係性は、特別仲が良いわけでもなければ、悪いわけでもないという、不思議なもので、昔からこうだった。これは、瞳の人柄というか、長所に近いものだろうと圭吾は感じた。

 光が待つ副社長室に到着すると、瞳は軽くノックしてからドアを開けた。そこには、光だけでなく、和仁もいた。

「ああ、二人ともいらっしゃい。それじゃあ、和仁さん、ありがとうございました。おかげで、ある程度整理できました」

「それは良かったです。それじゃあ、これで失礼します」

 和仁はそう言って出ていこうとしたが、鉄也の横を通り過ぎようとしたところで足を止めた。

「鉄也君、いつも和義君が世話になって、ありがとう」

「別に俺が世話になってるぐらいだ。礼なんていらねえ」

「……そうなら、良かったよ。これからも、和義君のこと、よろしくね」

「兄として、和義にもっとしてやれることがあるんじゃねえか?」

 鉄也が強い口調で言うと、和仁は少し驚いたような反応を見せた。

「そうだね……。何かできればいいんだけど……」

「……俺から言うことじゃねえか。何でもねえ」

 和義が兄の和仁を含めた家族と上手くいっていないことは、みんな知っていることだ。一緒にいることが多い鉄也は、恐らくそのことで和義から悩みなども聞いているのだろう。鉄也の態度から、圭吾はそんな風に感じた。

「それじゃあ、失礼します」

 和仁は軽く頭を下げると、部屋を出ていった。

 それから少しだけ間を空けた後、鉄也は光に近付いた。

「光、TODの調査を控えるべきって、どういうことだ?」

「……そう伝えれば、鉄也と圭吾が来てくれると思ったからね」

「は?」

 不敵な笑みを浮かべる光を見て、圭吾はため息をついた。

「やはりそういうことか。直接会って話したいことがあるんだな?」

「さすが圭吾。僕の考えていること、よくわかっているね」

「おい、ふざけるな! どういうことだ!?」

「これから話すよ。ただ、少しだけ待ってもらえるかな?」

 何を待つのかと思っていたら、ノックする音が聞こえた後、ドアが開き、和義が入ってきた。

「もうちょっと寝たかったんだけど?」

「ごめんね。緊急で話したいことがあるんだよ」

「それは聞いたけど、鉄也と圭吾までいるし、どうしたのかな?」

 和義のした質問は、圭吾と鉄也も聞きたいことだった。

「そうだね……。これから話すことは、ここにいる五人だけで共有したいと思って、集まってもらったんだよ」

「何で、この五人だけなのかな?」

「そんなの言わなくてもわかるはずだよ?」

「いや、わかるわけないじゃん。だから、ちゃんと言ってくれないと」

 和義は光の考えを理解したうえで、あえてそう言っている様子だった。それは、光の口から言わせたいという思惑があるのだろうと気付き、圭吾は黙っていた。

「ライトを作ったばかりで、まだ人が集まらなかった時、一緒にいてくれたみんなのことを信用しているからだよ」

「……ちゃんと言えるじゃん」

 光の言葉を受け、和義は嬉しそうに笑った。

「私は助けてもらってばかりで、ライトのメンバーかというと違ったけどね」

「そんなことないよ。間違いなく、瞳はライトのメンバーだったよ」

 光と二人でライトを結成したこと。無理やり鉄也を仲間に引き入れたこと。和義がやってきたこと。そして、チンピラに絡まれていたところを助け、それをきっかけに瞳が加わったこと。

 そんな思い出を振り返りつつ、圭吾は軽く息をついた。

「他の奴に聞かれたくない話をしたいんだろ? 確かに、それを話すなら、この五人だけで共有するのが良さそうだ。俺もそう思うぞ」

「圭吾の言うとおりだよ。同じ考えで良かった」

 それから、圭吾と光はお互いに笑った。

「だったら、そう言え! 言われねえとわかんねえだろ!」

「俺はすぐにわかったぞ? 鉄也は鈍感なんじゃないか?」

「何だと!?」

「はいはい、ケンカは終わり。いつまで経っても、話が進まないじゃん?」

「そうだよ。光、時間は限られているし、そろそろ本題を話さないと」

「そうだね。それじゃあ、話すよ」

 こんな五人でのやり取りを懐かしいと思うと同時に、またこんなやり取りができていることが素直に嬉しかった。ただ、光が険しい表情を見せたため、圭吾は感傷に浸るのをやめた。

「敵が誰……というより、どこなのかわかってきたよ。ただ、同時に厄介なこともわかった。だから、協力してほしい」

 光はそう言うと、深く頭を下げた。

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