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TOD  作者: ナナシノススム
前半
107/272

前半 47

 光は確認し切れていなかった情報を一通り確認し、さらには頭の中で整理しながら、データベースの方へ共有していった。

「光、少しは疲れが取れたみたいで、安心したよ」

「瞳がいなかったら、今も無理していたと思うし、僕を止めてくれてありがとう」

「どういたしまして」

 そんな話をした後、光と瞳はお互いに笑った。

 その時、和義が着いたことを知らせる報告が来たため、光はすぐに返事した。

「和義君が来たみたいだね。通すように言っておいたよ」

「迷うかもしれないし、念のため、迎えに行ってくるよ」

「うん、ありがとう」

 副社長室を出ていく瞳を見送った後、光はまた情報の整理を再開した。そうしていると、少しして瞳が和義を連れて戻ってきた。そして、一目見て、和義がフラフラなことに気付いた。

「光、和義君には休んでもらうね」

「うん、仮眠室とか自由に使っていいよ。データの方は僕が調べておくね。カードとかに入れてくれたのかな?」

「そんな暇なかったし、ノートパソコンを渡すよ」

 和義がフラフラとした足取りで、ノートパソコンを差し出してきたため、光は慌てて受け取った。

「それじゃあ、寝るね……」

「ごめん、ロックを解除するから、パスワードを教えてくれないかな?」

 和義が寝る前に確認しておこうと、光はロックがかかっていないかをまず確認した。すると、案の定ロックがかかっていたため、悪いと思いつつ呼び止めた。

「ああ、鉄也の生年月日で解除できるよ。えっと……」

「それなら知っているから……うん、無事に解除できたから、休んできてよ」

 そう返すと、眠そうにしていた和義が、驚いたような表情を向けてきた。

「何で知ってんの?」

「お互いに誕生日を祝ったでしょ? 鉄也だけじゃなくて、和義君の誕生日だって覚えているよ?」

 そう伝えると、和義は複雑な表情になりつつ、笑った。

「そういったこと、もっと伝えてたら、鉄也は喜んだよ?」

「別にこれぐらい……」

「バカと天才は紙一重どころか一緒じゃん……って、さすがに限界だから寝るよ。後はよろしくね」

「ああ、うん……おやすみ」

 和義が何を言っているのか気になったものの、光は後で聞くことにした。

「それじゃあ、仮眠室が空いていると思うし、そっちに案内してくるね」

「うん、よろしく」

 瞳と和義が出ていくのを見送りつつ、光は和義から受け取ったノートパソコンを操作し、そこに残されたデータを確認していった。

 恐らく、メインで使用している物ではなく、サブで使用している物だろうと思いつつ、自分が使用しているパソコンを誰かに渡すというのは、抵抗があるものだ。しかし、和義は、こうして貸してくれた。

 それは、多少なりとも和義が光を信用していることを表しているように思えて、光は嬉しかった。そして、そうした思いは、少しでも多くの手掛かりを見つけようといった強い目的を持たせるものだった。

 それから少しして、瞳が戻ってきた。

「和義君、すぐに寝ちゃったよ」

「徹夜だったみたいだからね。それより、和仁さんは今、どうしているかな? 少し聞きたいことがあるんだよね」

「和仁さんも昨夜遅かったし、どこかで寝ているんじゃないかな。一応、確認してみる?」

「いや、起こすのは悪いし、それなら和仁さんが起きるまでにできることを済ませておくよ」

 冴木が用意した潜伏先の方は、和仁が直接見ているため、そちらと似たことが起こっていないか確認したかったものの、光は先に和義から受け取ったデータを整理することにした。

 解析を進めようとすると、自動的にデータを削除する機能も兼ねていたようで、残念ながら全部のデータは残っていなかった。ただ、残されたデータの中に、重要な手掛かりがあるはずだと光は信じていた。

 その時、浜中から連絡があり、光はすぐに出た。

「光です。浜中さん、おはようございます」

「ああ、おはよう。今は大丈夫かい?」

「はい、大丈夫です。どうかしましたか?」

「それが情けない話なんだけど、例の連続殺人事件、TOD絡みと気付いたようで、捜査は打ち切りになったし、私もしばらく休めと言われてしまったよ」

「やはり、そうなりましたか……」

 もしかしたら、そうなるかもしれないと予想していたものの、実際にそうなってしまったと聞き、残念ではあった。そして、浜中は光以上に残念に思っているだろうと感じ、光はどう言葉をかけるべきか迷った。

「ただ、他の部署の同僚が協力してくれて、何かわかったことがあったら、都度知らせてもらえることになったよ。あと、私の単独行動まで止めるというのは、警察としても難しいだろうからね。引き続き、光君達と協力しながら、私は私のできることをするよ」

 しかし、浜中は落ち込んだ様子もなく、むしろ前向きになっているようにすら感じて、光は安心した。

「わかりました。ありがとうございます」

「それで、同僚なんかから聞いたんだけど、警察がTOD絡みの事件を捜査しない理由、思った以上に深刻みたいだよ」

 それから、浜中は同僚から聞いたという話をしていった。その内容は、浜中の言うとおり深刻なもので、光と瞳は黙って話を聞いていた。

「日下さんだけでなく、上司の月上さん、さらには上層部とかそっちの方まで、かかわっている可能性があるんだよ。だから、警察として動くのは、なかなか難しいみたいだね。まあ、これは最初からそうなんだけどね」

「……その件を追求するのは、さすがに危険だと思います。ただ、あくまで可能性の話ですが、今もTODにかかわっている人が警察内部にいる場合、ちょっと厄介ですね」

「その可能性は十分あるよ。これまでTODの捜査を進められなかったわけだし、もしかしたらTODを開催している人から、脅迫されている人もいるかもしれないよ。本当に情けない話だけどね」

 警察まで敵だとすると、光は動きづらいなと感じてしまった。というのも、何か重要な情報を手に入れた際、それが不正な方法で手に入れたものだと言われたら、多くはそのとおりと答えるしかない。実際、和義に協力してもらう形で、法に触れていると解釈されてしまうこともしている。その結果、警察が困る情報を手に入れたとなれば、何かしらか法に触れたことを追及され、逮捕される危険すらある。

「セレスティアルカンパニーも、ライトとダークも、この件に関しては動かない方が良さそうですね」

「うん、この件は私の方で……」

「なので、僕が個人的に調べます」

 その言葉が意外だったようで、少しの間、浜中からは何の反応もなかった。

「いいのかい?」

「僕が個人的に動くだけなら、警察も気付かないはずです。今は別件で調べることがあるので、そちらを優先しますが、それが落ち着いたら、一年前のことを改めて調べようと思います。その結果、警察の弱みを見つけることができれば、反対にこちらの味方にできるかもしれません」

「確かに、脅迫などされているとしたら、それをこちらが掴むのは有効かもしれないね。私の方も、その方向で同僚と動いてみるよ」

「お互い、あまり露骨に動かないように気を付けましょう」

「ああ、あと、伝え忘れるところだったよ。例の連続殺人事件についても、あまり露骨に追いかけるのは危険かもしれないよ。TOD絡みとわかって、警察も警戒すると思うしね」

 浜中から指摘されたところで、そのとおりだと思いつつ、光の中には疑問もあった。

「でも、これまでは普通に捜査していたんですよね?」

「その件、同僚とも話したけど、この事件がTOD絡みだということ、少なくとも警察は気付いていなかったようだし、恐らくTODを開催している人すら知らなかったんだと思うよ」

「そういうことですか。とりあえず、この事件について追うのは一旦止めるよう、他の人に伝えます。ただ、野放しにする気もないので、こちらも僕の方で調べてみます」

「いや、元々この件は光君達の方で調べられることが少なかったし、同僚にお願いして、これまでの捜査でわかったことを改めて教えてもらうようにするよ。捜査が打ち切りになったとなれば、上手く情報を引き出せるかもしれないし、他の同僚にもお願いしてみるよ」

「わかりました。でも、さっきも言ったとおり、あまり露骨に動かないようにしてください」

「うん、わかっているよ。それじゃあ、お互いに何かわかったら、また連絡しよう」

「そうですね。お願いします」

「それじゃあ、一旦切るよ」

 そうして通話が切れたところで、光は軽く息をついた。

「光、あまり無理しないでね」

「大丈夫。とりあえず、まずは和義君がくれたデータの分析を優先するよ」

「でも、警察まで絡んでくるなんて……」

「大変なのは最初からわかっていたよ。だから、僕がすることは、最初から何も変わらないよ」

 そう言いつつも、調べれば調べるほど、敵となりうる存在が大きくなっていることは気になるところだった。しかし、光はそんな不安を持つより、自分にできることをしようと改めて決意した。

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