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TOD  作者: ナナシノススム
前半
106/272

前半 46

 この日、浜中は様々な思いを持ちながら、警察署に入った。

 昨日、警察が追っている連続殺人事件に関する、重要な手掛かりを掴んだ。それは、犯人のJJが、TODの元ターゲットを標的にしているという、間違いない事実だ。

 しかし、これまで警察は、TODに関することに対して、あまり捜査を進めることもなく、消極的な対応しかしてこなかった。そのため、浜中は元ターゲットが標的になっていることだけ伝えず、JJの特徴や、翔の撮った後ろ姿の写真などを中心に、情報を共有した。

 それだけでも大きな手掛かりで、何より犯人が高校生ぐらいの男だとわかったことで、犯人を絞ることができるようになった。

 まず、暴力団や宗教団体などが絡んだ、組織的な犯行じゃないかといった意見がこれまであったが、それは否定される形になった。そして、恐らく犯人は単独で、理由はわからないものの、殺し合いを楽しむ愉快犯という、これまでと違った犯人像が浮かび上がった。

 また、これまでも現場にナイフが残されていたが、誰でも簡単に購入できるもので、特に手掛かりにはならなかった。しかし、翔に言われた場所に残されていたナイフには、犯人のものと思われる指紋が残っていた。前科などがなければ、指紋からわかることは少ないが、それでもないよりあった方が確実にいいものだ。

 そして、犯人がJJと名乗っていたこと。何かしらかスポーツの経験がある可能性が高いこと。これらの情報をきっかけにして、一気に犯人を特定できる可能性も十分ある。それこそ、昨日からの捜査で、もう特定できていてもおかしくない。

 それほど強い期待を持ったうえで、浜中は自らが所属する刑事部の部屋に入った。

「おはようございます!」

 自然と声が大きくなってしまったことで、他の人が視線を送ってきたため、浜中は多少恥ずかしくなりつつ、自分のデスクに着いた。

 すると、すぐに上司の月上が近付いてきた。その表情がどこか険しく、怒っているようにも見えて、浜中は少し不安になった。

「月上さん、おはようございます」

 挨拶をしたものの、月上の表情は変わらなかった。そして、少しした後、月上はわざとらしくため息をついた。

「浜中、来てもらったところ悪いが、まだ有休が残っていただろ? しばらく休め」

「……どういうことですか?」

「今言ったとおりだ。これ以上、話すことはない」

 そう言われたものの、浜中は納得できるわけがなかった。

「待ってください! 昨日、お伝えしたとおり、例の連続殺人事件の犯人が、また犯行に及びました。私にわかることは全部伝えましたけど、それで捜査を進めてくれましたよね? 何かわかったことがあるはずです。それを教えてください」

「元々、この事件の捜査に、おまえは参加させていない。捜査でわかったことを伝えるわけないだろ」

 自分を排除しようとする月上の態度を受け、浜中は理解した。

「この事件がTOD絡みだとわかったから、捜査を打ち切るんですね?」

 その質問に月上が答えることはなかったが、答えないということが答えのようなものだった。

「JJと名乗る犯人は、殺し合いを楽しむ危険な奴で、TODの元ターゲットを標的にしています。今すぐ、先月のTODでターゲットに選ばれた人を見つけて、保護するべきです」

 もはや、TODとの関連について隠す必要もないため、浜中は強い口調でそう伝えた。

「おまえは、俺の話が理解できないのか?」

「はい、理解できません。警察や日下さんの信用を守るため、被害に遭っている人がいるのに、無視するんですか? そんなこと、日下さんが望むわけないです。皆さんだって、同じ気持ちじゃないんですか?」

 周りを見渡すと、あからさまに目をそらす者もいたが、真剣な目を向けてくる者も多くいて、自分と同じ思いなのだろうと浜中は感じた。そして、そのうちの一人は立ち上がると、何か伝えようとしてきた。

 しかし、そのタイミングで、机を強く叩く音が響いた。その音は、月上によるものだった。

「浜中だけじゃない。全員、どうなるか想像したうえで行動しろ」

「……何かあれば、私が責任を取ります」

「責任? それなら聞くが、何かというのは具体的に何だ? どういったことが起こると予想している?」

「それは……」

「そして、それが実際に起こった時、おまえは何をする? それを示すことができない奴は、結局何もしない。責任なんか取れるわけがないんだ」

 月上の言葉に、浜中は何も言い返せなかった。

「浜中、今すぐここから出ろ」

「月上さん、あなただって……」

「いいから出ろ!」

 月上の強い態度を受けつつ、浜中は、また周りを見渡した。しかし、今度は全員が目をそらし、味方になってくれそうな人は誰もいなかった。

「わかりました」

 ここにいても、何もできない。味方もいない。そう判断すると、浜中は部屋を出た。

 そして、このまま警察署を後にし、また光や圭吾達と連絡を取ろうかと思っていたところで、浜中は不意に誰かから手を引かれた。

「浜中、ちょっと来い!」

 そこにいたのは、別の部署の同僚だった。

「驚かせるなよ」

「驚いたのは、こっちの方だって。とにかく、ここだとまずいから、こっちに来いって」

 引っ張られるようにして、浜中は同僚と一緒に屋上へ出た。

「良かった。この時間なら、さすがに誰もいないと思った」

「こんな所まで引っ張ってきて、何の話だよ?」

「何って……闇が深い話だよ」

 そんな風に返されると思っていなかったため、浜中はどう反応すればいいか、わからなかった。

「まあ、TOD絡みの話は闇が深いとわかってたけど、単刀直入に聞く。浜中は今、何をしてる?」

「……現在進行形で行われているTODに関連して、TODそのものを潰せないかと動いている人達がいるんだよ。それに協力しているよ」

 自分が今何をしているか、少しだけ話すべきか迷いつつ、もう知っていることも多いのだろうと感じて、浜中は簡単にこれまであったことを話した。

「昨日、連続殺人事件の情報が得られたのも、色々な人がTODをどうにか潰せないかと動いてくれたおかげだよ」

「状況がわかってきた。ただ、これは本当に闇が深いってこともわかってきた」

「こっちは話したんだし、そっちの話も聞かせてほしいよ」

「ああ、わかってる」

 そう言ったものの、同僚は少しだけ悩んでいるような様子で、間を空けた。

「上がTOD絡みの捜査を止める理由、日下さんがTODに参加したからだって話だったけど、日下さんだけじゃなくて、他にもかかわってる人がいるみたいなんだ」

「どういうことだよ!?」

「大きな声を出すな。バレたらまずいんだって」

「ああ、ごめん……」

 それから同僚は、近くに誰もいないか、改めて確認した後、小声で話し始めた。

「一年前、署内で妙な動きがあった。それは日下さんが行方をくらませたこともそうだけど、同じ時期に月上さんも休暇を取ってたこと、覚えてるか?」

 そう言われたところで、浜中は当時のことを思い出した。

「確かに、そうだったね。日下さんのことがあって、それどころじゃなくなっちゃったけど、日下さんと一緒に月上さんも急に休んで、夏風邪でも引いたんじゃないかって、みんなで話したよ」

「もしかしたら、月上さんが休んだ理由、何かしらか日下さんに協力するためだったんじゃないか? それどころか、日下さんは他の部署のお偉いさんとも独自のパイプで繋がってただろ? それを利用して、当時色々とやり取りしただろう人物が結構いるんだ」

「それって、つまりどういうことだよ?」

「わからないか? 一年前、日下さんに協力した人が、警察内部に結構いる可能性があるんだ。仮に、日下さんが大金を得るため、緋山春来を殺したって話が事実だった場合、警察が殺人に協力したなんて話まで発展する可能性がある。そんなことになれば、単なる不祥事で済むわけないし、俺達だって路頭に迷うかもしれないって」

 そこまで大きな話になると思っていなくて、浜中はどう言葉を返せばいいか、わからなくなってしまった。

「問題は、TODを開催してる奴がどこまで知ってるかだ。もしも、かなりの情報を持ってる場合、警察総出で捜査なんかした時点で、すべて暴露されるかもしれない。それこそ、そんな脅迫を受けてる人もいるかもしれないんだ。確証はないけど、TODの捜査が進まない理由は、そんなとこじゃないか」

「そうだとして、急に圧力が強くなったのは何でなのかな? これまでも止められはしていたけど、ここまで露骨に止められることはなかったよ?」

「例の連続殺人事件が、TOD絡みだとわかったからだろうね。これ、色々と解釈ができるんだけど、TOD絡みだと把握してなかったのは、警察だけでなく、TODを開催してる奴もそうだったんじゃないか? だから、これまでは普通に捜査できたってわけだ」

「確かに、これまで被害者の情報すら公表していなかったから、TODの元ターゲットが標的になっているなんて、ほとんどの人が気付けなかっただろうね」

「浜中、しばらく休めって言われたみたいだけど、ある意味チャンスだ。警察も、TODを開催してる奴も、すべてを把握してるわけじゃないってわかったし、浜中は自由に休みを満喫すればいい」

 その言い方は、独自に捜査しろという意味だとすぐにわかった。

「俺は引き続き警察内部の動きを追って、隙を見て知らせる。これは、あくまで個人がしたことにして、警察として捜査してるわけじゃないってことにしよう。まあ、そんなことしても、捜査を進めたことがきっかけで、色々暴露されるリスクはある。お互い、覚悟はしておこう」

「わかった。協力してくれてありがとう」

「じゃあ、そろそろ誰か来るかもしれないし、俺は戻る」

「あまり無茶するなよ」

「そっちこそ、無茶はほどほどにしろ。じゃあ、またな」

「うん、また」

 そうして、同僚を見送ってから、少しだけ待機した後、浜中は屋上を離れた。

 これまでは、こんな状況で自分にできることは何もなかった。しかし、光達の協力を得られる今、自分にできることはたくさんある。

 そのことを強く意識しながら、浜中は警察署を後にした。

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