第二十三話「私利私欲な悪女の末路~邪竜セルヴァンス誕生~」
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「はぁっ、はぁっ、はぁっ・・・!!」
ボロボロになったオリガが、単騎のみで、里に戻ってきた姿を見て、エルフたちは驚愕した。
今頃、オリガは、エルフ軍を率いて、スピタルを手に入れるために、進軍をしているはずだ。
それなのに、なぜ、彼女だけが、戻ってきているのか。
彼女の部下の兵士たちは、どうして一緒にいないのか。
「さ、里長!?どうして、こちらに?」
「うるさいっ!!」
心配そうに尋ねてきたエルフの女性を、オリガは乱暴に追い払った。
そして、自分の家に入ると、鍵を閉めて、そのまま閉じこもってしまった。
「あり得ないわ、あり得ないわ、こんなこと、何かの間違いだわ。私は、何も、間違ってなどいない!!」
皮膚が破けて、血がにじむほどに、彼女は栗色の髪の毛をかきむしった。
目は血走っており、顔からは血の気が引いて、真っ青になっている。
ひどく、喉が渇いている。
水差しから直接、口の中に、大量の水を流し込んだ。
慌てて飲んだため、気管に入り、激しくむせた。
「ごほっ、ごほっ・・・!!う、嘘よ、こんなの、悪夢よ。そうよ、私は、悪夢を見ているのよ。早く覚めなさいよ。こんなの、現実であるはずがないじゃない!!」
認める事が出来ない。
自分の無能さが原因で、里の働き手となる、若いエルフの大半が討ち死にしたことも。
そもそも、自分が、スピタルに襲撃を仕掛けて、侵略しようなどと言わなければ、こんな未曽有の危機を迎えることはなかったことも。
もし、この事が、里のエルフたちに知られたら、確実に、自分の人生が終わる。
「おい、里長!?どうして、一人だけ、村に戻ってきたんだ!?俺の息子は、どうなったんだ!?」
「まさか、一人だけ、逃げ帰ってきたのですか!?私の息子を置いてきたんですか!?」
「里長!出てこい!!説明しろ!!」
「うるさい、うるさい、うるさいぃぃぃっ!!無礼者がぁぁぁっ!!私を誰だと思っているのよ!!オリガ・オラドールよ!!お前たちにとっての絶対的な存在である、里長なのよぉぉぉっ!!」
オリガはヒステリックに怒鳴ると、地下に通じる階段を下りて、地下室に引きこもることにした。
もう、こうなったら、こんな無能な有象無象がいる里など、どうなってもいい。
祖父や、父から託された、里長としての使命もどうでもいい。
自分だけが助かれば、それでいいのだ。
「元々、こんな田舎、大嫌いだったわ!!祖父も、父も、こんな狭くて何もない里の里長で終わる程度の存在だったけど、私は違うわ!!スピタルを侵略して、そのまま、シャルトリューズの森に住まう、他のエルフや亜人共も従えて、この大陸の支配者になってみせる!!」
大きな鉄製の扉を開くと、広い部屋の中には、異様な空間が広がっていた。
床一面に書かれている、巨大な魔法陣。
無数の魔導書が隙間なく収められている本棚、ドクロをモチーフとする、趣味がいいとは言えない作りのアンティークがそこら中に置かれている。香炉からは、むせ返るような甘い香りがするお香が焚いてあった。
「おしまい?これでおしまい?・・・嫌ァァァァァァッ!!私は、まだ、終わってなんていない!!アレクシアァァァッ!!私は、お前なんかに、負けてなんかいないわ!!私は、この大陸を支配する、女王になる存在なのよぉぉぉっ!!うがああああああっ!!私をそんな目で見るな、蔑むな、私をバカにする奴は、全員死刑よぉぉぉぉぉぉっ!!」
本棚から、魔導書を次から次へと引き抜いて投げ捨てて、破り、手あたりしだいに目に付くものを投げつけて、壊していく。完全に錯乱しているのか、自分のことを、誰かが蔑むような目で見ているといった、被害妄想に捕らわれるほどに、彼女の精神は追い詰められている。
「途中で逃げるなんて、貴方も、英雄失格みたいだね。そういうのは、許せないかなって・・・」
「・・・ああ?」
その時、部屋の扉が開いて、千鶴が顔を出した。
彼女は、感情が一切読み取れない無表情で、興奮しているオリガに近づいてくる。
「でも、大丈夫。私が、貴方を本当の英雄にしてあげるから」
そういって、左手に持っていたものを、オリガの胸に突き出し・・・そのまま貫いた。
「がはっ!?」
千鶴の手に持っていたもの、それは、禍々しい悪意と狂気を感じさせるオーラを放つ、一冊の本・・・禁書【ハイドラの書】だった。ハイドラの書が、彼女の身体の中にずぶずぶと沈んでいくように、飲み込まれていった。
「・・・な・・・何を・・・したの・・・?」
その瞬間、オリガは、一瞬思考が停止して、身体が内側からはじけ飛びそうになるほどの、強烈な衝撃を感じた。
「・・・ぐっ・・・ぐうう・・・がああああああああああああっ!?か、からだが、あつい・・・!!お、お、おまえ、なにを、したぁぁぁぁぁぁっ!!?」
オリガが地面に倒れこみ、身体に劇的な変化が起こり始めた。
身体中の肉という肉が、内側から、ボコボコと膨れ上がり、白い肌が、どす黒くなっていく。
首には無数の血管が浮かび上がり、手の爪が異様な長さに伸びて、さながら、獣のそれに変わっていく。
「・・・貴方一人の力じゃ、英雄になれそうにないから、手伝ってあげようかなって。貴方には、スピタルで苦しんでいる大勢の人たちを、楽にしてもらわないと、いけないから」
オリガは、わずかに残っている理性で、千鶴から底知れない狂気を感じて、震えあがった。
コイツは、何を考えているのか、全然分からない。
おぼつかない足取りで、よろよろと歩き出し、彼女はとにかくここから逃げることにした。
千鶴は、彼女のことは追わずに、ゆっくりとした足取りで地下室を出て行った。
「・・・これで、大勢の人たちを、楽にしてあげられる。・・・桜くん、これで、私は、また一歩、勇者として正しいことをしたよね?」
彼女にとって、勇者の使命とは『大勢の人々の命を救う』ということだと認識している。
しかし、その方法が『命を奪って、死ぬことによって、苦しみや悲しみから解放される』という思想に基づいて、どんな方法を使ってでも、大勢の人間や亜人、魔族の命を奪うことこそが正義だと信じている。
そんな、歪んだ正義がそのまま人の形になった存在、それが、松本千鶴であった。
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「もうすぐ、集落だよ!」
僕たちは、オラドールの集落を目指して、全速力で走っていた。
何だろう、戦いはこっちが優勢であるはずなのに、すごく、嫌な予感がする・・・!!
心臓の鼓動が高鳴り、この先に、とんでもない何かが待ち受けているようでならない。
そして、集落まであともう少しと言った時だった。
「うわああああああああああああーーーっ!!」
「ぎゃああああああああああああーーーっ!!」
里の方から、人のものとは思えない、断末魔が聞こえてきた。
「何だ!?今の悲鳴は!?」
「これは、ただごとじゃないね・・・!」
「・・・匂うぜ。ものすごく、胸がムカつく、嫌な気配を感じる。この先に、とてつもなくデカくてヤバい、何かがいる!」
大アネキが珍しく、冷や汗を流すほどに緊張していた。
オリガや、エルフ軍なんか、比べ物にならないほどにヤバいものが、この先にいる?
「あそこの崖から、里が見渡せますわ!」
アレクシアさんに導かれて、茂みを抜けて、里が見渡せる丘の上にたどり着くと・・・。
「・・・何、これ・・・!?」
「・・・地獄だ・・・!」
「・・・マジかよ!?」
「・・・冗談きついぞ、これは」
僕たちは、目の前に広がる光景に絶句した。
里がかつてあった場所は、完全に崩壊していた。
家という家がなぎ倒されて、無残な瓦礫の山がいくつも出来上がっている。
里の至る所に、ボコボコと悪臭を放つ毒の水たまりが出来ていて、周りの木々が、枯れていた。
そして、里の至る所に、エルフが倒れていた。
遠視の魔法で見ると、みんな、息絶えている・・・。
老人も、子供も、女性も、よほど苦しみ抜いたのか、恐ろしい形相を浮かべたまま、死んでいた。
「・・・もしかして、あれが、原因か?」
大アネキが指さした先を見ると、村の中央付近に、巨大な生物の姿があった。
それは一見、巨大な亀のような姿をした魔物のようにも見えた。
毒々しい紫色の皮膚を持ち、巨大な甲羅の上には、猛毒の胞子をぶちまけている、巨大な木が生えている。さらに、甲羅からは、猛毒の毒液が噴き出して、それが巨大な竜の頭のような形に変わっていく。
-グオオオオオオオオオオオオーーーッ!!ー
ーアレクシアァァァァァァァァーーーッ!!-
うん?
なんだか、雄たけび以外に、誰かが叫んでいるような声も聞こえてきたぞ?
すると、遠視の魔法で、怪物のことを観察していた、アレクシアさんの身体が、ぷるぷると震えていた。
全身からは、さっき、大アネキたちを叱っていた時とは、比べ物にならないほどの、呼吸が止まりそうになるほどの殺気と威圧を放っていた。
「・・・あらあらまあまあ、予想はしていましたが、やっぱり、アイツでしたか」
ギリリ・・・と歯を食いしばる音が聞こえてくる。
笑顔を浮かべていますけど、もう、完全に目が笑っておりません。
血管がいくつも浮かんでいて、これはもう手遅れであることが分かった。
「おい、あの亀のバケモンの背中にいるのって、もしかして、オリガじゃねえか!?」
「愚かですねえ。どうしてこんなことになったのかは分かりませんが、何百年も守り続けてきた、エルフの里を、まさか、里長の手で壊滅させてしまうなんてねえ・・・!!」
よく見ると、里長と呼ばれている女性のエルフが、大木に下半身を完全に飲み込まれている姿があった。身体の色も黒く染まり、目は狂気を感じさせる、真っ赤な色に変わっていた。
「しかも、あのバカ、よりによって、禁書を身体の中に取り込んでしまっていますわ!もはや、オリガの人格は完全に失われていて、禁書から解放されてしまった魔物に、乗っ取られている状態ですわ!」
マジですか!?
里長、とうとうそんなヤバいものにまで、手を出したの!?
禁書の中に封印されていた魔物って、ユキちゃんの時と同じ、いや、それ以上にヤバいヤツだってことは、この魔力の強さからもハッキリと分かった。
「・・・それも、彼女だけではありませんわ。あれは、おそらく、里を守護すると言われている、伝説の守護竜、セルヴァンスの像と一体化していますわ。里を守り続けてきた、竜神の力を、このような邪悪な代物に変えてしまうなんて・・・!!」
「・・・つまり、これって、相当ピンチってことだよな?」
こんなものが、スピタルに攻め込んで来たら、とんでもないことになる!
もうここで泣いても笑っても、とにかく、あのデカい亀の怪物を倒すしかない!!
この時点で、松本千鶴が、勇者の中で一番、最悪なことをやらかしました。
(エルフの里のエルフを皆殺しにする原因を作り出した)
そして、これに関しても「もう、エルフの人たちが苦しんだり、悲しんだりすることはないから、救われたってことでいいよね?」ということで、納得している状態です。
彼女については、皆様にご満足できるような、最大級のざまぁを、現在考えております!
次回は、第三章のラスボス「邪竜セルヴァンス」との、対決になります!
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!!
次回もよろしくお願いいたします。




