第十四話「桜の告白~鬼姫と極道~」
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テントの中の空気は、まるで、お通夜のように、静まり返っていた。
桜は、一旦拘束して、落ち着いてから事情を聴くことにした。
仁美たちを失い、取り乱していたが、やがて、もう泣く気力も失った桜は、大人しく投降した。
現在は、ビビアナが作った魔力が込められた手錠をかけられて、離れの部屋に、幽閉されている。
逃走防止・・・というよりは、このままでは、桜がショックのあまりに、自らの命を絶ってしまう可能性があったため、それを阻止するために、手錠をかけて、鍵のついた部屋に幽閉して、監視することにした。
ヒュドラの騒ぎの顛末を、報告書に書き上げると、アイリスは、転移魔法で、ベアトリクスに送った。
「・・・しかし、やり切れないな」
「まあ、ここで、私たちが、ふさぎ込んでも、仕方ないでしょ。それよりも、これから、どうするつもりよ」
「・・・とりあえず、ヒュドラを討伐したことを、ベアトリクス様に報告書を送った。それから、どう動くかについては、指示を待つしかないだろうな」
「これが、エルフだけだったら、今すぐにでも乗り込んで、連中をボッコボコにしてやるんだけど、邪眼一族や、クロスの勇者まで、エルフと手を組んでいたとはな。下手に動くと、さすがに、ヤバいか」
「・・・・・・エルフ側の戦力に関する情報が、まだ、足りない」
「それが分かれば、手を打てるんだけどねえ」
正直、手詰まりの状態だった。
いつになく、慎重に物事を考えているのは、邪眼一族の【渾沌】の能力を直接味わい、相当の手練れであることを思い知らされたからである。いつものように、出たとこ勝負で勝てる相手ではない。
そして、とりあえず、今日はゆっくりと休んで、体力を回復させておこうということで、お開きになった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
【斗真視点】
みんなが、自分のテントに戻っていくのを確認すると、僕は、こっそりと、部屋から抜け出した。
足音を立てないように気を付けて、僕は、桜がいる部屋の扉に近づいて、誰もいないことを確認すると、ノックした。
『・・・・・・誰?』
「・・・僕だけど、いい?」
『・・・・・・』
返事は帰ってこなかったけど、拒否しなかったと勝手に納得して、僕は部屋に入った。
桜は、両手に手枷を嵌められた状態で、壁に背中をもたれて、床に座っていた。
顔の左半分が、包帯で覆われていた。
あの後、アレクシアさんが治療したけど・・・桜の左目は、完全に、なくなってしまった。
魂が抜けてしまったように、焦点の合わない瞳で、どこを見ているというわけでもなく、桜は虚ろな表情を浮かべていた。
「・・・ここ、座っても、いい?」
そういって、僕は、桜の隣に、少しだけ距離を置いて、床に座った。
「・・・斗真・・・」
「・・・何?」
「・・・お前に・・・ひどいことをして・・・本当に・・・悪かった・・・」
「・・・本当に、ひどいことをされたよね。でも、今、こうして生きているんだから・・・死ななくて、ざまあみろってことで、もう、いいよ」
正直、これが、桜に対する本心だった。
雨野と千鶴のことは絶対に許さない。
千鶴に至っては、自分がやったことは、あくまでも正しいと言い切っているのだから。
でも、もう、桜に対する怒りや恨みは・・・正直、なくなっていた。
追放されたときには、ものすごく腹が立った。
すごく怖かったし、どうして、僕がこんな目に遭わなくちゃいけないのかと思うと、悔しくて仕方がなかった。
しかし、桜が、ずっと仲間を守るために、鳳たちから監視されて、セルマやクロスの王族たちからは脅されて、そんな中で、必死になって戦い続けていたことを知り、もし、僕が桜の立場に置かれたら、どうしていただろうかと思うと・・・もう、これ以上、恨んでも仕方がないと思ってしまう。
「・・・ざまあみろ、か。・・・殺されかけたっていうのに、それで、いいのかよ」
「いいの。ていうか、これ以上、桜のことを恨んだり、怒っていても、僕が疲れるだけだもん」
「・・・そう」
「・・・少し、飲む?」
そういって、僕は、氷で冷やした、ぶどうジュースを、グラスに入れて、差し出した。
桜は、グラスを取ると、ゆっくりと・・・味わうように、赤紫色のジュースを一口飲んだ。
「・・・美味しい」
「うん、僕も、好きなんだ」
「・・・ジュースで、喜ぶあたりが、まだまだ子供だよねぇ、梶っちは」
「いいだろ、別に」
しばらく、ジュースをちびりちびりと飲みながら、無言が続く。
月明かりが差し込んで、暗い室内を、神秘的な銀色の光で照らす。
「・・・少しだけ、話しても、いいか?」
「・・・いいよ」
一息ついて、桜は、静かに話し始めた。
実家が、全国に名が知られている武闘派の指定暴力団「龍桜会」であること。
桜は、会長の実の父親と、父親が浮気した女性との間に生まれた子供であること。
母親が幼い頃に病死して、父親に引き取られたが、実の家族でないことから、家庭内でも浮いた存在であったこと。
「・・・別に、望んで、ヤクザの子供に生まれてきたわけじゃないんだけどな。引き取った親父もよそよそしいし、まともに顔を合わせることもしてくれなかった。金さえ出せば、親としての責任を果たせているつもりだったみたい。まあ、そう思わないと、やってられなかったのかもしれないけどね」
「・・・そんな」
「・・・学校に行けば、ヤクザの子供ってことで、同級生からはイジメられるし、保護者や教師からは、冷たい目で見られるし・・・どこにも居場所なんてなかった」
居場所がないなら、自分で、居場所を作るしかない。
自分の存在意義を、誰かに認めてもらうためには、何でもいいから、やるしかない。
「母親似の、この女みたいな顔や、金髪をいじられることが多かったから、逆にそれを利用して、女装ネタで笑いを取ったり、コスプレのバイトで、荒稼ぎしたりしてさ。自分のコンプレックスだろうと、全部利用して、自分という存在を誰かに認めてもらいたいって、必死になっていたよ」
「・・・女装、本当は嫌いだったの?」
「分からない。最初は、抵抗があったけど、みんなから注目されるようになったときには、正直、嬉しかったかな。でも、親父に言われたんだ」
『そんな恥ずかしい、家の恥になるようなことは、二度とするな』
「・・・散々、人のことを放っておいて、今更、我が家の看板に泥を塗るつもりかとか、家の恥になるようなことはするなって、言い出してきてさ。そんな親父を黙らせるためには、金の力が最も効果的だった。金を稼ぐ方法を必死で勉強して、デイトレードや、先物取引、株の売買に、資産運用・・・、とにかく、ギリギリ犯罪にならないものにも手を出して、それが、全部上手くいっちまってさ・・・。気が付いたら、オレが、組の資金を稼ぐ資金源になっていた」
桜は、深くため息をついた。
「・・・そんなことよりも、一回でいいから、よくやったって、褒めてほしかった。テストで100点を取っても、運動会の徒競走で1位になっても、親父はオレの話なんて・・・一回も聞いてくれなかった。オレのことを見ると、オレを産んだせいで、元々病弱だった母親の持病が悪化して、死んじまったことを思い出しちまうんだって。オレのことが・・・母親を奪った存在として、どうしても、受け入れられないんだと」
世間体のため、それだけで、桜を引き取ったに過ぎなかったらしい。
実の父親からも、愛情というものを一切注がれた記憶がないという。
金儲けだろうと、女装だろうと、とにかく、何でもいいから、自分に興味を持ってほしかった。
しかし、いくら頑張っても、もう、父親とは分かり合えないと悟り、諦めてしまった。
「・・・そんな時に、アイツらと、出会ったんだ」
「和田さんたちのこと・・・?」
「ああ」
桜は、ポケットから、シルバーアクセサリーを取り出して、泣きそうになるのをぐっとこらえて、話し始めた。
和田さんたちは、小学生の時に、桜と唯一仲良くしてくれていた、幼なじみだった。
「・・・オレなんかとつるんでいても、いいことなんて、ないのにさ。周りから、白い目で見られても、アイツらだけは、いつもバカみたいに笑って、オレにくっついてきたんだ」
しかし、彼女たちの両親は、そろいもそろって、どうしようもない人間だったらしい。
「・・・競馬や競艇、とにかく、ギャンブルに目がなくてさ。返しきれない借金を作っても、それでも、やめられずに、色々なとこから金借りまくっちまって、とうとう、オレの組の金融会社から借りちまった。それで、首が回らなくなって、自分の娘を売り飛ばしてきたんだ」
「そんな・・・ひどい・・・!」
「極道の世界じゃ、そういう場面に出くわすことは珍しくないさ。自業自得で、人生を破滅するバカならまだしも、両親がどうしようもないせいで、何も悪いことをしていないアイツらの人生が、これで落ちるところまで落ちてしまうのは、どうしても、納得できなかった」
借金の肩として、どうしようか、困り果てていた組員から相談を受けた桜は、その場で、彼女たちの借金を・・・全て肩代わりすることを選んだ。
その分、彼女たちには、桜が一人暮らししているマンションで、身の回りの世話をしてくれることを条件に、自分の家で保護することにした。
「・・・借金を返す分、うちで、家政婦として働かせると言えば、親父や幹部も納得してくれたし、万が一、アイツらのバカ親が戻ってきて、アイツらを連れ戻そうとするかもしれないからな。それに、まだ、中坊のアイツらを、路頭に迷わせるわけにもいかなかったからさ」
「・・・どうして・・・そこまで・・・」
「・・・オレは、父親からも、母親からも、愛情ってものを感じたことは、一度もない。いくら求めても、それは、もう手に入らないものなんだって、諦めていた。唯一、オレの心を救ってくれたのが、アイツらだったんだ。いつもバカなことばかりやって、人のことを振り回して、親からも、学校からも、腫れものを扱うように思われていても、全然気にしていないふりをしてさ。ずっと、オレを、助けてくれていたんだ」
その時、僕は、和田さんたちの最期を思い出した。
もうすぐ、自分が死ぬということが分かっているのに、彼女たちは、最後まで、桜のことを気にかけていた。桜のことを許してほしいと、僕に、謝ってきた。命乞いもせず、桜に対する恨み言も言わず、ひたすら、桜のことを心配していた。
それに、両親から愛情を受けたことがないことも・・・。
この異世界に来て、初めて、心を許せる大事な人たちに出会えたことも・・・。
その存在に、どれだけ、心が救われたことも・・・。
僕にも、分かる。
僕も、そういう思いを、味わってきたから。
だから、大アネキたちが、かけがえのない存在として思っているから。
もし、僕が桜の立場だったら・・・。
きっと、どんなことをしてでも、守るだろう。
「・・・この異世界に来て、アイツらが、魔人に改造されて・・・クロスの連中が、アイツらを利用するつもりでいることは・・・分かっていたはずなのに・・・それなのに・・・!!」
ドンッ!!
桜は、握りこぶしを震わせて、床を殴りつけた。
「・・・桜!」
「どうして、オレは、一瞬でも、アイツらから、目を離しちまったんだ・・・!」
大粒の涙が、右目から、あふれ出した。
「オレが・・・もっと・・・気を付けていれば・・・!もっと・・・千鶴のことも・・・疑っていれば・・・!どんなことがあっても、オレも、ついていけば・・・!!」
顔を手で覆い、桜は身体を震わせて、腹の奥から絞り出すような声で・・・言った。
「・・・アイツらを・・・死なせずに・・・済んだのかもしれねえのによ・・・!」
「・・・桜」
身体を震わせて、泣きじゃくる桜に、かける言葉が、思い付かなかった。
ずっと、仲間を守ろうとしていた。
でも、そんな、桜の仲間を強く思う気持ちを、千鶴たちは利用したんだ。
千鶴と、セルマ、そして、クロス王国やエルフたちに対する怒りが、胸の奥から湧き上がってくる。
(・・・許せない!)
人の命を弄び、人の気持ちを平然と利用して、踏みにじる。
それが、アイツらの正義だと言うなら。
その高くなるだけ高くなった鼻っ柱、粉々にへし折ってやろうじゃないか・・・!
ヒュドラの事件で、桜は、スピタルに投降することを選びました。
捕まる前に、斗真に謝罪し、胸の内を明らかにする桜。
追放系で、追放した人物を許すかどうか、すごく悩みましたが・・・桜のことは、斗真の中では、決着をつけることにしました。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。
次回もよろしくお願いいたします。




