第九話「6人目は癒し系の女医さん!?~笑いながら怒る人って一番ヤバい~」
いつも拙作を読んでいただき、本当にありがとうございます。
今回、6人目の仲間【アレクシア・アッシュクロフト】が登場します!
一癖もふた癖もある人物ですが、どうぞよろしくお願いいたします。
ビビアナの身体に刻まれた【怠惰王ベルフェゴール】と契約した証の【熊】の紋章。
発動させることで、ビビアナは【一定時間眠りにつく】という代償を支払うことによって、強力な魔力を無尽蔵に使用することが出来る。そしてその能力を最大限に利用するためにビビアナが開発したのが【パワードスーツ】であった。
ビビアナの魔力を注ぎ込むことによって、入力された命令を忠実にこなす鉄の騎兵は、アルラウネに狙いを定めて巨大な拳を振り上げて襲い掛かっていく。
容赦なくアルラウネの顔面を潰し、全身から放つ冷気で氷漬けにして、破壊の限りを尽くす。
「無駄ですよ。その程度では、私のアルラウネは倒せません」
木の上で、パワードスーツの一方的な猛攻でアルラウネたちが倒され続けてもなお、渾沌は不敵な笑みを浮かべていた。
そして、その言葉の通り、アルラウネたちは倒されても倒されても、何度でも身体を回復させて立ち上がる。氷漬けにされて砕かれたはずの身体がすぐさまくっついて、元通りになって、ニタァ・・・と不気味な笑みを浮かべてパワードスーツに襲い掛かっていく。
「参ったね。このままじゃビビアナ君の眠りが覚めて、能力が解除されてしまう」
「それなら、どうすればいいんだよ!?」
その時、パワードスーツが揺れて、レベッカの着ていたジャケットについていたフードが、レベッカの頭を覆った。
「・・・え?」
フードで覆われたとき、レベッカの視界が急に鮮明に開けた。
深い霧で覆われていたはずの森の中が、まるで嘘のように、霧が晴れている。
そして、パワードスーツが相手をしているはずの、アルラウネの姿がどこにもいなかった。
「・・・そうか、そういうことだったんだ!!」
「え?どうしたんだい、レベッカ君?」
「ビビアナ、起きろ!アイツの能力の正体が分かったんだ!このままお前が能力を使い続けていたら、相手に魔力を吸収されて、こっちがやられちまう!!」
「ど、どういうことだい!?」
「お前もジャケットのフードを被って見ろ!これを被ると、霧が晴れて、森の中が見えるようになったんだよ!」
ヴィルヘルミーナも言われたとおりにフードを被ると、パワードスーツはさっきから殴りつけているはずのアルラウネの姿がどこにもなかった。パワードスーツが一人で暴れているようにしか見えない。さらにはビビアナから放たれていた魔力が粒子になって、渾沌の薙刀に吸い寄せられていた。
「そうか、これは幻術だったのか!」
「ああ、実体を持っている幻覚なんて聞いたことがねえけど、間違いなさそうだぜ。トーマのこのジャケット、フードを被ると【幻覚を見破る】効果があったんだな。言ってくれればいいのによ!」
「・・・もしかすると、トーマ君もそんな効果があることを知らなかったのかもしれないね。あの子がそういった効果をボクたちに隠す理由がないし。状態異常に特化した防具を作っていたつもりだったんだろうけど、聖霊石をいくつも組み合わせたことで、まやかしを見破る【心眼】の効果を引き出すものを生み出したんだろうね。・・・これは嬉しい誤算だね」
「・・・ああ、アイツ自己評価が低すぎるもんな。毒や麻痺を自動的に回復できるように設定して作り上げることばかりに専念して、それ以上の効果をもたらすということに思い至らないのかもしれない」
「そういうところがナイーブというか、繊細なんだよねぇ」
「とにかく、ビビ、起きろ!ああもう、こうなったら・・・おい、ビビアナ!目の前でトーマがスケスケのキャミソールを着て、ベッドの上でお前を誘惑しているぞ!」
「・・・・・・開眼!!」
ビビアナの目がかっと開かれて、意識を瞬時に取り戻した。
鼻息を荒くして、きょろきょろと血走った目で見まわしている。
「どこ?どこ!?私のトーマはどこ!?ついにこの時を迎える日が来た!さあ、私と子作りを!!」
「悪い、ウソだ。とにかく、今は一旦、魔力を止めるんだ!ヴィルヘルミーナ、行けるか?」
「オッケー、派手にやろうか!」
「・・・・・・あのバカ団長に、騙された、だと?」
騙されたことにショックを受けて、ジト目でレベッカを睨みつけてくるビビアナ。
そんなことにも目もくれず、レベッカがヴィルヘルミーナに指示を出すと、彼女はパワードスーツから飛び出した。
「さてと、とりあえずこの鬱陶しい霧を、吹き飛ばすかな」
ヴィルヘルミーナの胸の谷間に刻まれた【山羊】の紋章が、紫色の光を放つ。
カットラスに紫色の風が集まり、刃の周りで渦を巻きだした。
「・・・何をするつもりですか?」
「黒風白雨,風魔法、竜巻の舞曲!!」
カットラスを全力で振るうと、凄まじい勢いで風が集まり出して、見る見る巨大な竜巻へと変わっていく。アルラウネや霧を吹き飛ばし、木々を薙ぎ払い、全てを飲み込んでいく。
天に向かって昇っていく巨大な竜巻は、まるで竜が天に還るようにも見えた。
「私の術を見破ったというのですか。なかなかやりますわね。では、ちょっとだけ私も本気を出しましょうか。-うん?」
渾沌が薙刀を手に持って飛び出そうとすると、彼女の動きが急に止まった。
こめかみに人差し指を当てて、瞳を閉じる。
(窮奇将軍、今は取り込んでいるのですが、何事ですか?)
(バッカ、お前、それどころじゃねーよ!あのクソエルフどもが、お前が探している禁書を使って【霊竜セルヴァンス】を復活させようとしていやがる!お前との約束を反故にしやがったんだよ!セルヴァンスの禁忌の呪術をかけて、セルヴァンスを従えて、シャルトリューズの森の全てを支配するつもりだ!)
(・・・それは、間違いないのですか!?)
(ああ、あのエルフたちがお前との交渉に大人しく応じるはずがねえと思って、気になって、探りを入れてみたのさ。ヤバいぞ、あれが復活したら被害はシャルトリューズの森だけじゃすまねえ!【ハイドラ】を渡す代わりに、邪眼一族に加えてほしいなんて言っておきながら、お前ごと潰して禁書もセルヴァンスも横取りするつもりだ!)
(・・・ヴェロニカ様の顔に泥を塗るようなことなど、あってはなりませんわね)
舌打ちをすると、目の前まで迫ってきていたヴィルヘルミーナがカットラスを振り上げていた。
刃の動きを見切って、軌道をわずかにそらしてから、彼女の右腕が熊のように毛深く、鋭い爪を生やしたものに変わった。
「今日はいったん引き下がりましょう。ですが、これ以上、この森に関わろうとするのはお勧めできませんわ。どうぞお引き取り願いましょう」
そういって、彼女の勢いを利用して、腹部に強烈な一撃を叩きつけた。
「ぐっ・・・!」
「それでは、ごきげんよう」
そういって、渾沌は巨大な水柱を噴き上げて、姿を消した。
強烈な一撃を受けるも、ヴィルヘルミーナは身体を回転させて、無事着地する。
「・・・トーマ君のジャケットがなかったら、間違いなく内臓がやられていたかもね」
ジャケットには傷一つついておらず、ヴィルヘルミーナも強く腹部を押し付けられてショックを感じたが、痛みはなかった。ジャケットを脱ぐと、腹部には傷一つついていない。
「おい、アイツ、どうしたんだよ?」
「なんだか、血相を変えて逃げて行ったね。何かあったのかもしれない」
「・・・・・・団長に騙された。あんなバカに騙された。もう私は猿以下だ。鬱だ、×のう」
ビビアナが膝を抱えて座り込み、地面に指でへのへのもへじを書きながら落ち込んでいた。
「・・・とりあえず、まずはトーマたちと合流した方がいいか」
「そうだね」
転移魔法陣を開き、レベッカたちは斗真たちと合流することにした。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「やはり、普段の行いは大事だな。私のように品行方正で真面目に生きていれば、こういう風にいいことがあるんだ」
「アンタのどこが品行方正で真面目なのよ。トーマが絡むとすぐに暴走するくせに」
さて、レベッカさんたちと分かれて付近の探索を始めたけど、油断をしているとすぐに迷ってしまいそうな深い霧が立ち込めているなぁ。アイリスお姉ちゃんとグリゼルダさんから離れないように気をつけないと。
「この先に、サクラがいるわ。影を追っていきましょう」
グリゼルダさんが自分の影の一部を切り離して、桜がいる方向を探知して、僕たちを案内してくれることになった。
「気をつけろ。この先には毒の沼があるからな。いくらトーマのジャケットがあるから大丈夫と言っても、万が一の事態にも注意をしておいたほうがいい」
そうして歩いていると、木々が大きく開けた場所についた。
すると、霧の中から、ぼうっとオレンジ色の淡い光を放つものが目の前に現れた。
目を凝らしてよく見ると・・・。
「・・・これは!」
「・・・アレクシア!?」
オレンジ色の六角柱の宝石が地面に深く突き刺さっており、一人の女性が目を閉じて、宝石の中に閉じ込められていた。
太陽のように優しく、明るく照らすようなオレンジ色のウェーブがかかったロングヘアー。
尖った耳には茶色のつやつやとした毛が生えており、右耳だけにカフスを入れている。
たわわに実った豊満な乳房がこれでもかと主張するような、オレンジ色の服の上から、医者の白衣を思わせる白いコートを着込んでいた。
わずかにめくれて見えた右腹部にはオレンジ色の【豚】の紋章が刻み込まれている。
「この人が、アレクシアさんですか?」
「ああ、間違いない。トーマ、頼む」
「はい!」
僕は魔力を掌に集中させて、魔石に触れた。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
オレンジ色で塗り尽くされた世界。
オレンジ色の鎖や帯で張り巡らされた世界を進んでいくと、奥に大きな扉が見えた。
オレンジ色の鎖でがんじがらめに縛られていて、錠前がかかっていた。
この扉の奥に、アレクシアさんがいるのか。どんな人なんだろう?
「・・・あの、すみません」
僕が声をかけようとした、その時だった。
『・・・うふふふふふふ、あのおバカさんたち、よくもまあやってくれましたわね。あれほど、人の魔導書や転移魔法陣に落書きやイタズラはしないでって何度も言っているのに・・・。ここから出たら・・・覚えていなさいね。絶対、ぜったい、ぜーったいに、許しませんからね~?団長、オリヴィアちゃん、ビビちゃん、ミーナちゃん、グリちゃん、そしてアイリス。全員・・・お・し・お・き・か・く・て・い・ですわね。うふふふふふふふふ・・・♥』
あの、すみません。
僕、帰ってもいいですか?
この部屋の中にいるのは、悪魔ですか?鬼ですか?
扉の中から、隠し切れないほどの怒りのオーラが漂っているんですけど!?
『・・・あら?こんなところにやってこられるなんて、珍しいお客様ですわね?』
「あ、あの、アレクシア・アッシュクロフトさんですか?僕は・・・」
『・・・カジ・トーマ君?あらあらまあまあ、こんなに可愛らしいのに、男の子なんですねえ?これはこれはどうも初めまして。わたくし、アレクシア・アッシュクロフトといいますわ』
え?どうして、僕のことを知っているの?
『ああ、驚かせてしまいましたか?わたくし、少々疑り深くて面倒くさい性格でして。初対面の相手には、ついステータスを覗いてしまいますの。ぶしつけなことをしてしまい、申し訳ございません』
「あ、いえ、そりゃこんな状態にあっていれば、ここにやってくる人を疑うのは仕方がないですよ」
普通の方法では絶対に来られないもんな。
『それで、もしかすると、わたくしをここから出してくれるのですか?』
「あ、はい。そのつもりで来たんですが」
『それは助かりましたわ♥どうか、開けてくださいませんか?短いようで長かったわ、この300年・・・。やっと、娑婆の空気が吸えるかと思うと、嬉しいですわ。その近くに、他の仲間たちもいらっしゃるのでしょう?』
「はい、アイリスさんとグリゼルダさんがいます」
『・・・そう、それではまず、あの二人に、どうして私たちが離れ離れに転送されなくちゃいけなかったのか、300年間も閉じ込められなくちゃいけなかったのか、聞き出さないといけませんわねぇ。うふふふふふふ・・・』
い、一体、何があったんですか!?何をやらかしたんですか、あの人たちは!?
レベッカたちに対して、並々ならない恨みと怒りを持っている回復術士・アレクシア。
彼女の怒りの原因は、次回で明らかになります。彼女は個性的な面々が揃っている傭兵団を裏でまとめる、裏番長のような存在として仲間たちからは恐れられています。しかし、普段はおっとり、のんびりとした癒し系の笑顔を常に浮かべているお姉さんです。
ここまで読んでくださって、ありがとうございます!!




