第七話「桜の決意~斗真の選択~」
いつも拙作を読んでいただき、本当にありがとうございます。
新作が完成しましたので、投稿いたします。
どうぞよろしくお願いいたします。
【桜視点】
樹木が現実のものとは思えないほどに、淡い影のようにしか見えないぼんやりとした藤色の霧が視界を覆い尽くしている。神経を研ぎ澄ませて、自分が歩いてきた道に細かく印を刻んで迷わないように注意を払う。
この森の中に迷い込んで、どれほどの長い時間が経っただろうか?
方向感覚を失い、風の魔法で人、もしくはこの森に住んでいる亜人種やエルフ、とにかく話が通じる知能の持つ生物の気配を探知する風を周囲に張って、気配を感じる方向に向かってオレは歩き続ける。
制服には飛び散った血液がこびりつき、パーカーもボロボロに破られていて今の姿はまるで大勢の男たちに犯されたような姿になった自分を見て苦笑する。ポーションの入った小瓶を飲み干して、申し訳ないがそこらへんに投げ捨てた。これで残りはあと6本。これが尽きたときは、オレ自身の生命力と図太さ、悪運の強さに命を懸けるしかない。
息を吸おうとすると、胸に鈍い痛みを感じる。
ヤバい、マジで肋骨が何本かイッたかもしれねえ。
そして身体中に腫れあがった打撲の傷がズキズキと熱を帯びて、気が狂いそうな痛みを発している。
まあ、痛みを感じているってことはまだ生きているってことだよな。
自分自身でも頭がおかしくなったとしか思えないような言葉を自身に言い聞かせて、オレは気配を追って歩き続ける。
歩いていくと、道端に何かが倒れているのが見えた。
近づくと、地面には巨大な戦車が走り去っていったような太くて大きなものが引きずったような跡があり、森の奥に続いている。そして、地面には紫色の泡立つ液体にまみれて白骨化した哀れな骸が3体転がっていた。
ここで戦ったのだろうか。
半径30メートルの範囲内にある大木という大木はへし折られてなぎ倒されている。さらにそこら中に毒液が飛び散ったせいか、目に染みるような悪臭が漂っている。その毒液を浴びた植物は枯れ果てており、地面もドロドロに溶けて紫色に濁った毒の小さな水たまりが出来上がっている。
(・・・これで、20人以上か。くそっ、これ以上犠牲者を増やすわけにはいかねえ・・・!!)
舌打ちして、犠牲になった骸たちに手を合わせると風が運んできた匂いがさらに濃く感じて、オレは立ち上がった。
近い。
ここからそう離れていない場所に、アイツらがいる。
痛みを訴え続ける身体に鞭を討つようにして、オレはジオドライバーに【ワイバーン】のミニチュアを装填すると、相手に気配を悟られないように、自分自身の周りに風の渦を纏って気配や体臭を完全に遮断させてから、茂みの中に飛び込んで奥に進んでいく。
茂みが開けて、小道を進んでいく。
轍のように地面を引きずっている巨大な跡を追いかけていき、オレの耳にはさらさらと流れる水の音が聞こえてきた。甘くて爽やかな水の匂いがする。これはきっと、森を縦断するように流れている川だろう。
そして、水の匂いに混じって漂ってくる、むせ返るような甘ったるくてドロドロとする、防毒効果のある風の魔法でも防ぎきれないほどに刺激的な猛毒の匂いが鼻につく。
-グオオオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!-
暗がりからまるで亡霊のように、巨大な影が現れて耳まで裂けた大きな口を開き、辺り一面の空気を震わせるほどの凄まじい咆哮を上げる。ぬっと、オレの目の前に、血走った獰猛な目玉が6つ爛々と輝きながら現れた。そして、霧が晴れると、オレの10メートルほど先には巨大な3つの首を持つ蛇のような化け物がいた。
ワニのような無数の牙を生やして、頭部と首を燃えるような赤色の強固な表皮で覆い尽くしている首はオレに今すぐにでも喰らいつかんと涎を垂れ流している。
「・・・仁美・・・!!」
そして、カメレオンを思わせる大きな目をギョロギョロとせわしなく回しながら、口から長い舌を垂らして、こっちの動きをじっと睨んで動きを探っている青色のぬるぬるとした表皮に覆われている首と目が合った。
「・・・麗音・・・!!」
さらに、まるでオレのことをからかうように耳元まで裂けている口をカタカタと鳴らして、赤くて細く長い舌をチロチロと見せつけてくる、黄色い表皮で覆われているヤモリのような頭部を持つ首がせわしなく動いている。
「・・・忍・・・!!」
どうしてこうなっちまったんだろうな。
だけど、もうこれ以上そんなことを言っていても、何も変わりやしない。
お前たちが魔物に作り変えられて、森に迷い込んだ人間を手にかけちまったことも。
オレのことさえも分からなくなって、襲い掛かってきたことも。
もう、オレの声さえも、アイツらにとっては美味しそうな獲物が泣きながら許しを乞うている鳴き声にしか聞こえないのだろう。
「・・・あの程度の攻撃で、オレが倒せるとでも思っているのかよ。ナメてンじゃねえよ」
お前たちのリーダーがそう簡単にくたばるわけがないだろう?
お前たちを止めるまでは、何度攻撃されても、手足を食いちぎられても、骨が何本折れても、オレは何度でも立ち上がって・・・何度でも前に立ちはだかってやるよ。
「・・・お前たちはオレが止める。・・・オレの命を懸けてでも、なぁぁぁっ!!変身!!」
これ以上、アイツらが人を襲ってしまう前にオレが止めてみせる。
もう、オレのことさえも分からなくなっちまっているのなら、オレの手でコイツらに引導を渡さなけりゃいけない。
他の誰に任せられるんだよ。
コイツらを拾った時に、オレがコイツらに約束したんじゃないか。
「・・・最期まで面倒を見てやるよ。オレも一緒に・・・逝ってやる」
どうしようもないクズなオレだけど、一度交わした約束だけは何があっても最後まで守りたい。
斗真、これがオレのけじめだ。
お前はどうか、クロス王国の連中から逃げきって、あの人たちとどうか幸せになってくれ・・・!
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
(斗真視点)
鬼島さんからその後の桜の行動について説明がされた。
戦闘向きではない鬼島さんや戦いが苦手なクラスメートたちを守るために、僕を追放した元凶でもあるアイザックや彼の取り巻きで王宮内でも高い地位にいた貴族たちの悪事を突き止めて粛清したこと。
金さえ積めば平気でクロスを裏切り、貴族の権力を利用して鬼島さんたちを利用しようとしていた貴族たちの悪事の証拠を見つけ出して粛清し、土地や財産を没収することによって稼いだ大金を利用して賠償金などを稼いでいたこと。超高額の賠償金を短期間で稼ぎあげる事が出来る金儲けに関しては天才的な桜を王宮が手放すことはないと思い、それを利用して自分たちの仲間に手を出さないように手を打っていたこと。
そりゃそうだよね。桜の機嫌を損ねれば、賠償金を稼いでくれる打ち出の小づちを失うことになるもん。クロス王国が桜を利用していることさえも彼女は手玉に取って逆に利用していたんだ。
「・・・そこまでやって仲間たちを守り続けていたなんて」
「・・・・・・信頼を勝ち取って、その信頼を利用して仲間に危害が及ばないようにしていたのか」
「・・・しかし、セルマにはそれが面白くなかったんだろうねぇ。アイツは自分よりも目立つヤツが大嫌いでねぇ。桜を追放しようとした理由も国王陛下が桜の領地の経営能力が優れていることに目をつけて、桜を抱き込んでクロス王国をさらに繁栄させようと考え出したのさ。その反面、セルマは雁野や鳳の起こした不祥事の責任を国王から叱責されて、王宮魔導師としての地位も危ぶまれるところまで追い込まれたのさ」
「あー、アイツ、そういう嫌な所とか300年前から全然変わってないのな!」
「・・・そんな時に、セルマに松本が近づいてこっそりと手を組んでいたらしいのさ。迂闊だったよ、まさか私も松本が桜を裏切るなんて思いもしなかったさ。でも、前々から松本に関しては何て言うか、情緒不安定な所があると言うか妄想と現実の区別がついていない所があると言うか、不安な所はあったから直接本人にも言ったりはしていたんだよ。その度に分かったとは言っていたけど・・・」
あー、それ、絶対に分かっていないパターンだったってわけか。
なるほどね、そこまでして必死になって守ろうとしていた桜を松本は平気で裏切ったというわけですか。そして、今度のシャルトリューズの森で起きている事件の調査に向かわせて、桜の仲間だった和田さんたちを人体実験で作り変えたヒュドラと戦い合わせて自滅させて葬り去ろうというわけか。
「・・・ていうか、どうして松本が桜を見限るのかが分からないんだよね。松本が言っていた話によると、桜が自分が思い描いていた理想の英雄ではなくなったから幻滅したって言うけど、それ、どういうこと?」
「・・・私も今でもさっぱり訳が分からないのさ。今まで身体を張ってヤバい橋を渡って守り続けてきた桜を、自分の理想の勇者ではなくなったからいらないなんて、いくら考えても納得できない話でねえ」
そりゃそうでしょうよ。
その話を聞いていた大アネキたちも首をかしげて、訳が分からないって言う感じで困惑しているからね!
「・・・アイリス、どういうこと?」
「今回ばかりはお前がバカだからという理由ではない。私にも訳が分からない。そもそも、自分の理想通りの人物などこの世にいるわけがないだろう。理想と現実は違うのだからな。まあ、トーマは私にとっては理想の弟そのものなのだがな。トーマとならば添い遂げて、トーマの子供を今すぐに孕んでもいいと思っているぐらいには本気だ。近●相×ならいつでも受け入れるぞ!」
誰かお医者さんを呼んでください。僕のお姉ちゃんがついに壊れました。
「キンシンソーカンって何だ、グリゼルダ?美味しいのか?」
「団長は一生知らなくていいわ。てか、アンタそんなことを考えていたの!?」
「・・・・・・トーマの処女は、私のものだ!」
「何を言っているんだい、こればかりはボクも譲れないねえ。トーマ君の処女をいただくのは、この変態王子であるボクがふさわしいと思わないかい?」
「・・・アンタも結構濃いというか、ヤバい連中に気に入られたみたいだねえ?」
「・・・ええ、ちょっとばかり頭のねじがブッ飛んでいるみたいでして・・・!」
最初からない、とまで言わない辺りはまだそこまでバカではないと信じたい僕の心からの願いでもある。
「・・・とにかくそれで、桜は和田たちの行方を追って一人で森の中に向かってしまったのさ。国王たちはハニーベルに謝罪に向かっている間に何とか抜けだして、桜の後を追いかけてきたんだよ。アイツ、和田たちがヒュドラに改造されたこと、自我を失って暴走して冒険者たちを手にかけたことを知って、自分の手で和田たちを止めようとしているのさ。・・・もう和田たちが元の人間の姿に戻れなかったら、きっとアイツは和田たちを倒して、自分も・・・死ぬつもりさ」
命を懸けてでも、大切に守ってきた元仲間たちの暴走を止めるつもりでいるらしい。それで自分が命を落とすことになっても、これ以上大好きだった仲間たちに人を襲わせないために身体を張って止めようとしている。
「どうするんだ、レベッカ?」
「・・・うーん、とりあえずオレたちはシャルトリューズの森で起きているこの霧の異変の元凶を突き止めてとっちめることが最優先だけどさ。二手に分かれて依頼を引き受けるって言う手もありだよな」
「ちょっと、まさかコイツの依頼を受けて、トーマの命を狙った奴らを助けるとか言うんじゃないでしょうね?そんなヤツ、勝手に仲間同士で相討ちになればいいわ」
「・・・・・・私も同感」
「まあ、自業自得というか、そもそもそれなら最初からトーマ君を追放なんてしなけりゃよかったわけだしねえ。サクラって言う子には悪いけど、君たちが招いたことだと思って諦めてもらわないとね」
「・・・もし、依頼を受けてくれたら、クロスが裏で何を企んでいるのか、掴んだ情報を全部渡す!!それに、もし、わ、私の身体でよければ・・・いくらでも差し出そう!!どうしても、桜を助けたいんだ!!」
「勝手なことを言うな。トーマが追放されて苦しんでいる間、お前たちはサクラたちの保護を受けて安全が約束された暮らしをのほほんと送っていたのだろうが。今更身内が裏切られて大変なことになったからといって、追放したトーマに縋り付くとは厚かましいにもほどがあるぞ」
みんな、厳しい言葉で鬼島さんを非難してるけど、なぜか、みんな僕のことをずっと見ていた。
・・・ああ、そういうことか。
みんなが思っている本当の狙いが何となく分かったような気がした。
そうだよな。
それなら、僕の答えはもう・・・決まっている。
「いいよ」
「・・・え!?」
「・・・だから、桜を助けに行くの、引き受けるって言ったんだよ」
それが僕の答えだ。
そして、僕の答えを聞いたみんなは、待ってましたと言わんばかりに口元に笑みを浮かべていた。
みんなもかなり性格が悪いよね。でも、そういう抜け目のないところが最強の傭兵団と言われていた理由なのかもしれないと僕は何となくわかるような気がした。
(トーマ、私たちの考えが分かったんだな)
(うん。だってここで依頼を引き受ければ鬼島さんや桜からクロス王国に関する情報も手に入るわけだから、メリットはあるじゃない。それなのに、あれだけ糾弾をするっていうことはおそらく鬼島さん、もしくは桜に対してありがたさとか、こっちの懐の深さをアピールするためだったんでしょう?)
(そういうことさ。なぜなら、ボクたちは一度もサクラを助けにはいかないなんて言ってないだろう?)
(・・・・・・それと、トーマにサクラを助けに行くと言っても、トーマの心の整理がついていなかったらトーマを置いていく必要があったから。でも、その心配は必要なかったみたい)
(・・・あとは、トーマを追放した連中に対する憂さ晴らしでしょう?)
うん、だから思ったんだ。みんなの性格が悪いって。
「よっしゃあ!そうと決まればサクラを助けて、今度の事件を起こしたバカ共をギッタギタにしてやるぜ!!仲間を散々利用して裏切るような最低なことを平気でやるような連中なんざ、絶対に許しておけねえ!!」
・・・いや、大アネキだけが僕たちとは違い、ただ純粋に松本達の悪事がどうしても許せなかったらしく、怒りで顔を真っ赤にして威勢よく拳を掌に叩きつけて気合を入れていた。
「・・・おまえというヤツは、本当にただ単純に思いついたままに行動するのだな」
「・・・裏表がなさすぎるよねえ、レベッカ君は」
「・・・・・・単純明快、まさに単細胞」
「・・・まあそんなバカだからこそ、誰も予想できない方法でこれまで常勝無敗の結果をもたらしてきたのかもしれないわよね」
「お?ひょっとして、オレ、褒められてるの?いやぁ~、どうしたんだよ、皆?オレのことをそんなに褒めても何も出ねえぞ~?ニャハハハ♥」
うん、そうですね・・・。
純白というか、脳筋思考というか、とにかく思ったことや感じたことをそのまま行動に移す貴方が、ものすごくまぶしく輝いているように見えるんです。僕たちは自分自身がどれだけ汚れているのか、思い知らされているだけなんです。貴方が一番いい子だったんですね・・・!
予定は変わったけど、こうなったら全ては情報収集のため、そして、桜を助けてクロスの情報を聞き出すため!!
シャルトリューズの森で起きている事件を解決するためなら、何でもやってみせる!!
次回から、桜の危機を救うべく、【彩虹の戦乙女】が立ち上がります!!
アイリスたちは一見鬼島の願いを無碍に扱うふりをして、裏でいろいろと考えていたようですが、レベッカだけはただ単純に千鶴やセルマが桜を裏切ったことが許せないという理由で立ち上がりました。傭兵団の中でも裏表のない能天気で底抜けにおバカな性格で相手の裏をかくと言うことが根本的に出来ないレベッカですが、そんなお人好しな彼女だからこそアイリスたちから慕われているのです。
一方で桜は、ヒュドラに改造された麗音、忍、仁美に追いつきました。
これ以上の被害が出る前に、命を懸けて仲間だった彼女たちと戦う覚悟を決めた桜。
満身創痍で戦う桜の運命は・・・?
ここまで読んでくださって本当にありがとうございます。
次回もよろしくお願いいたします!




