第六話「戦う理由~鬼島梨香の告白~」
本日二回目の投稿をします。
今回は桜の戦う理由と、斗真が追放されたときの裏の話を書きます。
鬱な展開が多めなので、苦手な方はどうかお気を付け下さいませ。
僕たちはとりあえず鬼島さんの話を聞くために【メランシーアの港町】の近くにある草原にミニテントを設置して、結界を張って彼女から話を聞くことにした。宿屋は他国から訪れた冒険者たちでいっぱいになっていたため、どこにいっても満室だった。
「・・・とりあえず、話を聞かせてもらってもいい?」
「・・・恩に着るよ。とりあえず、まずはこれを見てくれないかい。これは、神谷がいなくなる前に私のスマホに送り付けてきた動画さぁ。もし万が一自分の身に何かあった時に、これだけは持っていて欲しいって言ってきてね。アイツが真剣に頼み込んでくるものだから、私も断り切れなかったのさ」
紅茶が入ったカップをふぅふぅと冷ましながら、鬼島さんは静かに飲みだす。
どうやら僕たちのことを警戒している様子はない。
それだけ、色々と追い詰められているということだろうか。
彼女のざんばらになった髪は、衛兵に自分の姿が見つからないように髪の毛をバッサリと切れば分からなくなると思って、自分で切ったらしい。
「・・・これは、確かクロスの王宮だね」
「・・・私たちがこの世界に召喚されて3日目の夜さ」
スマホの画面に映し出されたのは、クロスの王宮のどこかの部屋だった。
神谷さんが物陰に身を潜めてスマホを持った腕を伸ばして撮影しているみたいだ。
『どういうことだ、テメェ!!もう一度言ってみやがれっ!!』
ガターン!!
椅子を思い切り蹴り飛ばした音とともに、桜のドスの利いた怒声が聞こえてきた。
そして画面には青い顔をして震えあがっている、豪華な服装に身を包んだ金髪の巻き毛とガマガエルのような顔をした身長の低い男が桜に胸倉を掴まれていた。
「・・・コイツはクロスの第三王子だった、アイザック王子さぁ。今はもうこの世にはいないけどねぇ」
その近くでは驚いて腰を抜かしている鳳桐人と、目の前の騒ぎにも興味がなさそうにツンと澄ました顔の雁野美月、腕を組んで仏頂面を浮かべながら椅子に座っている雨野柳太郎の姿があった。
「なるほど、この連中がトーマ君を追放したとかいうバカな勇者たちってわけかい」
「・・・・・・全員ぶち殺したい」
『お、落ち着けって、桜ちゃん!てか、桜ちゃんってそういうキャラだったっけ!?』
『ぶ、無礼者ぉぉぉっ!我を誰だと思っておる!!クロス聖王国第三王子のアイザック・フォン・イステルである・・・ぐぼぉぉぉっ!?』
『・・・梶斗真を見せしめで殺せだと?寝言こくのも大概にしろよ、このバカ王子さんよぉ。クラスメートたちを魔王討伐の任務に一致団結して取り組むために、裏切者はどうなるか見せしめとして斗真を殺すだって?ナメてんのか、ああ・・・?』
『やめておけ、幕ノ内。それ以上、殿下に対する暴挙は勇者として見過ごすことは出来ぬ。それとも、今ここで役立たずの無礼者には退場してもらうことになっても構わんのだぞ?』
『・・・雨野ちゃんよぉ、余計なことは言わない方がいいぜ?今、オレはマジでムカついちまっているんだけどさぁ。まさかお前らも斗真をそんな理由で殺そうとする提案に賛成するとか言わねえよな?』
桜は今までに見たことのない鬼のような形相で、雨野たちを鋭い眼光で睨みつける。
『ひ、ひひひ、いいのかなぁ!?もし吾輩たちに歯向かうと言うのであれば、お前の仲間たちの身体に埋め込まれている魔石をいつでも暴走させて、人間の記憶と心を失わせて完全な魔物に変えてしまうことも出来るのだぞぉ!!ぐひゃひゃひゃ!!そして、そいつらを野に放して冒険者や下級の民を手にかけてしまえば、もはや人間を襲った凶悪な魔物として冒険者たちから討伐対象として目をつけられるであろうな!!お前の下らない意地を張ったせいで、大事な仲間を化け物に変えてしまうことになるのだぞぉ!!ヒャハハハハハハハハハ!!』
『・・・何だと!?』
桜の目が大きく見開かれると、王子と桜の間に割って入った雨野が桜を殴り飛ばした。
バキィッ!!
『かはっ!!』
桜が床に倒れこんで、殴られて赤くなった頬を抑えて血が混じったつばを吐き捨てる。
『幕ノ内、お前が何と言おうとこの計画は覆ることなどない。俺は梶が憎い!八つ裂きにしても足りないぐらいにな。奴が俺の好意を弄んで3年間俺の思いを踏みにじり続けてきたことに対する恨みは、もはやアイツを殺さなくてはこの恨みは晴れることはない!これまではずっと負け続けてきたが、勇者の力が手に入った今なら梶のヤツに俺様の強さを存分に見せつけて、徹底的に痛めつけて地獄に叩き落してやる!!ふははははは!!やはり最後に勝つのは、筋肉なのだ!!』
『あら、雨野くん?私の可愛い獲物の梶くんに手を出すって言うのならば、貴方から先に殺してあげましょうか?梶くんを殺して、彼の命を奪うことによって私は梶くんの全てを手に入れる事が出来るのよ。ああ、想像するだけでたまらないわぁ・・・♥殺したくて殺したくてもう我慢が出来ないのよぉ♥』
『ま、まあ、その、梶にオレは特に恨みとかあるわけじゃねえけど、別にいいんじゃねえ?どうせ裁縫師なんて魔王討伐に役に立つとは思えねえしさ。それに、あんな顔だけは可愛いけど、特にクラスの誰とも仲良かったって言うわけじゃないしさ。クラスメートが一人ぐらい死んだって、特に大したことでもないっしょ!それに、合法的に人殺しをしても許されるなんて、勇者ってマジでスゲーって感じでいいじゃん!』
『・・・お前ら・・・マジで狂ってやがるのか!?そんな理由で梶を殺すっていうのか!?』
「・・・コイツら、そんな理由でトーマを殺そうとしやがったのか!?」
「・・・どうやら私たちが考えていた以上に、クロスの勇者たちの性根は腐り切っていたようだな」
「このサクラっていう子だけは唯一まともというか、トーマ君を殺そうとすることを止めようとしていたってことかい」
「・・・私たちのせいなんだ。私たちが召喚されたときに、魔石を埋め込まれて魔人なんかに改造さえされなければ、桜はこんな奴の言うことなんて聞かなかった。梶をあんな目に遭わせるようなことなんて、絶対にしなかった。アイツはそんなことをするようなヤツじゃない、それは確かなんだ!!」
鬼島さんは涙を流して、必死になって叫んだ。
「・・・だけど、桜はアイザックの言うことを聞かざるを得なかった」
『ブヒャヒャヒャヒャ!これは脅しではないぞぉ。我が王国の王国魔導師たちによる人体実験を受けて、魔石を身体に埋め込まれて拒絶反応を起こして死んでいった奴らの惨めな末路を知っているかね?この通り醜い肉の塊となって、未来永劫自分が誰であったかということさえ思い出せずに、本能のままに人を食らい、襲い続ける哀れな魔物となるのだよっ!!』
アイザックが空中に浮かべたモニターには、見ていた僕たちでさえも思わず目をそむけたくなるほどの惨たらしい映像が映し出された。
どこかの大きな部屋で寝かされているクラスメートの身体に魔石が埋め込まれていく。
そのうちの何人か、身体が倍以上に膨らんで風船のようにはじけ飛んだものがいた。身体中の関節があらぬ方向にねじれていき、そのまま身体がちぎれたもの、10人ほどのクラスメートたちが魔石に耐え切れずに身体を破壊されて命を落とし、生前の面影もない醜い異形の姿となった彼らは徐々に身体が砂のように崩れていき、やがて全身が崩壊して大量の砂となって消滅していった。
『彼らは勇者に選ばれなかった落ちこぼれどもだ。だが、魔石を埋め込んで魔人として生まれ変わることで、お前たちをサポートするための道具として利用されるなら本望であろう?』
『・・・梶にも魔石を埋め込もうとしたけど、なぜか魔石が入らないから結局そのまま放置されたんだったっけな。つまり、魔人にもなることが出来ない正真正銘の落ちこぼれだったってことで、いずれ邪魔になるわけだし、今のうちに殺しておいた方がいいんじゃねえ?』
魔石を埋め込まれなかったのは、勇者のスキルを持っていた鳳、幕ノ内、雨野、松本、雁野、そして・・・なぜか勇者のスキルがないはずの僕だけだったというのだ。
『ふん、例えヤツが勇者であったとしても、俺はアイツの存在を決して認めはしない!!』
『・・・お前ら、自分のクラスメートがこんな目に遭わされているって言うのに、何も感じねえのかよ?お前らの仲間だってあの中にいるんじゃないのかよ!?友達が怪物にされているっていうのに、どうして何も言わねえんだよ!!』
桜が顔を真っ赤にして、鳳たちに向かって怒鳴りつけていた。
しかし、そんな彼に近づいて話しかけてきた松本千鶴の言葉を聞いた瞬間、桜は彼女の言葉に絶句し、表情が凍り付いた。
『・・・世界の平和のためなら仕方ないんじゃないかな。世界を守るためには私たち以外のクラスメートが全員犠牲になったとしてもまだ足りないかもしれないし。それに、勇者に選ばれなかった人たちなんて、正直いなくても私たちだけで世界を救うことは出来ると思うよ。私、間違ったことは、言ってないと思う』
目の前でクラスメートが魔石を埋め込まれて殺されても、顔色一つ変えなかった鳳たち。
ずっと信じてきた彼女が見せた裏の顏。
そして、自分の大切な友達の命が王子やクロス王国に握られているという事実。
「・・・こんな状況で絶望するなって言う方が無理さぁ。桜はそれからずっとアイツらの仲間のふりをして、ずっと私たちを守り続けてくれていたのさ。・・・梶に対してひどいことを言っていたことも、崖に突き落として追放した時も、アイツはずっと・・・後悔していたんだ」
次に映し出されたのは、僕があの日、崖から身を投げた時の映像だった。
僕が崖から飛び降りた後、桜が他の4人に気づかれないように指を鳴らして風を起こしていたのが見えた。
そして、その風が僕の身体を包み込んで、落下速度をゆっくりと緩めていく・・・。
「・・・え?」
あの時、僕が上手く風に乗って崖から生えている木々に着地して、怪我がほとんどなく崖の下まで降りる事が出来たのは。
流れる風に誘われるようにして、あの洞窟を発見することが出来たのは。
そういえば、あの時、どこからか強い風が吹いて・・・。
まるで僕を守ってくれているように、木のところまで流してくれた・・・!!
「・・・桜が風を使って、僕を守ってくれた・・・!?」
『ごめんね~、梶っち。でもさ、あたしたちも無事元の世界に戻りたいわけよ。それにさ、魔王退治をおっぱじめようとしている時に役に立たなさそうなヤツはまず除外っていうのはゲームのお約束ってヤツっしょ?だから、死・ん・で・く・れ・る?』
あんなことを言っていたけど、他の4人が帰ったあとで、桜は一人だけ崖に残っていた。
そして、近くにあった大きな岩を素手で殴りつけた。
ガツンッ・・・!
ガツンッ・・・!
ガツンッ・・・!
何度も、何度も、何度も・・・。
肉が破れて、血が出るまで、激痛に歯を食いしばりながらも、ずっと殴り続けていた。
雨に打たれて、ずぶ濡れになってもずっと桜は一心不乱に自分自身を傷つけ続けている。
『・・・斗真・・・ごめん・・・!!斗真、オレ、最低だ・・・!!ごめん・・・ごめん・・・本当に・・・すまねえ・・・!!う゛わ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛っ!!!』
喉が張り裂けそうな絶叫が頭の中に響き渡る。
そこで映像が切れた。
僕はいつの間にか、目から涙がこぼれ落ちていた。
桜の慟哭はまるで嵐のように、怒りや悲しみ、絶望と言った様々な感情と葛藤が吹き荒れていた。
それから、ずっと僕を殺そうとしたことで、自分のことをずっと責め続けていた。
仲間を守るために、ただそれだけの為に必死で戦い続けていた。
クラスメートに絶望しても、王子に脅されても、信じていた恋人に裏切られても。
それでもずっと、ただひたすら僕や仲間に償い続けるためだけに戦い続けている。
「・・・松本に裏切られても、それでもまだ信じたいと思っていたんだろうね。いつか絶対に自分の間違いに気づいてくれる時が来る。その時が来るまで、絶対に松本の考えを変えてみせるって思っていたのさ。桜にとっては生まれて初めて出来た大事な彼女だったからねぇ。・・・好きだったのさ、本当に。でも、桜のそんな思いを松本は利用したのさ・・・!!」
「・・・確かにトーマに対してやったことは許されねえけどさ。ここまで来ると、何とも言えねえよ」
「・・・そして、松本はついに桜を見限った。そして、アイツは桜にとって大切な仲間を利用して、とんでもない怪物に作り変えちまったのさ。あの森のエルフたちと手を組んで、桜を助けるためだと彼女たちを騙して、彼女たちを魔物に改造しちまったんだ・・・!!」
その話を聞いて、僕はさっき感じた違和感の正体に気づいた。
3つの首を持つヒュドラ。
そして、桜を慕っていた取り巻きの和田さん、神谷さん、矢守さんたち。
彼女たちがそれぞれ持っていた、シルバーのアクセサリーも確か【赤色のワニ】、【青色のカメレオン】、【黄色のヤモリ】だった・・・!!
「・・・まさか、さっきギルドで聞いた、シャルトリューズの森で暴れているヒュドラの正体は・・・!!」
「・・・ああ、松本とエルフたちに人体実験を受けてヒュドラに改造されちまった、和田と矢守と、神谷さぁ・・・!!」
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
最後まで面倒をちゃんと見る。
あの時、手を取った瞬間から自分自身に誓った約束は必ず守り抜く。
「・・・仁美、忍、麗音・・・お前らにこれ以上誰かを傷つけさせるようなことはさせねえよ」
オレの命をかけて、絶対にお前たちのことを止めてやるから。
国に裏切られて、恋人に裏切られて、仲間を失って・・・。
それでも桜はただひたすら償い続けるためだけに戦う。
自分の命が尽きることになったとしても、もう彼は止まらない。
桜の戦う理由、斗真を幾度となく助けてきた理由について書いてみましたがいかがでしたか?
松本のことをもっと早く見限っていれば、こんな最悪の展開を迎えることはなかったかもしれませんが、千鶴が間違っているということに気づいてくれることを信じていたことから、恋人に対して一途で純粋な思いを持っていたからと思っていただけると幸いです。
ここまで読んでくださり、本当にありがとうございます。




