第十八話「古代図書館の戦い②~颶風のワイズマン~」
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「・・・騒がしいな、何事だ?」
突然けたたましい音が立て続けに二回聞こえてきたかと思うと、図書館全体が揺れるほどの衝撃が立て続けに起き、バイロンとイレーネは目を見開いた。
そこへ、扉がバンと開かれて、イエティの衛兵が顔を青くして飛び込んできた。
「し、失礼いたします!敵襲でございます!訳の分からない巨大な魔道具に乗り込んで攻め込んできた賊が3人、そして、クロスの炎の勇者が乗り込んでまいりました!!」
「何だと・・・?この吹雪の中をどうかいくぐってきたというのだ。まあ、いい。イレーネ、君は奥の部屋に隠れていなさい。あそこはちょっとやそっとでは壊れないように頑丈な作りになっている。この聖域に土足で踏み込んできた輩に、丁重にお帰りいただこうか・・・土にな!」
「・・・ご武運をお祈り申し上げますわ、バイロン様!」
衛兵にイレーネの避難を任せると、険しい表情を浮かべてバイロンが外套を身に纏い、部屋を出て行った。
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パワードスーツから下りると、パワードスーツが元の姿に戻り、さらにはミニチュアサイズまで小さくなった。ビビ姉が拾い上げると、腰に巻いているベルトのポケットに放り込んだ。
「・・・・・・魔力出力最大で出したからオーバーヒートしている。しばらく置いておけば自動的に回復する」
「・・・相変わらずムチャクチャだなあ。でも、そんな君の破天荒な所も好きだよ、ハニー♥」
「死ね、色ボケ」
「すみません、ごめんなさい、申し訳ございません、調子に乗り過ぎました、勘弁してください」
ビビ姉が光のない濁った瞳で睨みつけて、中指だけを立ててドスの利いた低い声で脅すと、ヴィルヘルミーナさんは素早く土下座をして謝りまくった。何だろう、敵陣に乗り込んだと言うのにこのコントのようなやり取りは。緊張感というものがかけらもない二人に、僕はある意味この人たち大物なんだなあと妙に感心してしまう。
その時だった。
ドスドスドス、とけたたましい足音を立てて部屋の奥から武装した【ゴブリン】や身体から氷の鋭い棘を無数に生やしているハリネズミの獣人【アイスホッグ】、真っ白な体毛で全身を覆っている雪男のような姿をしている【イエティ】が現れて、僕たちを取り囲んだ。
「侵入者め、覚悟しろ!」
「ここから先は一歩も通さん!!」
「おっと、これはまた派手なお出迎えだねえ」
「・・・・・・あれだけ派手に騒げば駆けつけてくるでしょ、普通」
騒ぎの元凶でもあるビビ姉が他人事のように言う。
「・・・うーん、ビビちゃんは魔力をかなり使っているみたいだし、ここはボクに任せてもらおうかな?」
そういうと、ヴィルヘルミーナさんは左手を開くと一陣の風が吹き、彼女の手には湾曲した美しい銀色の刃を持つ舶刀が握られていた。
そして、彼女の目の色が獰猛で凶暴な【獣】を彷彿させるものに変わった。さっきまでおちゃらけていた彼女とはまるで別人のように、触れるものを全て傷つけるナイフのような鋭い殺気を纏っていた。
「・・・さあ、ボクがお相手しようか。【七人の獣騎士】の切り込み隊長である【颶風のワイズマン】こと【ヴィルヘルミーナ・ワイズマン】がね・・・!」
「や、やっちまえ!」
「女ごときにオレたちが負けるわけが・・・!」
その瞬間だった。
一瞬、ヴィルヘルミーナさんの姿が消えたかと思うと、一陣の風が図書館の中に吹き荒れた。
衛兵たちの間をすり抜けるように、風が吹き、呆気にとられている衛兵たちの後ろにいつの間にかヴィルヘルミーナさんは立っていた。
「・・・ああ、済まないね。口上の途中だったんだろうけど・・・もう、斬っちゃった」
「・・・え?」
そう言った途端、ゴブリンの一体の首と胴体が離れて地面に崩れ落ちた。それに続いて、どんどん衛兵たちの首が胴体からずり落ち、イエティの巨体が袈裟懸けにずり落ち、アイスホッグの身体が上半身と下半身に赤い一閃が迸り、身体がずり落ちていく。
「・・・歌舞音曲、風魔法、疾風の居合」
ゴブリンたちは何が起きたのか分からないまま、首と胴体を切り離されて、身体を真っ二つに斬られて倒れこみ、悲鳴を上げる間もなく絶命した。
「・・・・・・普段はちゃらんぽらんでエロくてウザいけど、剣を扱わせたらその実力は剣聖にも劣らないとも言われている。バフォメット族でも1000年に一人の逸材とまで呼ばれた剣術と暗殺術に特化した才能の持ち主、それがうちの切り込み隊長を任されている【ヴィルヘルミーナ・ワイズマン】の実力」
一瞬、何が起きたのか全く分からなかった。
ヴィルヘルミーナさんの身体が風を纏って消えたかと思うと、すぐさま現れて、そしたら衛兵たちがいつの間にか斬られていて・・・目にも止まらない速さで10体以上もの衛兵たちを瞬殺するなんて・・・。
「こっちだ!!」
「侵入者め、覚悟しろ!!」
部屋の奥からぞろぞろと衛兵が再び押し寄せてきた。すると、今度はビビ姉が眠たそうにあくびをすると、指を鳴らす。
すると、彼女の目の前に彼女の背丈以上の長さを持つ透き通る水色のハンマーが現れて、気だるそうにハンマーを握りしめるとブンブンと振り回す。
「・・・・・・あー、面倒くさい。でも、あの色ボケにこれ以上いいところを見せつけられるって言うのは我慢ならない」
「ビビ姉、僕も・・・!」
「おっと、今のビビちゃんはかなり機嫌が悪いというか、やる気満々だからちょっと後ろに引っ込んでいた方がいいかもよ?」
僕も戦おうとした時、ヴィルヘルミーナさんに止められた。
彼女のハンマーに凍り付くような冷気が集まり出し、彼女の前に鋭くとがった氷の槍が現れた。
「・・・・・・氷姿雪魄・氷魔法・氷結の戦槍」
ハンマーで槍を叩きつけると、槍が縦横無尽に飛び出して変則的な動きでゴブリンたちに襲い掛かっていく。ゴブリンの身体を槍が刺し貫くと、そのまま身体が凍り始めて氷の塊の中へと閉じ込められていく。
「ひっ!?ひぃぃぃっ!?な、なんだよ、これはぁぁぁっ!?」
「たすけっ、て・・・!!」
氷の槍で串刺しにされたゴブリンたちは瞬く間に氷の中に飲み込まれて、大きく目を見開き必死で助けを求めている苦痛に歪んだ表情を浮かべたまま、氷のオブジェと化していく。
「空気中の水分を一瞬で凍結させる冷気を自在に操って、様々な武器や乗り物を瞬時に作り出す【アイスドワーフ】族の中でも最高と謳われるほどの伝説の魔法技師、それが彼女のことさ。この空気中に漂っている水分こそがもうすでに彼女の鉾であり、盾でもあるのだよ」
この空間にある水分の全てをビビ姉は支配し、意のままに操る事が出来る・・・!
僕は改めて、この【七人の獣騎士】の人たちがかつて最凶最悪の名を欲しいままにしている最強の傭兵団であることを実感させられた。
「おーい、トーマ!みんな無事か!?」
「これはまた随分と派手に暴れたものだな」
「レベッカさん!グリゼルダさん!アイリスお姉ちゃん!!」
そこへ、ようやくレベッカさんたちも駆けつけてきた。時間は14分40秒、きっかり15分以内に到着し、合流を果たすことが出来た。
「いや、すまねえ!図書館の中ってまるで迷路みたいでよ、少し迷っちまった!」
「右に行けばまっすぐこのエントランスにたどり着けると言うのに、どうしてお前は左に全速力で行くんだ!この方向オンチは!!」
「・・・というわけで、かなり迷って遅くなったわ」
「アハハハ・・・相変わらず方向オンチだねえ、レベッカ君は」
「おーっ!ヴィルヘルミーナじゃねえか!久しぶりだなっ!!元気にしていたか!?」
「フッ、ついさっきまで宝石の中に閉じ込められていて吹雪に晒されていたけど、この通り、いたって健康体さ。改めて、剣術士【ヴィルヘルミーナ・ワイズマン】無事合流を果たしたよ」
「・・・その様子だと剣術の腕は鈍っていないようだな」
「いや、まだ封印されていて身動きが取れなかった分、少しだけ身体の動きには納得がいかないかな」
「・・・まあ、お前が無事で何よりといったところか」
「んー?アイリス君がそういう風に言ってくれるのは嬉しいねぇ。ついにボクの魅力にメロメロになっちゃったのかな?ボクはいつでも君のそのワガママヴィーナスボディを抱きしめる準備は出来ているよ?さあ、めくるめく熱く蕩けるような百合の世界に旅立とうではないかっ!ボクの愛情を思う存分、君の身体や心にたっぷりと注ぎ込んであげようではないか!!」
「熱く蕩ける体験がしたいというのなら、火山の火口に突き落としてやるが、それでもいいなら付き合ってやろうか」
「そ、それじゃ、ちょっと暑すぎるっていうか、ボク死んじゃうからね!?」
「安心しろ、そういうことは想定の範囲内だ」
「最初からボクのことを殺す前提でやるのっ!?」
「・・・相変わらずバカなんだから。それよりも悪い情報が入ったわ。トーマ、あのミヅキとかいう勇者がこの図書館に来ているわ。どうしてここにやってきたのかは分からないけど、地下でこの図書館の警備をしていた魔物たちが全員殺されていた」
「雁野がここに!?」
「図書館のセキュリティシステムを破壊したり、地下エリアにいた魔物たちは全滅していたぜ。あの女、とんでもねえな。鉢合わせになったら今度こそは逃がすわけにはいかねぇぞ」
「ああ、あんな奴をこれ以上野放しになど出来ん。これ以上の犠牲者を出す前に、ここで決着をつけるしかないだろう」
「・・・分かりました。もう覚悟は出来ています」
ここで雁野と決着をつける。
どちらかが死ぬか、そうでなくちゃこの戦いには決着がつかない。
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「・・・バイロン様、どうかご無事で・・・!!」
衛兵に案内されて、奥にあるバイロンが彼女の為にあてがった研究室兼私室に向かう廊下を歩きながら、イレーネはバイロンの無事を必死で祈っていた。嫌な予感がする。本能に先ほどから訴えてくる危険を警告する信号が止まらない。焦りで精神が支配されて、今にもバイロンの元に駆けつけたい。そんな思いに駆られそうになるのを必死でこらえた。
「こちらでございま・・・ギャアアアアアッ!?」
ザシュッ!!
案内をしていたゴブリンが突然身体から血しぶきを噴き出して、その場に倒れこんだ。床に倒れた遺体は瞬く間に炎が燃え上がって黒い炭の塊に変えていく。
「何事!?」
イレーネが思わず叫んで廊下を見ると、そこにはこの世のものとは思えない地獄のような光景が広がっていた。衛兵たちが八つ裂きにされて、廊下の至る所で腕や足、身体の一部分を切り離されたまま真っ黒な炭の塊になって転がっていたのだ。壁や床には血しぶきが吹きつけていて、腐臭と焦げた肉の匂いが立ち込めている。
その中で、黒髪のロングヘアをなびかせながら、真っ白な肌を持つ美しい顔立ちの女性が炎に包まれている刀を握りしめて立っていた。そして、彼女の瞳がこっちに向けられた時、そのあまりにも恐ろしい眼光の威圧に、イレーネは悲鳴を上げた。
あれは人間じゃない。
人間の姿をした、おぞましい何かだ。
「ひぃっ!?い、いやあああっ!!ば、化け物・・・!!」
「・・・化け物、ですって?私は人間よ?随分なことを言ってくれるじゃない」
「ど、どうして、こんなことを・・・?貴方は誰!?」
「・・・私はね、質問されるのが大嫌いなのよ。イライラするわ」
いうが早いか、彼女は素早く駆け出してイレーネに近づくと彼女の身体を刀で無慈悲に切り裂いた。
嘘よ、こんなこと、嘘に決まっている。
だって、わたくしはバイロン様と結ばれて幸せになるのだから。
こんなところで、死ぬはずがないわ・・・。
イレーネは目を見開き、涙をぽろぽろと流しながらその場に倒れこんだ。
彼女の心臓は鼓動を停止し、生命の源である血液が床に大きくしみとなって広がっていく。
美月はそんな彼女を冷たく見下ろした後、興味がなくなったように歩き去る。
「・・・この程度じゃ満足できないわ。梶くんと早く殺し合いたい・・・!喉がひどく乾くの、貴方の血をすすりたいって。このイライラが続いたら、私、もう誰でもよくなってしまいそうだわ。ああ、イライラするぅ・・・!!」
普段ちゃらんぽらんでスケベでも、やる時にはやるのがヴィルヘルミーナの信条であります。そしてナルシストだけど、意外とメンタルが弱くてビビアナやアイリスに睨まれたら、すぐ土下座で謝罪するヘタレな男装美女はいかがですか?
そしてイレーネ王女があっさりと退場しました。雁野の苛立ちは早くもピークに達しております。彼女との決着、そしてボス戦も力を入れて書きますので、次回もよろしくお願いいたします!




