第九話「桜の怒り~勇者軍side⑦~」
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斗真たちが馬車に乗り込んでフレップに向かう数時間前に時間はさかのぼる。
斗真たちと同じく【ハスカップ】の港町にある宿屋で一泊することになった桜は、机にかじりついて調べ物に没頭していた。机の上にはいくつもの桜が調べ上げたレポートの束が積み上げられていて、アイパッドで新しい情報をチェックしつつも、その情報に関する資料を開いてその情報に信ぴょう性があるかどうか、一つ一つチェックをしている。
「・・・少し、息抜きをしたらどうだ」
「・・・あ、麗音っち。ありがとう」
緑色の髪をリボンでまとめて、一見キツそうな釣り目と豊満な胸、モデルのように抜群のスタイルを持つ凛とした美少女【神谷麗音】がほんわかと湯気を立てるお茶が入ったカップを差し出した。首からはチェーンを通した青色の瞳を持つ【カメレオン】のシルバーアクセサリーをつけている。
「人間だった頃の名前などもう忘れてもいいのだぞ?私はもう化け物なのだからな」
「お前は化け物なんかじゃない。そして、化け物になんか絶対にさせない」
桜は険しい表情を浮かべて麗音を睨みつけると、彼女も「言い過ぎた、すまん」といって口をつぐんだ。
「・・・絶対にあるはずなんだ・・・お前たちを人間に戻す方法が・・・」
「ところで、さっきから何を調べているんだ?」
「ああ、ロニセラを中心に起きている原因不明の吹雪や、魔物が凶暴化する事件が多発しているっていうのはもう知っているだろ?それで気になって、ロニセラのことについて調べていたんだ」
アイパッドを見せると、画面には無数の文字の羅列がカテゴリーごとに分けられて並んでいた。細かい文字や数字が入り混じった文章の列は膨大で、アイパッドをなぞってスクロールしながら読んでいくが、あまりにも多すぎる情報に麗音の目が次第に疲れていき、半分ほどで限界を迎えた。
「・・・何だ、これは?」
「古代図書館ロニセラに収められている蔵書のリストだよ。冥界の猟犬の人たちにこの施設にも小型カメラ型の魔道具を仕掛けてきてもらってさ、何とか確認できただけの蔵書をリストに変換してみていたんだけど、その数はまだ確認できていないものもあるけど、だいたい約4億2300万冊ってところかな」
「よ、4億・・・だと!?」
「うん、収められている蔵書の中には値が付けられないほどの希少価値の高い古書や経典、聖典などもあるんだけどさ、その中に図書館関係者でも閲覧禁止とされている禁書と呼ばれる書物があるんだ」
禁書とは、時の権力者や、宗教的・イデオロギー的な権威によって出版や販売を禁止された書物のことを指すが、この世界においては古の時代に魔法使いが魔力で作り出した強力な魔法や呪術の使い方を記したものや、本の中に強力な力を持つ魔物や邪神と呼ばれる高次の存在を封じ込めた本のことをまとめて【禁書】と呼ばれている。
禁書は高い魔力を持つものであっても、みだりに読んではいけないという厳しい掟が魔術師ギルドから課せられており、その掟を破ったものは魔術師の資格を永久に失い、魔術師ギルドの使者によって【異端者】と見なされて処刑されることになっている。
「その禁書がどうかしたのか?」
「・・・結論から言うと、その禁書が何冊か外に流出している。そのうえ、その禁書の中に封印されていたと思われる魔物が封印から解放されて世界各地で確認されているという目撃情報が報告されていることが分かったよ。つまり、これがどういうことかって言うと、図書館の中に厳重に保管されているはずの禁書がなぜ外に流れてしまったのかってことなんだけどさ・・・」
「・・・まさか、図書館の関係者が禁書を外に持ち出したということか?そして、その魔書や禁書を手に入れたものが封印していた魔物を解放してしまったと言いたいのか?」
「・・・その可能性が高いね。それで嫌な予感がしてさ、【紫の大陸パルフェ・タムール】にある世界有数の交易都市【レザン】で行われている世界最大の闇オークションの競売品を盗み見てみたら、その中にロニセラで保管していたはずの禁書が数点出品されていることが分かった」
魔術師や魔法研究者など魔法の知識を貪欲に追い求め続けている連中からすれば、王族でさえも立ち入る事が出来ない古代図書館の中に収められている魔導書や禁書は喉から手が出るほどに欲しい代物だ。ましてや、本の中に伝説と呼ばれている古代の邪神や魔物が封印されている禁書となれば、どんな手段を使っても手に入れようとするだろう。
「とにかく、出品が確認されている3点だけは何とか買い戻すことが出来たよ。古本をたった3冊買い戻すだけで3億以上もかかるんだもんな、マジで頭が痛いっての・・・」
「さ、3億ゴールドだと!?」
「まあ、そのぐらいの貯金はあったから一括で支払ったけどね。その時、この本を出品してきた人物が誰か心当たりはないかって聞いてみたけど、オークショニアの人たちはそういった情報は一切他人には教えられない決まりになっているんだって。王族の命令でも聞くことは出来ないらしいよ」
しかし、それでも諦めきれず桜は【冥界の猟犬】に頼み、オークションに出品した人物の詳細について調べさせた。その結果、ついにその人物にたどり着くことが出来た。
「黒幕は、古代図書館ロニセラの管理を王から一任されていたカグラの神官【バイロン・フォン・ビショップ】。クロスの第3王女と駆け落ちをして現在行方不明になっている神官だったよ。そいつが古代図書館の禁書を闇のルートを利用して横流ししていたことが判明した」
「・・・そのような人物とイレーネ王女が駆け落ちしたということは、もしかすると、バイロンはイレーネ王女を利用して何かを企んでいるかもしれないということか?」
「まだそこまでは分からない。でも、おそらくこれはバイロンだけの犯行じゃない。魔書や禁書が無くなっていたら必ず図書館の管理を任されていたバイロンが真っ先に疑われる。でも、足がつかないように協力者は何人も用意していただろうね。・・・でも、もうひとつ、気になることが分かった」
桜はアイパッドを操作して、いくつかの禁書をピックアップした一覧を見せた。
「・・・これは、何だ?」
「・・・ここにある本には過去に魔獣や魔物が封印された禁書だよ。そして、聖王国クロスが建国してから300年もの間に、世界各地で発生した魔物の目撃情報や魔物を討伐した勇者たちの活躍の記録を見比べてみるとさ、禁書が流出した時期と、その禁書に封印されていたと思われる魔獣や魔物と同じものが突然現れて、大暴れしている。そして、その騒ぎを聞きつけたクロスの勇者たちが魔物を討伐していく。その功績の積み重ねによって、クロス王国は世界を救う勇者を遣わす救いの国とまで言われるようになった」
「・・・確かに、かつてクロス聖王国を作り上げたのは5人の勇者と呼ばれる英雄たちで、セルマ様もその中の一人だったという話は聞いているが・・・まさか・・・!?」
「・・・あくまでもこれは想像の範囲だけど、300年前に追い詰めた【七人の獣騎士】を倒すのではなく、魔石に封印しようとしていたのもこう考えれば納得できるよね。魔石の中に強力な力を持つ魔物や魔族、もしくはそれに相当する力を持つ能力者を封じ込めた魔石を使った武器を作り出してさらに強力な魔法能力を使えるようになるから。これは梶っちの戦いを見て確信が持てたんだけど、強い魔力を持つ魔物の魔石をアイテムや武器に加工して使用することで、その魔物の能力が使えるようになるのだとしたら、セルマっちは【七人の獣騎士】の全員を魔石に変えて利用することで、何かを成し遂げようとしていた。そして、その時期とほぼ同じころにロニセラから禁書が数冊行方不明になって、その禁書に封じ込められていた魔獣や魔物と同じものが現れるようになった」
そこまで話すと、麗音も桜が何を言いたいのか分かったのか、顔が青くなっていく。
「・・・そしてさらに、ロニセラの管理を任されていたのは代々【ビショップ家】の当主だった。つまりは、もし300年間禁書を横流しするだけじゃなくって、魔物の封印を解き放つように仕向けていたとしたら・・・」
「・・・まさか、クロス聖王国が自分たちが英雄になるために、禁書から魔獣を解放して暴れさせて、それを勇者たちに倒させるように仕向けていたということか?そのために、七人の獣騎士を利用しようとしたり、禁書を裏で横流しさせていたということは、クロスがやっていることは世界を平和にするためなどではなく・・・!」
「・・・クロスが世界を支配するために勇者を利用していたということになるね。そして今回も同じようにオレたちを召喚して、勇者に仕立て上げて何らかの計画に利用しようとしている。それならアイザックのようなヤツがオレたちをなぜ利用しようと思いついたのかも納得できる。元々クロスが勇者としてオレたちを召喚したのは、大量の勇者を召喚して、この世界をいよいよ丸ごと手に入れるつもりだったから・・・ともとれるよね?」
消えた禁書。
そして消えた禁書に封印されているはずの同じ魔獣が同じ時期に現れて、人を襲う。
話を聞きつけた勇者たちが乗り込んで魔獣や魔物を倒して、彼らは英雄として崇められる。
そういったことが300年間続き、クロスは聖王国クロスとして大陸の支配者となった。
都合がよすぎる。
まるで彼らが勇者として活躍できるお膳立てが整えられているようにも思える。
【七人の獣騎士】を魔石に封印して、その魔石を利用して世界を支配しようとしていたのだとしたら?
そして今回も同じように自分たちを勇者として召喚し、クラスメートの斗真を見せしめとして殺害させて、命令に従わなかったら斗真と同じ末路を辿ることになると脅しつけてきたことも納得が出来る。
「・・・そこまで腐り切った連中なら、みんなを魔人なんぞに改造したり、王国の不始末の後始末を平気で押し付けてくるよなあ。・・・オレたちのことを世界征服の野望の捨て駒にでもするつもりだとしたら・・・」
バンッ!!
桜の拳が机を思い切り殴りつけて、机には震える拳がめり込んでいた。
身体が小刻みに震えていて、完全に目が据わっている桜は悪鬼のような表情へ変わっていき、怒りと殺意を孕んだ低くて冷たい声を発した。
「・・・・・・このままタダで済むと思ってんじゃねえぞ。オレたちを利用するだけ利用して、自分たちだけが甘い蜜を啜るなんざ、許すわけねえだろ。もうここまで調べがついている以上、連中が世界を魔王軍から救おうとする正義の味方なんて言い訳なんざもう信じられない。・・・連中にはきっちりと落とし前をつけてもらわねえとな」
桜は全身から威圧を放ちながら、にぃっと冷たく凄みのある笑みを浮かべていた。
桜と付き合いの長い麗音はこの時悟った。
クロス聖王国は、完全に桜のことを敵に回したのだと。
「・・・・・・風の勇者の名に懸けて、地獄に叩き落してやるよ」
疑惑は確信に変わり、そしてクロスに対する怒りと憎悪、殺意が一瞬で膨れ上がり桜の瞳には冷たい光が宿った。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
グミの村から離れた場所にある、小さな村の宿屋。
その一室に、雁野美月は泊まっていた。グミの村で勇者と名乗る連中を殺した後も、彼女の苛立ちは消えるどころかさらに強くなっていくばかりだ。この村にたどり着くまでに、目に着いた魔物や動物は一匹残らず殺した。血しぶきを身体中に浴びて、細身の刀で首を斬り落とし、背中に刃を叩きつけて一気に切り裂き、苛立ちの感情の荒ぶるままに殺しても、殺しても、殺しても・・・全然足りない。
「・・・どいつもこいつも、イライラさせる連中ばかりねぇ」
足りない、あんな雑魚じゃ殺してもイライラするだけ。
やっぱり、斗真が相手でないとこのイライラを鎮めることは出来ない。
コンコン。
ドアを叩く音がした。
誰だ・・・。
ああ、誰でもいい。この際、この宿の人間を一人残らず殺して、宿を燃やしてやろうか。
そのぐらいやれば、気分もスッキリすることだろう。
「・・・誰かしら?」
「・・・雁野さん、だよね?久しぶり、同じクラスの松本です」
そこにいたのは、同じクラスメートの松本千鶴だった。
彼女にとっては、話したことなど一度もない人間だった。地味で目立たなくて、いつも一人で過ごすことが多かった彼女がなぜ訪ねてきたのか、美月には分からず首をかしげる。
「・・・松本さん?・・・私に何か・・・ああ、別に何でもいいわ。この際、誰でもいいわ。貴方を殺せば少しはこの苛立ちも消えるかもしれないわね。付き合ってくれるかしら?」
「・・・梶くんと戦いたいんだよね?ちょっと、面白くなりそうな魔道具を持ってきたんだけど」
「・・・何ですって?」
「少しは興味あるかな?これさえあれば、今の梶くんと楽しく戦うことが出来ると思うんだけど」
そういって、千鶴はジュラルミンケースを開いて、中に入っているジオチェンジャーと紅蓮の翼を広げている巨大なワシのような姿をした魔物【フレスベルグ】の力を司る甲冑のミニチュアが収まっているケースを美月に見せた。彼女は目を丸くして、大型銃型の魔道具とミニチュアが入っているケースを取り出して、まじまじと見つめる。その仕草は先ほどまでの殺意に満ちていた人物とは思えないほどに、年相応の女子高生のようにも見えた。
「・・・梶くんは王都フレップに向かっているよ。そこに行けば、梶くんと戦えるかもね」
「・・・そう、梶くんはそこにいるのね・・・ああ、やっと会えるわぁ・・・!」
美月は銃を見て、蕩けそうな笑みを浮かべて頬を赤く染めて悦に浸る。
やっと殺せる。
あの時の続きが出来る。
今度こそ、私が梶くんの息の根を止める。
それだけが、自分が梶くんの全てを手に入れて、彼のことを未来永劫愛するためなのだから。
「・・・やぁぁぁっと、会える。やっと、殺せる。梶くんの全てを私が手に入れる・・・想像しただけで・・・ゾクゾクする・・・!!フフフ・・・アハハハハハハハハハ・・・!!」
美月の狂った笑い声が、宿の中に響き渡った・・・。
桜、クロス王国に対する疑惑が確信になり、怒りを燃え上がらせます。
事件の原因ともいえる禁書の流失、それと同じ時期に禁書に封印されているものと同じ魔物が現れて暴れ出し、クロスの勇者たちがどこからか情報を聞きつけて討伐し、その繰り返しによってクロスは英雄の国として世界中から讃えられるようになりましたが、そのからくりに気づいたようです。
そして、ついに美月の手にも勇者の力が渡ってしまいました。クロスにとっても、斗真にとっても災厄の存在となる美月と彼女の手助けを図った千鶴。こうしてみると鳳は悪党でしたが、まだ小者だったと思えるほどに残りの勇者たちは危険な連中ばかりです。絶対に正義のために戦うような人間ではありません(笑)。
次回もどうぞよろしくお願いいたします。




