第二十二話「軽挙妄動の勇者の末路~勇者軍side⑤~」
いつも拙作を読んでいただき、ありがとうございます。
今回、第一のターゲット【鳳桐人】との決着がつきます。
「第三王子アイザック・フォン・イステルよ。貴様のこれまでの数々の愚かな行為、全て証拠も揃っており事実は明白である。貴様に国家反逆罪で死罪を命じる。貴様はこのクロス聖王国を破滅の危機に追い込んだばかりか、魔王軍討伐のために異世界から召喚した勇者を一人、罪人へと仕立て上げたのだ。もはや貴様など息子でも何でもない。その命を持って罪を償うがよい!!」
聖王国クロスの玉座の間では、イグナーツ国王が第三王子のアイザックを冷たいまなざしで見下ろしながら、苛烈な口調で判決を言い渡した。そして、第三王子のアイザックは恐怖で醜く歪んだ表情になり、泣き叫びながら嘆願を申し込んだがすべて却下されて、兵士に連れられてアイザックは玉座の間から連行された。
「・・・全く情けない。あれが実の息子かと思うと情けない限りだ」
「心中お察しいたします、国王陛下」
セルマ・ティアマットがイグナーツ国王に慰めの言葉をかける。
「ブラオベーレ王国にはアイザック第三王子の処刑、元・雷の勇者キリト・オオトリの身柄の引き渡し、そして賠償金に5億ゴールドの支払い、さらに今後の聖霊石の取引は3割減らしたうえで輸入額は3倍で取引を行うと言う条件で手打ちが決まりました」
「ぐぅぅぅ・・・!!あの国とは友好を結んでいるのはあくまでも水の聖霊石を格安の価格で手に入るからという理由でしかないというのに、あの愚か者たちは何ということをしてくれたのだ。これでブラオベーレに友好を破棄して侵略を仕掛ければ、我が国は友好国ですらも平気で裏切る愚かな国として世界中から非難の目を向けられる。あの国は魔王軍討伐の最中を見計らって、魔王軍と手を組んでいるという事実をでっち上げて勇者軍に討伐を命じようと思っていたというのに・・・!!」
イグナーツ国王は魔王軍との戦いが始まった後に、ブラオベーレに魔王軍と裏で手を組んでいるという事実をでっち上げて、一方的に友好を破棄し、勇者軍に攻め込ませてブラオベーレを侵略しようと目論んでいたのだ。しかしそれをアイザックと桐人がまだ魔王軍に向けて出撃を命じていない段階でフライングしてしまい、その結果、クロスが全面的に非を認めるという屈辱的な展開に追い込まれてしまったのだ。
「・・・しかし、今度の風の勇者サクラ・マクノウチと水の勇者チヅル・マツモトの働きぶりは見事なものでございました。賠償金の5億ゴールドも彼女たちが粛清した貴族たちから巻き上げた領地や財産を運用して、一週間のうちに100億ゴールドもの大金を稼いで国家の財政に充ててくれたおかげで支払うことも出来ました」
「・・・うむ、ワシもまさかあの二人がこれほどなまでの商売や交渉において優秀な能力を持っていたことには驚いた。資産運用の手解きもなかなかのもので、無駄なコストのかかるものを徹底的に切って生計をやりくりしたおかげでこれまで赤字だった国の維持費や運営にかかる資金が久しぶりに黒字となったからな」
「サクラとチヅルがブラオベーレに対して第三王子と雷の勇者の首を差し出し、賠償金を支払うという条件を申し出たことにより、ブラオベーレもそれ以上の責任の追及は出来なくなりました。そして、見事我が国の愚かな王宮魔導師の生み出した魔法生物の存在に気づかれることもなく、仕留めることにも成功しました」
アイザックのお抱えの魔導師が魔法生物の実験中に、実験体の1体をうっかり逃がしてしまった。その事実を知ったアイザックが自身の責任を追及されることを恐れて、報告書を改ざんして実験体は死んだことにしていたが、その実験体がまさかブラオベーレの入り江の洞窟に流れ着いて、そこでレギオンへと変貌しマリブの海域を夜な夜な荒らしまわって他国の商船や客船を襲い沈めていたという事実を知った時は、さすがのセルマも肝を冷やした。
もしこの事実がバレたらこの手打ちの条件では絶対にブラオベーレは許さないだろう。友好を破棄されるばかりか、他国からも無能な王宮魔導師と事実を隠蔽しようとする王族の暴走を止められなかった無能な国として冷たい目で非難されることになる。そうなったらクロス王国は孤立する恐れがあった。
セルマは桜が回収してきたレギオンの心臓ともいえる、桃色の光を放つ球状の核を睨みつけながら必死で苛立ちを抑えていた。こんな失敗作のために、どれほどこっちが頭を悩ませていたと思うのだ。王宮魔導師は3日後にアイザックと共に処刑されることが決まっているが、今すぐにでも八つ裂きにしてやりたいと思うほどの怒りを感じていた。
「今後はワシの許可なく王族や貴族と勇者軍との接触を禁じる。今後はこのようなことが起こらないように、勇者軍の動きには徹底的な監視をつけるようにいたせ」
「はっ、かしこまりました」
「そして、まだ行方不明の炎の勇者ミヅキ・カリノも早く見つけ出すのだ!」
「ははっ!」
こうして今度の事件の元凶は3日後、王国の広場で大勢の国民に罵声を浴びせられながら、断頭台の露となってこの世から退場したのであった。
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「ひぃっ、ひぃっ、ひぃぃぃっ!!どうなっているんだよぉっ!!」
桐人は一人、人の気配がまるでないゴーストタウンの中を必死で逃げ回っていた。家という家の扉を叩いても、怒鳴っても、全く何の反応も返ってこない。まるでこの街全体がトリック・アートのように思えた。
ついさっきまで、自分は入り江の洞窟にいたはずだった。
それなのに、目が覚めると自分はこの朽ち果てたゴーストタウンに打ち捨てられていたのだ。
空一面が不気味な真っ赤な色に染まっており、遠くからは烏の鳴き声が木霊して響き渡る。
こんなところに一秒でもいたくない。
桐人は何とかこの不気味な街を出ようとするが、街全体がまるで迷路のように道が入り組んでおり、いくら探し回っても出口が見つからない。同じ場所を何度もグルグルと回っているような錯覚に陥る。
そして、桐人はようやく建物の陰に黒い影を見つけた。
やっと人間が見つかった。安堵して、話しかけようと近づいた。
「ああ、スンマセーン、ここって一体どこッス・・・ひええええええっ!!」
話しかけようとした瞬間、桐人の目が大きく見開かれて後ずさる。
そこにいたのは、長い黒髪を垂らした女性だった。
しかし、その女性の肌は腐敗しきっていて血の気がなく、所々の肉が腐り落ちていて、身体中に赤黒く変色したシミのついたボロボロの服を着込んでいた。彼女は餓えた獣のような咆哮を上げて、両手を持ち上げてよろよろとおぼつかない足取りで桐人に迫る。
ゾンビだ。
桐人はそう思い、その場から逃げ出した。
通りを抜けて、まずは出口を探そうと思っていた矢先に、広場にたどり着いた桐人はさっきまでは誰もいなかった広場に先ほどの女性と同じ生ける屍が大勢で待ち受けている衝撃的な光景が目に飛び込んでくる。
「ひぃぃぃぃぃぃぃぃぃっ!!」
背後から唸り声が聞こえてくる。
素早く振り返ると、そこには3体のゾンビがどこからか現れて桐人に迫っていた。
ゾンビを突き飛ばして双剣を取り出そうとするが、双剣は現れなかった。
「どうしてだよっ、俺は勇者だろう!?どうして、どうして、出てこねぇんだよっ!?」
目は血走り、涙があふれて、もはや身体中が震えだす。
それでも必死に逃げる、逃げる、逃げる。
心臓が飛び出しそうになっても、頭の中が酸素を欲しがって真っ白になろうとも、とにかく必死でこの場から逃げ出したい。
(誰か助けてくれよ、どうして俺がこんな目に遭わなくちゃいけねぇんだよ、俺は悪くねえ、俺は勇者様なんだよ、俺が救世主なんだよ、そんな俺がこんな目に遭わなくちゃいけねえなんておかしいだろう)
そして、体力の限界が訪れて、桐人は大きく開けた展望台のような場所にたどり着いた。
もうダメだ、一歩も動けない。
うっすらと目を開いて辺りを見回すと、そこには・・・誰もいなかった。
助かった・・・!!
そう思うと、その場に倒れこんだ。
バクバクと飛び出さんばかりに鼓動する心臓の音が頭に響き渡る。うるせぇ。
そして、空を仰ぎ見ると、そこで桐人の目が大きく見開かれたまま凍り付いた。
桐人の目に飛び込んできたのは、自分を黒い穴と化した眼窩で見下ろしてくる、肉という肉が腐りはてたゾンビの集団だった。
『・・・よくも僕のことを虐めてくれたな・・・!』
自分を恨めしく睨んでいるそのゾンビは確か中学時代に虐めていて、飛び降り自殺をしたはずの元クラスメートだった。毎日サンドバックと称して殴ったり蹴ったり、金を巻き上げて、万引きなども無理矢理やらせていた。その結果、彼は屋上から飛び降りた・・・いや、遊びで屋上から彼の荷物を屋上からバラまこうとした時、抵抗したことに腹を立てて思わず突き飛ばしてしまった。そして、彼は首の骨を折って死んだ。
『・・・ひどいよ・・・あたしのことを騙して・・・捨てるなんて・・・』
涙を流して迫ってくるのは、高校1年の時に捨てた女だ。顔が良く胸も大きかったから適当に遊んでやったのだが、彼女に飽きてしまい、次第に疎ましく思ってきたので階段から突飛ばしたら勝手に頭を強く打って死んだ。彼女は妊娠していた。
しかし、そんなことさえも桐人はすっかり忘れていた。
罪の意識さえ持っていなかった。自分はサッカー部のエースで、ルックスもいいし、みんなから尊敬されるスーパースターなのだから、いちいちそんな鬱陶しい連中などに構ってなどいられないのだ。
そして、彼らを突き飛ばして逃げ出そうとした時、展望台に続く階段にはゾンビたちがぎゅうぎゅうになって押し寄せてくる光景が目に飛び込んできた。
『ユルセナイ』
『ユルセナイ』
『ユルセナイ・・・』
よく見ると、集団の中には自分がいじめていた同級生や、一方的に別れを切り出して捨てた女の姿があった。彼らは桐人に向かって腕を突き出してじりじりと迫る。桐人は後ずさりをするが、何かが後ろにぶつかった。振り返ると、そこには頭から血を流して首が変な方向に折れ曲がっている男女が不気味な笑みを浮かべていた。
「やめろぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉっ・・・!!」
桐人が叫ぶと同時に、一斉にゾンビの大軍が桐人の身体に覆いかぶさり、そのまま飲み込んでいった。
これが、桐人の最後に見た光景だった。
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「あへっ・・・げへへっ・・・許して・・・俺様は・・・勇者・・・なんだぞぉ」
暗くじめじめとした牢獄の中で、桐人は拘束衣を着せられてイモムシのように寝ころびながら、白目をむいて醜く崩れた表情のまま、うわごとを言い続けていた。恐怖のあまりに尿を漏らしていたが、もはやそれにさえも彼は気づいていなかった。完全に精神が崩壊していたのだ。
そんな彼の様子を桜と千鶴、花桜梨が冷たいまなざしで見ていた。
「・・あの拘束衣のせいで、鳳くんがあんなことになっちゃったの?」
「うん、あの拘束衣はレギオンの魔石で作られたものでね。さっきステータスを調べてみたら、あの拘束衣に取り込まれるとレギオンに魂を取り込まれて、死霊の最大のご馳走でもある人間の恐怖を引き出す悪夢を見せられるんだって。どんな悪夢を見せられているのか分からないけど、ありゃもう拘束衣を脱げば悪夢から解放されるということにも気づかないんでしょうね」
もはや自分自身が勇者をクビにされたことを受け入れられず、勇者の称号だけに縋り付く桐人の姿は哀れだった。自分の罪を認めず、言い訳ばかりを繰り返し、恐怖に怯え続ける愚者の成れの果てはあまりにも惨めだった。
桜たちは牢獄を後にした。
「このまま処刑されても、死んだ後も魂はレギオンからは解放されない。永遠に悪夢の世界で彷徨い続ける・・・か。梶っちもかなりえげつないね」
「で、でも、大丈夫なの!?梶がここまでやるってことは、桜たちも危ないんじゃ・・・?」
「でしょうね。でも、こっちだってそう簡単にやられてたまるもんですかっての。あたしにもやらなくちゃいけないことがあるしね。でもさ・・・」
桜はそう言って、自分の安否を気遣ってくれた花桜梨にぺろっと舌を出していたずらっ子のように微笑む。
(あたしはここでやられるわけにはいかない)
(梶っちからの裁きはいつか必ず受ける日が来る)
(でもその前に、どうしてもあたしにはやらなくちゃいけないことがあるんだ)
(それを果たすまでは・・・)
「さて、次はどんな悪いことをして遊ぼうかな・・・?」
決意と信念の炎を目に宿して、桜はひとり呟いた。
その10日後。
鳳桐人は心神喪失の状態のまま、ブラオベーレの王国広場で処刑が執行された。
死んでも自分の罪から永遠に逃れられず、繰り返し何度も恐怖を味わい続ける末路・・・いかがでしたか?
斗真も1000倍返しで、相手が殺してくれと思わず言いたくなるようなお仕置きを課すことが彼なりの報復なのです。苛烈な性格はある意味レベッカたちよりもヤバいかもしれません。
鳳桐人の紹介については、登場人物紹介で更新します!
次回もよろしくお願いいたします。




