第三十一話「復讐の女帝②~VS邪眼王ヴェロニカ②」
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【三人称視点】
「・・・ちょっと、何よ、あれは!?」
全身の毛が逆立つほどの強い魔力の気配を感じ、駆けつけた先に現れたものを見て、思わずニナが叫んだ。
膨大な数の死者の死肉と墓土を取り込み、身体中から毒液を噴き出す無数のコブを生やし、毒液を身体中に滴らせる巨大な肉塊の怪物ーヴェロニカの成れの果てを目の当たりにして、数々の修羅場を経験してきたレベッカたちでさえも戦慄する。
「この匂いは間違いねえ、ヴェロニカの匂いだ!!」
「勇者と手を組んだ結果がこの有様か、笑えないな」
かつては四大勢力の一柱を担うヴィネ家の当主の誇りも面影も、残っていなかった。
もはや哀れみさえ感じない、勇者と手を組んで世界の覇権を手に入れようとし、常世の力を取り込もうとした結果が、勇者の口車に騙されて、理性も記憶も失った異形の怪物へと変貌した。
「レベッカ!あのコブのようなものを破壊して!そうすれば、本体が出てくるはずだ!!」
前髪をかきあげて、オールバックの髪型にした斗真が叫んだ。
なるほど、もう相手の特徴を看破して、弱点を見つけ出したか。普段は気弱で大人しく、争いごとを好まない少年だが、一度戦闘モードに入れば、相手を徹底的に叩き潰すことしか頭にない野獣へと変わる。
そんな彼の言葉に、レベッカたちが発憤する。
「テメェら、あのデカいコブを潰しまくれ!!」
「了解だ!」
アイリスが迸る電流を両手に纏い、見る見る高圧電流が迸る弓矢の形へと変わっていき、怪物に矢を向ける。そして、指を離すと一度に数本の矢が目にも止まらない速さで飛び出し、ヴェロニカの全身の至る所に膨れ上がったコブに直撃し、嫌な音を立てて弾け飛んだ。
「・・・・・・お前なんか、地獄に落ちろ!!」
「ボクたちに喧嘩を売ったことが、君の運のツキさ!」
ヴィルヘルミーナが幅広の刃を持つ刀を振るい、凄まじい強風がヴェロニカに襲い掛かる。鋭い真空の刃の渦が死肉を切り裂き、さらにそこへビビアナが放った無数の氷の刃が突き刺さる。コブが潰れて、悪臭と共に毒ガスを放ち、ヴェロニカはぶよぶよになった巨体を激しく捩らせて、聞くに堪えない咆哮を上げる。
「お前には、トーマちゃんを殺された恨みがあるからなぁ。今ここで、倍以上の利子をつけて返したるわ!!」
オリヴィアが槍で地面を突くと、ヴェロニカの足元の地面が盛り上がり、一気に巨大な岩の刃が飛び出して、コブを突き刺し、肉を切り裂き、そのまま地面に縫い付ける。毒液をゴボゴボと噴き出しながら、ついに胸部の肉が開いて、本体のヴェロニカが飛び出した。
もはや巨大な異形の心臓部でしかない、自我を完全に失った哀れな姫君。
アレクシアが杖をかざすと、巨大な魔法植物が地面から飛び出して、大きな花弁を開き、無数の種子の弾丸が飛び出した。弾丸が当たるたびに大爆発を起こし、本体のヴェロニカの愛くるしかった容姿はもはや見る影もなくなるほどに無残な姿へと変わった。
髪の毛はほとんど焼け落ち、顔や体のほとんどがやけどを負って、わずかに面影を残す顔の左半分以外が焼き爛れた無残な姿となり、ヴェロニカが苦しそうにうめき声を上げる。自我を失っても、自分に危害を与える者たちに対して、底知れない怒りと憎しみを孕んだ鋭い眼光で睨みつけてくる。
「まだやるつもりですか~?上等ですわ、こっちもテメェがこの世から消滅するまで、徹底的にやってやるぜ!!」
「彩虹の戦乙女をナメンじゃねーぞっ!!このロリババァーーーッ!!」
レベッカの全身が激しく盛らがり、咆哮と共に突き出した強烈な突きと同時に、巨大な炎の拳が勢いよく放たれた。ヴェロニカの全身を飲み込むほどの巨大な火炎弾が直撃し、異形の巨体がわずかに浮かび上がると、地面にわだちを刻みつけて、吹き飛ばされていく。
「トーマ!!決めろ!!」
「分かった!!」
斗真が地面を蹴り飛ばして、空中に飛び上がる。
両足に魔力を溜めて、見る見る脚が真っ白な光を放つと足の周りに極彩色の光の帯がかかる。
むき出しになったヴェロニカの本体に狙いを定めると、容赦なく右足を思い切り振り上げた。
「借りは返すぜ」
無数の魔法陣が浮かび上がり、魔法陣を蹴り飛ばすと同時に、それぞれの魔法陣から灼熱の火炎弾が、氷の弾丸が、迸る電流が飛び出し、ヴェロニカの全身に降り注いだ。肉を焼き、身体の至る所を切り刻み、無数の大岩や氷の塊で粉砕し、さらには傷口に猛毒が降り注いで、肉をドロドロに溶かしていく。
ヴェロニカが声にならない悲鳴を上げて、太い脚や触手をメチャクチャに振り回して暴れ出す。
しかし、ヴェロニカが斗真に反撃と言わんばかりに、触手を振り上げて死角から襲い掛かっていく。鋭くとがった刃のような触手の先端が、斗真の背後、心臓に狙いを定めた。
その時だった。
「斗真!!」
誰かが叫び、そして、自分の身体を思い切り吹き飛ばした。
蹴られた。
そして、触手の先端から血液が迸り、斗真の顔にかかる。
その視線の先には、光が胸を抑えて地面に膝をついていた。
苦しそうに歪んだ表情。必死で痛みをこらえているのか、歯を食いしばり、呼吸も荒い。
そして、彼女の胸元はすっぱりと切り裂かれていて、横なぎに大きな傷跡が刻まれていた。
「光!!」
その瞬間、斗真は悟った。
アイツが、光をあのおぞましい触手で傷つけたのだ。
血のシミがどんどん広がっていき、光は口から血液の塊を吐き出した。
「光!!」
「・・・この程度、かすり傷だ!!お前は気にするな!!」
「で、でも!!」
そう言いかけた時。
「バカ野郎!!目の前に敵がいるのに、途中で目を反らすヤツがいるか!!そいつだけはブッ倒さなけりゃいけないんだろうが!!そいつの喉笛食いちぎるまで噛みつくことを辞めるンじゃない!!だからお前は何時まで経っても半端なんだよ!!」
光が鬼のような形相で、斗真を怒鳴りつけた。
口から血液を吐き出し、玉のような汗を大量に浮かべて、必死で痛みをこらえているのはもはや明白だ。
ゴホゴホと、激しくむせるたびに血液がビチャビチャと地面に落ちる。
「・・・お前に教えたはずだ。私たちは親に捨てられて、助けてくれる大人もいなくて、自分自身の手でどんな障害もブッ飛ばして、生きていかなくちゃいけなかった。だからこそ知らなければいけない、暴力という力がどういう時に使わなくちゃいけないのか・・・暴力に飲まれるんじゃなくて、暴力を使いこなすことが出来るようにならないといけないことを」
ー私たちは暴力しかない。でも、だからこそむやみやたらに振りかざしてはいけない。-
-ただし、もし、自分にとって大切なものや居場所、家族、仲間といったものを守るために、どうしても使わなくちゃいけない時が来たら・・・相手を最初から殺すつもりでやれ。-
ー退くな、恐れるな、相手が強ければ強いほど、自分の牙が折れそうになっても、一度喰らいついたら食いちぎるまで絶対に離すな。自分自身にとって譲れないものがあるなら、それを守るために戦え。そのための「心の牙」を忘れるな。-
誰にも頼らずに生きていくしかなかった。
信じられる仲間だけを守るために強くなる。
譲れない大事なものを守るために、戦う覚悟を光から教わった。
「・・・光!!」
「・・・喉笛食いちぎれっ、斗真ぁぁぁっ!!!」
ヴェロニカの本体が目の前にいる。
彼女が再び攻撃を仕掛ける前に、彼女の巨体を素早く踏みつけてぬめぬめとした液体に覆われている肉の道を突き進む。彼女の肉体を狙いに定めて、斗真が低く肉の道を蹴り飛ばし、身体を大きくひねる。
「覚悟しやがれっ!!」
両脚に虹色から、全ての色が混じり合ったような漆黒の闇へと変わり、闇を纏った両脚を振り上げると、ヴェロニカの頭部に強烈な勢いで回し蹴りが炸裂した。首の骨が折れるほどの強烈な破壊力を持つ蹴りを喰らい、ヴェロニカの首は不気味な角度に折れ曲がった。身体を動かそうとしても、腕はかくかくとまるでロボットのように不気味な動作を繰り返すばかりだ。
目玉は跳び出さんばかりに見開き、鼻からどす黒い鼻血を垂れ流し、狂える死者は無意味な行動を繰り返すだけの人形となった。
蹴りを繰り出した部分から黒い靄が噴き出すと、見る見るヴェロニカの身体や肉塊を取り込み、徐々に覆い尽くしていく。
靄に触れた部分は、靄の中に強い力で引き寄せられていき、ブチブチと嫌な音を立てながら死肉と墓土で出来た肉が吸い込まれていく。
”----------!!!”
ヴェロニカがこの世のものとは思えない悲鳴を張り上げるが、身体はどんどん靄の中に飲み込まれていく。無限に広がる虚無の闇に触れたものは、虚無の世界にそのまま引きずり込まれていく。「死」さえ存在しない、無限の闇の中へと飲み込まれていく。
「あばよ、二度とその面を見せるな」
ありったけの侮蔑の感情を込めたお別れを済ませると、ヴェロニカの本体もついに闇の彼方へと飲み込まれて、やがて見えなくなった。
次回、邪眼王との戦いに決着をつけます!
瀕死の怪我を負った光の運命は?
次回もどうぞよろしくお願いいたします。




