第三十話「復讐の女帝①~VS邪眼王ヴェロニカ①」
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【レベッカ視点】
嫌な匂いがする。
オレは全身の毛が逆立つような、吐き気を感じるほどの嫌な魔力の気配を感じて、思わず自分の足元を見た。
その匂いは、徐々に強くなってきている。
こっちに向かって、何かが上がってきている。
腐り切った死体の肉のようにむせ返る甘酸っぱい香り、焼き焦げた肉の放つ悪臭が混じり合った、怒りと狂気、そして憎悪にまみれた魔力の気配だ。
「テメェら、戦闘配置につけっ!!」
全員がオレが言葉を発すると同時に、表情は一変し、戦闘の配置に着いた。
このやけにぴり付いた空気は、戦場で何度も味わってきたヤバい空気だ。
戦いが終わったかと思った後に、一番とびっきりのヤバいヤツがまだ残っていて、オレたちの前に現れる。
まだ終わってない。
一番潰して置かなくちゃいけないヤツを、この手で血祭りにあげるまではまだ終わらない。
「気配は向こうからか」
「ちょっと待ってよ、あっちには、トーマたちがいるはずよ!?」
「走れ!!」
オレたちが、トーマたちが話し合っている場所に向かって走り出した。
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【斗真視点】
つばさが、死んだ。
さっきまで、笑いあっていたはずなのに。
僕と、光のことをいつものように叱りつけて、そして、三人でパンを分け合って・・・。
つばさがさっきまでいた場所には、つばさが好きだったジャム入りのパンが転がっていた。
嘘だ。
つばさがもうどこにもいないなんて。
守れなかった。
3年前に、大事な友達を守れなかった時と同じだ。
結局、僕は全然強くなんてなってない。
虚無の魔王オクタヴィアから身体を取り戻した、魔王として生まれ変わった。
でも、僕自身は何も成長なんてしていない。
力があっても、大事な人を守れない。
それじゃ、何の意味もないのに。
どうして力を手に入れることが出来たのに、大事な人や居場所を守れないんだ。
自分自身に対する怒り、苛立ち、身体が破裂しそうになるような感情が膨らんでいくのが分かる。
頭が真っ白だ。感情が煮えたぎるマグマのように昇りつめて、噴火しようとしている。
その怒りをぶつけるのは、他でもない自分だ。
「・・・斗真」
「・・・何が虚無の魔王だよ、何が裁縫魔法だよ、大事な友達一人守れないなんて、全然ダメじゃないか。何のための力なんだよ。そんな力、意味がないんだよっ!!」
握りしめた拳を大地に叩きつける。
何度も、何度も、何度も、何度も何度も何度も何度も何度も・・・。
「おい、やめろ!!」
「うるさい!!」
光が僕を抑えるが、僕はもう感情を止められなかった。
「・・・仲間を失いたくないから、強くなろうとしたんじゃなかったのかよ。それなのに、どうして、仲間を失っていくんだよ。目の前で、失焚くないのに、どうして手が届かないんだよ・・・!!」
「・・・斗真」
「・・・僕は一体何のために、強くなりたかったんだよ・・・!!」
守りたかったもの、それは仲間だった。
失いたくないから、歯を食いしばって、必死で強くなろうとしてきた。
それでも、どうしても、また大切な仲間を失っていく。
(・・・トーマ、あの女は自分の中に封印された風の魔神に意識を乗っ取られそうになっても、今にも消えそうな人間の心を最後まで捨てずに、魔神の干渉をはじき返した。普通の人間にはそんなことは不可能だ。しかし、お前の友人であるあの女は見事それをやってのけた。・・・あの女は、本当に心が強かった)
オクタヴィアが、僕に話しかける。
(あの女が強くあろうとしたのは、戦い続けてこられたのは、他でもないお前の存在があったからだ。お前が誰かのために一生懸命強くなろうとして、決して逃げなかった姿を見てきたから、あの女は自分の運命と最後まで戦い抜いた。そして、勝ったんだ。お前という存在がいるから、アイツは最後に笑って逝くことが出来たのではないか?)
つばさが、ずっと戦っていた。
僕がいたから・・・?
(今、お前がやるべきことは、あの女の思いを受け止めて、戦うことではないのか?)
また、逃げるのか。
光から逃げたように、松本からも、自分自身の弱さからも、運命からも。
逃れられない。
だから、戦うしかない。
そうやって、ずっと自分に言い聞かせていた。
逃げても、誰も助けてくれないなら、前に進んで戦い続けるしかない。
でも、違うんだ。
”それしかない”のではない。
”こうしよう”と決めたのは、自分じゃないか。
それなら、僕がやるべきことはー。
「・・・うん?何だ、この嫌な匂いは?」
その時、鼻を突くような悪臭がした。
涙が出るほどに刺激的な、鼻が曲がりそうな酷い匂いは腐臭に似ている。
そして、僕たちの目の前で地面がまるで小山のように大きく盛り上がった。
「まずい!!」
「逃げろっ!!」
墓土と土煙にまみれて現れたもの。
それは巨大な死肉の塊だった。ぬるぬるとした粘液にまみれた黒ずんだ肉はほとんどが腐っており。ぽこぽこと所々に悪臭を放つ液体を噴き出すコブが出来ている。胴体らしき身体にはいくつもの裂け目が出来て、オレンジ色の光を放つ腫瘍が脈を打っている。
それはもうただ、化け物の一言に尽きる。
そして、その肉肉の塊に上半身だけを外に出している、不釣り合いな美しい顔立ちをしている少女の姿があった。その少女には見覚えがあった。僕のことを殺してくれやがった、魔王ヴェロニカだ。
彼女の皮膚は血が通っていないように真っ青で、瞳を深く閉じた彼女はもう死んでしまっているのではないかと思った。しかし、彼女がうっすらと瞳を開いて、僕たちの姿を見ると、苦しそうに表情を歪める。
ー・・・オノレェ・・・よくも・・・よくも・・・妾を・・・騙してくれたな・・・!!
「・・・ヴェロニカ!?」
「アイツ、まさか、生きていたのか!?」
-・・・あの勇者め・・・妾を最初から利用するつもりだったとはなぁ・・・!!じゃが、妾がこの程度で、やられるとでも本気で思っているのか!?こうなったら、もう世界などどうなっても構わぬ。妾が世界の全てを手に入れてやる・・・!!-
もうヴェロニカには理性は残されていなかった。
怒りと狂気に満ちた恨み言をブツブツとつぶやき続けて、目に映るすべてのものを破壊しようと、獣のような目をぎらつかせている。そして、彼女の身体に劇的な変化が訪れた。
-うぐっ!?うおっ、おえっ、お゛え゛ぇ゛え゛ぇ゛え゛ぇ゛え゛ぇ゛え゛ぇ゛え゛ぇ゛え゛ぇ゛!!-
彼女のお腹が異常なまでに膨らむと、口から大量の黒い液体を吐き出して、彼女の身体を塗りつぶしていく。そして、下半身の肉会が膨張して、上半身を取り込むと無数の太い触手が巨大な蜘蛛のような太い脚のような形になって地面を震わせる勢いで叩きつける。
ヴェロニカの身体が、顔が肉塊に飲み込まれていき、巨大な球体のようなものが代わりに飛び出した。
そして、彼女のものとは思えない低くて凶暴な唸り声を上げる。
ブオオオンッと音を立てて、太い触手がうなりを上げて襲い掛かってきた。大地を割り、大岩を砕く破壊力を持つ強力な一撃は光を捕らえた。光がとっさにガードするが、強烈な一撃を喰らい、彼女の身体が地面に叩きつけられた。
頭が真っ白になり、血の気が一気に引いたような気がした。
「光!!」
「・・・こんなの、かすり傷だ!それよりも油断するな、まだ、来るぞ!!」
僕たちに向かって、異形の怪物になったヴェロニカは巨大な動体の数か所にボコボコと腫瘍のようなものを膨らませて、地面をゆっくりとはいずり、こっちに向かってきた。
「・・・上等だぜ」
髪の毛をオールバックにして、こっちに向かってやってくるデカブツを睨みつける。
「-派手にブッ壊してやるよ、お望み通りにな!!」
ああ、今までの中で一番醜悪で、吐き気を催すような怪物だ。
余計な考えも、恐れも、悩みも全て吹き飛んでいく。
最もシンプルで、最適な考えが頭の中に思い浮かぶ。
完膚なきまでに叩き潰す。
コイツが消滅するまで、徹底的に攻撃の手を緩めない。
次回、異形の怪物に変貌したヴェロニカとの決戦が始まります!
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!




