第二十九話「別離の時・・・②~ヴィナグラート魔城攻略戦㉓~」
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【桜視点】
「・・・・・・私たちはとんでもない思い違いをしていた」
ビビアナさんが、高森が持っていた新しい魔法の術式が記録されているメモリーディスクを解析して、大きなため息をついてつぶやいた。
「どういうことだよ?」
「・・・・・・結論から言うと、もし私たちがこれを使わないで魔砲をクロスに向かってぶっ放していたら、マジで世界が終わることになるかもしれなかった」
「そら、どういうこっちゃ!?」
オリヴィアが思わず驚きの声を上げる。
俺も驚いていた。だって、魔神八傑衆はこれで実質全員倒したわけだし、寅若さんと高橋さんが再び俺たちに牙をむいて襲い掛かってくる様子もない。つまり、クロスの最期の一手を見事封じたわけだ。
しかし、ビビアナさんは首を横に振る。
「・・・・・・タカモリは、女勇者の魔力の一部を手に入れて、このディスクの中に記録していた。それを解析したら、あの女勇者はどんな強大な魔力でも自分の身体に取り込んで、自分のものにする魔法を使うことが出来ることが判明した」
「・・・そうか!!ボクたちがクロスの結界を破ろうとして、魔砲をクロスに向けて発射したら、その魔力を取り込んでさらにパワーアップしてしまうということか!!」
「・・・・・・魔力の量に勇者の身体が耐え切れず暴発する可能性もある。しかし、そうなったらこの世界にどれだけの被害をもたらすことになるのか、見当がつかないレベルの大爆発が起きる。そうなったら、クロスを中心に世界全体が大変なことになる」
なんてこった・・・!
つまり、俺たちが魔神八傑衆を倒して、その力を一つに集めた強力な破壊エネルギーをクロスに向けて発射し、クロスの結界を破壊して、千鶴を追い詰めようとしていた動きは、全て千鶴の掌の上で踊らされていたってことになる。
よくよく考えてみたら、千鶴だったらそんなリスクの高い方法をだろうとやるだろう。
むしろ喜んで実行する。
なぜなら、アイツは最後は自分自身さえも自分の手で終わらせることで、世界の全てを救済しようと本気で思っているからだ。例え自分が死ぬことになっても、彼女は恐れていない。
アイツがやろうとしていることは「救済」という名の、世界全体を道連れにした無理心中だ。
それをやることで、世界中の人間が救われると本気で思い込んでいる。
魔神八傑衆を復活させて、世界中で大暴れさせることも、彼らを封印してその力を集めて強力な力を手に入れて反撃をしても、どのみち千鶴にとっては望んだ結果になるのだ。
自分自身の命さえも、彼女は生贄として考えている。
何がそこまで彼女を狂気に駆り立てているのか、俺にはどうしてもわからない。
「魔神八傑衆を封印したことが、結果的には世界を滅ぼすために利用されていたということか。随分とふざけた真似をしてくれるじゃないか」
「・・・あの坊主はそのことに気づいて、敢えて自分と戦わせることで、魔神八傑衆の全ての力を取り込んだ術式を完成させようとしたんやな。自分が封印されることも、覚悟の上で・・・」
「・・・命を懸けて、ボクたちに託してくれたんだ。その思いを無駄にすることは出来ないね」
「・・・・・・任せておけ。今すぐにこの術式を取り込んで、クロスに攻め込む準備の最終調整に取り掛かる。絶対に失敗しない」
そうだ。
俺たちにはまだやらなければいけないことがたくさんあるんだ。
切り立った丘の上から、水平線が見える。
銀色の満月の光を受けて、サラサラと光が輝く夜の世界の海は幻想的に美しい。
さっきまで、俺たちが命がけの戦いをやっていたとは思えないほどに。
この先に、クロスがある。
千鶴の手によって壊滅し、町中の人間がアンデッド化した死者の街。
あともう少しだ。
あともう少しで、全ての因縁に決着を着けてやる。
千鶴の顔が頭によぎるたびに、わずかに揺れていた感情が、今では静かに収まっている。
覚悟はもう決めた。未練を断ち切り、必ずお前を・・・倒す。
「なあ、そういえば、トーマはどこ行った?」
レベッカさんが尋ねてきた。
そういえば、高橋さんと寅若さんもいないな。どこに行ったんだろう?
「・・・ああ、さっき3人で話したいことがあると言っていたぞ」
そう言って、アイリスさんが遠くの方に指を指した。
3年ぶりにやっと再会した幼なじみだし、きっと積もる話でもあるんだろうな。
それなら、俺たちが水を差す真似をする必要もないだろう。
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【斗真視点】
「・・・ここでいい。全く、やっとこの3人が揃ったな」
「・・・つばさ、まだ間に合う。アレクシアさんに治療をしてもらえば、きっと助かるはずだ」
「・・・自分の身体のことぐらい、自分が一番知っているさ。私は、もうダメだ。身体の崩壊が始まっているからな。辛うじて助かっても、もう、自我を保つことも出来なくなってきている・・・」
瓦礫に背を預けて座り込み、弱々しい呼吸とともに、つばさが微笑みながら答えた。
目の前で、大切な友達の命が今にも尽きようとしている。
僕たちがアレクシアさんたちに助けを呼ぼうとしたら、つばさが僕たちを止めた。
もう助からないから、彼女たちにこれ以上負担を掛けさせたくない。
自分が消滅するところを見て、士気を下げたくない。
そして、最期の時は僕たちだけに看取られたいというのが、彼女の望みだった。
「・・・斗真、光、お前たち、私に何か言うことがあるんじゃないのか?3年間、ずっとつまらない意地を張り続けてきて、私がどれだけ心配してきたと思っているんだ」
「・・・本当にすまなかった!」
「・・・ごめんなさい!」
「・・・お前たちが昔のように笑いあえる日が来て、本当に良かった。斗真、お前は・・・優し過ぎる。でも、相手を気遣うあまりに、傷つけてしまうことを恐れて離れたり、距離を置こうとしたり、自分の本当の気持ちを抑えて生きていくというのは・・・光のためにもならないし、何より、お前自身も辛かっただろう?お前は・・・もう少し・・・ワガママになれ」
昔のように、僕の頭を撫でながら優しく諭してくれるつばさ。
まるで本当のお姉ちゃんのような存在だった。
「・・・光、もう自分を責めるのはやめろ。本当は、心のどこかで、斗真が悪くないってことを分かっていたんだろう?でも、お前は自分自身を責めて、後戻りできなくなっていった。お前が辛かったこと、悲しかったこと、悔しかったこと、全部さらけ出していいんだ。いつまでも、ずっと強いままでいられる人間なんていないんだ」
「・・・ごめん・・・いつもそばにいてくれて・・・私に色々ときっかけを作ってくれていたのに・・・私はそれをずっと突っぱねて・・・!!」
つばさの手を握りしめて、光が大粒の涙をこぼした。
僕の視界もさっきからぐちゃぐちゃに歪んでいる。
握りしめているつばさの手の感触が、少しずつ消えていく。
「・・・お前たち、これ、覚えているか?」
つばさが胸元から取り出したのは、袋に入った三色パンだった。
少し潰れているけど、袋を開けるとふわっと小麦のいい香りが鼻をくすぐる。
三色パン。
忘れるものか。
子供の時、喧嘩した後は、必ず3人で分け合って仲直りした。
良いことがあった時は、3人で分け合って喜びを分かち合った。
「・・・三人で、さんぶんこ、だったな」
「・・・やろうよ。さんぶんこ。仲直りの記念だ」
それぞれのパンを3つに分けて、カスタード、チョコレート、イチゴジャムが入っているパンをそれぞれ自分の好きなものを手に取って、一つのパンを食べる。
お金がなかった時、いつも食べ物を3人で分け合って食べていた。
その中でも一番好きだったのが、三色パンだった。
「・・・私はイチゴジャムをもらうぞ」
つばさはイチゴジャムが大好きだったね。昔、僕が間違ってイチゴジャムを食べたら、怒ってしばらく口をきいてくれなかったぐらいだ。意外と子供っぽいところがあるんだなと思った。
「・・・私は、チョコレート」
「・・・僕はカスタード・・・いつも通りだね」
「全く、お前たちは小学生の時から変わっていないな。本当にバカで・・・いつも私を振り回して・・・でもそれがすごく嬉しくて・・・お前たちが本当の家族のように思っていた」
「そうだな、いつもお前には叱られていたな。でも、イタズラをやる時は、お前だってノリノリな時があっただろう?」
「そうだそうだ」
「・・・忘れたね、フフッ」
パンを一口、また一口、食べていく。
おかしいな。カスタードが入っているのに・・・しょっぱいよ。
しょっぱくて、しょっぱくて、胸が締め付けられるよ・・・。
つばさの身体が徐々に透けて、桃色の光の粒子を噴き出しながら消えていく。
パンを残り半分といったところで、つばさの手が力なく地面に落ちた。
「・・・あの頃に、戻りたいな・・・。お前たちとイタズラをしては、町中を駆け回っていた、あの頃に・・・」
つばさの瞳からポロリと涙がこぼれ落ちた。
そして彼女は、僕と光に向かって・・・優しく微笑んだ。
「・・・お前たちに会えて、いい人生だった。悔いはない」
「つばさ、死ぬな。死んじゃダメだよ、私はお前がいなかったら、何もできないんだからな。お前がいてくれたから、私は今までやってこられたんだ。いや、消えないで、私の前からいなくならないで!!」
「つばさ!!」
そして、桃色の風がどこからか吹いて、僕と光を優しく包み込んでいく。
胸の奥から暖かくなる、穏やかで優しい風。
-・・・ありがとう・・・斗真、光・・・。ー
-・・・バイバイ・・・。-
一瞬だけ強い風が吹き、目を閉じた。
そして、目を開くと・・・そこには・・・つばさの姿はもうなかった。
代わりに、風の魔神タイフォンと書かれた、巨大な翼を持つ神々しい鳥のような姿をした魔神が描かれた霊符が落ちていた。
「・・・つばさ・・・つばさ・・・!!」
光は霊符を震える手で拾い上げると、声を上げて、身体を震わせて泣き声を上げた。
地面に拳を叩きつけて、湧き上がる激情に流されるままに、激しく泣いた。
つばさが、消えた。
彼女の亡骸が。消えていった。
跡形もなく消えていった。
ただ、僕たちを包み込んでいる暖かい風の感触だけを遺して。
つばさ・・・・・・!!
斗真の親友、高橋つばさ、逝く・・・。
斗真と光、つばさが三色パンを分け合って食べるシーンは前から書きたかったので、どこで書こうか悩みましたが、いかがでしたか?
次回、斗真たちに再び災難が降りかかる・・・?
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!!




