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第二十八話「別離の時・・・①~ヴィナグラート魔城攻略戦㉒~」

いつも拙作を読んでいただき、本当にありがとうございます!

新作が書きあがりましたので、投稿いたします!

ペースが遅億成って申し訳ございません。最後まで書き上げるためにこれからも頑張ります。

 【三人称視点】


 高森の魔法が解除された瞬間、世界に再び色が戻った。

 オクタヴィアがジールと戦っている時も、高森から話を聞いていた時も、桜たちにとってはわずか一瞬の間の出来事でしかない。時間が停止し、唯一動くことが出来た斗真と高森、ジールだけが覚えている。


 「なっ、おい、あのデカブツがいねぇぞ!?」


 レベッカが驚きの声を上げると、さっきまで自分たちの前に立ちはだかっていたジールの姿が影も形もなくなっていた。あとには、彼女が思い切り地面を叩きつけて刻みつけた亀裂だけが遺されていた。


 「一体何があったんだ?」


 「あれなら、我が倒した」


 オクタヴィアが手を挙げて声をかけると、全員が一斉に振り向き、再びオクタヴィアの姿になっている斗真の姿を見て驚いた。今の彼・・・いや、彼女はグラデーションがかかった髪を腰まで伸ばし、上半身は何も身に着けていない、抜群のスタイルを持つ見目麗しい女性の姿をしていたのだから。


 「エロ神様の降臨だぁぁぁぁぁぁっ!!うっひょおおおおおお!!」


 「あ、また出てきやがったな、変態姉ちゃん!!」


 「・・・・・・また出てきたか、このホルスタインが」


 「ちょ、アンタ、まさか虚無の魔王!?斗真の身体に一体何をしてくれてンのよ!?」


 ヴィルヘルミーナが鼻血を滝のように噴き出してぶっ倒れたかと思えば、レベッカが身もふたもないことを大声で叫び、ビビアナが中指を立てて憎悪と怒りに満ちた鬼のような形相で睨みつけてくる。本当にこの連中は空気を読むということが出来ない。オクタヴィアはやれやれとため息をついた。


 「・・・あー、相変わらずお前たちはうるさいな。とりあえず、まずはコイツの話を聞いてやってはくれんか」


 そう言って、お姫様抱っこをしていた高森をゆっくりと地面に下ろした。

 高森の身体からは紫色の光の粒子が少しずつ出てきて、身体の崩壊が始まっている。


 「シロウ様!!」


 ファフナーが目を見開き、慌てふためいた様子で高森に駆け寄った。

 血の気が引いた青白い顔が真っ白になり、ガタガタと身体が震えている。


 「シロウ様!!シロウ様!!しっかりしてください!!」


 「・・・ファフナー・・・」


 高森がうっすらと瞳を開き、今にも消え入りそうなか細い声で答えた。


 「・・・どうしてこのようなお姿に。まさか、アイツらに!?」


 「・・・違う、ワシが不覚を取った。梶がそんなワシを助けてくれたのじゃ」


 そして、高森は歯を食いしばり、必死で今にも閉じてしまいそうな瞳を開くと、堰を切ったかのように話を始めた。


 オクタヴィアに、松本がクロスに張っている結界を無効化するための術式を施した魔導アイテムを託したこと。


 闇の魔神オプスキュリテに憑依されて、自我が消滅する前に、何とか松本に一矢報いるために動いていたこと。


 「・・・梶、幕ノ内、もうお前たちも分かっているかもしれんが、この力を手にしてしまった以上、ワシらはもう元の世界に還ることは出来ぬ。借りに出来たとしても、この力がなくなる保証などない。人には手に入れることが出来ない過ぎた力を手にしてしまった以上、もう後戻りなど出来ぬ」


 「・・・高森」


 「・・・ワシはもう元の世界には帰れない。夢だったメイクアップアーティストになることも捨てねばならなかった。ワシの身体には魔神の魂が宿っているのだからな。いつ自我がなくなって、自分が自分ではなくなってしまったらと思うと、ワシは・・・気が狂いそうだった。全ての望みを失った瞬間、ワシは何とか自我を保つことが出来るほどの余裕が出来た。半端な夢や希望がかえってワシの心を苦しめるのなら、全て捨ててしまえばいいと思った」


 怖かった。


 いつ自分が魔物になってしまい、自分が自分ではなくなってしまうことが。


 押し寄せる自分のものではない、異質な存在になり代わろうとする津波のような闇が自分の心を侵食していく。


 夢や希望に縋り付いても、もうどうにもならないということを悟った瞬間、今まで自分を保ち続けてきたはずのものが、自身を苦しめる呪いのようなものへと変わっていく。


 それを感じ始めたとき、もう自分は後戻りが出来ないということを思い知らされた。


 「・・・それが間違いであると気づいたときには、もう手遅れだった。一度捨ててしまった希望や夢をもう一度拾おうとしても、ワシはその希望や夢をかなえることが出来るかどうか不安に駆られて、もしできなかったらという恐怖に心が折れた」


 紫色の瞳から大粒の涙が込み上げて、頬を伝っていく。

 本当はまだあきらめたくなかったのに。

 本当はまだやりたいことがたくさんあったのに。


 元の世界に還りたかった。

 メイクの仕事もやりたかった。


 「・・・梶、幕ノ内、お前たちは絶対に希望を捨てるな」


 「・・・え?」


 「・・・」


 「・・・お主たちがこれから先、どっちの世界で、どう生きていくのかは分からぬ。じゃが、お主たちだけは魔族の力を植え付けられておらぬ。お主たちが望むならまだ間に合う。ワシのように全てを投げ出しておきながら、結局あの時捨てなければよかったなどと後悔する道を選ぶな」


 涙を流しながらも、桜とオクタヴィアを見つめるその瞳には力強い意志が感じられる。

 それは唯一残された自我の欠片を振り絞って、クラスメートが自暴自棄にならないように真剣に訴えかける彼の最期の優しさだったのかもしれない。


 「・・・言われなくても、分かってるよ」


 「・・・我の中のコイツも了承した、そうだ」


 「・・・そうか」


 高森はほっとしたように口元に笑みを浮かべると、気合を入れるように深く息を吐き出した。

 そして、彼のことを心配そうに見ているファフナーに顔を向けると、今にも消え入りそうな声で彼女の名前を呼んだ。


 「・・・ファフナー・・・ワシの最期の願い、聞いてくれるか?」


 「・・・シロウ様・・・!」


 高森がファフナーの手を握り、そのままおぼつかない足取りでゆっくりと立ち上がった。

 彼女に寄り添いながら、ゆっくり、ゆっくりと、今にも倒れそうな足取りで歩いていく。


 「・・・ここはあの世とこの世の境目を守る大事な場所。お前たちはここを守るためにずっと戦い続けてきた。じゃから、ワシがこれ以上この地を誰にも荒らされない様にしよう」


 それが闇の魔神オプスキュリテの願いだった。

 この世界の闇を守護する魔神は、この世とあの世の境目を守護するヴィナグラート魔が、誰にも荒らされることのないように守って欲しいと願っていた。


 「夢も希望も失い、途方に暮れていたワシを救ってくれたのは、ファフナー、お前だった」


 「・・シロウ様」


 「・・・もうすぐ尽きようとしているこの命、せめて最期はワシの好きなようにやらせてもらう」


 ファフナーの首に両手を回し、彼女の紫色の唇に高森の唇が覆いかぶさった。

 生者のぬくもりは感じないが、冷たい唇に自身の思いの丈をぶつける情熱的なキス。

 高森は従者の目をまっすぐ見つめる。


 「ファフナー、お主たちの居場所であるこの地は誰にも荒らさせない。ワシの全ての力を使って、この地に再び闇の結界を張る」


 「シロウ様、一体何をなされるおつもりですか!?」


 「ファフナー、お前は生きろ。そして、お主と同じようにこの地に生きるアンデッドやゴーストたちを守ってくれ。それが、ワシがお主たちに出来る最後の恩返しであり、ワシからの最期の願いじゃ」


 頼んだぞ。


 そう言って、高森は笑った。

 自暴自棄の投げやりな笑みではなく、心底、彼女の幸せを願った優しい笑顔。


 「高森、お前一体何をするつもりだ!?」


 「・・・邪眼王が目覚めてしまったらもはやこの地も無事では済まない。あやつが常世の力を完全に取り込んでしまう前に、あやつの肉体と魂を丸ごとこの地に封印する!!ワシが”人柱”になることでな!!」


 人柱。


 自身の命と引き換えに、全ての魔力を解き放って、邪眼王たちをこの地に永遠に封印する。

 そして、闇の魔神の力で、ヴィナグラートの地がアンデッドたちが平穏に暮らせる安住の地にするために、高森は覚悟を決めた。


 霊鎌を地面に突き立てると、高森の身体から勢いよく闇が無数の渦となって噴き出した。

 闇が瞬く間に大地を真っ黒に染めて、高森を中心に漆黒の風が吹き荒れて、世界を闇に染めていく。


 その闇は、禍々しいものではなく、生者であるはずの桜たちでさえも見ほれるほどの美しい漆黒の闇。

 安らかな眠りを授け、幻想的なまでに美しい夜の闇。


 「高森ーーーーーーっ!!」


 「高森くんっ!!」


 「・・・いいか、梶、幕ノ内!!魔族の力を植え付けられなかったお主たちにはまだ希望がある!!お主たちが望めばいくらでも道は切り拓ける!!最後まで希望は捨てるな!!」


 止めようとする桜と斗真を制するように、高森が鬼気迫る表情で叫んだ。


 そして、うっすらと笑みを浮かべると、彼の瞳からは光り輝くものが流れ落ちた。


 「・・・お主たちとは、一度、友達として遊んでみたかったのぅ」


 「高森!」


 「高森くん、ダメだ、いくな!!」


 「・・・幕ノ内、ヴィルヘルミーナ嬢とオリヴィア嬢と、幸せにな・・・」





 最後に見せたのは、どこにでもいる年相応の少年らしい優しい笑顔。





 すべてが闇に包み込まれて、斗真と桜が吹き荒れる闇の奔流に飲み込まれた。


 ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


 「・・・うん?」


 再び目を開くと、そこは地下霊廟ではなく、夜空一面に煌めく星の大海原が広がっていた。

 銀色の冴えた光を放つ巨大な満月の光はまるで太陽の光のように、神秘的な光で墓場を照らしている。


 邪悪な気配は微塵も感じられない。


 ただ怖いぐらいに静かな夜の世界が広がっている。


 「・・・オレたち、どうなったんだろう」


 「・・・転移魔法で、外まで飛ばされたみたいだな」


 ヴィナグラート魔城を見ると、そこには城を取り囲むように紫色の光の柱が6本天に突き刺す勢いでそびえ立ち、極彩色のオーロラのような結界がカーテンのように揺らめいていた。


 「・・・ヴィナグラート魔城から、優しくて暖かい闇の力が流れ込んでくる。そうか、シロウ様は本当にこの地を浄化してくださったのか」


 ファフナーが膝をついて地面に座り込み、目から大粒の涙を流しながらつぶやいた。


 「・・・シロウ様」


 やがて、彼女は大柄な体を折り曲げて、地面に額をこすり付けながら嗚咽を上げて泣き出した。

 涙が地面に吸い込まれて、黒いシミを作り上げていく。


 「・・・高森」


 最後に見せてくれた笑顔。

 最後に託された願い。


 桜はギリリと拳を震えるほどに握りしめていた。


 

高森士郎、退場となりました。

しかし、ヴィナグラート魔城の戦いはまだ続きます。

次回、不穏な展開が・・・?


次回もどうぞよろしくお願いいたします。

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

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― 新着の感想 ―
[一言] ブロンズ・ルド「高森、消滅しちゃったね」 シルバーン「ああ、とうとういなくなったな」 首領・ゴールド「あいつ、なんだかんだで 悪いやつじゃなかったんだな」 ブロンズ・ルド「そういえば、あいつ…
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