第二十七話「地下霊廟の戦い!③~ヴィナグラート魔城攻略戦㉑~」
いつも拙作を読んでいただき、本当にありがとうございます!
大変遅くなりましたが、新作を書き上げることが出来ました!
どうぞよろしくお願いいたします!
【三人称視点】
吐き気を催すような悪臭が立ち込める。
大量の人形や死者の肉、墓土を取り込んで巨大化したジールはもはや本体である彼女の面影が一切感じられない醜悪な怪物へと変わり果てた。
-貴様・・・!-
「その姿、あまりにも醜すぎる。見ているだけで不快だ」
虚無の魔王オクタヴィアがどす黒い感情をあらわにして、表情を歪める。
これまでは機械のように無表情で、淡々と相手を倒し続けてきた。
怒りや悲しみ、憎しみという感情さえ芽生えたことはない。
そのため、彼女がここまで激情を見せるのは彼女にとっても生まれて初めての感覚だった。
(これも、斗真の身体を介して目覚めたことで、我にも感情というものが芽生えたというのか)
ー何が魔王だ。旧時代の生きた化石が偉そうな口を叩くな!!-
ジールが大きな腕を持ち上げて力任せに振り回してきた。
地面をえぐり、散らばっている人形たちを容赦なく吹き飛ばしながら、巨大な丸太のように太い腕で殴りつけてくる。腕の至る所からボコボコと血走った巨大な目玉が開き、ギョロギョロとせわしなく動き回っている。
「下らん」
オクタヴィアが黄色の炎に手をかざすと、巨大な黄金の弓矢が現れた。
矢の先を目玉に向けると、先端から激しく電撃が迸る。
「傲慢の霊弓」
無数の電撃の矢が飛び出し、目玉に突き刺さると身体中に強烈な電流が流れ込んでいく。
ジールが聞くに堪えない雄たけびを上げてのけぞると、腕がボロボロと砂のように崩れていく。
そして彼女の胸の部分から、ろっ骨を突き破り、巨大な肉の塊ー核が飛び出した。
アンデッドの急所と言われている、魔力を生み出し続ける核に狙いを定めると再び矢を放った。
バチバチバチッ!!
心臓に矢が突き刺さると、鼻が曲がりそうな悪臭を放ち心臓から全身に激しい電流が流れ込む。
-ギィィィィィィィィッ!!!-
「一気に片付けてやる!」
(油断しないで、何か来るよ!!)
オクタヴィアがのけぞったジールに畳みかけるように攻撃を仕掛けようとした彼女を止めた。
そして、ジールがもう片方の腕を地面にバシンバシンと掌で叩きつける。すると、地面からは乾ききった肌とぽっかりと開いた眼窩が特徴的な無数の人間・・・もはや命を失って久しい死者たちが両手を前に突き出して、おぼつかない足取りで迫ってくる。
(あれに捕まったら身動きが取れないよ!)
「・・・ちっ、どこまでも我を不快な気分にさせるつもりだ」
今度は赤色の炎に手をかざすと、巨大な大剣を取り出した。
「憤怒の霊剣」
大剣の刃に激しく炎が噴き出し、ぞろぞろと襲い掛かってくる死者たちに向かって、オクタヴィアが大剣を力いっぱい振るった。巨大な炎の塊がいくつも飛び出して、死者たちを丸ごと飲み込んでいく。肉が焼けていく匂い、死者たちの無念と怨嗟に満ちた断末魔が響き渡る。
「生者と死者の世界を反転させるだと?そのような愚行をよくもまあ思いついたものよ。この世界をそのような形で終末を迎えさせるわけには行かない。そもそも、お前たちにそのようなことをやる資格などない」
-お前に何が分かる!!光が一切挿し込まない闇の世界に閉じ込められて、日の当たらない生活を強いられてきたことが運命づけられているアンデッドの気持ちなど、お前には分かるまい!!ー
「この地に住むアンデッドたちは、生者と死者の世界の境目を守護する選ばれた墓守の一族としての使命を全うしてきて、今日に至るまで生者の世界と死者の世界の均衡が崩れないように努めてきた。お前はそんな彼らの誇りさえも踏みにじるようなことをしている。泣き言を言う資格などない」
-黙れ、黙れ、黙れぇぇぇっ!!私はこんな光の差さない。暗くて陰鬱とした世界で墓守として一生をささげるなど御免だ!!我々が生者になり代わってこの世界を支配してしまえば、もう光さえも恐れることない!!そして、不老不死である私こそが、この世界の覇権を握り、未来永劫、この世界を支配する女王として君臨するのだ!!-
ジールの狂気に満ちた罵声と妄執に、オクタヴィアは心底耳障りだと言わんばかりに表情をしかめる。
「・・・そうか。お前もあの女の甘言に取り込まれたのか。トーマの身体の中からこれまであの勇者に関わってきた連中と同じことを言っている。あの女に利用されていることにさえ、気づかないとはな」
松本千鶴はもはや人の形をした”呪い”か”祟り”そのものだ。
近づくものを一人残らず破滅に導き、自分自身が思い描くすべてが死に絶えて無と化した世界に還ることだけが、彼女が勇者として信じる唯一の正義であり、そのためなら自分自身の命さえも犠牲にすることを厭わない。
もはや、存在してはいけない存在としてオクタヴィアは認識した。
危険すぎる。
これではかつて戦った”外の世界の神々”と呼ばれる邪神の方がまだマシだ。
彼女の思想は、かつて自身の命を懸けて戦い、封印した悪しき存在をはるかに上回る禍々しいものだ。
「それなら我も決めたぞ。ーそこで、我のことを見ているのだろう?異世界からやってきた災厄よ」
ジールを、いや、彼女を通して自分のことを遠く離れた地で見ているであろう松本に向かって、オクタヴィアは怒気を孕んだ声で語り掛ける。
「我々は一人として、決してお前になど屈しない。お前が思い描く救済など、我々が必ず打ち砕いて見せる。お前という存在そのものをこの世界から排除する。せいぜい、首を洗って待っていることだな」
(オクタヴィア!)
「トーマ、私もお前の”仲間”として、この世界に生まれた民の一人として、民を導く王族の血を引くものとして、お前たちの戦いに加わらせてくれ。私もこのセブンズヘブンを守りたい」
失いたくない。
虚無の魔王の中で、確かに生まれた熱い感情の炎。
うつろで感情を読み取ることが出来なかった瞳に、光が灯った。
「消え去れ、道化よ!!嫉妬王の霊鎌!!」
ジールの足元から無数の緑色の鎖が飛び出して、彼女の巨体に、腕に飛びつくと蛇のように動きながら縛り付けていく。そして、先端についている鋭い刃が肉に深く食い込んでいき、ジールは悲鳴を上げた。
-ギャアアアアアアッ!!!い、い、痛ィィィィィィィッ!!?この、忌々しい鎖めっ!!何をするつもりだっ!?これで私の動きを止めるつもりか!?ー
「・・・いいや、お前をこれから食ってもらうことにしたのさ。嫉妬に狂った大蛇にな」
そして、オクタヴィアがジールの身体に向かって手から黒い蛇のようなものを放つと、蛇はジールの左目の中に飛び込んで、そのまま潜り込んでいった。
(一体何をしたの?)
「あの小僧の言葉は偽りではなかった。闇の魔神に身体を憑依されているにもかかわらず、自我を保ち続けているとはなかなか強靭な精神の持ち主だな。あやつの心の中を覗いてみたが、アイツの言葉には嘘は一切なかった」
闇の魔神オプスキュリテに憑依されながらも高森は自分の自我と意識を保ち続けていた。彼がこの世界を守りたいという願いも、嘘偽りのないものだったと聞かされて、斗真は絶句する。
ー貴様ァァァァァァ!!邪魔をするな!!私はこの世界を支配する死者の女王として永遠に君臨するのだっ!!-
「・・・それがお前の最期の遺言か。哀れなものだな、自分の欲望に振り回された挙句に、我が身を滅ぼすことになるとはな」
その直後。
ジールの足元の影が大きく揺らめいた。
そしてそれは、禍々しい赤い光を放つ巨大な”大蛇”の姿に変わって、大きく裂けた口をぐわっと開き、ジールの巨体を丸ごと口の中へと取り込んでいく。
「生者を妬み、光を嫉み、嫉妬に狂った挙句に主を裏切り、己の使命さえも忘れて、現世と常世の均衡を乱そうとする哀れな亡者よ。嫉妬に心を支配されたお前にふさわしいのは自分で自分を傷つけ続ける無限の闇の世界だけよ」
大蛇が一気にジールの身体を丸ごと”飲み込んだ”。
-ヒィッ・・・!!い、い、イヤァァァァァァァッ!!もう、暗闇は、嫌っ・・・!!誰かぁぁぁぁぁぁっ!!助けてっ!!許してっ!!ヒィィィィ・・・!!何も見えない、何も聞こえない、真っ暗な闇に飲み込まれて消えるなんて・・・嫌ぁぁぁぁぁぁ・・・!!-
ジールが涙を流して、必死で手を伸ばすが、彼女の身体はもはや無限に続く闇の中にずっと溺れていく。
光が一切差さない、絶望さえ生ぬるい虚無の闇に取り込まれた彼女に待つのは”無”だけである。
大蛇が地面に溶けるように消えると、オクタヴィアの足元に影となって戻っていった。
「・・・さて、そろそろ魔法も解ける。気をしっかり持つのだ。お前がやろうとしていたことを全て話してもらうぞ」
オクタヴィアが高森を抱き上気た瞬間、反転していた世界の色が元に戻った。
ジールを撃破し、次回、高森の口から真実が明かされます。
そしてヴィナグラート魔城にも異変が発生し・・・?
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!!




