第十六話「ブラオベーレの女王・ヴァネッサ~女王様は好奇心旺盛~」
いつも拙作を読んでいただき、本当にありがとうございます。
新作が描きあがりましたので、投稿いたします。
どうぞよろしくお願いいたします。今回、斗真が追放された原因の裏事情について少し書かれています。
「目が覚めたか。身体の具合はいかがかな?」
執務室に通されて、僕に声をかけてくれたのはウェーブがかかった青緑色の髪と青色の瞳、そして魚のようなヒレを耳がある部分から生やしているのが特徴的な綺麗な女性だった。
「あ、はい。助けていただき、ありがとうございます」
「いやいや、礼を言わねばならないのは私の方だ。ああ、自己紹介が遅れてすまない。私はこのブラオベーレ王国の王、ヴァネッサ・フォン・ヴェパル6世である。以後、よしなに」
ええーーーっ!?
この綺麗なお姉さんが、このブラオベーレの女王様だって!?
僕が驚きのあまりに言葉を失っていると、レベッカさんが部屋に入ってきた。
「おーっす、ヴァネッサ。話はもう終わったのか?」
「ちょっと待ってぇぇぇっ!!女王様相手にため口はまずいでしょうがぁぁぁっ!!」
「え、何で?」
何でって聞くな!!
アンタの頭の中には不敬罪という単語は登録されていないのか!?相手は一国の王様なんだから、ちゃんと敬語を使わなければいけないでしょうが!!
「トーマ、諦めろ。コイツにそんなものを期待するだけ時間の無駄というものだ」
「アッハッハッハ!!相変わらずねえ。まあ、私が言うのもあれだけどレベッカはもうちょっと目上の者に対する言葉遣いとか礼儀作法を身に付けておいた方がいいと思うわよ?傭兵団のリーダーなんだから」
あれ?急に女王様の言葉遣いがすごくフランクな感じになっている?
「まあ、これが素の私ってことよ。レベッカたちと話をするときぐらいは肩の力を抜いて話している方が楽しいからね。さあ、よかったらそこに座ってくださるかしら?今、お茶を用意しましょう」
こうして、まだ混乱が収まっていないまま僕たちは部屋に通された。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「まずはガラパゴの村を救ってくれて、心からお礼を申し上げますわ。本当にありがとうございます。貴方が作ってくれた”てんと”のおかげで、負傷した村人たちの怪我はだいぶ回復してきたという報せが入ったわ。本当に・・・ありがとうございます」
そう言って、ヴァネッサ女王は深く頭を下げた。
「あ、いえ、その、皆さんがご無事で何よりです」
「貴方は実に謙虚ね。貴方が作り出したものはこの世界の文明では想像すらつかないほどの技術によって生み出された、異世界の技術の結晶ともいえるほどの貴重なものなのよ?それだけのものを作り出したうえに、今後もガラパゴの村に無期限かつ無償で貸してくれるなんて、こっちとしても何かお礼をしなければ気が済まないわ」
そう言って、今後ヴァネッサ女王はおすそ分けという形でマリブの海で採れる新鮮な海産物や、水の聖霊石を必要な時に用意できるだけという条件でこっちに回してくれるらしい。それがテントの使用料金の代わりだという。
「水の聖霊石を加工すればお前も魔法闘衣だけではなく、様々なものが作れるだろう?」
「そうですね。水の魔力が込められている聖霊石なら、例えば炎属性の魔法を無効、もしくは半減させることが出来る【ローブ】とか作れそうですし、暑い時にひんやりと涼しくなれるシーツや寝具、洋服とかも作れると思います」
「すごいわね。それ、出来上がったら私にも見せてくれないかしら?というか、新しいものが出来たら私に教えてほしいわ」
ヴァネッサ女王も乗り気で、目をキラキラさせながら話に飛びついてきた。
「僕は構いませんが、ヴァネッサ女王はその、僕が作ったものなんかでよろしいのでしょうか?」
「ええ、貴方の魔法裁縫師としての実力はてんとや魔法闘衣を見てかなりの実力を持っていることは確認できたし、貴方のその誠実で真面目で、素朴で素直な所が気に入ったわ。身内同士の間なら、私のことはヴァネッサと呼べばいいわ。私もトーマと呼ぶし」
「ほえええ!?そ、それでいいんですか!?」
「本人がそれでいいって言ってるならいいんじゃねーの?なあ、ヴァネッサ!」
「お前はもう少しリーダーとしての自覚に目覚めてほしいものだがな」
アイリスさんがほうっと紅茶を飲んで、艶っぽく息を吐き出す。
「アイリスさん、どうかしたんですか?何だかつかれているように見えますけど・・・」
「・・・ああ・・・実はさっきまで話し込んでいたのだがな。午前中にクロスから勇者の一人が国王とセルマの自筆の詫び状を持ってきてな、今度の騒ぎにおける責任の追及をしていたのだが、その時にクロス王国で起きているちょっとした騒ぎの話を聞かされたのさ。全く聞けば聞くほど呆れてものが言えないとはこの事だろうな。クロスの内情は現在大混乱に陥っているそうだ」
「それって、鳳が勝手に攻め込んだことで大騒ぎになっているんですか?」
「まあ、それもあるんだが、そもそもその原因となった事情に問題があったんだ」
アイリスさんが頭痛をこらえるように指でこめかみをおさえると、ヴァネッサさんも遠い目をして深くため息をついた。
「・・・まさか、あのクロス王国がここまで腐敗していたとはな」
「元々あの国など一日でも早くこの世から消え去ってほしいと願っているから、正直ざまぁという感じだがな。しかし、それが原因でトーマがこんなひどい目に遭っているのだから、実に腹ただしい限りだ」
「それって、どういうことですか?」
「なあなあ、バカにも分かりやすいように説明してくれよ」
「そうだな、それではバカにも分かるように話してやろう」
「だってよ。よかったな、トーマ!」
「・・・バカはお前のことを指して言ったつもりなんだが」
アイリスさんはため息をついて、静かに話し始めた。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「クロス王国の第三王子がブラオベーレの貴族のご令嬢に振られた腹いせに、勇者を仕掛けて嫌がらせをするために今度の計画を考えたですって!?」
「ああ、3ヶ月前にクロス王国と友好を結んでいる国の貴族や王族が集うお祝いの席で、クロス王国第三王子のアイザックがこの国の貴族の名門であるアイアンズ家のご令嬢に一目ぼれをしてな。宴の席でいきなり一方的に声をかけて自分と付き合うように言ったらしいのだが、その場で断られたんだ。何せ彼女には婚約者がもういたのだからな。貴族たちの付き合いの関係で、親の命令で仕方なく宴席に参加させられていただけだというのに、バカ王子は彼女が独身だと思い込んで、一目ぼれもあってかかなり情熱的に迫ったらしい」
ところがそれを大勢の人前であっさりと断られたと。
うん、婚約者がいる女性にいきなり初対面なのにお付き合いしろとか迫ったら普通断られるよね。
「それに憤慨したアイザックはそのご令嬢と貴族の家に恥をかかされたということで報復をしてやろうと思いついたらしい。その家は長年ガラパゴの村がある地域の領主をしており、水の聖霊石をクロス王国に定期的に差し出す仕事を統括する家だった。そこでヤツは思いついたそうだ。ガラパゴの村に住むタラスク族は実は魔王軍の一味で、クロス王国と友好を結ぶふりをしてクロス王国に攻め込もうとしている裏切者だと勇者に吹き込んで、勇者にガラパゴの村を滅ぼさせようと目論んだんだ」
そこでタラスク族が全滅したうえで、彼らが魔王軍の一味であり、ブラオベーレは魔王軍と結託してクロス王国に攻め込もうとしていたという話をでっち上げて、ブラオベーレはクロスとは友好国ではなくクロスの領土として侵略を仕掛けるつもりだったという。そうすれば、ブラオベーレから金を払って聖霊石を買い付けなくても貴重な資源を全て手に入るうえに、そこでブラオベーレを滅亡させたくなければご令嬢の婚約を破棄して、アイザック王子と結婚すれば国だけは助けてやろうという条件を持ち掛けるつもりだったという。
「つまり勇者軍を利用してフラれた腹いせをするどころか、そのご令嬢がいる国まで手に入れようとしていたっていうのかよ?マジでバカか、ていうかクズだな!?」
「本当にその話を聞いたときにはマジでクロスを滅ぼしてやろうかと思ったわよ。でも、あのサクラとチヅルとかいう勇者たちが、前々からアイザックが貴族や商人たちとつるんで裏でやっていた数々の悪事の証拠を暴き立ててアイザックの味方をしていた貴族や商人を全員粛清したのよ。その中には大金を積まれればクロス王国を裏切って他国に情報を流すことも平気でやるようなものもいたらしくてね。金や権力、女といったものを出されたら平気で国を裏切るような愚か者はこの国にいらないということで、全員牢屋に幽閉されることになったわ」
桜と松本がどうしてそんなことをしたんだろう?
まあ、魔王軍を討伐しようと言っている時に、もし味方だと思っていたクロス王国の内部に魔族と通じていて情報を横流しするようなヤツがいたら、計画が全部漏れて魔王軍に先手を打たれる可能性もあるからな。それを危惧して、まずは自軍に裏切者はいないかと思ってそんなことをやったのだろうか?
「アイザックは焦っただろうな。所詮アイザックなど【王位】しかない無能な男だ。いいカモとして味方のふりをして抱き込もうとしている貴族や商人たちの支えがあったから一応王子として認められていたんだ。外交に於いても軍事においてもろくに知識もないうえに、権力を振りかざして平民に好き勝手な乱暴を行っている無能な暴君など味方がいなくなればあっという間に潰されるだろうさ。このままでは自分も罪に問われて、最悪王位をはく奪されたのちに僻地に追放されるかもしれないと恐れたヤツは、雷の勇者キリトに目を付けたんだ」
「何でも自分の侍女を寄こして、彼女にキリトとかいうバカ勇者を誘惑し懐柔することに成功させたそうね。侍女の色香と美貌に虜にされたキリトは彼女に言われるがままに今度の計画を実行に移したそうよ。元々キリトは他の勇者たちと対立していたらしくてね、対立した勇者に無能呼ばわりされて、自分の実力を見せつければ相手を見返し、女の勇者たちを自分の女にしようと思っていたみたいよ」
「なるほどなー。バカ王子の侍女と気持ちいいことをしてもらって骨抜きにされた挙句にバカ王子の復讐の道具に利用されたってことか」
「・・・鳳らしいよ」
つまり、今度の事件は第三王子が失恋、しかも自爆で終わったにもかかわらず、逆恨みで他国に、しかも友好国を魔王軍の一味と嘘をついて勇者を騙して襲撃を仕掛けて、国も聖霊石もご令嬢も全て手に入れてしまおうという下らない思いつきが原因ってこと?
「・・・シメてもいいですか?」
「トーマ、気持ちは分かるが落ちつけ。お前が言うと怖い」
「おう、目がかなりヤバいことになっているぜ?」
そりゃこの時点で、第三王子には集中治療室に運び込まれるぐらいにはボコボコにしないと気が済みませんよ。
「でも、どうしてそいつがトーマの追放に絡んでいるんだ?」
「サクラの話によると、アイザックがそもそも王宮魔導師からの間違った報告を受けて、斗真を無能な裁縫師として勘違いした挙句に、わざわざ勇者たちに命令をして斗真を殺すように命令したからだそうだ。クロス王国を裏切ったらどうなるのか、召喚した異世界人に対する見せしめのためにな。断ったら国家反逆罪で捕らえて全員処刑するとまで言ったそうだ」
・・・・・・はい?
・・・・・・なるほど、そうですか、僕がこんな目に遭ったのは。
・・・・・・そのクズ王子が原因ですか?
・・・・・・僕の頭の中で、何かが切れた音がした。
・・・・・・上等じゃねえか。
そっちがその気なら、こっちだってやってやるよ。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
許されるわけがない。許されようとも思わない。
梶っちをあんな形で裏切り、命まで奪おうとしたことには変わりはない。
それに、あのクズ王子からの命令だけではない。
クロス王国の筆頭王宮魔導士・セルマ。
アイツにも、オレたちの大切なものを人質に取られている。
もし歯向かえば、アイツはオレたちの大切なものを容赦なく破壊するだろう。
それだけは何が何でもやらせるわけにはいかない。
オレたちの大切なものを取り戻すためなら・・・。
鬼にでも、悪魔にでもなってやる。
それがオレが【風の勇者】であり続ける理由だ。
鳳桐人が暴走した理由、それはクロス王国第三王子アイザックが貴族の令嬢に振られて、その腹いせに国ごと乗っ取って自分のものにしようなどという愚かな計画の道具として利用されたからです。まあ、侍女の色仕掛けに引っかかったとはいえ、アイザック王子が将来を約束するなどという発言を真に受けて、あっさりと斗真を殺そうとしたり、他国に乗り込んでいく辺りは考えが足りない人間だったのですが。
後半の語りは桜のくだりとなっております。
勇者たちに対して無理矢理魔王軍の討伐に利用しようとしているのは王宮魔導師のセルマやクロスそのもののようです。アイザックの末路については次回ご説明いたします。




