第十六話「風の回廊の戦い!①~ヴィナグラート魔城攻略戦⑩~」
いつも拙作を読んでいただき、本当にありがとうございます!
新作が書きあがりましたので、投稿いたします!どうぞよろしくお願いいたします!
【三人称視点】
コチ、コチ、コチ・・・。
巨大な時計塔の中には、規則的な時を刻む歯車と秒針の音が木霊するほどに静まり返っている。
ここまで静かだと、気味が悪い。アイリスとニナは警戒しながら時計塔の中を進んでいく。
「・・・敵の気配もまるで感じないとは、妙だな」
「もしかして、この時計台には誰もいないのかしら?」
「侵入者が忍び込んでいるという非常事態なのに、誰一人警備がいない状況など異常過ぎるだろう」
「・・・まあ、敵はいないけど、ものすごい数の罠が仕掛けられているわよ」
ニナの瞳が緑色の瞳を妖しく輝かせると、彼女の瞳には壁や床、至る所に仕掛けてある罠が透けて見えた。
よほど時計台が重要な場所なのか、誰一人近づけさせない様に厳重な警備網を敷いている光景は明らかに妙だ。
「まあ、罠などあっても回避すればいいだけだ。ニナ、案内を頼むぞ」
「了解」
アイリスに言われて、ニナは影から大きなかごを取り出して背負い込む。巨大な竹を編んで作られたかごの中にはぎっしりと黒い玉のようなものが詰め込まれていた。
「何だそれは」
「爆弾に決まっているでしょう」
「いや、答えがおかしいぞバカ。どうしてそんなに大量の爆弾を背負っていく必要があるのだ?」
「幽霊やアンデッドが出たらブッ飛ばすために決まっているでしょう?」
アカン、コイツ、マジでサイコパスだ。
アイリスは改めて自称常識人である彼女の性格が、かなりヤベェ思考回路をしていることを実感する。
「ヴィナグラート魔城ごとブッ飛ばすつもりか、お前は」
「ゴーストやアンデッドの巣窟になっているような墓場や城なんてこの世から消し去ってしまったほうが世のためよ」
「いや、それはお前の考えであって、世間一般の常識と照らし合わせたら、明らかにヤバいからな?」
「そもそもこの傭兵団の隊員を続けていられる時点で、誰一人としてそんなものがあるわけないでしょう。モラル?常識?そんなもの、遠い昔に捨ててきたわ」
「オバケが怖すぎて、とうとう頭がおかしくなったか」
「そうでも思ってないとやってられないでしょうがぁ!?第一、お化け屋敷とか幽霊が出る城とか、そんな場所なんかにダンジョンを仕掛けるわ、ヴィルヘルミーナたちを連れていくようなバカのせいで、こんな目に遭っているのよ、こちとらぁっ!!こうなったら全員地獄に道連れにしてやらないと気が済まないわよ!!」
ニナの理性は完全に破綻していた。いつ仲間たちを巻き込んで、城ごと木っ端みじんに吹き飛ばしてもおかしくない爆弾系女子と化したようだ。目は完全に血走っていて、焦点が定まっていない。
その時だった。
「全く、私たちの城に勝手に乗り込んだ挙句に、爆弾で吹き飛ばそうとするなんて、”彩虹の戦乙女”は随分と質の悪い連中ね」
アイリスたちの前に黒い靄が噴き出し、靄の中から顔を黒いヴェールで隠し、黒いドレスを着込んだ長身の女性が現れた。髪の毛は艶やかな銀色の光沢を放ち、青白い肌に吸い付くように着込んでいるドレスは、彼女の出るところは出て、引っ込むところはキュッと引っ込んでいるモデルのようなスタイルを強調しているかのような体躯で、180㎝以上の長身を持つ女性だ。
「・・・死霊術士か。しかし、この気配はお前も死人か?」
「ええ、私は【ファフナー・ドゥンケルハイト・ファンドゥーム】と申しますわ。このヴィナグラート魔城の主【タカモリ・シロウ】様に仕える死霊術士でございますわ」
「ファンドゥームだと!?禁忌と言われている”死者蘇生”の呪法の研究に手を出し、その結果、大量の死人をゾンビやグールに復活させて国一つを壊滅に追い込んだと言われている、悪魔の死霊術士の一族か!?」
アイリスが目を見開き、驚愕する。
「・・・確か500年ほど前の話よね?ファンドゥーム家は死霊術士の称号や地位を奪われて、死者をアンデッドとして復活させて大勢の犠牲者を出したことで、一族は捕らえられて、全員処刑されたって聞いたことがあるわ」
「・・・ふん。昔の話はどうでもいいわ。私の任務はこの城に忍び込んた侵入者を排除すること。穴奈たちのその命、この私がもらい受ける!!」
ファフナーが手に持っている杖をかざすと、杖の先端の宝石が不気味な紫色の光を放つ。
アイリスたちの周りに結界を展開すると、床に浮かび上がった魔法陣から身体中の肉という肉が腐り果てた生ける屍【ゾンビ】が現れた。ニナの表情が真っ青になり、すかさず背中の爆弾を手に取り、一斉に投げつけた!
「お、お、鬼はァァァ、外ォォォッ!!」
「本当に投げつけるバカがいるか!!」
「福は内ィィィッ!!」
爆弾を豆まきのように投げつけまくり、強烈な爆風を受けてゾンビが吹き飛ばされる。鬼の仮面をつけて爆弾を手あたり次第に投げつけまくるニナの方が敵よりも物騒で危険な存在と思いつつ。アイリスも弓矢を構えて相手の動きを探る。
しかし、ファフナーの姿はどこにもいなかった。
その代わり、巨大なドクロが現れると大きな口を開き、青白い火の玉を放った。
アイリスが火の玉をかわして矢を放つが、電撃の矢はドクロをすり抜けていった。
「チッ、幻か」
「貴方たちに私は倒せませんわ。もう貴方たちは私が仕掛けた霧の結界に捕らえられた哀れな獲物。実体のない私を矢で射貫くことも、爆弾で吹き飛ばすことも不可能ですわ!」
「じょ、冗談じゃないわよ!?実体がないって、それじゃまるで幽霊じゃないのよ!?」
「だから、最初からアイツは死人だと言っているではないか!!死人も幽霊も同じようなものだろう!!」
「お、お、おばけなんていないもん!!寝ぼけたどこかのクソガキが親か泥棒と見間違えただけだもん!!いないったらいないの!!いたら怖いから!!」
「何だその謎理論は!?」
ニナは涙を流して、半ばパニックになる。斗真を連れ戻すと気合を入れたはいいが、やはり怖いものは怖いのだ。むしろここまで彼女が理性を失わずにいられた方が奇跡とも言える。
しかし、アイリスも実体がない相手にどう対策を打てばいいのか、必死で頭脳をフル回転させる。矢を放っても彼女の身体をすり抜けてしまった以上、物理的なダメージを与えるのは不可能かと思われる。しかし、どんな不死身の怪物であっても必ず弱点というものは存在する。実体のない相手にも、全く手の打ちようがないということはない。それが長年傭兵として様々な相手と戦い続けてきた経験から学んだことだ。
どう対抗するか考えていると、ニナが口を開いた。
「・・・一つだけ、手があるわ!」
「何?それは本当か?」
「ええ、これなら例え実体のない相手でも確実にダメージを与えられる自信がある!」
「あら、随分と大きく出ましたわね。出来るものなら、やってみなさいな!」
再び床からゾンビが現れる。
アイリスが弓矢を構えると、ニナが懐から黒い小型の箱のようなものを取り出した。
「アイリス、ゾンビを倒したら私がこれであのデカ女にとっておきの一発をくれてやるわ!」
「失敗は出来んぞ。いいのか?」
「ええ、安心して。これに敵うヤツなんて、この世には多分いないわ!」
「・・・そうか、それなら私の背中はお前に預けたぞ!」
アイリスが電撃の矢を放つと同時に、ニナは手に握りしめている小型の箱を力強く握りしめた。
使い勝手を間違えたら、自分でさえも命の保証が出来ない危険なアイテム・・・【超高性能音声レコーダー】を震える手で操作して、音声を最大出力にして解き放った。
この世のものとは思えない、全ての生きとし生けるものに強烈な精神ダメージを与えて、体調不良や精神の汚濁、意識不明に陥らせるだけではなく、この魔城では耐久出来るかどうかでさえも危うい破壊兵器。
アイリス・アーヴィングの【歌】をニナは解き放った。
『かくし芸大会ナンバー5番、アイリス・アーヴィング!心を込めて歌います!』
「・・・何?」
「え?」
「GO TO HELL!!」
ニナが耳栓を着けて最大音量で歌を流した。敵も味方も問わず大ダメージを与える地獄の宴の始まりである。
『ほ゛ぅ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛~っ!!!』
「ぎゃあああああああああああああああああああああっ!?」
城内に悪魔の歌と、ファフナーの悲鳴が響き渡った。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
『いやああああああああああ!?』
『何だ、この、この世のものとは思えない、酷い歌はぁぁぁぁぁぁっ!?』
『やめてやめてやめてやめてぇぇぇぇぇぇっ!!』
『殺してぇぇぇっ!!もう死んでいるけど、もう一度殺してくれぇぇぇっ!!』
『うえええん!!おかあさぁぁぁん!!』
『うけけけけけけけけけ!!あひゃひゃひゃひゃひゃ!!』
城内はもはや地獄絵図と化した。
城の中に響き渡る悪魔の歌を聴いたゾンビが泡を吹いて気絶し、ゴーストが半狂乱になって泣き出し、場内を警備していた魔物たちが頭痛、呼吸困難、吐き気を催して次々と倒れていった。あまりの酷い歌に頭が割れるほどの頭痛を引き起こした魔物の中には、意識を強制的に断ち切って夢の中へと避難するものまで出る始末である。
石壁をガリガリと爪でひっかいて助けを求めるもの。
顔中から液体という液体を垂れ流して、白目を剥いて全身を痙攣させているもの。
精神がおかしくなって、とうとう現実から目を背けて大声で笑い出すものまで出てきた。これは夢だ。こんなことが現実にあるはずがないのだ。こんなにも凄まじく酷いオンチな歌などこの世にはないのだ。
「・・・ど、どこのドアホや、アイリスの歌なんて流しよったんは!?」
「・・・アハハハ、これは予想外のいい気つけ薬だったねえ」
オリヴィアとヴィルヘルミーナも耳栓をとっさにつけたが、少しだけ聞いてしまったせいで顔色が悪く、二日酔いに似た頭痛と吐き気、倦怠感に悩まされていた。まあその結果、城内の警備が全て使い物にならなくなり、二人は悠然と城内を歩き回ることが出来た。
ヴィナグラート魔城内の魔物たち、アイリスの悪魔の歌に全滅。
某ガキ大将の歌が名曲に思えるほどの凄まじいオンチです。もはや破壊兵器レベル。
次回もどうぞよろしくお願いいたします。




