第二十五話「傷だらけのバカたち~~ネバー・ギブアップ~」
いつも拙作を読んでいただき、本当にありがとうございます!
今回で第十章は終わりになります!
どうぞよろしくお願いいたします!
【寅若光視点】
私は、どうしようもない大バカだ。
絶対に失ってはいけないものを、自分の手で壊してしまった。
何度でも、立ち止まるチャンスはあったのに。
つまらない意地を張って。
自分だけが正しいんだと必死に言い聞かせて。
拳を振るい、目の前の敵を倒し続けることで自分を正当化してきた。
戦いから逃れられないなんて、まるで悲劇の主人公のように思い込んで。
自分の胸の奥から湧き上がる不安や苛立ち、自己嫌悪、恐怖を無理矢理に振り払うために。
自分が傷つくことから、必死に逃げるために。
私は、斗真を傷つけたんだ・・・。
分かっていたはずなのに。
斗真が明を殺したわけじゃないってことも。
それどころか、私や明を必死で守ろうとしてくれていたことも。
私たちを争いから遠ざけることで、平和な生活、日常を守ろうとしてくれていた。
それなのに、私は明を失ったのは、全部斗真のせいだと思い込んだ。
私が斗真の言うことを聞かないで、勝手なことをしたから、明は・・・死んだ。
その現実をどうしても認めたくなくて、斗真を憎んでいたんだ。
私のせいで、家族を失ってしまった現実から目を背けたくて・・・。
それなのに。
アイツをこの手で刺した時、斗真は私をかばった。
こんなどうしようもない私のことを、アイツはまだ「親友」と呼んでくれた。
”・・・一人ぼっちって・・・やっぱり・・・辛いし・・・苦しいし・・・寂しいよ。”
”だって、光は俺にとって最初に出来た、友達だから。”
”・・・孤独にしてしまって、本当に、ごめん・・・!”
アイツがどうして謝るんだ。
私が自分で選んだことなのに、どうしてアイツが私に謝るんだ。
どうして私を責めない?
どうして私を見捨てない?
私は、斗真に見捨てて欲しかった。
こんな愚かでどうしようもない私のことを、切り捨てて欲しかった。
お前が憧れていた幼なじみなんて、最初からいなかったんだから。
両親に捨てられて、世間の冷たい目に怯えて、他人に干渉されることを恐れて、近づくものすべてを傷つけることでしか、自分や自分の守りたいものを守ることが出来ない、ちっぽけでみじめな存在なんだ。
お前のような、本当に強いヤツが憧れるような存在なんかじゃないんだ。
私よりも、斗真、お前の方がずっとずっと強いし、私の代わりに生きているべきだったんだ・・・。
ああ、今すぐにこの爪で首を引き裂いてしまえば、私は、斗真に償うことが出来るのだろうか?
私のような生きていてもどうしようもないヤツなど、今すぐにこの世から消えるべきなんだ。
それが斗真にとっても、償いになるだろう。
斗真・・・。
もう二度と会えないんだな。
お前はきっと天国に行けるはずさ。
あれだけ多くの人たちに愛されて、多くの人たちを守り続けてきたのだから。
私は間違いなく地獄行きだ。
つまり、もう死んでも向こうで会うことはないだろう。
まあ、元々お前にはもう会わせる顔がないからな・・・。
その時だ。
「・・・失礼します、面会、大丈夫かな?」
医務室のドアが開き、入ってきたのは幕ノ内桜だった。
どうして、幕ノ内がこんなところにいるんだ?私は幕ノ内とは話したことはない。
「寅若さん、身体の具合はどう?」
幕ノ内は椅子に座り、そう私に話しかけてきた。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
【三人称視点】
「・・・俺はお前のことを責める資格はねえ。俺も斗真を追放したからな。守りたかったものがあった。俺はアイツと家族を天秤にかけて・・・斗真を追放する道を選んだ」
桜は絞り出すように、感情を感じさせない低い声で語る。
「・・・それでも、自分のことを許せない」
「・・・」
「・・・それなのに、アイツは俺を許した」
顔をうつむいたまま、白く細い手を震えるほどに握りしめる。
「・・・寅若さんを許してしまうと言うことは、レベッカさんたちを傷つけることになる。それに、寅若さんが斗真を敵とみなして攻撃を仕掛けてきたのは事実なんだしな。そいつを許してしまうと言うことは、傭兵団の結束を崩す最悪の判断だと思う。俺はこの判断をした時点で、斗真が傭兵団に離反したと言われても仕方がないと思っている」
「・・・斗真を切り捨てるつもりなのか!?」
「・・・それも致し方ないことだろうな」
斗真が光を連れ戻そうとする。
そのままの意味で行動した場合は、斗真は仲間の危険を顧みずに自分のワガママを通すと言った重罪になるのだ。自ら投降したつばさとは違い、仲間だから助けたいという理由だけでは、筋が通らないのだ。
「・・・だから、俺は陛下にこう進言した。斗真は二極神とまで呼ばれるほどの、魔神八傑衆の中でも上位に君臨する存在を投降させて、魔神八傑衆が再び復活して誰かに利用されないために、自らの監視下に置くために寅若光を取り戻そうとしていた、とな。それに、光の魔神であるお前の力を利用させてもらえば、クロスを攻め込むために必要な魔導兵器の最後の詰めを仕上げることが出来るし、敵の情報を聞き出すことが成功すれば、クロスの攻略にも役に立つ」
斗真の意志だけではただのワガママでしかなく、斗真がレベッカたちに反旗を翻す背徳行為にもなる。しかし、桜はそれを利用して、二極神と呼ばれる実力を持つ光の力を利用したのだ。そうすることで、魔導兵器の強力な破壊力を倍増させるだけではなく、例え嘘をついてでも、斗真の意思とは違うものであったとしても、斗真が無事戻ってこれるように尽力したのだ。桜の得意の口八丁は事実と嘘を上手く交えながら、ベアトリクス王とレベッカに、斗真が罪を問われることがないように弁舌をまくし立てた。
そして、桜の本当の意思を汲んだベアトリクス王とレベッカは、それを承諾したのだ。
『・・・トーマちゃんのフォロー、感謝するわ』
『オレたちはそういうこと、気にしねえんだけど、渡世のしがらみって言うヤツがあるなら付き合うぜ』
桜は大きく息を吐いた。
「・・・斗真は怒るだろうけど、俺は斗真を守るためなら何でもやるよ。例え、汚れ仕事に手を染めてでもな。そうでもしなかったら、斗真のことを守ることは出来ない」
「・・・お前はどうして、斗真のために、そこまで出来るんだ・・・?」
「・・・追放して、一度は殺そうとまでした俺をアイツは許した。殺されても当然なのに、こんなどうしようもない俺を助けてくれたばかりか、頼ってくれたんだ。何もかもをなくして、俺は死を受け入れようとした。でも、斗真が俺のことを何度も呼び戻して、俺のことを頼ってくれた。自分のことを殺そうとしたヤツを助けたばかりか、頼ってくるようなヤツが普通いるか!?でも、アイツは俺のことを仲間として受け入れてくれたんだ・・・!」
こんな自分のことを頼ってくれた時、どれだけ嬉しかっただろうか。
自分のことを仲間として、兄弟分として受け入れてくれた時、どれほど胸を打たれたことだろうか。
呆れるほどにお人好しで、バカで、心優しいアイツを、自分が命を懸けて守らなくちゃいけないと思った。
「それならこんな俺に出来る事なんて、アイツのために命を懸けて、身体を張って、守ることしかないじゃないか。そのために、俺の人生の全てをかけてアイツを守っていきたい、アイツの隣に並んで歩いて行けることが出来るようになりたいんだ。アイツが一人で勝手に悩んで暴走しないように」
そう言って、桜は光を真剣なまなざしで見つめる。
「・・・斗真は俺に後を任せるって言っていた。だから、俺はアンタに会いに来たんだ。どうしても伝えなくちゃいけないことがあったからな」
「・・・伝えなくちゃいけないこと?」
「死んで詫びるなんて、俺は絶対に許さない。俺も、そして斗真もだ」
桜の言葉に、光は目を見開いて驚きをあらわにする。
「・・・どうして・・・?」
「そんなこと、顔を見れば誰でも分かるよ。お前は貴重な情報を知っている存在なんだ。勝手に死なれたら迷惑だし、斗真を助けるための切り札としての役割が果たせなくなる。まあ、これは俺の言い分だ。そんなことをやっても、誰も救われないし、誰も救うことが出来ない」
「・・・でも・・・私は一体・・・どうやってアイツに・・・詫びればいいんだ・・・?」
「そんなこと、アタシが知るわけないじゃん」
ぶっきらぼうな物言いだが、桜は真剣な表情で光を見つめながら話を続ける。
「・・・どうやって謝ればいいのか、どうやって償えばいいのか、自分が納得できる答えが見つからないなら考えればいい。考えたいなら生きればいい。死んで楽になろうなんて考えなんか思いつかなくなるぐらい、悩んで、悩んで、悩みまくれ。そのうち、お前がやるべきことがもしかしたら見つかるかもしれない」
自分を責めたり、死んで詫びようなどと思うぐらいなら、どうすれば償えるのか、考えて、悩んで、自分自身と向き合って答えを見つけ出せ。生きる理由なんて、それだけでいい。死んでしまったら、もう何もできないのだから。
「・・・斗真はまだ戦っている。一度死んで、魔王になってしまっても、まだ魔王の身体の中にアイツの心が残っている。必ず帰るって約束したんだ」
「何だって!?」
「俺はその言葉を信じるよ。信じるからこそ、アイツに託された願いを必ず守り通す。そのためにも、俺たちはこれから”ヴィナグラート古城”に乗り込むことにした。そこには闇の魔神オプスキュリテがいる。俺はそいつを倒して、連れ去られた仲間を必ず取り戻す」
「高森のことか」
「そう、高森のことやヴィナグラート古城について何か知っていることがあったら何でもいいから教えてくれないかな?無論、千鶴のことやクロスに関する情報など、何でもいい。君が教えてくれる情報にはそれだけの価値があるんだ。協力しないなんて、ここまで言っても分からないなんてことは言わないよねぇ?」
桜の表情が”極道”の裏の顔に豹変し、光を鋭い眼光で睨みつける。伊達に17歳で組のシノギの一つを任されているわけではない。目的のためなら手段を選ばず、金と暴力の力を利用して、最善の結果と利益をもたらすことが桜にとってはこの世界で生きていくために必要なことだと思っている。
「・・・分かった」
光は一息ついてから、ぽつり、ぽつりと話し出した。
そして、その瞳には、斗真を救いたいという願いが感じられる光が灯っていた。
「・・・私にできることで・・・斗真を・・・助けられるなら・・・すべて話そう・・・!」
「・・・ご協力感謝するよ」
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「・・・寅若さんから聞き出した話によれば、ヴィナグラート古城のすぐ近くに”地下霊廟”があるらしいんだ。どうもそこで千鶴とヴェロニカ女王が何度か会って話をしていたらしい」
「なるほど、そこは確か死者を蘇生させるための呪術に関する文献や資料が保管されている場所よ。でも、あそこは昔バカな死霊術師が世界中の死者を復活させて、世界征服を企んだことがあったから、書物や呪具を霊廟に封印して、侵入者は誰も近づけないようにしておいたはずよ」
「そんなものがあったんですか?」
「・・・先々代の国王が霊廟の存在を知られない様に、鍵を隠したり、霊廟の存在そのものを外のものに悟られない様に結界をかけて、その事は当主だけに語り継がれることになっていたらしいわ」
なぜそんなことをベアトリクスが知っているのかと言えば、ヴェロニカが何をやるか分からない危険な人物であることを感じ取っていたため、彼女の身の回りやヴィネ家に関する情報を極秘裏で調べていた結果、その情報を知ることが出来たのだ。
どうしてそんな霊廟をさっさと解体するなり、呪具や魔導書を処分しなかったのかというと、ヴィネ家の歴代の当主が世界中を駆け回って、血眼になってかき集めてきたコレクションはどれもこれもヤバい代物ばかりだったらしい。
先々代の当主はまともだったため、これが世に出たら大変なことになると恐れていたそうだ。そんな矢先に、霊廟に忍び込んだ死霊術師がコレクションを盗み出してバカなことをやらかそうとしたため、事前に食い止めて、コレクションを全て処分しようとしたのだ。
「ところが、マジで呪われている呪具や魔導書がたくさんあって、先々代の当主や王族、王宮魔導師を全員集めても、処分することは出来なかったらしいのよ。下手に手を出したら自分が呪われるというトラップまで仕掛けてあったみたいでね。それで、封印して、霊廟の存在を隠すしか方法がなかったというわけ」
「・・・先々代も頭を抱えたでしょうね。歴代の当主がそろいもそろって呪いや死者の蘇生に夢中になっていたせいで、自分たちが死んだ後もコレクションを使って自分たちの果たせなかった夢を次代に託そうとしていたんでしょうから。そんなことをやったら、間違いなく世界中から非難を浴びることになるのに」
ソロモン王やソロモン72柱からも危険すぎるからやめるように忠告されても、ヴィネ家の当主たちは聞き入れなかったらしい。そんな家を必死になって立て直そうと人生をかけて取り組み、四大勢力と呼ばれるほどの勢力を築き上げた先々代当主は紛れもなく有能な人物だったのだろう。霊廟を処分することがもはや不可能と言えるレベルの危険な状態になってしまっても、死の間際までずっと封印を施すことを止めようとはしなかったのだから。
「・・・ところが、ヴェロニカが自分の野望のために、霊廟の封印を解いてしまったと」
「・・・先々代が可哀そうすぎる」
せっかく村八分にされていたヴィネ家をここまで立て直したのに、ヴェロニカのせいで全部水の泡と化したのだ。レベッカたちは同情してしまうが、すぐに思考を切り替えた。
「・・・ヴェロニカを倒すための手掛かりや、不死身となった勇者を倒すための方法が何か掴めるかもしれないわね」
「ああ、とにかく今は高森の所に乗り込んで、ミーナとオリヴィアを取り戻す!」
こうして、桜たちの次の目的地が決まったのだった。
斗真の意思を汲んで、利用するという形で光を救うための方法を思いついた桜。
桜に諭された、光に心の変化は起きるのか。
次回から第十一章に入ります!
次回はヴェロニカ&闇の魔神オプスキュリテとの最終決戦を迎えます!
舞台は一日中真っ暗な夜で、亡霊やアンデッドが待ち受ける古城となります!
桜は斗真を取り戻すことが出来るのか?
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!




