第二十二話「原罪の魔王、無双する~彩虹の戦乙女、最悪の事件⑤~」
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【桜視点】
「・・・カジ・トーマ、彼こそが8人目の魔王オクタヴィアが転生した人物だったのですわ」
ルアン様が言った、衝撃的な言葉に俺は頭を思い切りぶん殴られたように、真っ白になった。
いや、ちょっと待てよ?
斗真が、原罪の魔王の生まれ変わりだって?
レベッカさんたちと同じ、魔王が転生した姿だって?
どうして、そんなことになるんだよ?
しかし、オクタヴィアの顔立ちをよく見ると、斗真の面影があるようにも見える。
それでも、斗真はあんなに冷たいというか、感情が感じられない無機質な表情はしていない。
あの魔王が斗真なんて、とてもじゃないけど信じられない。
いや、信じたくない。
いつも笑って、泣いて、怒って、表情がコロコロと変わる明るくて優しかったアイツが、もう手の届かない所に行ってしまって、二度と俺たちの所に戻ってこないような気がした。
それだけは、絶対に嫌だ。
斗真がいなくなってしまうことは、俺の生きがいがなくなってしまうことになるのだ。
アイツがいてくれるから、俺は家族を失った悲しみや苦しみに潰れずに、もう一度立ち上がることが出来た。
アイツが俺のことを「兄弟」と呼んで、ついてきてくれることがどれだけ嬉しかったことだろうか。
アイツが俺に頼ってくれた時には、本当にうれしかった。
胸の奥からドロドロとしたマグマのような暗い感情が噴き上がってくる。
お前なんかに斗真を渡すものか。
原罪の魔王?七大魔王が全員でかかっても、敵わない存在?
俺なんかが挑んだところで、瞬殺されるのがオチかもしれない。
でも構うものか。
斗真の身体を勝手に使って復活した魔王なんて、今すぐに斗真から追い出してやる。
斗真は斗真だ。
そいつの身体は斗真のものだ。
魔王なんかが、斗真の身体を勝手に使っているんじゃねえよ・・・!!
「・・・クッ、クククッ、ハハハッ、もう我慢の限界だァ・・・!!」
もういい。
これ以上難しいことを考える必要なんてない。
シンプルな思考でいいじゃないか。
ドラゴンゾンビも、外に群がる死体共も、斗真の身体を我が物顔で利用している魔王も、全部ぶった切ってやる。
「ブッ殺してやるッ!!!ウオオオオオオオオオッ!!!」
地面を蹴り飛ばして、さやから刀を抜くと、口を大きく開いて猛毒の息を吐き出そうとしているドラゴンゾンビの額に刃の切っ先を突き刺し、そのまま一気に突き出した。
ドラゴンゾンビが大きくのけぞり、首の骨が後ろに大きく曲がり、ギシギシと関節がきしむ音がする。
このまま、首の骨をへし折ってやる・・・!!
「そのまま首の骨、ブチ折ってやらぁぁぁぁぁぁっ!!!」
しかし、ドラゴンゾンビの動きが止まった。
そして、太い骨の腕を振り上げたかと思った瞬間、俺の身体の横から巨大な掌が飛んできた。
そうだ。
コイツはアンデッド、痛覚もないし、首の骨が折れても死なねえんだ。
とっさに刀を構えるが、ダンプカーのようなものすごい勢いで飛んできた骨の掌の一撃は、俺の身体を捕らえた。
脳を揺らすほどの衝撃。
一瞬、呼吸を失い、視界がグルリと反転する。
痛みを感じるよりも先に、不思議と叩きつけられた左半身がきしむ音が聞こえる。
肋骨、何本かイッたな。
気持ちが悪い。
吐きそうだ。
頭に血が上って、突っ込むなっていつも俺が言っているのに。
その俺が自分を見失って突撃して、あっさり返り討ちにされるなんて・・・情けねえ・・・。
このまま、地面に身体を叩きつけられるか、壁に身体を叩きつけられれば、無事では済まねえな。
本当に・・・情けねえよ・・・。
斗真まで、守れなかった。
今度こそ、絶対に守るって誓ったのに。
もう二度と失わないって、決めたのに。
「・・・チクショウ・・・!!」
目に熱いものが込み上がってくる。
悔しさ、怒り、自身に対する情けなさでごちゃ混ぜになったものが流れ落ちる。
その時だった。
俺の身体は、何か柔らかいものにぶつかった。
いや、これは、誰かが俺の身体を・・・受け止めてくれた?
顔を上げると、そこにいたのは・・・。
”諦めるなよ!”
その時、確かに聞こえた。
”まだ、勝負は終わってないよ。諦めたら、ダメだ!”
俺の身体を抱き締めてくれていたのは・・・オクタヴィアだった。
「おい、どうなってやがるんだ!?どうしてオクタヴィア様が、サクラを助けたんだよ!?」
「・・・嘘でしょう!?」
「あの魔王オクタヴィアが誰かを守るなんて、そんなこと、信じられない・・・!!」
俺を草むらに下ろすと、再びオクタヴィアはリングの上に飛び上がった。
ドラゴンゾンビを前に、オクタヴィアが仁王立ちして睨みつける。
「・・・俺の・・・仲間に・・・何してくれてンだ・・・?」
無機質な言葉ではなく、明らかに怒りを孕んだ低い声。
オクタヴィアの全身から、激しい怒りの炎が燃え上がっているように見える。
でも、ちょっと待ってよ。
アイツ、今・・・”俺”って・・・言わなかったか?
オクタヴィアの周りを囲んでいる七色の宝石が輝きだし、赤色の宝石に手を伸ばすと、宝石が巨大な大剣に変わり、オクタヴィアの手の中に飛び込んでいった。
「・・・初めて感じる感情だな・・・我は今お前のことを・・・この手で破壊したくて我慢が出来ない・・・覚悟しろ・・・下等生物が・・・!!」
ドラゴンゾンビが再び口を開いて毒の息を吐き出そうとした時、大剣の刃から巨大な炎の球を生み出すと、オクタヴィアはドラゴンゾンビ目掛けて大剣を薙ぎ払う。
「・・・この世から・・・塵一つ残すことなく・・・消し去ってやる・・・!!」
ドラゴンゾンビの巨体を遥かに超える巨大な火炎弾が地面を溶かし、あたりの空気を焦がしながら飛んでいき、ドラゴンゾンビの身体を飲み込んだ。
ドラゴンゾンビは耳がキーンとなるような耳障りな絶叫を上げて、甘酸っぱいものと、肉が焦げたような臭いが合わさったような、思わず吐き出しそうになるほどの悪臭を全身から煙と共に放ちながら、見る見る肉が、骨が焼けて、溶けて消えていく。
「・・・憤怒之罪・・・炎魔法・・・”憤怒の炎に抱かれて燃え尽きろ″」
大剣の刃から巨大な炎が噴き出して、巨大な炎の剣のような形になる。
そして、オクタヴィアは無表情のままで大剣を振り回し、ドラゴンゾンビの身体を無造作に大振りで斬りつける。力任せに刃を叩きつけて、固い骨や分厚い肉を難なく切り裂き、超高熱の炎で骨を溶かし、肉を焼き、全身が炎に包まれて今にも息絶えそうになっているドラゴンゾンビにこれでもかと攻撃を繰り出す。
相手が倒れても、決して攻撃の手を止めない。
いくら泣いても、許しを乞うても、命乞いをしても、魔王の怒りはもう止まらない。
「・・・消えろ」
最後に大剣を振り下ろしてドラゴンゾンビを垂直に叩き切ると、巨大な火柱が地面から噴き出して、ドラゴンゾンビの身体を塵一つ残さないほどに激しく燃え上がる。天を焦がすほどのすさまじい火力に、ドラゴンゾンビの絶叫が徐々に聞こえなくなっていく。
そして、まぶしい光が迸ったかと思った瞬間、光が爆ぜた。
「あっぶねぇっ!!」
レベッカさんたちがリングの外に降りて、頭を下げた。
強烈な熱風が吹き荒れて、観客席がドロドロに溶けていく。
会場内の温度が異常なまでの高温になり、まるでサウナの中にいるようだ。
そして、熱風が収まった。
恐る恐る顔を上げて、リングを覗き込むと、そこにはオクタヴィアだけが立っていた。
ドラゴンゾンビは・・・もはや影だけを残して、世界から消滅していた。
「・・・これが・・・憤怒?我は・・・どうして・・・怒った?どうして・・・あの男を・・・守った?知らない、我はこんな感情、知らない!」
オクタヴィアはブツブツと独り言をつぶやき続けると、頭を両手で抱えて、座り込んだ。
「なんだ!?我はこんな感情など知らない!!我は一体どうしたというのだ!?ああ、どうしてもわからない!!分からない分からない分からない!!ええい、腹ただしい!!我は一体どうしてしまったというのだ!?」
地面に額を何度も叩きつけて、狂ったように叫び出した。
俺たちは一体何が起きているのか分からず、呆然と立ち尽くしていた。
そして、突然ぴたりと動きが止まった。
額から血を流し、さっきまで混乱していたのが嘘のように、オクタヴィアは能面のような無表情になっていた。
「・・・まあいいや・・・分からないなら、分からないままでいい・・・分からないんだもんな」
えーっと・・・、この魔王様、かなりの情緒不安定なんじゃないかな?俺たちも彼女に何が起きているのか分からないから、どうすればいいのか、判断しかねる。
「・・・これが怠惰か。我は知らない、こんな感情知らない。我の中の何かが、我の頭の中をおかしくさせているような気がする・・・我は・・・一体・・・あー、何だか考えていたら頭が疲れてきたわー、知恵熱出そうだわー、まずは寝てから考えるか。それがいい。今すぐ寝よう。起きたら、元の我に戻っているはずだ。おやすみなさい」
「・・・なあ、あれ、本当にあのオクタヴィア様なのか?マジで別人みたいになってねえか?」
目の前でいきなりリングの上に寝転んで、可愛い寝息を立てながら寝てしまった魔王の奇行に、全員が絶句していた。いや、どうすりゃいいんだよ、マジで。シャルラッハロート様の質問にも、誰も答えられない。むしろ誰か教えてくれ。
「・・・だーっ!寝られるわけないじゃん、こんな状況でさ!?・・・違う、我、そんなこと今まで気にしたことがない。我が我ではなくなっていく。我はどうなってしまったのだ?」
「・・・・・・一つ、仮説なんだけど」
ビビアナさんが何かを思い付いたみたいだ。
「・・・・・・トーマを媒介にして復活したから、魔王の精神に何らかのバグが起きたのかもしれない」
「もしくは、斗真の自我がまだ残っていて、魔王の支配を上回る勢いで魔王を取り込もうとしているかもしれないと?」
・・・あり得るかも。
アイツ、メチャクチャ負けず嫌いだし。
魔王オクタヴィア、圧倒的な強さを誇る反面、精神年齢は幼児レベルだった。振り回されまくる桜たちは斗真を取り戻せるのか?
次回もどうぞよろしくお願いいたします!




