第二十話「覚醒~彩虹の戦乙女、最悪の事件③~」
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【桜視点】
嘔吐物と血の悪臭が風に乗って流れてくる。
スタジアムの外には青白い肌、黄ばんだ瞳、身体中の肉が腐り落ちた生ける屍で溢れかえっていた。
スタジアムの入り口は全て封鎖したが、あれだけの大勢のゾンビやグールが押し寄せてきたら、そう長くはもたないだろう。
腐っていく肉のむせ返るような匂いが鼻をついてくる。
苛立ちが、斗真を失った絶望や虚無感を皮肉にも少しずつ失わせていく。
代わりに宿るのは、今にも身体を突き破って飛び出しそうになるほどの激しい怒り。
「おう、えらいこっちゃ!!ヴェロニカのヤツがとんでもないことを企んどったで!!」
オリヴィアが血相を変えてスタジアムに飛び込んできた。
「・・・これ、何が起こっとるんや・・・?」
「・・・相棒?」
「・・・何で、トーマちゃんがそこで寝とんねん?」
レベッカが抱きしめていた斗真の姿を見て、オリヴィアは思わず苛立ちを感じるほどの間抜けなことを口にする。怒りをぐっとこらえて、俺は彼女にここで何が起きたのか説明する。
ヴェロニカが千鶴と手を組んで、俺たちや四大魔族のトップをまとめて始末するために今度のヴァルハラ・ゲームを仕組んでいたこと。
そして、斗真が犠牲になってしまったこと・・・。
全てを聞いたオリヴィアは三白眼を見開き、血の気が引いた真っ青な顔になる。握りしめた拳がブルブルと震えて、こめかみには何本もの血管が浮かび上がる。
「・・・嘘やろ?」
オリヴィアがポツリとつぶやいた言葉は、誰もがこの状況を信じたくないという意思を代弁しているかのようだった。しかし、誰も「ジョーク」とは言わない。これがジョークだったら、どれだけマシだっただろうか。
しかし、これはジョークじゃない。
斗真はもういない。
俺たちをいつも励まして、力強く支えてくれたあの笑顔を見ることはもうできない。
そう思うと、目に熱いものが込み上がってくる。しかし、それを乱暴にぬぐって、俺は必死で頭を回転させる。
「・・・一旦ここを脱出しよう。このままここにいたら、ゾンビやグールのエサになるだけだ」
「ええ、ここに残っていても袋の鼠ですわ~。それに、悔しいですけど、もうここにはあの大バカ野郎たちはいませんしね、まずは仕切り直しをするのが賢明ですわ」
「アレクシア、転移魔法陣の準備を頼む!」
「はい、了解ですわ~」
「・・・あっ、そうや!実は、その事なんやけどな・・・!」
オリヴィアが何かを言いかけた、その時だった。
リングの上に突如、黒い球体が現れた。
禍々しい紫色の光を放つと、巨大な魔法陣がリング全体に浮かび上がり、桜たちはいっせいにリングから飛び降りた。
『これは妾に恥をかかせてくれたお礼じゃ!!目障りな虫けらどもは一匹残らず排除してくれるわ!!まあ、安心するがよいわ。トーマがあの世でお主たちを待っておるぞ!!ケヒャヒャヒャヒャヒャ!!』
魔法陣から現れたのは、身体中の肉という肉が腐り落ちている、甘酸っぱくて吐き気を催す匂いを放つ巨大な生き物だった。長く生やした角、顔の肉がそぎ落ちて骨が見えてしまっている顔、暗い眼窩には眼球の代わりに禍々しい魔力の光が輝いている。背中に生やしたボロボロの翼を大きく広げて威嚇するように身構えると、圧倒的なオーラを俺たちに向けて放った。
「・・・ドラゴンゾンビか!!」
「どうやら、ボクたちをここで始末するつもりらしいね」
俺はレベッカさんに抱かれて、眠っている斗真に顔を向ける。
斗真、お前が俺に任せるって言ったよな。
その約束、必ず守り通して見せるさ。
俺みたいなどうしようもないクズを許して、仲間として受け入れてくれたお前の頼みだもん。
命を懸けて、守り抜くよ。
「・・・斗真は俺に任せるって言っていた。つまり、ここで誰も死なせずに生き残らなくちゃ、アイツとの約束を違えることになる。だから、ここでみんなを失うわけにはいかない!!」
刀に手をかけて身構える。
吐きそうな悪臭の息を口から吐きながら、無数の牙を覗かせて、俺たちに今にも食らいつきそうに身構えているドラゴンゾンビを前に俺は立った。
「・・・フォグライト、トーマを頼む」
レベッカさんがフォグライトさんたちに斗真を預けると、涙を乱暴にぬぐって、俺の隣に立つ。
そして、アレクシアさんたちも立ち上がって、ドラゴンゾンビの前に隊列を組んで武器を取り出し、それぞれが身構えた。
「・・・絶対に許さんぞ・・・!!よくも、私の愛する弟を・・・!!」
「・・・徹底的に潰してやろうじゃねえか、邪眼一族・・・!!」
「・・・私たちの大切な仲間を手にかけたその罪は、貴方たちの命で償ってもらうわ・・・!!」
「・・・泣いても謝っても、もう絶対に許さへん・・・全員地獄行き確定や・・・!!」
「・・・・・・彩虹の戦乙女を、舐めるなよっ!!」
「・・・教えて差し上げよう。ボクたちがなぜ最凶最悪の傭兵団と呼ばれているか、その所以をな」
刀の鞘からスラリと青白く光り輝く刃を抜き、腰を低くして、ドラゴンゾンビの肋骨を突き破って飛び出したグロテスクな心臓に狙いを定める。
「・・・みんな、覚悟はいいかしら?私たちは元々住処を追い出されて、家族もいねェ、仲間もいねェ、居場所さえねェ、そんなないない尽くしのゼロから始まった。一人一人に大した力がなくても、みんなで手を組んで共に戦うことでどんな敵にも勝ってきた。どんなヤバい状況も乗り越えてきた。ヴェロニカのように、金もなけりゃ、邪眼一族のような兵隊さえない。ここにいるのは、暴れる事しか能のない野良犬たちの集まり、誰の言うことも絶対に聞かない凶暴な野犬だ」
ああ。
「だからこそ、仲間とのつながりは何よりも大切なんだ。家族の一人がやられたら、相手だけじゃなくて、相手の戦力を全てこの世から消し去ってやるまで、反撃の手は緩めるな」
そうだな。
「つまり、何が言いたいかっていうと、今回はお姉さんも一緒に暴れてもいいわよね?派手にやっちまえ!!トーマちゃんに手を出したヴェロニカと水の勇者にきっちりと引導を渡してやれ!!!」
ベアトリクス陛下の声が、俺たちの怒りを爆発させる。
「・・・テメェら・・・行くぞっ!!!トーマの弔い合戦だぁぁぁぁぁぁっ!!!」
「敵は全員、ブッ殺せェェェェェェッ!!!」
「「「「「「了解ッ!!!!!!」」」」」」
斗真、お前の仇は必ず討つからな・・・!
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【三人称視点】
斗真をおぶさって、転移魔法陣が置かれている避難場所に向かう【冥界の猟犬】たち。
ラムアは必死で涙をこらえて、カーミラもしゃくりあげて涙を流して、ダイナモも強面な表情を歪めて、とにかくここから脱出するために走る。
「嘘だよ・・・トーマ様が・・・こんなの・・・嫌だよぉ・・・!!」
「カーミラ、今は泣かないで。私たちはトーマ様をここからちゃんと連れ出すことだけを考えればいい」
空き部屋で転移魔法陣を展開している間、寝かされているトーマの姿を見て、フォグライトはかつて失った子供の亡骸と被り、目に涙が浮かぶ。
いつも明るく素直で、優しい笑顔を浮かべていた斗真。
しょっちゅうレベッカたちにからかわれては泣かされて、顔を真っ赤にして怒っていた斗真。
自分たちが暗殺者ギルドに所属する暗部だった生い立ちを知っても、優しく受け入れてくれた斗真。
フォグライトたちも、斗真のことが大好きだった。
自分たちに希望を与えてくれた、心優しい少年。
「・・・目を開けてよ、トーマ様ぁ・・・!」
「・・・カーミラぁ・・・お願いだから泣かないでよぉ・・・!!あたしだって、ガマンしているんだからさぁ・・・!」
その時だった。
斗真の身体から、頭の中に直接響き渡るような”鼓動”が飛び込んできた。
ドクンッ・・・!
「・・・え?」
ドクンッ・・・!
ドクンッ・・・!!
斗真から感じた鼓動、それは気のせいではなかった。
ダイナモも、カーミラも、ラムアも斗真の身体に起きている異変に気付き、目を見開く。
斗真の胸に、黒い紋章が浮かび上がる。
紋章の周りには【憤怒】【傲慢】【嫉妬】【怠惰】【色欲】【暴食】【強欲】を象徴する7つの紋章が浮かび上がり、中央には七芒星の紋章が現れた。
「な、何が起きているというのですか!?」
「・・・この魔力は・・・!!ラムア、カーミラ、離れなさい!!」
ラムアとカーミラが本能で、斗真が放っている異質な魔力が危険なものであることを悟り、その場から素早く飛びのいた。そして、斗真の身体が床から浮かび上がると、背中から8枚の巨大な翼が大きく広がって飛び出した。
斗真の身体が黒い闇に包まれると、徐々に、その姿が変化していく。
まるでさなぎを破った蝶のように、斗真の身体は劇的な進化を遂げていく。
腰まで長く伸ばした長い黒髪。
身体の各所に浮かび上がる大罪を象徴する紋章。
エルフのようにとがった耳。
斗真がまるで大人の姿に成長したような顔立ちは、同性異性構わずに見る者の心を魅了するほどの妖艶な美しさを持っていた。
豊満な胸。
細くきゅっと引き締まった腰つき。
白い肌の裸体に黒い紋章が刻み込まれただけの姿は、蠱惑的なまでの美しさを感じさせる。
そして、斗真を挟み込むようにして現れた魔法陣が、上と下から斗真を飲み込み、一つに重なり合った。
『金色の魔王は天の怒りである雷を支配して、全てを見下し、全てを支配する』
『緑色の魔王は世界を妬み、運命を嫉み、闇に心を喰われていく』
『赤色の魔王は憤り、怒り、憎しみの炎で全てを焼き尽くす』
『青色の魔王は何事にも興味を示さず、冷たい氷で心を閉ざす』
『藍色の魔王は世界の全てを貪り、自分の所有物と豪語し、大地さえも支配する』
『橙色の魔王は満たされない空腹を満たすために、果実を生み出し、永遠に食い続ける』
『紫色の魔王は風の赴くまま気の向くまま、肉欲を満たすために他人を抱き続ける』
『七つの大罪、七人の王、その力は生物が生きるにおいてプラスとなる欲望』
『欲望と相反するマイナスの欲望、忘れ去られし全ての罪の根源・・・【原罪】』
『我は8つ目の大罪【原罪】を司りし、魔王”オクタヴィア”』
斗真の瞳がゆっくりと開いた。
そこには全てを飲み込まんとする黒い闇が渦巻いている。
桃色の唇に赤黒いルージュが差し込み、唇がゆっくりと動き、言葉を紡ぐ。
『・・・我、目覚めたり』
背中から黒い翼を大きく広げて斗真の身体を包み込むと、凄まじい衝撃が部屋中に伝わっていく。置いてあったものは粉々に吹き飛び、照明が音を立てて割れていく。フォグライトたちが命の危機を感じ取り、部屋を飛び出した。
「これは一体、どうなっているのですか!?」
「私にも分かりません。トーマ様の身に何かが起きているとしか言いようがありません」
やがて、部屋の扉がぐにゃりと曲がって吹き飛び、壁に思い切りめり込んだ。原形を保てないほどにいびつな塊とかした鋼鉄製のドアを見て、カーミラたちが息をのむ。
やがて、部屋から魔力の気配が感じられなくなった。
恐る恐る、部屋に近づいて、扉から顔だけを覗かせて部屋の中の様子を見ると、部屋の中はまるで嵐でも起きたかのように荒れ果てていた。
そして、部屋の中には、斗真の姿はなかった。
斗真、【原罪の魔王】として覚醒・・・!
自身を【オクタヴィア】と名乗る斗真は果たしてどうなってしまうのか。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!




