第十七話「目ェ覚ましやがれ!!~血戦、斗真VS光③~」
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【第三者視点】
「ツバサ!!」
レベッカとアイリスが慌ててつばさに駆け寄る。
ボロボロに傷ついたつばさは、二人の肩を借りて、おぼつかない足取りで一歩、また一歩とリングに近づいていく。呼吸も荒く、気力の全てを絞り出すように歯をギリリと食いしばる。
「お前、一体何があったんだ!?」
「・・・すまない。あとでちゃんと説明する。今は一つだけ、やりたいことがある」
つばさはリングに近づくと、大きく息を吸い、ゆっくりと吐き出した。
そして、顔を上げると腹の底から大きく声を張り上げて、叫んだ。
「斗真ぁぁぁぁぁぁっ!!」
斗真が振り返る。
つばさは瞳に涙を浮かべて、頬に一筋の涙を流していた。
真剣な瞳、今にも大声を張り上げて泣き出しそうになる激情を必死でこらえて、つばさは叫んだ。
「・・・光を・・・止めてくれぇぇぇっ!!」
「・・・つばさ」
「アイツを、もう戦いから、解放してあげてくれっ!!私には・・・出来なかった・・・!!もうお前しか、アイツを止められるヤツはいないんだ!!頼むよ・・・”トーマちゃんっ”!!」
一粒、また一粒、涙を流して、つばさは縋り付くように、切ない叫び声をあげる。
久しく聞いていなかった、懐かしい呼び名。
めったに感情を荒げることのない、クールで大人びた彼女が流す涙からは、今にも胸が張り裂けそうな彼女の心の叫びが痛いほどに斗真に伝わってくる。
「任せろ!!」
斗真がつばさに背を向けて、右手の親指を立てたままぐっと拳を握りしめる。
不安や緊張を振り払うように、力強く言い切った斗真の背中が一回りも二回りも大きくなって見えた。
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【斗真視点】
つばさのあんな顔、初めて見た。
驚くよりも先に、僕がやらなきゃいけないことを改めて分かったような気がする。
出来る、出来ないじゃなくて、僕がやる。
拳を強く握りしめて、ゆっくりと息を吐いて、不安や緊張を吐き出していく。
任せろと言ったんだ。
たとえどんな結末になろうと、ちゃんと約束は守らないとな。
「・・・つばさ、お前まで私を裏切るのか!!」
「・・・お前、つばさがお前のことをどれだけ心配しているのか、それさえも分からなくなっちまったのか?アイツだけはずっとお前のそばにいてくれたじゃねえか」
「うるさいっ!!人はみんな裏切るんだ!!」
ワータイガーが激昂し、ハンマーを振り回しながらものすごい勢いで突進する。
繰り出された一撃をかわすが、風圧で頬に鋭い痛みが走る。
「父さんも母さんも死んだ時、親せきは誰も私たちに手を差し伸べてくれなかった!!このままじゃ弟は施設に連れていかれてしまう。その時、私は誓ったんだ!!誰にも頼らずに、誰も信じずに、家族を守るんだって!!そのために強くなるんだって!!」
ワータイガーが次々とハンマーを繰り出すが、メチャクチャに振り回しているため、軌道を何とか読みながら攻撃をかわしていく。ワータイガーの怒りの叫びが僕の胸に突き刺さってくる。
「だから強くなろうとしたんだ!!誰にも頼らなくても生きていけるために!!」
「大人なんて誰も信じられるか!!どいつもこいつもみんな、自分さえ良ければそれでいいと思っているくせに、私たちみたいな社会的弱者をいたぶることは大好きなんだ!!」
「だから私は弱いままじゃいられなかった!!強くならなけりゃ、明を守ることが出来ないから!!」
「誰からも裏切られないように、誰に縋り付くことも、誰かを信じなくても生きていけるように、強くならなけりゃいられなかった!!」
「力さえあれば、私たちは誰にも傷つけられることなんてないんだっ!!!」
光・・・。
僕たちと一緒にいたときには、いつも怖いもの知らずで明るく笑って僕たちを引っ張っていてくれていた。でも、僕たちの知らない所ではずっと目に見えない何かと戦い続けていたんだ・・・。
「・・・でも、お前とつばさに出会って、私の心は少しは救われた。お前やつばさも親に捨てられて、大人に裏切られて、自分自身を守るために戦い続けていたから、お前たちだけは私を裏切らないと思っていた。信じていた。唯一・・・信じられる存在だったのに・・・!!」
ワータイガーのハンマーを防ぐと、僕のお腹をワータイガーが強く蹴り飛ばし、僕はのけぞった。そして、僕の急所に目掛けてワータイガーが容赦なくハンマーを振り下ろす。
かろうじてかわすが、額に鈍い痛みが走る。
わずかにかすったらしく、額が切れて、生暖かい液体が額から流れ落ちた。
「お前たちまで、私を裏切るのか!?お前たちのことを親友だと信じていたのに!!こんなに辛くて苦しいなら、お前たちのことなど最初から信じなければよかった!!」
怒りと憎しみのせいで、やたらめったら腕を振り回して繰り出される打撃は、次第に速度を落としていく。しかし、ワータイガーは呪詛を吐きながら躍起になって攻撃の手を緩めない。
「私は勝ち続けなくちゃいけないんだっ!!勝つことが全てなんだっ!!勝たなければ、全てを失うんだっ!!もう私には勝つ以外に道はないんだ!!」
「・・・そんなに勝つことが大事か?」
「お前にはわかるまい!!戦いから逃げて、腑抜けになったお前に、私の何が分かるんだっ!!」
腕の力が限界に近い。
ハンマーを握りしめる手がついに悲鳴を上げた。
骨がきしみ、血管がいくつも浮かんで繰り出される打撃を必死で耐える。
そして、ハンマーの攻撃を食い止めるとそのままハンマーの部分を抑えつける。
僕とワータイガーは鍔迫り合いのような状態になり、両脚を踏ん張って、歯を食いしばる。
どちらかが先に引いたら・・・負ける・・・!!
「・・・戦いにとり憑かれたら、もうとことん行くところまで行くしかない!!私はもう後戻りなど出来ないんだっ!!」
「・・・だから、目に映る全てのものを敵だと思い込んで、叩き潰し続けるって?つばさのことさえも、振り払ってまで、戦い続けるって言うのか」
これが戦い続ける道を選んだものの末路だというのか。
人間らしい心を失って、廃人同然になって、戦うことしか残されていない戦闘マシーンになることが、彼女が心から望んでいることだというのか。
「・・・それならよ、俺がお前の戦いを終わらせてやる」
「何っ・・・!?」
「・・・今のお前、ものすごく、カッコ悪いよ」
いつも笑顔で、自信満々で、どんなヤツにも日和らないで立ち向かっていく光。
傷だらけになっても、大切な仲間や居場所を守るために何度も立ち上がっていく姿に憧れて、僕も強くなろうと決めたんだ。
「・・・貴様に、私の何が分かるんだぁぁぁぁぁぁっ!!!」
バキッ!!
頬にワータイガーの拳がめり込む。
脳味噌が揺れて、意識が真っ白になり、今にも手放しそうになる。
身体の感覚がなくなりそうになるのを、ギュッと唇を噛んで、わずかな痛みで意識を繋ぎとめる。
口の奥に固いものが転がっていく感触がする。
奥歯が何本かイッたのだろう。
殴られたまま、僕は口から血液の塊と折れた歯を吐き出した。
痛い。
気を失いそうになるぐらいに痛いけど・・・。
「・・・全然効かねえよ」
目から熱いものが込み上がってきて、頬を流れて落ちる。
「お前、いつからこんなに弱くなった?」
もうやめてよ。
こんなの、全然お前らしくないよ。
あの時みたいに、僕がずっと憧れていた大きな背中が、今ではものすごく小さく見える。
「・・・何?」
「・・・今までお前から喰らったパンチは、こんなものより、ずっと痛かったぞ?」
空手の特訓を着けてもらう時に、手加減なしで叩き込まれた正拳突きはもっと痛かった。
回し蹴りも、涙が出るほどにメチャクチャ痛かった。
でも、あの時の光はすごくキラキラしていて、誰よりもカッコよかった。
「・・・苦しかったもの、悲しかったもの、辛かったもの・・・何がお前をここまで苦しめてきたのか、僕には分かってやることが出来なかった。・・・でもさ、今のお前を止めなくちゃ本当に壊れちまう。壊れる前に、俺が今のお前を・・・ブッ飛ばす!!」
絶対だと思い込んでいる、強さに対する執着を全てぶっ壊す。
自分も他人も傷つけて、ボロボロになっていくなんて、絶対に許せない!!
昔のようには戻れないかもしれない!!
それでも、どうか、わずかでもいい。
僕の思いを、光に全部ぶつける!!
「目ェ覚ましやがれェェェェェェェーーーーーーッ!!光ゥゥゥゥゥゥーーーーーーッ!!!」
振り上げた右脚が、ワータイガーのこめかみにめり込む。
全身の力を込めたハイキックが、ワータイガーの急所を捕らえて、鈍い音を立てながら炸裂した。
「・・・が・・・ああぁ・・・!?」
ワータイガーの目がぐりんと上を向いて、両脚から力が抜け落ちて、膝を地面に着く。
口を大きく開いたまま、ワータイガーは何が起きたのか分からないまま、座り込んだ。
「・・・斗真・・・?」
そして、そのまま力なくリングに倒れこんだ。
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【光視点】
何が起きた・・・?
足の力が抜けて、立てない・・・?
こめかみに受けた一撃の痛みを感じる前に、私の身体はリングに横たわって動けなくなった。
立とうとしているのに、たった一撃で、身体が言うことを聞かないなんて。
私の目の前には、斗真がいた。
斗真は、泣いていた。
擦り傷と青あざを顔中に作って、大粒の涙をボロボロと流していた。
その時、まだ私が小学生の時に、出会った時の斗真の姿が思い浮かんだ。
泣き虫で、喧嘩も弱いくせに、自分よりも身体が大きい年上のいじめっ子から友達を守るために、小さな身体で何度殴られても、ブッ飛ばされても、立ち上がり続けていた。
自分がバカにされても全然気にしないくせに、友達が傷つけられると、誰が相手だろうと挑みかかっていき、ボロボロになっても勝つまで絶対に諦めないヤツだった。
そうだ。
斗真が、仲間を裏切ることなど出来ないなんて、私が一番知っていることじゃないか。
私が自分の弱さを認めることが出来ず、弟を失ったのは自分のせいだという現実から目を背けるために、斗真を憎み続けた。誰かを憎むことでしか、やり場のない怒りや憎しみを消化する方法がどうしても思いつかなかった。
自分一人だけが、信頼していた友人にも裏切られて、全てを失ったと思い込んでいた。
そう思い込まなくては、自分自身が潰れてしまいそうで怖かった。
そして、このままたった一人で死んでいくのが、あまりにも惨めで、情けなくて、悔しかった。
どうして私がこんな目に遭わなければいけないのか、神様を何度も呪った。
その怒りも、死に対する恐怖も、どうしたらいいのか分からない焦りや苛立ち、苦しみから逃れるために、私は斗真を利用したんだ。
全部斗真が悪い。
私のことを裏切ったのはアイツなんだからと、自分自身に言い聞かせれば、怒りや恐怖も少しだけ薄れていくような気がしたから。
でも、違った。
先に裏切ったのは、私の方だ。
斗真はずっと私や明を心配してくれていたのに。
私は、自分の手で本当に大切なものを、捨ててしまったんだ。
『・・・トラワカ・ヒカル選手、反則負け・・・!!よって、第三種目の勝者はカジ・トーマ選手!!』
私は・・・どうしようもない、バカだ。
斗真と光の戦い、ついに決着・・・!
果たして、斗真と光は仲直りは出来るのでしょうか?
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!!




