第十四話「ハイデルベーレ要塞防衛戦⑤~彩虹の戦乙女VSクロス勇者軍~」
いつも拙作を読んでいただき、ありがとうございます。
新作が描きあがりましたので投稿いたします。
「おーーーいっ!!トーマァッ!!そこにいるんだろーっ!!」
「レベッカさん!?アイリスさん!!」
霧の中から、アイリスさんを背負ってレベッカさんが赤い瞳を炎のように輝かせて飛び出してきた。
そして、僕の所に駆けつけてくると、レベッカさんが思い切り僕の頭を拳骨でどついた。
「この、バカタレッ!!」
「あいだぁっ!?」
痛い、マジで痛すぎる・・・!お星さまが頭の周りでぐるぐる回ってる・・!
あまりの衝撃に視界がチカチカして、僕は両手で頭を押さえてうずくまった。
「お前、待ってろって言っただろうが!オレたちのことを置いてけぼりにするとはいい根性じゃねーか!」
「ご・・・ごめんなさい・・・!!」
「まあ、囮にばかり気を取られていた私たちもうかつだったがな。魔力がまだ回復していない今のお前では万が一勇者軍と出くわしても、ろくに戦えないだろう?」
「そうだぞ!!そういう時だからこそ姉ちゃんを頼れってんだ!!勇者軍なんてこのレベッカ・レッドグレイブ様と愉快なお供たちがケチョンケチョンにしてやるぜ!!」
「オイコラ待て、誰が愉快なお供だ。第一、お供たちと言ってもお前と私しかいないだろうが」
「あ、それもそうか」
あ、相変わらず能天気というか、マイペースというか・・・。
さっきまでのシリアスな空気がどこかに飛んで行ってしまいそうな気がして、僕は脱力していた。
「面白いことを言ってくれるな。ケチョンケチョンに出来るものならやってもらおうじゃないか」
島田さんが苛立っている様子でレベッカさんたちを睨みつけていた。その隣で、桜はニヤニヤと不敵な笑みを浮かべてレベッカさんたちのことを見ている。
「アンタたちが噂の七人の獣騎士?初めまして、あたしはクロス王国で【風の黄騎士】のリーダーをやらせてもらっている幕ノ内桜でっす。こっちが新しく雷の勇者に選ばれた【緑の雷騎士】のリーダーの島田花桜梨。セルマっちからアンタたちを始末するように言われているからさ、会ってそうそう悪いけどここで死んでもらうよ」
「ふん、やはりまだ生きていたのか。あの万年発育不良年増女が」
「昔と変わらずペチャパイでチビで偉そうなガキンチョのままなのか?」
「・・・ものすごい罵詈雑言のオンパレードだね。何、あの人、アンタたちに何をやらかしたの?」
「ケッ、そんなこと別にどうでもいいだろう?くたばるのはテメェらの方だ!!」
「私たちの可愛い弟分のトーマを殺そうとしたうえに、古き旧友の住む村を襲撃して傷を負わせた罪は万死に値する。覚悟してもらおうか」
レベッカさんとアイリスさんがそれぞれ武器を持って身構えた。
すると、桜と島田さんが腰のホルスターから大型の銃のようなものを取り出すと、もう片方の手には甲冑のようなミニチュアが保管されているドーム型のケースらしきものを取り出した。それを見た瞬間、僕はそれがどういうものなのか察して、心臓が飛び出しそうになるほど驚いた。
「・・・それって・・・まさか・・・!!」
「その通り。変身できるのは、梶っちだけの特権っていうわけじゃないんだよね」
そう言って、ジオラマのケースを銃のアダプターに装着させた。
≪魔導闘衣装填・ワイバーン!!≫
≪魔導闘衣装填・アンタイオス!!≫
「身の程知らずという言葉を教えてやる!!」
島田さんが勇ましく言い放ち、二人が銃口を僕たちに向ける。
そして、引き金を引いた!
「変身!!」「変身!!」
≪魔導闘衣装着・ワイバーン!!ダンシング・ストーム!!≫
≪魔導闘衣装着・アンタイオス!!ライトニング・ジャッジメント!!≫
島田さんが打ち出した銃弾が緑色の【クワガタ】を模した、雄々しき二本の角を額から生やした凶暴な巨人【アンタイオス】の名を冠する甲冑のイメージが浮かび上がると、島田さんの身体に覆いかぶさるようにして装着されていく!
そして、桜が打ち出した銃弾が黄色の【ワイバーン】を模した、前肢と翼が一体化して、矢じりのようにとがった尾を持つ巨大な竜をイメージさせる甲冑のイメージが浮かび上がると、桜はそのイメージを蹴り飛ばした。蹴り飛ばされて分解された黄色の甲冑が桜の身体に次々と装着されていく!
「・・・な、なんだよ、どうして、お前らが!?」
目の前で騎士の姿に変身した桜たちを見て、鳳は信じられないものを見ているかのように震えだす。
そして、僕たちもまさか桜たちまでもが僕のように変身できるとは思っていなかったため、全身を甲冑で武装した騎士の姿になった二人を見て愕然とする。
「裁き下す緑の稲光!!雷の騎士・アンタイオス降臨!!」
「え?ああ、そういう口上、いつの間に考えていたのよ?」
「桜も何かないのか?」
「えー?中二病じゃあるまいし・・・そうだねー・・・」
まあいいかと言って、桜もどうしたものかと考えてから、口上を放つ。
「舞い踊る黄の烈風、風の騎士・ワイバーン降臨、てね」
「嘘・・・そんな・・・まさかあの二人も変身できたなんて!!」
「まあ、こういうのはお約束ってヤツだよね。それじゃ、梶っちをクロスに連れ戻して、邪魔なお姉さんたちにはここで仲良くあの世に逝ってもらおうかな?」
「冗談だろう。せっかく復活したというのに、コイツなんかと一緒に地獄に落ちるなどと冗談ではない」
「アイリス~、そりゃないぜ!!」
「余裕をかましているのも、今のうちだけだ!!」
最初に飛び出したのは島田さんが変身したアンタイオスだった。
アンタイオスが電流を帯びた双剣を振り上げてレベッカさんに襲い掛かる。
しかし、レベッカさんは大剣を手から炎と共に生み出して双剣の攻撃を防いだ。
ニヤリ。
彼女のスイッチが入ったかのように、不敵で獰猛な狩人の笑みを浮かべる。
「おいおい、勇者様って言うのはこの程度かよ?余裕をかましているのはそっちなんじゃねえの?」
「何!?」
「その程度じゃ、オレには勝てねえよ!!」
レベッカさんが大剣を力任せに振り上げて双剣をはじくと、がら空きになったアンタイオスの腹部に右足を押し付けてそのまま力を入れて蹴り出した。
「ぐっ!!」
「オラオラオラァーッ!!オレ様の可愛い弟にちょっかい仕掛けてくれてンじゃねえぞ!!」
ガキィン、ガキィン、ガキィン!!
大剣を軽々と振り回して、まるで嵐のように荒れ狂う。
アンタイオスが双剣で大剣の攻撃を全力で防ぐが、一撃一撃がとても重いため、防ぐのに全身の力を集中させるが、徐々にレベッカさんが力任せに追い込んでいく。
そして、一方。
バチッ!!バチバチバチッ!!
「雷の矢でハチの巣にしてやろう。塵一つ残さず、あの世に送り届けてやるぞ?」
「おっかないシスターだねぇ。でも、そういうのは間に合ってまーす!」
アイリスさんが雷の矢を次々と放ち、矢は桜が変身したワイバーンに向かって一直線に飛んでいく。
しかし、雷の矢に向かってワイバーンが両手に装備している三本の鋭い刃がついた鉤爪を振るうと、電撃を爪が吸い込んでいき、爪全体が金色の光を放ち、電気のように迸り出す。
「私の魔力を吸収したのか。実におこがましい。お前のような分を弁えることも知らない愚か者が私の前を立ちはだかるなど、死に値する大罪だな」
「随分と偉そうに言ってくれるね?」
「ああ、私の【傲慢】にかけて、お前たちをここで倒す。トーマには指一本触れさせん」
「それじゃあ、”オレ”も本気でいかねえとなっ!!」
いつものギャルっぽい言葉づかいではなく、低めのハスキーボイスでつぶやくとワイバーンがアイリスさんに向かって鉤爪をかざして突進していく。
アイリスさんが次々と矢を放つが、雷の矢をまるで見切っているかのように紙一重でかわしながら、徐々にアイリスさんに迫っていく。まるで獲物に狙いを定めた凶暴な竜が徐々に近づいているようにも見える。
「紫電一閃・雷魔法・梟の連弾!!」
アイリスさんが矢を放つと、矢が次々と分裂していき、ワイバーンの目の前には何十発もの電気の矢が覆い尽くす。
「やべっ!!」
とっさにワイバーンが鉤爪を盾のように前に突き出すと、凄まじい勢いで風が地面から舞い上がる。竜巻のようにうねりを上げてワイバーンを飲み込むと、無数の矢が竜巻に飲み込まれていく。
「ちっ、私の矢を全て吸収するとはな。正直、300年前にはこれほどなまでの敵はいなかったな。ああ、実に腹ただしいことだな。トーマを殺そうとする低俗な下等生物の分際でこれほどなまでの力を持っているとはな。実におこがましい」
「そう簡単に頭は取らせてはくれねーかぁ。でもさ、こういう展開はやっぱり燃えてくるぜ。やっぱりゲームはこうじゃなくちゃ盛り上がらないからねえ」
この二人、レベッカさんたちとほぼ互角で渡り合っている!!
僕も早く戦わなくちゃいけないのに、魔力がどうしても足りない・・・!!
さっきから宝箱を取り出そうとしているのに、魔力が足りなくて宝箱が実体化できない!!
焦りばかりが先走って、頭の中が真っ白になっていく・・・!!
その時だった。
「ぎゃあああああああああっ!?な、なんだよ、あれはぁぁぁっ!?」
後ろで鳳が真っ青な顔で、自分たちがやってきた方向を指さして震えていた。
海の方を見ると、ぼうっと青白い光の玉がいくつか浮かんでいるのが見えた。
そしてその青白い光の玉に照らされたのは・・・。
暗い井戸と化した眼窩には禍々しい意志が宿っている。
骨にへばりついたような、わずかばかりの乾燥した肌。
風に流れて肉が腐敗する甘酸っぱい悪臭が漂ってくる。
夢遊病者のようにフラフラとおぼつかない足取りで、10人ほどのかろうじて人型をした異形の化身たちが海の上を浮かんで、ゆっくりとこっちに向かって近づいてきていた。
動く骨と呼ばれるその魔物は【スケルトン】であった。
スケルトンが大きく口を開いて、手を前に突き出しながら何かを掴もうとしている。
「バカな、スケルトンだと!?この地域でスケルトンが出るなど聞いたことがないぞ!?」
「ああ、それにこの連中、ただのスケルトンじゃねえ!!何かに操られているみたいだぜ!!」
僕たちが目を凝らすと、スケルトンたちが光る糸のようなものが頭に貼り付いていて、それで操り人形のように操られているのが見えた。
「お、お、俺は悪くない!!俺はまだ死にたくない!!どけぇっ!!俺だけが助かるんだぁぁぁっ!!うわあああああああああっ!!俺はまだ死にたくねえんだよぉぉぉっ!!お、お、俺様は勇者なんだぞぉぉぉっ!!俺を失えば世界の損失なんだぞぉぉぉっ!!」
パニック状態に陥った鳳が何度も転びそうになりながらその場から走り出した。崩れた須賀さんの遺体を無情にも踏みつぶし、振り返ることもせずに鳳はものすごい速さで霧の中へと消えていった。
「鳳!!どうする、桜!?」
「逃がすわけにはいかないっしょ!かおりんは桐ちゃんを追いかけて!これ、桐ちゃんが今いる場所を探知するレーダー!千鶴が作ってくれたもので、この光が桐ちゃんを指しているの。絶対に逃がしたらダメ。かおりん、頼むよ!!」
「分かった!!桜、お前はどうするのだ!?」
「あの骨の怪物・・・スケルトンとか言ったっけ。街の人たちに危害が及ぶ前に全員ここで始末してから、かおりんの後を追いかけるよ!!」
「分かった!鳳は私に任せて!!」
アンタイオスが鳳の後を追いかけて、ものすごい速さで霧の中へと消えていった。さすがは陸上部のエース、その脚力と速さは伊達ではない。
そう言って、ワイバーンは鉤爪を構えて勇敢にも数十体のスケルトンが近づこうとしている海岸に向かう。そんなワイバーンを引き留めたのは、アイリスさんだった。
「どういうつもりだ。お前たちはこの街を攻め込もうとしていたのではないのか?」
「それはあのバカのフライング!シスターさん、アンタ【結界】のスキルを持っているよね?おそらくだけど、桐ちゃんが侵入してきた水門の入り口の近くの結界が壊れて、外からスケルトンが入り込んできているんだと思う。そこの結界を急いで張ってきて!!」
どういうことなんだ?
ワイバーンはまるでこの街を、この街に住む人たちを守ろうとしているみたいじゃないか?
彼女が、あの時僕のことを追放して、殺そうとしていた幕ノ内桜と同一人物とは思えなかった。
アイリスさんは困惑するが、ワイバーンは決して嘘を言っている様子はなかった。いつになく彼女の声は真剣そのもので、僕たちを騙そうとしている気配は感じられない。
「早くしないと、この街の人たちがスケルトンに襲われちまうだろ!!それでもいいのかよ!?」
「わ、分かった!!」
アイリスさんが鳳たちが入ってきた水門の方に向かうと、船着き場に這い上がってきたスケルトンがじりじりと、ゆっくりとした速度でこっちに向かってやってくる。
「仕方ねえ、やりますか。お前も逃げてもいいんだぜ?」
「腐っても勇者を名乗っている以上、魔物にビビッて逃げたらおしまいでしょ?そこんところのプライドぐらい持ち合わせているよ!!」
「いい根性だ!!」
幕ノ内桜。
一体彼女は何を考えているの?
この街を必死で守ろうとしている彼女と、僕を殺そうとしていた彼女が、どうしても同じ人物とは思えない。
ただ、今はこのスケルトンの大軍を何とかしなければミルティユは危ない。
レベッカさんが大剣を構えると、ワイバーンが鉤爪を両手に持って身構えて・・・。
「行くぜ!!」
「ショータイム!!」
一気に飛び出して、大軍に向かって突っ込んでいった!!
悪役だけど、自分にあてがわれた【勇者】としての筋は通し、理不尽な侵略は許さない。
桜は敵ではありますが、鳳とは異なって、彼女は彼女なりの信念と美学に従って戦う、そんな悪役にしてみましたがいかがですか?
意外と男気もあります。というか、彼は男性です(コスプレ好きなだけ。金髪碧眼、色白でギャル系の男の娘となっております)。




