第十三話「The Darkness~桜VS闇の魔神オプスキュリテ①~」
いつも拙作を読んでいただき、本当にありがとうございます!
新作が書きあがりましたので、投稿いたします!
どうぞよろしくお願いいたします。
【三人称視点】
「えーと、救護室は一体どこにあるんやろうな?」
会場の廊下は入り組んでおり、同じような風景が続いている迷路のようだ。
オリヴィアは案内板を頼りに、救護室に向かって足早に向かう。
さざ波のような嫌な予感が、窮奇が救護室に連れていかれた時からどうしても消えない。
トレジャーハンターとして、傭兵として。人生のほとんどを生きるか死ぬかの極限的状況の中で過ごしてきたことで培った、危険を予知する本能が頭の中でけたたましく鳴り続いている。
(・・・嫌な予感がめっちゃしよる!)
そして、その予感は見事的中した。
「この役立たずが・・・!」
「ヴェロニカ様のお顔に泥を塗った罪は、命で償え!」
何かを叩きつけるような音、罵声が救護室からではなく、空き部屋から聞こえてくる。
オリヴィアが眉をひそめて、気配を感づかれない様にこっそりと物陰から様子をうかがう。
そこでは、傷ついた窮奇に向かって鋭い光を放つ槍の切っ先を突き付けている魔族たちの姿があった。血走っているかのように赤い瞳で睨みつけながら、耳元まで大きく裂けている口をいやらしく釣り上げて、下卑た笑みを浮かべている。窮奇は床に倒れこんで、魔族たちを睨みつけて激昂する。
「お前たち、どういうつもりだ!!この私にこのようなことをして、ただで済むと思っているのか!?」
「はっ、うるせえよこのアマ!お前が負けた時点で、ヴェロニカ様はお前を四天王から除名したんだよ!そして、能力を奪われちまって何の役にも立たない女なんて、もう邪眼一族にはいらねぇ!」
「今までよくも偉そうにしてくれていたよなぁ!たっぷりとお返ししてやろうじゃねえか!」
「この戦いで”彩虹の戦乙女”を倒せば、俺たち邪眼一族が魔界でも圧倒的な戦力を誇る一大勢力となる!そして、新しい四天王に選ばれた光の魔神様と闇の魔神様に上手く取り入れば、俺たちが新しい四天王としてのし上がるのも夢じゃない!そのためには、お前が邪魔なんだよ!」
「それに、これはヴェロニカ様直々のご命令なんだよ!役立たずのメス豚を始末しろってなァ!まあ、その前に、今までこき使ってくれた分、楽しませてもらうぜェっ!!」
(ヴェロニカ様が!?嘘だ、そんなの嘘だ!!)
抵抗しようとした瞬間、イノシシのような太い牙と燃えるような赤色の毛並みで覆われた獣人が、窮奇の服に手をかけて乱暴に破り上げる。飛び出した豊満な胸をとっさに腕で隠すが、もう一体の虎の獣人が鋭い爪と牙をむき出しにして、窮奇の腕を掴み上げる。
しかし、イノシシの獣人と虎の獣人の瞳が赤く光っている、つまり邪眼一族ということに気づくと、窮奇の表情が絶望に染まっていく。
邪眼一族はヴェロニカが呪印を身体に刻みつけて、邪神の力を注ぎ込む儀式を施すことで生み出される。その時、邪眼一族は主であるヴェロニカには絶対的忠誠の誓約を交わす。もし彼らが邪眼一族であるなら、ヴェロニカ直属の部下である四天王に逆らうことは出来ないはずなのだ。
それが出来たと言うことは、窮奇が四天王から除名されたことを証明していた。
(・・・ああ・・・そうか・・・)
(・・・もはやアタイは・・・あのお方にとっては・・・役立たずのゴミに過ぎないのだな)
(・・・饕餮、橈骨、渾沌、済まない・・・)
窮奇の首に手をかけた猪の獣人がゆっくりと持ち上げて、甚振るように握りしめた手に力を入れる。
(・・・領土における噴火、それによる干ばつと凶作、飢えに苦しむ民たちが生き延びるために禁じられた呪法の儀式を施すことでしか民を救う方法はなかった)
(邪神と手を組んだ忌まわしい証である赤色の瞳と、魔族とは異なる波動に満ちた魔力を持つ異形、それが邪眼一族と呼ばれた所以。民たちの命を救うために行った儀式が、魔族たちからは邪神と契約した忌まわしい存在として忌み嫌われて、同じ魔族たちから迫害を受け続けてきた)
(アタイは・・・いいや・・・ヴェロニカ様はそんな彼らが堂々と生きていける世界を築き上げるために、魔王軍や人間たちと争い、居場所を手に入れるために立ち上がった)
しかし、その理想はもはやヴェロニカの心からは離れて行ってしまった。
今の彼女は、邪眼一族の力を利用して、自らが魔界を統べる絶対的支配者として君臨するために戦っている。かつての部下思いで思慮深く、臣下を家族として大切に思いやる心はもはや今の主からは感じられない。
あの女・・・”マツモト・チヅル”が彼女のもとに現れてから、彼女は変わり果ててしまった。
橈骨が死んだときも、彼女は顔色一つ変えることなく、些末なこととして切り捨てた。それはかつての彼女からは想像もできない態度だった。
ヴェロニカが窮奇に対する視線はまるで虫けらでも見下ろすような、無感情なものだった。
(・・・ヴェロニカ様を変えてしまったのは、あの女だ・・・!)
クロスの女勇者に対する憎しみと怒りで、拳を強く握りしめる。
そして、自分の身体に太い指が食い込もうとした、次の瞬間。
グシャッ!!
「ごぱっ!?」
突然飛び込んできた影が放った槍が、イノシシの獣人の頭部にめり込み、そのまま吹き飛ばした。
槍の直撃を受けて壁に叩きつけられた獣人はそのまま崩れ落ちて、二度と動かなくなった。
「・・・随分と胸糞悪いことをしとるなぁ。ウチ、めっちゃ機嫌が悪くなったわ」
「・・・お前、どうして・・・!?」
それはオリヴィアだった。
怒髪天を突いたような表情を浮かべている彼女は、凍り付くような鋭い三白眼で獣人を睨みつける。
そんな彼女に、自分が彼女に助けられたことが信じられず、窮奇は唖然とする。
「女を殴るようなヤツ、女を痛めつけて楽しむようなヤツは、生きる資格なんざあらへん」
オリヴィアは槍を引き抜くと、突然の出来事に呆気に取られている虎の獣人に向かってズンズンと近づいていく。
「ひっ・・・!」
「去ねや」
虎の獣人が我に返って、怒りが湧き上がって表情を醜くゆがめた瞬間。
”彩虹の戦乙女”の中でも好戦的で、敵に対しては冷酷非情な槍術士の強烈な一撃が、虎の獣人の胸を刺し貫いた。
「ちっ、とりあえず逃げるで!」
「お、おい・・・!」
混乱する窮奇の手を乱暴に引っ張り上げると、そのまま抱き上げてオリヴィアは走り出した。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
【斗真視点】
時計の針は、残り5分、ちょうど半分を切った。
僕はリングの上で繰り広げられている、桜と高森くんの激しい攻防戦を、とにかくひたすら叫ぶように桜を応援していた。喉が張り裂けようと、頭に血が上ろうと、絶対に桜を応援することをやめない!
『さあ、時間はちょうど半分を切りました!!マクノウチ・サクラ選手とタカモリ・シロウ選手の激しいヘラさばきによってお好み焼きが次々と宙を舞い、焼き上がっていきます!!現在、わずかな差でタカモリ選手がリードしております!!』
この対決のルールは鉄板のリングの上で、巨大なお好み焼きを焼きまくり、リングの外に控えている巨大な竜を象った石像のような姿をしている魔物【ガーゴイル】の口の中に投げ入れて、先に満腹にさせた方が勝ちとなる。
油を引いた灼熱の鉄板の上にタネを流し込み、リングに現れる巨大猪をヘラで倒して瞬時に魔力で加工された肉や刻んだ野菜、エビなどの海産物などを載せて、じっくりと焼き上げていく間、超硬度を誇るヘラとヘラが激しくぶつかり合い、火花を散らしている。
しかし、今の状況は・・・桜がだいぶ押されてきている。
桜は顔から汗の玉が流れ落ち、、胸に巻き付けたサラシが濡れて、汗ばんだ豊満な胸にくっついてしまていた。疲労困憊の表情を浮かべているが、歯を食いしばって、必死でヘラで高森くんの妨害を防ぎながら、自分の陣地で焼いているお好み焼きを焼き上げていく。
普段の桜ならここまで苦戦を強いられることなどない。
料理の腕前に関しては僕よりも上だし、剣術を主体とするファイティングスタイルは、剣術士のヴィルヘルミーナさんに鍛え上げられているため、そんじょそこらの剣士では相手にならないほどに強い。
そんな桜が、追い込まれてきている・・・!
桜の動きが最初と比べると、だいぶ遅くなってきている。
しかし、いつもの桜の体力だったら、まだ十分に余裕があるはずだ。それなのに、今の桜はまるで全力でマラソンを走った後のように、息を切らせて、身体の動きが鈍くなっている!
「・・・そろそろ、ワシの能力がどういうものか、分かってきたかの?」
「・・・ああ、お前と戦う前から気を付けていたつもりだったけどな・・・!」
高森くんが余裕たっぷりに笑みを浮かべると、彼の身体から黒いもやのようなものが湧き上がった。もやが彼の身体から噴水のように噴き出して、スタジアムの上空を屋根のように覆い、辺りがまるで夜のように暗くなっていく。
「・・・俺の魔力や体力を、気が付かないうちに吸収していたってことか」
「まあ、これについてはワシも少々扱いに手こずっておる。されど、だいぶこの能力も自分の意志で操ることが出来るようになった。この・・・闇の力をな」
高森の身体から噴き出していた闇が身体の中に戻っていくと、背中から巨大な蝙蝠の翼の形になった闇が噴き出し、高森を中心にリングの床を覆い尽くすように闇が侵食していく。
「・・・ワシの”闇”は、全てを引き寄せて吸い込み、無に還す・・・。触れたものの力を奪うだけではなく、取り込んだ空間さえもワシの意のままに操ることが出来る」
「・・・闇を操る能力・・・!?」
ニナが使う影やブラックホールを自在に生み出す能力に似ているけど、この感じは、間違いなく・・・ヤバい!!今までに戦ってきた敵とは、レベルが桁違いじゃないか!!
「サクラ、気を付けて!!その子、ヤバいぞ!!」
ミーナさんが血相を変えて思わず叫んでいた。レベッカたちも高森の得体のしれない能力に表情が強張って、焦りの色が浮かんだ。
「・・・もう、遅いわ。幕ノ内、お主に見せてやろう。闇の魔神から授かった闇の力に、ワシの数少ない特技を組み合わせて会得した、とっておきの”芸”をな・・・!」
高森が懐からハーフマスクを取り出すと、顔の上半分を覆い隠す。
「血鬼変化・闇魔法、闇魔神の幻影」
高森の身体を闇が渦を巻いて飲み込んでいく。
そして、闇が晴れるとそこにいたのは・・・高森ではなかった。
「何!?」
『なるほどね。君にとって、料理が得意で、戦闘もこなせる人物というのは”梶”だったのか』
「ちょっと待てよ!?トーマが二人いるだと!?」
「・・・・・・ただの幻影魔法や変装じゃない!トーマの魔力や言動、全てにおいて完璧に模写している!?」
「おう、アイツの匂いがトーマの匂いになっちまってる!!まるでトーマが二人いるみたいだ!!」
目の前に出てきたのは、まぎれもなく”僕”そのものだった。
鏡に映したかのような僕の姿に化けた高森くんは、不敵な笑みを浮かべている。
「声も完全にトーマの声になっているわ。ここまで完璧に化けることが出来る変装魔法は見たことがないわ・・・!」
「・・・ちっ!」
『・・・それじゃ、始めようか。”桜”!』
僕の目の前で、もう一人の僕が桜に飛び掛かっていった。
次回、高森の能力の正体を明かします!
邪眼一族を斗真たちにけしかけていたのは、松本千鶴でした。
主に捨てられて、命まで狙われることになった窮奇の運命は果たして・・・?
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!




