表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

23/300

第十三話「ハイデルベーレ要塞防衛戦④~雷の勇者、風の勇者降臨~」

いつも拙作を読んでいただき、本当にありがとうございます!新作が完成しましたので投稿いたします。


暖かく励みになるメッセージをいただき、本当にありがとうございます!これからもメッセージやご意見を励みに頑張ります!

 「・・・ぐほっ・・・で・・・デメェ・・・いきなり・・・何じやがる・・・?」


 前歯が何本か吹き飛び、右頬が真っ赤に腫れあがった顔で鳳が僕を睨みつけてくる。 

 血走った目にはもう理性というものが感じられない。怒りで我を見失っている野獣そのものだ。


 その狂気すら感じる瞳の奥には、動揺と混乱、そして恐怖がありありと浮かび上がっており、それを必死で隠そうとしているのが分かった。それは彼なりの矜持か、この見た目が女の子にしか見えない陰キャの雑魚程度にしか思っていなかった僕に殴り飛ばされた現実が受け入れられないのか・・・まあ、どっちでもいいや。


 「何って、もちろん落とし前をつけに来たんだけど」


 「・・・がはっ・・・何が落とし前だ・・・!!この、陰キャのくせに、生意気言いやがっで・・・!!」


 「そっちも勇者のくせに、僕みたいな陰キャにボコボコにされるなんて大したことないんだね」


 「・・・グギギギギギギ・・・クソがクソがクソがクソがクソがクソがぁぁぁっ!!」


 鳳が電撃と共に緑色の双剣を取り出すと、剣の切っ先を僕に向けて身構える。


 「もうテメェは許さねえ!!ここでバラバラに切り刻んで、海の藻屑にしてやらぁっ!!」


 「いいの?この船にはたくさん火薬や爆弾を積んでいるんでしょう?電撃がもし当たったら君も僕もこの船ごとドカン、だけど?」


 僕が乗り込んだ買い付け用の外輪船には、甲板の上のほとんどを占めている大量の火薬が入った箱が詰まれている。こんな火薬にもし引火などしたら、僕たちはひとたまりもないだろう。当然鳳だって無事で済むとは思えない。だいたい、こんな水上で船が爆発などしたら船着き場まで泳がなければならないが、騒ぎを聞きつけてやってきた衛兵や騎士団の人たちが待ち受けていることだろう。


 つまり、鳳はもうこの時点で完全に詰んでいるのだ。


 「う、う、うるせえうるせえうるせえうるせえうるせえ!!テメェをここでブッ殺せばそれでいいんだよっ!!こ、こ、この雷の勇者である俺様を本気で怒らせたんだからなっ!!土下座をして命乞いをしても、絶対に許さねえっ!!さっさと俺様に殺されちまえよ、この野郎ォォォォォォッ!!」


 ダメだこりゃ、話にならねえ。


 僕は緋色の宝箱を取り出すと、バックルを腰に巻き付けて宝箱を装填する。


 「変身」


 『闘衣召喚!!ハヌマーン!!』


 ハヌマーンの能力を司る緋色の闘衣を纏うと、身体を軽く前かがみにして、あごを肩で隠すように腕を折り曲げて構えた。


 「な、何だよそれは!?お前、ただの裁縫師じゃなかったのかよ!?裁縫師ごときが生意気に鎧なんて着ているんじゃねえよ!!」


 驚きのあまりにもはや訳の分からないことを言い出した鳳は完全に冷静さを失っていた。


 「そんなことどうでもいいでしょう?」

 

 「ウガアアアアアアアアアッ!!殺すっ!!マジでぶっ殺してやる!!須賀ァ!!テメェも何ぼさっとしてやがる!?コイツをブチ殺せッ!!そして、この街の魔族も魔族とつるんでいるクズ人間どもも皆殺しにするんだっ!!」


 桐人が血走った目で須賀さんを怒鳴りつけると、まるで能面のような表情で僕たちのやり取りを見ていた須賀さんの身体が緑色の光を放つと、柚葉色の外殻の甲冑で全身を覆い、腕や足に包帯を巻きつけてさながらミイラを思わせるような姿をしたコガネムシの魔人【ケプリ】に変貌する。


 「死ねェェェェェェッ!!」


 鳳が双剣をメチャクチャに振り回しながら突進してきた。

 怒りに身を任せて繰り出してくる双剣の攻撃に対して、僕は巨大なグローブを盾のようにして突き出して剣の攻撃を防ぐ。


 火花が飛び散り、高い金属音が響き渡る。


 剣ごと腕を弾かれた鳳は、グローブの硬さに目を見開いて驚きをあらわにする。


 「はあああっ!!」


 すかさず鳳の懐に潜り込んで、前に足を踏み込むと同時にパンチを放つ。


 鳳が双剣をとっさに構えるが、剣を殴りつけて腕ごと弾いた。


 そこへさらにもう一発お見舞いする。


 「ごふぁ・・・っ!!お゛っ、お゛え゛ぇぇぇぇぇぇっ・・・!!」


 拳が鳳のみぞおちにめり込み、鳳の動きが止まって嗚咽を漏らす。しかし、僕は止まることなく左頬にパンチを放ち、左頬に拳がめり込むと骨がきしむ音を上げて、鳳の身体が宙を回転しながら吹き飛んだ。


 「げぼぎゃぁぁぁぁぁぁっ!!」


 後ろから今度はケプリがサーベルを取り出して斬りかかってきた。


 僕が鋭い刃のひと突きをかわすと、そのままケプリがこっちに向かってくる勢いを利用して拳を突き出して、顔面に全身の体重を乗せたパンチをめり込ませた。


 『ごぉふっ・・・!?』


 ケプリがよろめき、サーベルを手放したところにすかさず僕は腹部にブローをめり込ませた。


 ケプリの身体が大きく歪み、殴りつけた装甲には無数のひびが入り、熱を帯びて煙を放っていた。


 「ふんっ!!」


 そしてダメ押しに彼女目掛けて飛び込み、狙いを定めて拳を振り下ろした。


 右頬だ。


 落下すると同時に体重をかけた拳をまっすぐ放ち、ケプリの顔面に拳がめり込ませる。


 ケプリの目が白目をむき、口から緑色の液体を吐き出しながら首が折れ曲がりそうなほどにねじれて吹き飛んだ。


 そうしているうちに、船が海流によって船着き場に流れ着こうとしていた。


 あそこにはきっとブルーベルさんが呼んでいた騎士団、もしくは衛兵の人が駆けつけてくれているはずだ。そこで彼らを差し出せばこの騒ぎも終わるだろう。


 鳳とケプリは白目をむき、身体を痙攣させながら完全に意識を失っていた。

 特に鳳はこの現実が信じられないのか、目をかっと見開き、口から泡を吹いた無残な姿となっている。


 そして、船着き場まであともう少しと思っていた時、僕の目の前には船着き場で待ち受けている人の姿が見えた。


 




 「・・・・・・え?」






 その人物の姿を見た瞬間、僕は凍り付いた。


 そして、そいつは僕の姿を見るとにぃっと小悪魔のように微笑んで、何やら銃のようなものの銃口をこっちに向けた。


 「繋風捕影けいふうほえい・風魔法・翼竜の捕縛(ワイバーン・ホールド)


 トリガーを吹くと、銃口からは黄金の光を放つ風がものすごい勢いで噴き出した。

 そして、船ごと僕らを風が包み込むと、船が水上から持ち上がってそのまま船着き場に向かって吸い込まれていく!!


 「うわああああああっ!!」


 僕と鳳、ケプリは船から振り落とされて船着き場に落下した。


 そして、爆弾を乗せた船は吹き荒れる風に包まれて見えなくなり、やがて風が消えるとカプセルのような形になっていった。いや、よく見るとカプセルトイのように小さくなった船がカプセルの中に入っていたのだ。


 それを手に取って、そいつはぺろりと舌で下唇を舐めて妖艶に微笑んだ。


 「全く危なかったよね~。まさか本当にこんなもん使おうとしていたなんてさ。さすがにこれは勇者としてはやったらダメっしょ・・・桐ちゃん」


 「・・・幕ノ内・・・!!」


 それは、僕を追放した5人の勇者の一人、幕ノ内桜だった。


 桜はにっこりと微笑むと、手をひらひらと振って、まるで挨拶でもするかのように話しかけてきた。


 「やっほー、梶っち。元気そうじゃん♪」


 「・・・ふざけるなよ、お前たちが僕に何をしたのか忘れたの?よくも堂々と僕の前に顔が出せたね?」


 「うーん、まあ、言いたいことも分かるし、自分が梶っちにおめおめと顔が出せる資格なんてないとは思っているけどさ、今日はそこのバカを回収しに来たのよ。これ以上バカなことをやらかされたら、あたしたちも勇者としての立場がなくなるしね」


 「・・・ううっ・・・いってぇ・・・て、幕ノ内?どうしてここに?」


 「あっ、目ェ覚めた?」


 「・・・そうか、俺を助けに来てくれたんだな!?ひゃははははははっ!!そりゃあ助かったぜ!!おい梶、もうテメェはおしまいだぜ!!何せここには勇者が二人もいるんだからなぁ!!それに須賀もいるし、これから正面玄関をぶち破って甲田たちもやってくる!!一人でこれだけ大勢の相手を倒せるのかなぁ~?ヒャーッハッハッハッハッハッハァ!!大逆転だぁぁぁぁぁぁっ!!」


 梶が血走った目で、口から唾を吐き出しながら醜い笑みを浮かべてまくし立てる。

 しかし、そんな梶を桜が思わずゾッとするような冷たい視線を向けていた。しかし、それにも気づかない鳳は馴れ馴れしい態度でヘラヘラと笑いながら桜に近づいていく。


 「さあ、幕ノ内!!俺とお前、勇者の力をこのバカに思う存分見せつけてやろうぜ!!」


 「・・・何を言っているのさ、君は」


 「えっ?」


 『がふっ・・・!?』


 桜が冷たい眼差しを向けて桐人を一瞥すると同時に、ケプリがくぐもった声を出した。見ると、彼女の胸を剣の刃が貫いていた。


 『ど・・・どうして・・・?島田・・・!?』


 「これが私の勇者としての仕事だからだ」


 ケプリを後ろから刺したのは、緑色のメッシュを編み込んだ黒髪をポニーテールに縛り上げた長身の女性、クラスメートの【島田花桜梨】だった。鋭い三白眼で睨みつけながら、淡々と答えた。


 そして、ケプリは倒れ込むと動かなくなり、体中に無数のひびが入ったかと思うと、乾燥した泥人形のようにボロボロと崩れ落ちた。


 「いい仕事するじゃん、かおりん」


 「なっ・・・ど・・・どうして・・・どうして須賀をやったんだ!?おいっ、島田!!どういうことだ!?お前、俺の奴隷だろうが!!何で須賀を殺したんだ!?」


 「かおりんを責める資格は桐ちゃんにはないっしょ。ていうか、桐ちゃんの暴走のせいで、緑の雷騎士は新しい雷の勇者に選ばれたかおりんを除いた全員が処刑確定なんだからさ。ああ、桐ちゃんもクロス王国に莫大な被害をもたらした国家反逆罪で、勇者の称号を剥奪されたよ?」


 ・・・・・・え?


 桜はため息をつき、肩をすくめてとんでもない爆弾発言をぶっ放した。


 鳳が勇者の称号を剥奪されたって? 

 それってつまり、鳳は勇者じゃなくなったってこと?


 「・・・・・・はぁ?剥奪って、何だよ?」


 「まあ分かりやすく言うと、お前バカだから勇者クビな、てこと」


 「・・・・・・・・・はああああああ!?どうして!?何で俺様が勇者をクビにならなくちゃならねぇんだよ!?」


 鳳が怒り狂って叫ぶが、桜は涼しい顔のまま懐から一枚の手紙を取り出して鳳に差し出した。


 「それ、国王陛下とセルマっちからの辞令ね」


 「辞令・・・だと・・・!?」


 鳳が手紙を取り出して読むと、みるみる目が大きく見開かれて、血の気が引いて真っ青になる。顔や体中から汗を吹き出して、力なく膝を地面について座り込んだ。


 『聖王国クロス国王の名の下に命ずる。

  雷の勇者キリト・オオトリから勇者の称号とスキル、能力の全てを剥奪、友好国ブラオベーレに国王の許可もなく攻め込んだことは国家反逆罪にあたるとして、極刑を言い渡す。


  また、新しい雷の勇者をカオリ・シマダに任命する。緑の雷騎士は解散し、今後は黄の風騎士と合同で魔王軍討伐の任に当たることを命じる。


 聖王国クロス国王 イグナーツ・フォン・イステル5世

 筆頭王宮魔導士  セルマ・ティアマット』


鳳桐人、地獄への転落開始。これではまだまだ終わりません。


そして次回、桜と花桜梨が変身いたします。


次回もよろしくお願いいたします!

ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ