第二十四話「憎しみの終わりへ④~雁野、散る・・・~」
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【三人称視点】
「だーーーーーーっ!!トーマは一体どこにいるんだよっ!?」
「これだけ広い森の中じゃ、探すのも一苦労ですわね~」
アルコバレーノは森の中を爆走ししていた。
巨大な車体が木々が生い茂る森の中に飛び込む瞬間、車体全体が魔力の光に包まれて、木に当たってもまるですり抜けるようにして進んでいく。走っている間、車体が四次元空間に入る空間魔法を応用しているため、障害物が多い環境の中でも、建物や自然を破壊することなく運行をすることが出来るのだ。
「・・・・・・こうなったら、この魔道具を使うしかない。テレテッテッテレ~【迷子呼び出しハウス】」
ビビアナが取り出したのは、犬小屋ほどの大きさのある家の形をした魔道具だった。
「・・・それ、どんな魔道具なんスか」
「・・・・・・雪山で遭難をした時に、遭難者を安全に避難場所に導いたりするときに使う。主に、迷子になった団長を引き戻す時に使う」
「というか、それ以外に使ったことがないでしょう」
「・・・犬扱いされているのかよ、団長」
「「「「「駄犬、もしくはバカ犬」」」」」
「フッ、ボクはそんなおバカで可愛らしい団長が大好きさっ!」
「お前ら、酷過ぎねっ!?」
隊員たちのレベッカに対する扱いに、桜は脱力してしまう。
「・・・・・・ここに、トーマがやってくるように食べ物とかいい匂いがするものを入れて、匂いを森中にばら撒く。その匂いを辿っていけば、私たちの所にたどり着けるようにする」
「呼びかけに必要なスピーカーやマイクもあるね。これでトーマ君のことを呼べば、きっと彼もボクたちのことを見つけてくれるだろう」
「それなら、とっておきのものがあるわ!」
「ああ、私もこれなら間違いなくトーマを見つけることが出来るというものがあるぞ」
そう言って、ニナとアイリスが装置の中に何かを詰め込んで、魔道具を設置すると、スイッチを押した。
魔道具が起動して、外にはなぜか紫色のもやのようなものが流れ出して、瞬く間に森の中を満たしていく。そして、斗真を呼びかける声がスピーカーから流されだすが、車内は防音の魔法がかかっているため、アイリスがどんなボイスデータを提供したのかは、桜たちには分からなかった。
「それにしてもさ、何を使ったんだ?」
「フッ、トーマを必ず呼び出すことが出来るものと言えばあれしかないだろうが」
「そうね、これについてはトーマを呼び出す自信があるわ」
アイリスとニナが胸を張って自信満々に言い放つ姿に、桜は嫌な予感を感じた。
「・・・あの・・・何を使ったんですか?」
「愛する弟に捧げる、お姉ちゃんからのラブソングだぞっ!!」
「トーマのために作った、私の手作りクッキーよ!!」
ビシッ!!!
この時、騒がしかった車内の空気が氷点下まで凍り付き、レベッカたちの顔色が一瞬で真っ青になった。そして、彼らは車窓から流れていく紫色の煙・・・ニナのクッキーの成分を含んだ匂いとアイリスが心を込めて歌っているであろう歌声が流れていく外の風景を見ながら、アイリスとニナを除く全員が涙を流して敬礼をしたという。
アイリスの殺人級オンチな悪魔の歌声と、ニナの殺人級の激マズ暗黒物質のダブルコンボなど、普通の状態でも意識不明に陥るほどの破壊力だと言うのに、雁野と戦って満身創痍の状態でそんなものを味わった日には、どんなことになるのか・・・。
もはや想像するだに恐ろしい。この時点で、桜たちは斗真の生存は絶望的と判断した。
「・・・さようなら・・・斗真・・・!!」
「・・・完全に終わりましたわね・・・」
「・・・あとで、蘇生の魔法の準備をした方がええんとちゃうか」
「・・・とどめにならなけりゃいいんだけどねぇ・・・」
涙を流し、絶望的な空気に包まれている桜たちを見て、アイリスとニナは不思議そうに首をかしげていた。自分たちの破壊力がどれほどのものか、本気で理解できていない天然な所は、この傭兵団において味方からも敵からも一番恐れられているのかもしれない。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
【斗真視点】
雁野の身体が、粒子となって少しずつ透明になってきている。
それは彼女の身体の崩壊・・・死を意味している。和田さんたちの時と同じように、この世界から影も形もなくなって、消えていこうとしている。
僕の心の中は、正直自分でも不思議なぐらいに、落ち着いていた。
いや、心の中が空っぽになっていたというのが正しい。
雁野は、つばさや光を襲い、多くの人たちの命を奪ってきた。
かつての仲間をやられたことに、コイツだけは僕の手で絶対にケジメを取ると決めていた。
しかし・・・。
雁野を倒しても、正直「ざまぁ」という気持ちは湧き上がらない。
怒りや憎しみという感情がまるで嘘のように消え失せて、哀れみとか悲しみとか言う感情もなく、ただ目の前で消えていく雁野の姿を見て、倒しても何も満たされない、虚しさだけが募っていく。
「・・・私を倒したのに・・・冴えない顔をしているわね・・・」
「・・・うるせえ」
「・・・少しだけ、話をしても、いいかしら・・・?」
雁野が僕に近くに寄るように言ったので、僕は雁野に近づいた。
「・・・斗真くんを追放しようと、言い出したのは第三王子ではなくて・・・松本よ」
「・・・は?」
「・・・聞いてしまったのよ。召喚されてすぐに、第三王子と松本が話しているのを。第三王子に、斗真くんは役に立たない『裁縫師』のスキルを持っていて、勇者たちを自分のものにして、次代の王になろうと企んでいた第三王子の野望を邪魔しようとしているってね・・・。そして、アイツは鳳や雨野にも、斗真くんを追い詰めるために・・・裏で操っていた。私にも、斗真くんを倒すように、色々と吹き込んできたわ・・・」
桜の時も、第三王子やセルマを利用して、人質として捕らえて、桜に自分たちの言うことを聞かせようとしていたけど、それも確か松本が裏で糸を引いていた・・・。
つまり、今度の計画の黒幕は・・・松本ということで間違いなさそうだ。
「・・・松本の狙いは・・・世界を苦しみから解放する・・・”英雄”になること。そのために、この世界の全てを滅ぼそうとしているわ。でも、彼女の狙いはもう一つあった・・・。それは、斗真くん、貴方を・・・救済するため・・・」
は・・・?
松本の本当の狙いは・・・僕のことを救済するためだって?
「・・・アイツがどうして貴方にそこまで執着しているのか・・・それは分からないわ。ただ、アイツは世界を滅ぼすことで、世界を苦しみから解放することが英雄である自分がやるべきことだと、口癖のように言っていた・・・。そして、貴方が大切な人だから、貴方を苦しめて、苦しめて、全てに絶望した時、自分が貴方のことを・・・救ってあげることが・・・自分の務めだと・・・言っていた・・・」
それじゃあ・・・。
クラスメートを犠牲にして、勇者たちを利用して僕を殺そうとしたことも、魔神を復活させて世界を滅亡の危機に晒すことも、全ては・・・!
「・・・僕を・・・絶望させるために・・・やっていたことだっていうのか・・・!?」
雁野が激しくせき込み、苦しそうに、消え入りそうな呼吸を繰り返す。
そして、僕のことを見て、血の気を失った顔で微笑みかけてくる。
「・・・私が・・・死にたがっているって言っていたわね。でも、どうせ死ぬなら貴方に殺されることを、私はずっと望んでいたわ・・・」
「・・・どういうこと?」
僕はもう両足を踏ん張る力もなくなり、雁野のそばに寄り添うようにして座り込んでいた。
「・・・3年前、貴方がクラブで半グレたちを叩き潰した時、私もあそこにいたっていうのは知っているわよね?あの時、貴方は私に・・・こう言ったのよ?」
ー『ここから避難口に向かって、急いで逃げろ!』-
ー『大丈夫。何があっても、絶対に守ってみせる!!』-
「・・・たった一人で100人以上入る集団に、しかも素手で乗り込んで勝てるはずなんてないと思った。でも、貴方は本当に100人以上もの半グレたちを叩き潰した。貴方が戦っている姿は、私が知っている人間の中でも一番輝いていて、すごく、カッコよくて、私に生まれて初めて・・・憧れという感情を教えてくれた」
そういえば、あの時、どうして廃墟のクラブに女の子がいるんだろうと思ったけど、ここにいたら危ないから逃がそうとしたんだっけ。そうか、あの時の女の子が雁野だったんだ。
「・・・大勢の相手をたった一人で叩き潰していく貴方の姿は、誰よりも大きく見えた。見た目は女の子にしか見えないし、身体だって大きいわけじゃない。それなのに、誰よりもたくさんのものを背負っているように見えた。口先だけの薄っぺらな人間ばかりを見てきた私には、貴方だけがまるでヒーローのように見えた・・・」
自分にとっての敵を倒している時だけが、その時に見た僕のようになれるのではないかと思っていたらしい。自分の力だけでどんな困難や障害をブッ飛ばすことが出来る自分になろうとしていたと、雁野は言った。
「・・・信頼して、裏切られて、絶望して、その繰り返し。実の親でさえも私のことを平気で殺そうとしてくる連中だった。私は・・・死にたくなかった。だから、あの日、私は無我夢中で母親から包丁を取り上げて・・・必死で抵抗して・・・気が付いたら・・・私を殺そうとしていた養父も、母親も、死んでいた・・・」
雁野の瞳にうっすらと光るものが浮かび上がった。
「・・・夢の中に血まみれになった養父と母親が、私のことを怖い顔で睨みながら責め立ててくる。私たちが死んだのはお前のせいだ、お前なんか産まなければよかったって。それでも、私は・・・生きたかった。みんなと同じように、普通の生活を送りたかった・・・」
しかし、雁野の思いは悉く打ち砕かれた。
相談に乗ってくれた教師からは裏切られて、信頼していた唯一の友達からも陰で自分を陥れるために、自分の手を下さないで雁野を執拗なまでに虐めて、苦しめ続けた。
「・・・犯罪者が相手なら、何をやっても罪にならない。みんなが私のことを痛めつけることに、罪悪感なんて何もなかった。そうやって理由があれば自分の行動を正当化して、正義だと信じて疑わない。自分だけが綺麗であり続けるために、汚いものを寄ってたかって排除する。それが世界というなら、そんな世界なんて、私がこの手で潰してやる」
雁野の頬を、一筋、光るものが流れ落ちていく。
「・・・そんな連中で溢れかえっている世界で、貴方だけがいつでもまっすぐで、輝いて見えた。目に焼き付いて、どうしても忘れられなかった。何度倒れても、何度でも立ち上がっていく貴方は誰よりも強かった。・・・貴方のように、なりたかった・・・貴方のように・・・戦っていれば、貴方のように・・・強くなれるかもしれないって・・・」
雁野の姿はもう崩れる寸前だった。
粒子が噴き出す速さが早くなり、雁野の身体が透明になっていく。
たった一人で、ずっと理不尽な暴力に虐げられて、誰からも愛されることがなかった雁野。
苦しみ、悲しみ、怒り、憎しみの感情に押しつぶされて、目に着いたものを全て敵視し、憎悪の対象として排除することでしか、自分の心の安定を保つことが出来ないところまで追い込まれていた彼女。
それは、レベッカに会うまでの僕自身も同じようなことを考えていた。
彼女と出会わなかったら、きっと僕も、今の雁野と同じようなことをしていたのかもしれない。
僕を捨てて勝手にくたばった両親や、唯一信頼していた親友である光から絶交を言い渡されていたこと、自分の見た目のことで言い寄られたり、暴力を振るわれたりすることに、こんなことが毎日続くぐらいなら、もう何もかも投げ出して、誰も知らない場所で一人きりで生きていきたいと願っていた。
僕が何とか昔の熱さや元気を取り戻すことが出来たのは、レベッカやみんなのおかげだ。
そして、彼女にとってのレベッカともいえる存在が、まさか僕自身だとは思わなかった。
あの時、彼女をレベッカのように強引にでも仲間にしていれば、何かが変わっていたのだろうか?
しかし、もうそれは今更どうしようもない。
「・・・もうここまで、か。・・・斗真くん・・・手・・・いい・・・?」
雁野はもう消えかかっている手で、僕の手を取ると、両手で包み込むようにして自分の頬に近づける。
「・・・ああ・・・あったかい・・・」
「・・・雁野・・・」
「・・・こんなことしか・・・思いつかなかった・・・。・・・どうやって生きていけばいいのか・・・分からなかった・・・。どうすれば・・・貴方のように・・・強くなれたんだろう・・・」
そして、雁野は最後にうっすらと・・・微笑んだ。
ー・・・貴方の・・・ように・・・私も・・・強く・・・なりたかった・・・。-
-・・・貴方は・・・私の・・・ヒーロー・・・だったわ。-
その表情は、狂気を感じさせる大人びた妖艶な表情ではなく、年相応の少女の表情をしていた。
わずかに、瞳には理性の光が灯っていたようにも見えた。
そして、雁野は僕の手を握りしめたまま・・・。
光の粒子となって、空に昇っていき、やがて見えなくなっていった・・・。
僕はそのまま、地面に寝ころんで大きくため息をついた。
雁野がさっきまで触っていた手には、柔らかくて、少し冷たい感触が残っている。
「・・・俺だって・・・強くねえよ」
大事なものをもう二度と失いたくないから、必死で悪あがきをしているだけ。
本当に強いと言うことがどういうことなのかさえも、まだ分かっていない。
それなのに・・・。
「・・・バカ野郎」
雁野の最期の言葉を思い出すと、果てしなく広がる青空が、潤んで見えた。
雁野美月が、本当に退場いたしました。
サイコパスな彼女でしたが、心の中では自分を助けてくれた斗真が憧れのヒーローとして思っていたことから、彼に異常なまでに執着をしていた理由として書きました。自分と同じような境遇に置かれているのに、自分とは違い、誰かのために戦い続ける斗真の姿が、羨ましいと思っていた模様です。
雁野と決着はつきましたが、斗真に迫る地獄へのカウントダウン。
アイリスの歌と、ニナのクッキーという凶悪的過ぎる殺人コンボから逃げ切ることが出来るのでしょうか?
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!




