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第十二話「ハイデルベーレ要塞防衛戦③~怒りの鉄拳~」

いつも拙作を読んでいただき、本当にありがとうございます!!

ブックマーク登録件数110件もいただき、本当にうれしいです!!

皆様からの暖かいメッセージを励みにして、これからも頑張っていきます!!


 メルの上で待機している間、僕はどうしてもぬぐいきれない不安を感じていた。


 それは、鳳たちが正面から堂々と攻め込んできているという行為に対する、あまりにも無謀で無計画過ぎる行動に違和感を感じていたからだ。


 どう考えたっておかしい。


 いくら勇者のスキルを持っているとはいえ、こんな要塞のような堅牢な国に正面から乗り込むなどと言ったアホなことをするだろうか?鳳がよほどのバカで、鎌田さんが失敗したことで精神的に追い詰められていて、そういったことも考えられないほどのヤバい状態だったというなら話は別だけど・・・。


 (まあ、今更鳳に関しては相当のアホだっていうことだけは確かだけどさ・・・)


 ーピュル?-


 その時、メルが何かに気づいたように声を上げた。


 「どうかしたの?メル?」


 -ピュルルルルルルー


 「・・・え?水路に怪しい船があるって?」


 「トーマ様はメルの仰っていることが、分かるのですか?」


 「うん、何て言うか、メルの言葉が頭の中に直接聞こえてきてね。何を言いたいのか分かるんです」


 辺り一面が深い霧が立ち込めていて何も見えないが、メルの驚異的な視力は光が差さない漆黒の闇の中でもまるで真昼のように見渡すことが出来る。そのため、水上を移動している船を目撃することが出来たのだ。


 ーピュルルルルルル!(訳:マスター、水路に変な船があるわ。それにあの船から嫌なにおいがする。この匂いは・・・火薬だわ!)ー


 「・・・火薬を積んだ船が水路に現れたって?それはどの辺りにいる?」


 メルに尋ねると、その船は【市街地】に繋がっている船着き場に向かっていることが分かった。


 そして、その知らせを聞いた瞬間、僕が感じていた嫌な予感が的中していたことを悟った。


 「・・・ブルーベルさん、今すぐにこの街で一番偉い人か、もしくは騎士団の人たちの所に行って、急いで町の人たちを避難させてもらえるように話をつけていただけませんか?」


 「ええ!?ど、どういうことですか!?」


 「説明はあとです!!このままでは、ミルティユがとんでもないことになってしまいます!!」


 僕がメルに目配せをすると、メルが僕の伝えたいことが分かったらしく首を縦に頷いた。

 そして、メルは音も立てずに霧の中を下降して、水路の辺りで体勢を整えて水路と平行に低空飛行する。


 「メルはブルーベルさんを王宮に連れて行って!!」


 「トーマ様は何をなされるおつもりですか!?」


 何をするつもりか、ですって?

 そんなこと、決まっているじゃないですか。


 




 「・・・やっていいことと悪いことの区別もつかなくなったどうしようもない自称勇者のクズを、ブッ飛ばしてきます」


 「・・・え?」






 もう限界だ。

 そもそもこっちは命まで狙われているんだ。

 アイツら全員、滝つぼに100回突き落としても気が済まないほどにムカついていたわけだし。


 そのうえ、平穏に暮らしている魔族や亜人族の人たちが住む国をいきなり襲撃するわ、僕のことを拾ってくれた大切な仲間にまで手を出すとかさぁ・・・!!


 「・・・覚悟しろよ・・・もう僕の我慢もここまでだ・・・!!」


 あのバカ、マジで地獄を見せてやるよ。


 ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


 (三人称視点)


 「けひゃひゃひゃひゃっ!!上手くいったぜ!!今頃囮の連中に気を取られているんだろうよ、バカどもがよぉっ!!」


 水路を進む小型の買い付け船の上で、桐人は興奮が抑えきれないのか、醜悪な笑みを浮かべていた。その傍らでは爆弾を魔力で生み出し続けている【ケプリ】という魔人の姿に変貌した【須賀すが真砂美まさみ】がいた。


 (しかし、本当に上手くいくとは思わなかったぜ。みどりのバカが失敗して捕まったって話を聞いたときには焦ったけどよぉ、あの”侍女”が言っていたことを思い出して、この街の近くの洞窟に用意されていたこの偽物の【買い付け船】と【偽造通行手形】を利用して町に忍び込んで爆弾で町中をぶっ飛ばす作戦に切り替えるなんて俺様はやっぱり勇者として優秀なんだな!!)


 事前に打ち合わせをしていた計画を忘れていたうえに、窮地に追い込まれたときにようやく思い出すようなお粗末な脳味噌を持っている時点で優秀とは程遠いし、そもそもやろうとしていることや方法が完全に犯罪なので桐人は勇者どころか、人間としての最低限のモラルも持ち合わせていないのだが、本人は全くそのことに気づいていない。


 クロス王国を飛び出す前に、クロス王国と友好を結んでいるブラオベーレ王国が裏で魔族と手を組んでクロス王国に攻め込もうとしているという話をある一人の”侍女”から桐人は聞かされていた。


 そして、その侍女がブラオベーレを襲撃する際に正面から乗り込めば、頑丈で堅牢な城門に阻まれてしまうという情報を吹き込み、その対策として町のすぐ近くの洞窟にこの街に住む貴族が個人的に使っている高級ワインの買い付け船を利用することを思いついた。


 事前に高級ワインの買い付け船と同じ船を用意して、積み荷の中には街一帯を吹き飛ばすほどの強力な破壊力を持つ火薬を積み込んでおく。

 

 そして、侍女が用意しておいた【偽造通行手形】を使って関所を抜けて、水路を使って町を一周しながら火薬を加工した爆弾を至る所に流した後に町を抜け出す。そして時間が経てば、水路に流した爆弾が町中で次々と爆発を起こして市民は大混乱に陥り、安全な場所に避難するために国民全員が避難用の救助船が停泊している一番巨大な5番船着き場(フィフス・ポート)に集まったところで、住民を人質に捕らえる。


 住民の命が惜しければ王族ならびに貴族全員の命を差し出せと命令をして、歯向かえば一人ずつ大勢の人たちの前で市民を殺していき、抵抗する意志や心を徹底的にへし折る。大人しく降伏しようとも、自分に逆らったらどうなるのか見せしめとして人質を無残にいたぶり、痛めつける。


 女は全て自分の奴隷として永遠の隷属と支配を強いる。


 そして、ゆくゆくは南の大国とも言われているこのブラオベーレを自分が支配して、自分のことをバカにした雨野たちを見返し、勇者の中でも自分が一番偉いということを世界中に知らしめることが桐人の狙いであった。


 その野望が、今、実現しようとしている。

 そう思うと、桐人は悪魔のような笑みを浮かべて、狂ったように身体を捩らせて笑い出した。


 「これで、この国の全部が俺のものになるんだっ!!笑いが止まらねえぜ!!アーッハッハッハッハッハッハッハッハッハァッ!!」


 そんなことばかりを考えていたから、桐人は全く気が付かなかった。


 月が出ているにもかかわらず、なぜか自分の周りだけが暗い影が差していることにも。

 

 




 「うるさい」






 自分に向かって、怒りや憎悪が渦巻く鋭い眼光を光らせて、感情そのものが抜け落ちたかのような無表情で迫ってくる”鬼”の姿を彼が捕らえた次の瞬間。


 ゴシャアッ!!


 「ご・・・ごぶぁ・・・!?」


 桐人の右頬に白くて細い腕と小さな拳がものすごい勢いで突き出されて、拳が頬にめり込み、骨がきしむ音が鳴ったかと思った瞬間、桐人の身体は浮き上がって吹き飛ばされていた。積み荷に頭から突っ込んだ桐人は一体何が起こったのか理解できずにいたが、頬に焼けつくような熱さと共に全身が飛び上がるような激痛が駆け巡り、桐人は頬を抑えてのたうち回る。


 「げ・・・げはぁぁぁぁぁぁっ!!い、いでぇぇぇぇぇぇっ!!いでぇよぉっ!!だ、だ、誰だ、テメェ!!いきなり、何しやがる!?」


 しかし、桐人の返事に対して返事はなく、その代わりに彼の目の前には巨大な右足の裏が迫ってきていた。


 ドガンッッ!!


 メキメキメキ・・・!!

 バキバキバキ・・・!!


 「ごぺ・・・ぱぁ・・・!?」


 顔面に強烈な蹴りがめり込み、桐人が鼻血を噴き出し、口からは血反吐と何本か歯が砕けて飛び出した。


 「・・・先日はどうも。あのままじゃ死んでも死にきれないから、地獄の底から舞い戻ってきたよ。君たちにやられた分を1000倍返しでお返ししたいと思いまして、こうして会いに来たよ・・・鳳」


 「・・・テ・・・テメェ・・・梶ィィィィィィッ!?」


 桐人の前に仁王立ちして、冷たい瞳で睨みつけていたのは・・・かつて自分たちが追放し、殺そうとしていた梶斗真だった。桐人は突然目の前に現れた斗真の姿を見て、なぜここにいるのか理解できず、混乱状態に陥っていく。

 

 「う、う、嘘だ、嘘だぁぁぁぁぁぁっ!!どうして、テメェがここにいるんだよっ!?何で生きているんだよぉぉぉぉぉぉっ!?ありえねえっ、ありえねぇぇぇぇぇぇっ!!」


 「・・・はぁ、別にもう謝罪なんて最初から期待なんてしていなかったから別にいいけどさ。ただ、君たちに関してはとりあえず半殺し以上本殺し未満にしておかないと・・・気が済まないんだよね」


 誰だ、これは。


 本当に彼は、自分が知っているあの梶斗真か?


 3ヶ月前に転校してきたばかりで、クラスメートの誰ともほとんど話したところを見たことがない、どちらかといえば内気で大人しく人見知りするタイプで、桐人は斗真のことを『見た目は美少女にしか見えない冴えない陰キャ』程度ぐらいでしか覚えていなかった。


 しかし、今の彼は桐人の知っている斗真ではない。


 感情を一切感じさせない無表情、無機質でゾッとするような冷たい声、そして絶対に逃がさないというような狩人のような鋭い視線で睨みつけてくる斗真を見て、桐人は息をのんだ。


 彼は確実に自分のことを倒すつもりでいるのだ。


 そして例え死ぬことになろうとも、どれだけ酷い怪我を負ってももう構わないという完全に割り切っているということがようやく分かった。


 一度敵としてみなした相手の全存在を一瞬で全否定し、どれだけ攻撃を加えて危害を与えることになっても、斗真は桐人の心が完全に折れるまでは攻撃の手を緩めることはない。


 (ヤバい・・・!コイツ、マジで目つきがヤベェ・・・!!)


 桐人は直感した。


 自分は絶対に怒らせてはいけない人間を、本気で怒らせてしまったということに・・・。


斗真、喧嘩が実はメチャクチャ強かった。(喧嘩や争いごとが嫌いだから自分から仕掛けることはしないから、周りからはヘタレだと思われいた)


次回は復讐対象の一人目【鳳桐人】との対決になります。


次回もよろしくお願いいたします!!

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[気になる点] >斗真、喧嘩が実はメチャクチャ強かった。 (喧嘩や争いごとが嫌いだから自分から仕掛けることはしないから、周りからはヘタレだと思われいた) 物語開始時における比較的平和な現代世界から来…
[気になる点] 平穏に暮らしている魔族や亜人族の人たちや拾ってくれた大切な仲間の内 誰か一人死んだとしてもまだ桐人を殺さないといけないという結論に至れない? 逆に言えば彼らにお前たちは何人死んだとして…
2020/11/25 23:10 春野 美々
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