第二十三話「憎しみの終わりへ③~怒号と狂気と虎耳チャイナドレス~」
いつも拙作を読んでいただき、本当にありがとうございます!
新作が書きあがりましたので、投稿いたします!
どうぞよろしくお願いいたします!
【三人称視点】
斗真と雁野が激闘を繰り広げているその間・・・。
レベッカたちはアルコバレーノを爆走させて、斗真の行方を追っていた。列車の中にはもはや殺意が渦を巻いており、何が原因で暴発するか分からないと言えるほどに危険な空気で張りつめていた。
「トォォォォォォマァァァァァァッ!!どこだ!!どこにいるんだ!?あの野郎、トーマに指一本でも触れやがったら、ただじゃおかねえーーーーーーっ!!!」
「・・・・・・トーマに万が一のことがあったら、全勢力を持ってこの世から消滅させてやる!」
「・・・あ、あの、サクラの旦那。何だか、皆さんの殺意や怒りがもはや尋常ではないのですが!?」
他の虫人たちを隣のカーゴトレインに避難させた後、レベッカたちと同じ車両に残っていたルカードが完全に震えあがっていた。顔面蒼白、巨体を縮こまらせてガクガクブルブルと震えており、今にも泣きだしそうな顔をしている。普通の人間や並大抵の魔物程度では、この部屋の空気にあてられた時点で気を失ってもおかしくはないので、ルカードの精神力も並大抵のものではないということがうかがえる。非常に頼もしいことである。
「・・・そりゃそうだろうね。下手すれば斗真が雁野に傷つけられるどころじゃ済まないかもしれないからさ。まあ、兄弟がそう簡単にあの女にやられるとは思えないけど、急いで斗真を見つけて回収しないとな」
「旦那は、その、どうしてそんなに落ち着いていられるのですか?」
「・・・こんなに怒りと殺意のボルテージがぶっ壊れている連中を見ていると、誰か一人ぐらい冷静に状況を分析できるヤツがいたほうがいいでしょうが。レベッカさんたちが無茶なことをやらかしたら、あとで絶対にそのしわよせが斗真に降りかかってくるんだから」
「え゛っ」
「・・・あの女、見つけたら絶対にこの手で仕留めてやろうではないか。私の弟を連れ去るとは、神をも恐れぬその愚行・・・断じて許さぬ・・・!!」
「あらあらまあまあ~、今度ばかりは相手が女性であろうと手加減が出来そうにありませんわ~。ウフフフ・・・アハハハ・・・私を本気で怒らせるなんて、バカなヤツ・・・!」
「殺す殺す殺す・・・」
自称・常識人のニナでさえも、クナイを砥石で研ぎながら鬼気迫る笑みを浮かべている。比較的理性を残している(まあ、斗真を連れ去られたことについては怒っている)オリヴィアとヴィルヘルミーナは桜を気遣うように、桜を挟み込むようにして椅子に座っている。
「サクラ、怪我の具合は大丈夫なのかい?」
「・・・正直言うと、傷口がまだ閉じかけている状態だな。でも、兄弟がヤバいっていうなら、助けにいかないわけにはいかねぇだろう。その時には、悪いんだけど手伝ってもらってもいいかな?」
「そういうことなら、いくらでも手ェ貸すわ!トーマちゃんはウチらの大事な弟分やさかいな」
「そう思っているなら、今度から弟分の恥ずかしい写真を隠し撮りして売りさばくとか、本当にやめてくれ」
「・・・分かった」
しぶしぶと言った様子で、オリヴィアが納得したようにうなづいた・・・と思ったが。
「・・・今度からは絶対にバレへんように、通信販売とか注文販売とかいうトーマちゃんの世界にあった商売のやり方とかを利用して売るとしようかな・・・」
オリヴィアがブツブツとまた良からぬことを企んでいる姿を見て、その商魂のたくましさに桜とヴィルヘルミーナは顔を見合わせてため息をついた。
「・・・ありゃ全然懲りてねーな・・・」
「・・・まあ、筋金入りの商売好きだからね・・・」
事件が終わったら、もう一件、違った意味で厄介な問題を解決しなければならないと思った桜は再びため息をつくのであった。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「・・・私が・・・死にたがっているですって・・・?」
雁野は呆然とした表情のまま、固まっていた。
その表情を見て、斗真は自分の考えが当たっていたことを確信する。
彼女がここまで戦いに執着しているのか、根拠はないが自分自身の体験と似ている節があることから、もしかしたらそうなのではないかと思ったのだが、雁野は目を白黒させていた。
「・・・そう言う風にしか見えないんだよ。自分で命を絶ったら、自分を虐げてきた連中に負けたことになる。それは絶対に嫌だから、敵を探して、戦って、勝ち続けることで自分の苛立ちを解消しているつもりなんだろうけど、お前はいくら敵を倒しても、苛立ちが消える事なんてない」
呆然としていた雁野のこめかみに血管が浮かび上がり、目が血走り、さっきまでの余裕な態度が消えていく。自分の心の中をのぞき見されたような斗真の言葉に、怒りのボルテージが上がっていく。
「そりゃそうだよね。お前が一番消したいと思っている”敵”は・・・”お前自身”なんだから」
「-黙りなさいよぉぉぉぉぉぉっ!!!」
ガッ!!
炎を纏った拳が斗真の頬を捕らえた。
斗真の顔に拳がめり込み、唇を切ったのか、血が唇の端からにじみ出る。
「・・・図星だったか?さっきまでの余裕がなくなっているじゃないか」
血の塊を吐き捨てて、斗真がニィっと笑った。
「自分で命を絶つことが出来ないから、戦い続けて、いつか戦って死ぬことで自分の願いを果たそうとしている。自殺することが逃げることだと思っているから、戦死という形で自分の人生の最期を飾り付けようとしている」
「・・・黙れ・・・殺すわよ・・・」
「-ざけんなよ。お前みたいな死にたがりと、最後まで何かを守るために命がけで必死に戦ってきた人たちを一緒にするんじゃねえよ。お前は死ぬこと”しか”考えてないんだよ。目の前の困難や苦しみから逃げる事ばかりしか考えていないんだよ。挙句に世界を憎んで、他人を憎んで、だれかれ構わず傷つけて・・・ガキの八つ当たりもいいところだ」
「黙れ!!」
ガッ!!
ゴスッ!!
グシャッ!!
「お前に何が分かるのよっ!!私と同じぐらい不幸な目に遭っているぐらいで、私の怒りが貴方のような他人に分かるものですか!!」
雁野が狂ったように斗真を殴りつけていく。殴られるたびに斗真の顏は真っ赤に腫れあがっていく。
「・・・どうしたよ・・・その程度じゃ・・・俺は殺せねえぞ・・・?」
それでも、斗真は両足を必死で踏ん張って倒れないように耐えていた。
腫れあがった目が放つ心をえぐるような鋭い視線に、雁野は全身が震えあがるような錯覚に見舞われる。
「・・・誰も助けてくれなかった?みんな自分を傷つけてくる?だから自分も戦って、誰かを傷つけて、誰かのものを奪ってもいい?それで結局お前は何が欲しかったんだ?何を手に入れたんだ?」
「・・・!!」
「・・・何もねえ、だろうがよ。自分を苦しめてきたくせに、自分のことを殺してくれない世界や運命っていうものに苛立ちを募らせて、自分の感情を抑えきれなくなって、その怒りや憎しみに振り回されているだけじゃないか。そして・・・本当に自分が願っていた願いさえも見失っていたら・・・世話ねえよ」
「黙りなさいよ・・・!!」
雁野が放った拳を、斗真が受け止めた。
そして、斗真が凄みのある眼力で、雁野を捕らえた。何度殴られても、ボロボロになっても立ち上がり続けてきた斗真の覇気に、雁野は足がすくんだ。
「・・・俺にもそんなことを思っていた時期があったよ。でもそれは、レベッカに会って、彼女に思い切り叩きのめされたことで、そういったことをいつの間にか考えることがなくなっていた」
『七人の獣騎士に来いよっ!』
『オレはお前のことがもうマジで気に入っちまったんだ!!なぁなぁ、いいだろっ!?つーか来い!!団長のオレが決めたんだからこれで決まり!!いいな!?』
満面の笑顔で、一方的に入隊を決めてしまったレベッカ。
打算もなく、同情をするわけでもなく、ただ自分のワガママを貫き通すという形で強引に仲間にされてしまった。しかし、それは斗真にとってはそう言った人間とこれまでに会ったことがなかったために、人生で最も輝いていると思える人間と出会えたという刺激と高揚感を感じた。
「・・・この世界に来る前には・・・正直学校も人付き合いもどうでもよくなっていたから、修学旅行が終わったら・・・やめようかと思っていたんだよ、学校」
どうせ自分なんか何をやっても上手くいくわけがない。
光とも絶縁状態にあり、頼れる友達も、家族も、誰一人自分の味方などいない。
今死んだとしても、誰も悲しむ人などいない。
斗真はそこまで追い詰められていた。
「・・・死んでもいいかなって思ったこともある」
「・・・なっ」
「・・・でも、あの人に拾われてからは、どうせ死ぬならとことん自分のやりたいことをやりたいようにやってから死にたいって、あの人たちを見てそう思うようになった」
自己中心的で、ワガママで、自重という言葉など辞書にないような破天荒な仲間たちに囲まれて、振り回されて、辟易することも何度もあった。しかし、自分のことをものすごく可愛がってくれるため、最初は驚くことばかりだったレベッカたちの暴走っぷりに、次第に慣れてくるとともに彼女たちのひたすら”生”を満喫している姿が、輝いて見えるようになっていた。
「・・・いつか死ぬなら、死ぬまでに自分のやりたいことを探して、やりたいことをやり抜いてから笑って死にたい。終わりに花を咲かせるなら、生きている間に咲かせなくちゃ意味がないんだ。他人が何て言おうと、自分の人生をやりたいようにやって、生きていいんだ・・・」
そう思い始めてきたからこそ、雁野の破滅的な願いは自分が過去に思っていたものと同じであることに気づいた。
「・・・生きたいって言う願いさえ捨ててしまい、他人の命を奪うことでしか自分を保てないようになってしまった時点で、テメェの負けなんだよ・・・!!」
斗真がオレンジ色の宝箱をバックルに装填すると、鍵を回して、宝箱が展開された。
飛び出したオレンジ色の甲冑が雁野に回転しながらぶつかり、雁野が吹き飛ばされる。
そして、斗真の身体が豊満な胸に引き締まった腰つき、鍛え上げられた筋肉で全身が覆われたアスリートのような肉体を持つ美女の姿に変化すると、胸元を大きく開いたチャイナドレスが装備されて、胸当てと手甲を装着し、虎を模した耳と尻尾が生えた。
『ジャングルの守護者!!マンティコア・ナイト!!ドレスアップ・・・!!』
「・・・ここでお前を見逃すわけにはいかない。今度こそ決着を着けてやるぜ」
「・・・ヒヒヒッ、殺してやるッ・・・!!」
雁野の全身が黒い炎に包まれると巨大な炎の鳥のような形になった。大きく翼を広げて、空中に舞い上がると、地上にいる斗真を狂気で血走っている瞳で狙いを定める。
「私は戦いたいんだッ!!気に入らないヤツを一人残らず殺してやるんだッ!!私を虐げてきた世界に、復讐をしてやるんだァァァッ!!」
雁野が両足から鋭い爪を生やすと、ものすごい勢いで急降下して、斗真に向かって突っ込んでいく。
斗真は右手に装備している巨大な鉤爪を身構えると、地面を蹴り飛ばして、雁野に向かってまっすぐ跳んでいく。
「これで終わりよ、斗真くぅぅぅん!!!死ねぇぇぇぇぇぇっ!!」
「・・・この、大バカ野郎!!」
ザシュッ!!!
すれ違う瞬間。
斗真の爪が、雁野の腹部を・・・刺し貫いた。
「・・・え?」
雁野の目が大きく見開き、口から血液をごぽっと吐き出す。
そしてそのまま、失速して彼女の身体は地面に向かって態勢を崩したグライダーのように、落ちていく。
(・・・刺された?私が?)
(・・・刺されたのに、痛みさえ感じなくなってきている?)
(・・・それに、すごく、意識がグラグラする・・・)
木々に落ちて、木の葉のクッションで衝撃を半減させたが、雁野はもはやボロボロの姿になって地面に落ちた。そして、そのまま倒れこんでしまった。
(・・・身体が動かない・・・)
(・・・頭が・・・ボーっと・・・する)
(・・・私・・・本当に・・・死ぬんだ)
(・・・これが・・・死ぬと言うことか)
腹部に刻まれた傷は致命傷となり、雁野の身体から赤色の光の粒子が噴き出し始めた。
「・・・雁野・・・!」
「・・・斗真くん」
雁野のもとに、斗真が近づいてきた。
体力や魔力が先ほどの戦いで完全になくなり、おぼつかない足取りで、荒い呼吸をしていた。
「・・・私の負けよ、斗真くん」
彼女の瞳から、水玉が大きく振らんで、頬を伝って流れ落ちた・・・。
次回、雁野との決着が着きます。
そして雁野から告げられる、驚きの事実についても語ります。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!




