夏休み特別幕話➃「暑い時こそ辛いものと言っても、最初は程々にしましょう」
いつも拙作を読んでいただき、本当にありがとうございます。
新作が書きあがりましたので、投稿いたします!
どうぞよろしくお願いいたします!
【斗真視点】
「・・・なあ、聞いたか?」
「ああ、今、オレも聞いたばかりで驚いているよ」
「あの”羊很狼貪”が誰かに襲われて、重傷だって・・・」
「アイツら散々好き勝手やりまくっていたらしいからな。いい気味だぜ」
「・・・でもよ、奴らだって相当腕が立つって話だろう?それなのに・・・両手両足の骨を砕かれて・・・全身を道具で滅多打ちにされるなんてな。衛兵たちが来たときには、奴ら、髪が真っ白になって完全に精神がイカレていたってよ」
「連行されている間もずっと”助けてくれー!!”とか”許してくれー!!”って泣きながら叫び続けていたってよ」
「・・・この街でそれだけヤバい奴らって言えばあの連中ぐらいだよな?」
「バカ、いくら何でも”彩虹の戦乙女”には喧嘩を売ったりしねーだろ?あの人たちに喧嘩を売ったら最後、そいつどころか、そいつのいるチーム全員がブッ殺されるぜ?何せ、仲間の一人がやられたら、相手とそいつのいるチームを全滅するまで報復するのがモットーな連中だからな。くわばらくわばら・・・」
ボクハナニモキコエナイ、ボクハナニモシラナイ。
冒険者たちが身体を震わせながら(決して笑っているというわけではない)話し合っているうわさ話のろくでもない内容に、僕は聞こえないふりを決め込んだ。
桜 お 前 何 を や ら か し た。
ヴィルヘルミーナさんとオリヴィアさんを大切に思う気持ちが強すぎる半面、一度彼女たちに危害を与えようとした輩にはとことん容赦がなくなるらしい。ボコボコにされて、追い詰められて廃人にまで追い込まれた彼らの末路に、僕はとりあえず手を合わせることにした。
まあ、これが大アネキやアイリスがそんな目に遭ったら、迷わず僕もこうするだろうしね。
身内のためなら命を張って守り抜くのが、僕たちの流儀だ。
「・・・何だか、すごいことになっていますね」
「・・・・・・言わせておけ。女性だけで傭兵団をやっていくなんて、世間一般から見ればあり得ない話だし。この世界で食っていくと決めた以上は、私たちは誰にもナメられたらいけない。悪名だろうと何だろうと自分たちに手を出したらただでは済まないということを知らしめる必要がある」
ビビ姉が真剣な表情で答えた。
彼女も傭兵団の一人として、過酷な任務に臨む以上、プロとしての意識はしっかりとしている。
「・・・・・・それが、傭兵団を結成した時に7人で誓い合った”誓い”」
「誓い・・・」
「・・・・・・私たちは全員何かしらの理由で、故郷を追われて、家族や仲間たちに疎んじられてきた。同じ境遇で集まったのも何かの縁ということで、何があっても自分が心から認めた仲間だけは守り合おうと誓って、作ったのがこの傭兵団」
ビビ姉は懐かしむような目になって、遠くを見つめる。
「・・・・・・私たち一人一人が仲間のために身体を張って守ることが出来る傭兵団。普通に手に職をつけて暮らす道もあったかもしれないけど、人間と魔物が争いあうこの乱世、いつ戦いに巻き込まれてもおかしくはない。そういう時に、最も仲間や居場所を守るために適した職業とは何かと思い、行きついたのが騎士か傭兵だった」
一人はみんなのために、みんなは一人のために、戦って居場所を守り抜く。
そして規律やしがらみを嫌う彼女たちは、生きるか死ぬかの過酷な運命を強いられてもなお”自由”な傭兵となった。
「・・・ビビ姉にとって、この傭兵団は大事な居場所なんだね」
「・・・・・・うん。あの時誓いあった仲間はもちろんだけど、今はトーマやサクラ、ユキ、ツバサもいる。守りたいものが増えていくにつれて、私ももっと強くならなくてはいけないと思うようになった」
そう言って、ビビ姉はいつもの無表情ではなく・・・。
心が奪われるような、優しい笑みを浮かべて言った。
「この”彩虹の戦乙女”は、私にとって”最高の居場所”で”家族”だ」
守りたいと思った。
初めて見せてくれたビビ姉の大人びた笑顔。
心が熱く、胸がジーンと締め付けられるような彼女の言葉に、僕も胸の内で決意を固めた。
(僕ももっとみんなのために、役に立てるような男になる)
まだ未熟で頼りない僕だけど、いつか、みんなと肩を並べて歩いて行ける仲間になれるように。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
そんなことを胸に誓っていたこともありました。
「はい!ヴィルヘルミーナさんお待たせしました!サクラカフェ特製【超激辛大盛り地獄ラーメン】です!」
満面の笑みを浮かべているにもかかわらず、顔中に汗をかき、匂いを嗅がない様にガスマスクをつけているカーミラちゃんの姿を見て、彼女が持ってきたものが相当ヤバいと言うことを、僕の危険信号がさっきから警報を鳴らしまくっている。
『ヤバいぞ、これを食ったら死ぬぞ。ニナの作る暗黒物質と同じぐらい死ぬぞ』
どんぶりからは匂いを嗅いだだけで息がむせて、涙が出てきそうなほどの強烈な刺激臭を放つマグマのように真っ赤なスープと、危険度が高い唐辛子を数種類生地に練り込んだ特製唐辛子麺にネギによく似た香草のみじん切りと特製チャーシューが載っている(チャーシューは桜がレシピを提供したもの。美味しい!)
過去にこれを頼んで、完食出来たのはただ一人、ヴィルヘルミーナさんだけ。
それ以外は全員ギブアップし、激辛地獄に見舞われて半日以上動けなくなったり、トイレに行ったきり3時間は出られなくなったり、救急士ギルドに搬送されたりと悲惨な末路を迎えている。
それでもなぜかこの世界では珍しい「異世界の料理」をうたい文句にしている上に、ヴィルヘルミーナさんが汗をかきながら美味しそうに完食している姿を見て、彼女が食べられるなら俺たちにも出来ると意気込んで挑んでいくチャレンジャーが後を絶たないのだ。
そう、これは激辛料理が大好きなヴィルヘルミーナさんのために作られた料理というか、彼女以外に食べたら命の保証さえないほどの危険な料理!!
「・・・・・・カーミラ、ヴィルヘルミーナはここに来たらいつもこれを頼んでいるの?」
「はい!”ボクはここに来たら、カーミラちゃんの笑顔とこのラーメンをご馳走になるのが楽しみなんだ”と言って、これしか頼まないのです!」
あとで彼女を本気でシバきたい。
お昼を食べようとして、サクラ雑貨店のカフェで適当に頼もうとしたら、何でこうなった!?
オレンジジュースだけを頼んだビビ姉は、チューチューと飲みながらこっちの様子を見ている。
「・・・ビビちゃん、ボクと一緒に食べないかい」
「・・・・・・辛い物は苦手だから無理」
ガッデム!!
僕のことをあっさりと見捨てやがりましたね!?チクショウ、こんなものを食べたら間違いなく僕もヴィルヘルミーナさんの元に向かうことになってしまう!!(まだ死んではいない)
ヤバい、このまま食べなかったら間違いなく怪しまれてしまう。
もしここに桜がいたら、僕がヴィルヘルミーナさんの姿に変装していることを知った瞬間、間違いなく僕も【羊很狼貪】の二の舞・・・もしくはそれ以上の酷い目に遭うだろう。
チクショウ・・・!!
食べりゃいいんだろっ、食べりゃあよぉっ!!
僕は胸の前で十字を切り、神に祈りをささげることにした。
神様なんてくそくらえと思っていたけど、今日ばかりはお祈りします。だから、どうか命だけは助けてください!!
「天にまします我らが父よ、み名が聖とされんことを。み国が来たらんことを・・・!」
フッ、不幸な目に遭い続けて覚えた聖書の一句も読んだし、これなら大丈夫だろう!!
「いっただっきまーす!!」
一気に麺を口の中に啜り込む。
ふむふむ、見た目と比べるとあまり辛くないのかな?麺に真っ赤なスープが絡みついて、噛めば噛むほどに麺からスープがにじみ出てきて舌を刺激していく。でもこれならまだ大したことがないなァと思っていると突然不意打ちのように舌に電撃が迸ったような感覚とともに、身体中の鳥肌が立ち、一瞬だけ身体が冷たく感じたかと思うと、猛烈な暑さと辛さが口の中で爆発を起こして・・・うぎゃああああああ!?
「もがもがもがもがもがもがーーーーーーっ!!!」
「・・・・・・がんばれミーナ。ほれ、どんどん食べるといい」
「がぴぴぴぴぴぴぴぴぴーーーーーーーっ!!?(ビビ姉のドアホーッ!!口の中に無理矢理麺をねじ込んでくるんじゃねェーーーッ!!」
一体、僕たちの姿はどんなふうに見えているのだろうか。
鏡を見ると、そこには白目を剥いてラーメンを食べさせられている僕(ミーナさんの姿だけど)と、箸とレンゲを巧みに操り、僕の口の中に次々とラーメンを口の中に押し込んでくるビビ姉の姿があった。喉を麺とスープが流れるたびに肉が焼けるような錯覚と痛みを覚えて、僕の視界が白黒反転する。
「ミーナさんとビビアナさんって、喧嘩ばかりしていると聞いていましたけど本当は仲良しだったんですね~♪ほら、あんな風にラーメンを「あーん」って食べさせてあげるなんて、仲のいい証拠ですよ!」
「・・・そ、そう?あたしにはどう見てもイジメているようにしか見えないんだけど」
ラムアさん大正解。これ、どこからどう見ても処刑ですわ。
「・・・・・・あーん、美味しい?(近くのテーブルで、アイツらの気配を感じる。きっと、私たちの様子をじっと見ている。このまま、芝居を続けてこの場を乗り切ろう)」
この場を乗り切る前に、意識がそろそろ薄れてきたんですが。
あ・・・これヤバい。
あとで、絶対にお腹を壊すか、激辛ドランカーになるかのどっちかだわ。
薄れゆく意識で鏡を見ると、そこには白目を剥いて、血の気が引いて真っ青な顔をしているのになおラーメンを食べさせられている僕と、ラストスパートをかけているビビ姉の姿があった。くそっ、チャーシューだけはしっかりとくすねて口の中に頬張ってやがる。ハムスターのようにほっぺたを膨らませてチャーシューを盗み食いしている彼女に一発くれてやりたいが、もはやそんな力すらない。
どうして僕、こんな目に遭うのかな・・・?
もとはと言えば、ビビ姉がヴィルヘルミーナさんをボコボコにしなければ、こんなことにはならなかったんじゃないかな?
あ~、でも断り切れなかった僕にも責任があるんだ。
ふと僕の視界に、僕たちの様子をじっと見ている視線を向けている人物の姿が目に飛び込んできた。
「・・・ぷっ」
「・・・クスクス」
そこにいたのは、アレクシアさんとアイリス・・・!!
フッ、偶然この店に来ていたというわけではなさそうだね。
僕がビビ姉から受けている仕打ちを見て、二人は楽しそうにほくそ笑んでいた(僕がミーナさんに化けていることは気づいていない)。
フッ、こっちだっていつまでもやられっぱなしではありませんぜ・・・!
僕は失いかけた意識を必死で取り戻し、顔や身体中から汗の玉を噴き出しながら、残りの麺とスープを一気に胃の中へと流し込んだ。内臓が焼けるような熱さを帯びて、痛みとなって伝わってくる。しかし、歯を食いしばって必死で耐える!!
「うわあっ!!完食ですよ~!!おめでとうございます!!」
カーミラちゃんが感激のあまりに大きな声を上げると、店中の人たちが椅子から立ち上がって歓声を上げる。あまりにも興奮していて、涙を流すものまでいた。僕は何とか立ち上がり、視界がぼやけて今にも倒れそうな身体を支えながら、ヨロヨロとアイリスたちの近くに歩いていく。
お前ら見ていろ・・・!!
これが僕のリベンジだぜ・・・!!
「・・・やあ、アイリス、ルシア(アレクシアさんの愛称)。君たちも来ていたのかい?」
「ああ、奇遇だな。しかし、お前もなかなか根性があるな。あんなこの世のものとは思えない料理を全て平らげてしまうんだからな」
「全くバカと言いますか、アホと言いますか、いつも賑やかなことをしていますわね~」
「ところで、この料理なんだけどね。実は、あのトーマ君もちょっと気になっているらしいんだよ」
もちろん大ウソである。
「この間、トーマ君が”こんな辛い料理を完食できるなんてすごいですね!”って言ってくれてさァ~。いや、ボクも鼻高々さ。まあ、ボクだからできることなんだけどね」
「・・・ほう、それはまるで私たちには出来ないと言っているのか?」
「いやいや、そんなつもりはないよ。でも、アイリスやルシアは辛いのあまり得意じゃなかったよね?それじゃ、二人にはこの料理はさすがに無理じゃないかな。何せ完食出来たのがボクだけだし」
「・・・上等じゃねえか」
アイリスとアレクシアさんの目つきが豹変して、真剣勝負に挑む時の表情に変わると、カーミラちゃんを呼び出した。
「はい、ご注文は・・・」
「「サクラカフェ特製【超激辛大盛り地獄ラーメン】大盛り二つ!」」
嘘、あっさりと引っかかった!?
まさか、僕の三文芝居にここまであっさりと引っかかるとは意外だな!?
「ミーナちゃん?もしこれを完食出来たら、私たちもトーマちゃんの彼女にふさわしいということを認めてくださるということですわね?」
「私はトーマの姉であり、永遠の愛を誓い合った伴侶でもある。お前に、トーマに対する愛情で負けることなどあるはずがない!」
「・・・私はね、誰からもバカにされたり、見下されることが大嫌いなんですよ~?この喧嘩、買ってやろうじゃねえか。そして、必ず勝つ!!」
その後・・・。
アイリスとアレクシアさんがあまりのラーメンの辛さに悶絶し、白目を剥き、気絶して救急士ギルドに搬送されたのは言うまでもない。
「・・・・・・アイリスとアレクシアにリベンジを果たすとは、トーマもなかなかやりおるな」
ビビ姉が引きつった笑みを浮かべているのに対して、僕は親指をぐっと立てて笑みを浮かべた。
斗真が珍しくアイリスとアレクシアに「ざまぁ」を成功しました。
非常識な彼女たちに鍛えられて、斗真もしたたかさを学び、強くなっています。
次回で番外編は最終回となります!




