表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

20/300

第十話「緑の雷騎士~鳳桐人は暴走する~」

本日二回目の投稿といたします。

今回は勇者軍側の話となります。

 「くそっ!!一体どうなっていやがるんだ。どうしてこうも上手くいかねえんだ!!」


 ミルティユから離れた小さな漁村の酒場で、ダンッと乱暴にオレンジジュースが継がれた木製のカップをテーブルに叩きつけて、怒鳴り声を上げているのは・・・鳳桐人だった。


 「お、おい、桐人。少しは落ち着けよ」


 「そうだぜ。みどりが失敗したからって、まだ何とでもなるだろう?」


 苛立っている桐人を、長い茶髪と制服を着崩してチンピラのような恰好をしている【甲田こうだ剣一けんいち】と大柄な身体つきをした坊主頭の【矢島やじま茂久しげひさ】がなだめるが、桐人の苛立ちはさらに悪化する。


 「バカ野郎!!これでもしみどりの口から俺たちのことが漏れたらどうするんだよ!!上手くいけば、タラスク族が魔王軍の手下だったから倒したってことで済むはずなのに、失敗しちまったら意味がねえんだよ!!松本のヤツがもっと強く俺のことを止めてくれればこんなことにはならなかったんだよ!!」


 そう言って、千鶴に対しても見当違いな恨み言を口にする桐人を見て、二人は内心呆れ果てていた。


 だいたい、柳太郎に嫌味を言われた程度で頭に血が上って国王からの命令が出ていないにもかかわらず無理矢理クロスを飛び出してきたのも、ブラオベーレ王国がクロス王国とは友好条約を結んでいるというにもかかわらず、魔王軍がクロス王国を陥れるために騙していると勝手に思い込んで、ガラパゴの村に襲撃するように命じたのも、全ては桐人の自分勝手な命令によるものだった。


 ろくに物事を考えず、周りがそう言っているからそうなんだと思い込み、自分が他人から見下されると理性を失ってムキになる。向こう見ずで浅はか、短慮かつ短気で何か悪いことがあったら他人のせいにしたがる無責任な人物、それが鳳桐人である。


 どうしてこんな人物が勇者に選ばれてしまったのか、剣一たちは今でも納得できなかった。


 しかし、桐人が勇者として選ばれてしまった以上、彼は国王から直々に魔王軍討伐の使命を受けた勇者として認めざるを得ないのだ。そして彼に従わないということは王命にも背くことと同じであり、逆らうことは決して許されない。


 さらに桐人のスキル【絶対的支配】によって、剣一たちは桐人の命令ならどんな無茶なものであろうと、自分たちの意思とは関係なく従わなければならないのだ。唯一の例外は同じ勇者でレベルが格上である人物からの干渉があれば、そのスキルも無効化されるのだが・・・。


 そのため、桐人の無茶な要求にも嫌々従わざるを得なかった。


 「・・・そうだ。こうなったら、みどりの口から俺たちのことがバレる前に消しちまうか・・・」


 追い詰められた桐人が血走った目で、にたぁっと醜悪な笑みを浮かべた。

 その言葉を聞いた剣一たちは愕然とする。


 コイツは本当に俺たちが知っている、桐人なのだろうか?


 以前の桐人だったら、サッカー部のエースストライカーとしてチームメイトや女子生徒たちからちやほやされていることを鼻にかけているお調子者だったが、こんなことを思いつくような人間ではなかった。


 もはや目の前にいるおぞましい笑みを浮かべている人物が、桐人の皮を被った得体のしれない存在に見えてくる。


 「そうだよ、そうしちまえばいいじゃねえか。ついでにブラオベーレも滅ぼしちまえばいいんだよ。そうすれば、ブラオベーレが魔王軍と手を組んでクロスに攻め込もうとしていたって言えば、国王だって納得するはずだ。あとは他の連中が何て言おうと、勇者の言うことに歯向かう連中は皆殺しにしちまえばいいんだよ。みどりはもういらねえ。あんなバカ女、もう邪魔だ。げひっ、げひひひっ、ひゃーっはっはっはっはっはっはっはっはっはぁぁぁっ!!」


 桐人が狂ったように笑い出すと、怯えている剣一たちに思わずゾッとするようなおぞましい笑顔を向ける。目の焦点が合っておらず、三日月のように吊り上がった歪んだ笑みはもはやまともな人間のそれではない。


 「お前たち、これは勇者の”命令”だぁっ!!これからブラオベーレの王都ミルティユを襲撃して、みどりを殺す!!ついでに、王都の人間も魔物も全員逆らうヤツは皆殺しだ!!」


 「なっ・・・ぐっ・・・仰せのままに・・・!!」


 「・・・仰せの通りに・・・!!」


 歯ぎしりをして、拳を握りしめながら抵抗しようとするが、桐人の口から出た「命令」という言葉によって二人の瞳から徐々に光が消えていき、やがては桐人の命令に従順な操り人形となっていく。


 そして、もうすでに人間としての記憶や心も失ったクラスメートの【火野ひの明彦あきひこ】と【須賀すが真砂美まさみ】も光を失った瞳で立っていた。桐人の【命令】によって、完全に桐人の支配下に置かれていたのだ。


 「ひひひひひひ・・・、俺様は勇者なんだよ、選ばれたものなんだよ。俺様に逆らうヤツは誰だろうと容赦はしねぇ。雨野の野郎、俺のことをバカにしやがって。俺様が勇者の中でも最強なんだってことを証明してやるぜ。そして、幕ノ内や松本、雁野も俺の女にして可愛がってやるんだ・・・ヒィッヒッヒッヒッヒッヒ・・・ヒャアッハッハッハッハッハッハ・・・ッ!!」


 勇者というよりは、狂人でしかない笑みを浮かべながら桐人は酒場を去り、その後ろをぞろぞろと生気を感じられないうつろな瞳を浮かべた剣一たちがついていく姿はまるでゾンビの行進のようにも見えた。


 「・・・な、何か、ヤバそうな感じだったな・・・?」


 「ていうかよ、さっき、王都を襲撃するとか言ってなかったか・・・?」


 「ま、まさかな・・・あんなガキどもに何が出来るってんだよ?」


 冒険者や酒場の店員も、桐人の得体のしれない姿に戦慄し、彼の後を追いかけて真実を問いただそうとするものは一人もいなかった・・・。


 ★★★★★★★★★★★★★★★★★★


 しかしそのころ、桐人の仲間の一人である【島田しまだ花桜梨かおり】はスマホで連絡を取っていた。彼女の瞳には理性の光がまだ残っていた。


 偶々今日の宿を用意しておくようにと命令されて、その準備に手間取って遅くなってしまい、酒場に戻ってきたとき、彼女は桐人の醜態を目撃し、とっさに店の陰に隠れて見ていたのだが、思い出すたびに吐き気を催しそうになる。


 あの血走った瞳、きゅーっと吊り上がった唇、狂気に歪んだ笑み・・・。


 花桜梨は思わずその場で吐き出しそうになるのを必死でこらえて、震える指先でスマホを操作して連絡を取ろうとするが、なかなかタップが上手く操作できない。


 「・・・気持ち悪い・・・!」


 その時、彼女のスマホが鳴り出した。

 画面には【幕ノ内桜】と表示されていた。

 彼女に今まさに電話をかけようとしていたところだった。


 「桜?私だよ!!大変なことになっちゃった!!実は・・・!!」


 『落ち着いて、かおりん。まずは桐ちゃんに気づかれないように、その建物の裏手に来て』


 「・・・え?」


 スマホの声がいつもより鮮明に聞こえる。

 花桜梨が振り返ると、店の物陰に誰かが立っていた。


 月明かりが差し込んで、その人影が徐々に表れた。


 「・・・かおりん、お待たせ」


 それは桜だった。


 花桜梨が目から涙をにじませて、足早に桜の元に駆け寄ると桜に抱き着いて泣き出した。


 「さくらぁ~っ!!怖かったよぉ~っ!!もう、嫌だよぉぉぉっ!!鳳がすごく怖いよぉ~っ!!気持ち悪いんだよぉ~っ!!うわああああああ~ん!!」


 「うん、よく頑張ったね。ごめんね、怖い思いをさせちゃって。でも、何とか上手くいったよ」


 自分よりも長身でスポーティーな身体つきをしている花桜梨の震える身体を優しく包み込むようにさくらが抱きしめて、頭を優しく撫であげる。


 「・・・ひっく、ひぐっ、上手くいったって、どういうこと?」


 桜が一瞬、恐ろしいほどに冷たい瞳になって、静かに答えた。


 「・・・桐ちゃんに引導を渡す準備が出来たってこと」


 その言葉の意味を理解したのか、花桜梨がぞっと血の気が引いていく。

 しかし、桜はすぐさま花桜梨を気遣うように優しく微笑んだ。


 「・・・まあ、桐ちゃんが使った【絶対的支配】で心を壊された甲田たちはもう助けられないけど、かおりんだけでも無事でよかったよ」


 「ひっく・・・さくらがぁ・・・【絶対的支配】の力で干渉してくれたからぁ・・・鳳の命令を聞いても、私、火野や須賀みたいにおかしくならなかったよぉ・・・!!」


 「・・・須賀達には悪いことをしたよ。あたしの今のレベルの【絶対的支配】じゃ4人までが限界だったからさ」


 そういって、桜が魔力が施されたケースを花桜梨に差し出した。


 彼女の目の前でケースを開くと、ケースの中にはジオチェンジャーと緑色のクワガタムシをイメージした甲冑のミニチュアが入ったケースが収まっていた。


 「・・・これは・・・?」


 「かおりんにあたしからのプレゼント。そうだね・・・【緑の雷騎士(トールハンマー)】退職記念、そして、新しい【雷の勇者】の任命のお祝いだね」


 「え、ええっ!?そ、それって、もしかして・・・?」


 動揺する花桜梨の唇を白くて細い指でふさぎ、桜が妖艶に微笑んだ。


 男性とは思えないほどに色っぽく、心を虜にしてしまうような小悪魔的な笑みを。


 




 「かおりんに、新しい雷の勇者になってもらうよ。そして、クロス王国を窮地に追い込もうとしている桐ちゃんと桐ちゃんの仲間を、あたしたちが処分する。これは、国王陛下と筆頭王宮魔導師からの命令だよ。これはかおりんが生き残るためにはどうしても必要なことなんだ。・・・引き受けてくれる?」


 「・・・私が・・・勇者に・・・!!」







 ごくりとつばを飲み込んで、じっとケースの中身を見入っていた花桜梨だったが・・・やがて、意を決したのか、震える手でしっかりとケースを両手で持ち、桜から受け取った・・・。


 「・・・それじゃ、行こうか」


 「・・・うん・・・!!」


 桜がまるで悪魔のような笑みを浮かべるが、彼女の甘い言葉と微笑みに心を奪われたのか、さっきまでの弱気だった彼女の瞳には覚悟を決めたかのように、ぎらついた獣の瞳のそれに変わっていた。

いかがでしたか?

今回、第一のターゲットである鳳桐人に報復を行った際に、読んでくださった読者の皆様に「ざまぁ!」と言っていただけるような人物を書こうと思って、小者な感じで書き上げてみました。


そして桜がブラオベーレに到着して、新しい勇者を仕立て上げることに成功しました。

もうこの時点で、桐人はクロス勇者軍と斗真たちに挟み撃ちで敵認定されました。どんな報復を受ける羽目になるのか、お楽しみに!!


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
[一言] 二回投稿お疲れ様でした。 勇者軍を何とかするために真は裁縫でフクロウのぬいぐるみ、メルを使い魔にしましたね。しかし鳳桐人は無茶な命令をし続けて、町がめちゃくちゃになりかけていますね。 それ…
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ