第三話「”彩虹の戦乙女”救出大作戦①~ニンジャ・コスチューム登場~」
本日二回目の投稿をいたします。
どうぞよろしくお願いいたします!
【桜視点】
「ベアトリクス陛下から出動の許可が下りたぜ。あのバカ共を全員助け出したら、一度私のもとに連れてこいだってさ」
俺たちからの報告を聞いたとき、ベアトリクス陛下は最初は驚きで目を見開いていたが、すぐさま落ち着きを取り戻して、俺たちにレベッカさんたちの救出命令を出した。キウイの樹海に入るためには、樹海の近くにある【ヘイワードの町】で入室許可を出さなければならないのだが、陛下自らが赴いて、許可を取ってくれるという。
「明日の朝早くにここを出て、キウイの樹海に向かえばいいってことだね」
「ああ、それまでに俺たちも冒険に必要なものを揃えておいた方がいい。何せ、今回は実質俺と兄弟、ユキしかいないんだからな」
「それなんだけど、前に新しいコスチュームを作ったって言っていたよね?あれ、今度の探索で役に立つかもしれないんだけど、見てもらえるかな?」
斗真が持ってきたのは、黒色を基調とする忍者のような服装だった。
鋼属性の魔力を糸に変えて鎧のような頑強な防御力と、糸ゆえの軽さを持つ【鎖帷子】と、闇属性の魔力を持つアイテムをいくつも糸に変えて縫い合わせて仕立て上げた【忍び装束】のセットだ。
「この忍び装束には、ヴェルディア様が全面的に協力をしてくれたんだ。前に、ニナの魔法闘衣を創った時に、何かあった時にためにっていくつも材料を持たせてくれたの」
垂直な壁やわずかな隙間をすり抜けることが出来る【蛇】の特質。
わずかな匂いをかぎ取り、暗闇の中でも獲物の動きや姿を確認できる【犬】の特質。
音を立てずにしなやかな動きで移動をすることが出来る【猫】の特質。
自分の影や、相手の影に潜り込んで気配を完全に消して攻撃することが出来る【モグラ】の特質。
まさに隠密に特化した衣装だった。
「花房のいるダンジョンを調べてみたんだけど、ダンジョンがあるあたりには【殺人蜂】や【蜂人族】の巣があるらしくて、S級ランクの冒険者でも迂闊に近寄ることが出来ない危険地帯になっているんだって。この衣装なら、殺人蜂の嫌いな煙の臭いを放っているから、彼らも近寄ることが出来ないと思うんだ」
「なるほどな。このブーツなら泥沼にはまることがないかもな」
ブーツから発する魔力で、泥沼に落ちても瞬時に泥を固めて足場を作ることが出来る仕掛けが施されている。毒の沼地もこれなら移動をすることが出来そうだ。
「兄弟、確かにこれは今度の探索で役に立ちそうだな。・・・でもさ」
「どうかしたの?桜?」
俺は忍び装束に身を包み、髪の毛を短く後ろで束ねた斗真の姿を見て、やるせないため息をつく。
「・・・どうして意図していないのに、これを着ただけで、くのいちにしか見えないんだろうなってさ」
女装をする気など全くないのに、斗真はどんな衣装を着ても、可愛らしい女の子のような装いになってしまう。ミニスカートからにょっきりと出ている白くて長い脚とか、ほとんど筋肉がついていないような丸みを帯びた身体つきとか、どこからどう見ても女の子にしか見えない。
「・・・桜にだけは言われたくないやい」
「・・・いや、済まない。あたしも自分で言っておきながら、なんだかため息が出てきた」
元の世界で、取り立てをするときにスーツを着て、髪の毛をオールバックにして自分ではキマっていると思っていても、どうしても金髪の美少女が男装をしているようにしか見えないという、酒の席でたまたま舎弟たちが話していたのを聞いてしまったことがあったため、ショックを受けたことがあるのを思い出した。どうして、俺たちが男らしい服装をしようとしても、どうしても男装女子にしか見えないんだ?
「アレクシアさんは、どうするの?」
「陛下のところに一時的に避難してもらったほうがいいとは言ったんだけど、本人がどうしても嫌だと言ってな。それなら、列車の中にある医務室で、いつでもけがの治療が出来るように待機するという形で、連れていくことになった」
「不意を突かれたとはいえ、これは私たちの完全な落ち度ですわ。その責任を取らないわけにはいきませんわ。せめて、怪我の治療だけでも、私にやらせてください。それに、もし団長たちに万が一の事態が起きたとき、いち早く治療に取り掛かりたいのです」
アレクシアさんも珍しく責任を感じていたからな。
床に座り込み、頭をこすり付けて土下座までして頼み込まれたので、陛下も断り切れなかったようだ。プライドの塊のような彼女がそこまでして、レベッカさんたちの安否を気遣っていたので、俺も無碍には出来なかった。
「キウイ樹海は攻撃的な魔獣・モンスターが多く生息している。回復薬の準備は怠らない様にしておこうぜ」
「うん!」
俺たちは明朝、日の出とともにキウイ樹海に向かうべく準備を整えることにした。
その時だった。
「・・・【恋人】の逆位置と、【月】の正位置が出た。意味は【人の心を持たない危険な人物】と【予期せぬ出会い】が起きるだろう、か」
高橋さんが不安そうな表情で、カードをめくった。
その占いが、当たらないことを願うしかないな・・・。
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【三人称視点】
一方、その頃、キウイ樹海では・・・。
「んふふふ~、これで斗真ちゃんたちをおびき寄せる事には成功したわぁ。あとは、アタシ特製のアトラクションで思う存分楽しんでもらおうかしらねぇ」
ダンジョンの奥地に、巨大な薔薇のツタがいくつも束になって支柱となっている巨大な豪邸があった。これらは植物のツタを壁や柱として利用して建てられたものであり、屋敷を作った花房が楽しそうに笑みを浮かべながら、バスローブに身を包んで、ロングチェアに座り込んだ。
「ああ、斗真ちゃんをこの手でどんな風に可愛がってあげようかしらぁ。すごく楽しみだわ。・・・あの事件の時以来、アタシの心はすっかり貴方の虜になっちゃったんだからぁ・・・!」
花房が一枚の写真を取り出して、愛おしそうに口づけをする。
そこには、自動販売機を持ち上げて今にも投げつけようとしている、鬼のような形相を浮かべた斗真の姿が写っていた。彼の足元には、斗真に殴り倒されて、血まみれになって倒れこんでいる半グレたちの無残な姿があった。
実は彼も3年前、光の弟の明を死に至らしめた爆発事件を引き起こした中学生と同じグループに所属していたことがあり、彼が拳銃を発砲して、工場を爆発させた現場に居合わせていたのだ。そして、斗真がクラブに乗り込んで大暴れした時にも、彼は現場に居合わせていた。悪運が強い彼は、目を着けられる前に逃げ出して、一人だけ奇跡的に生き残ったのだ。
「あんな人間業とは思えないような暴れっぷりを見たときには、胸がキュンキュンしちゃったわぁ。実はあのドラ息子が拳銃をぶっ放したのは、アタシが面白半分で彼に拳銃を見せつけて脅かしてやればいいんじゃないって焚きつけたなんてことを知ったら、どんな顔をするのかしらぁ?」
つまり、花房がヤクザの息子を焚き付けたりしなければ、拳銃を持ち出してくることもなかったし、明や罪のない人たちが死ぬこともなかったのだ。それに対して罪悪感を一切持っていないのか、花房は心底楽しそうに、おぞましい笑みを浮かべていた。彼は自分が楽しければ他人の命などいくら犠牲になっても構わないと言い切るほどのサイコパスだ。
自分よりも身分が上の相手には、弱みを握って、徹底的に搾り取り、利用し尽くす。
自分よりも格下と見なした相手は、自分の欲望を満たすための道具として利用し、破滅へと導く。
花房青龍とは、そんな危険な人間だった。人間らしい心が欠落している。
その時だった。
魔神が憑依して、遠く離れているダンジョンの中を瞬時に見通すことが出来る【遠視】と侵入してきた敵の気配を感じ取る超人的な感覚が反応する。
「・・・あら?この気配は、斗真ちゃんたちじゃないわねぇ。全くもう、貴方たちのことなんて招待した覚えはないんだけど・・・まあいいわ」
招かれざる客の気配に舌打ちするが、すぐさま、花房は舌なめずりをして楽しそうに微笑んだ。しかし、その瞳は完全に笑っておらず、見下すような冷たい光を帯びている。
「まさか、彼女たちまでやってくるなんて思わなかったわ。どういうつもりか知らないけど、アタシの作ったアトラクションを思う存分楽しんでいくといいわぁ。・・・・代金は貴方たちの命で支払ってもらうだけだしね」
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「・・・バナーヌ遺跡は、どこだ・・・?」
まず、鬱蒼とした森の中を見回しながら悠然と歩いていたのは【光の魔神ラディウス】こと【寅若光】であった。地図を見て、髪の毛をかきながら辺りを見回すが、自分が歩いている場所がどこなのか分からないらしく、眉間にしわを寄せて、深いため息をついた。
「・・・完全に迷ったな・・・」
自分の拠点であるダンジョンに戻ろうとしていた彼女は、何と大陸を間違えて上陸し、樹海の中を3日間近くも迷い続けていた。そう、彼女はレベッカとタメを張るほどの超方向オンチであった。つばさを助けに来た時も、つばさと彼女に襲い掛かろうとするクラスメートたちの匂いを嗅ぎつけてダンジョンから飛び出してきたのだが、その後、道を悉く間違えまくり、樹海の中で迷子になってしまっていたのだ。
「・・・まあ、いいか。そのうち、何とかなるだろうさ」
つばさがいなければ、300メートル先の学校に登校することさえできないほどの方向オンチの彼女は、何とも気楽な気分で、考えもなく樹海の中を突き進んでいく。
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「・・・静かね・・・イラつくぐらいに・・・」
グシャッ。
もう一人の招かれざる客・・・【雁野美月】は、今しがた自分が倒したゴブリンの頭を蹴り飛ばして、樹海の中を歩いていた。彼女が歩いてきた道には、ゴブリンやオークたちの無残な姿が転がっている。彼女に襲い掛かってきたものもいれば、視界に入ってきたという理由だけで、理不尽に命を奪われたものもいる。何十体もの魔物を手にかけても、彼女の苛立ちは収まるどころか、さらにひどくなっていくばかりだった。
「・・・この先から、強い魔力を感じるわね。そいつらを全員殺せば、少しはスッキリするかな。・・・梶君、一体どこにいるのよ?早く貴方のことを、この手で殺してやりたいのに、どこにいるのよ?」
身体中から青紫色の禍々しい炎を噴き出し、魔獣の返り血を浴びて血と脂にまみれた長剣の刃を乱暴に払い、美月は凶暴な笑みを浮かべていた。
「・・・貴方と戦えなくて、頭がおかしくなりそうだわぁ・・・!早く出てきてよ。そうじゃないと、もう誰でもよくなっちゃってきているのよ。人間だろうと、魔物だろうと、イライラさせるものは全部、潰してやる。アハハハハハハ・・・!」
美しく、妖艶に、狂気を孕んだ笑みを浮かべる彼女の姿はもはや悪鬼そのものだった。
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斗真と桜はまだ知らない。
キウイ樹海に、自分たちにとって因縁のある人物たちが集まっていることにも。
嵐の前の静けさともいえるように、キウイ樹海のダンジョンは静まり返っていた・・・。
次回から、キウイ樹海のダンジョンに乗り込みます!
つばさの占い、嫌な予感ばかりが的中する・・・。




