第十六話「宗像の置き土産~松本千鶴という少女~」
いつも拙作を読んでいただき、本当にありがとうございます!
今回で、第八章が終了します!!皆様のおかげで、ここまで書き続けてこられることが出来ました。
本当にありがとうございます!!
【斗真視点】
「宗像さんが、ブラオベーレに来ていただって!?」
翌朝。
【冥界の番犬】のフォグライトさんに呼ばれた僕と桜は、彼女から打ち明けられた話に思わず声を上げた。桜も動揺を隠しきれないのか、目を見開く。まさか宗像さんが、僕たちの隠れ家であるブラオベーレに来ていたなんて、夢にも思っていなかった。
「はい、私たちにはトーマ様とサクラ様の古い友人とおっしゃっておりました。それで、落ち着いたころになったら、これをトーマ様たちにお渡しするように頼まれておりました」
そう言って、取り出したのは一通の茶封筒だった。
かなり重い茶封筒の中身は、分厚い紙の束だった。
そして、一通の手紙が入っていた。
『梶、幕ノ内へ。
この手紙を読んでいるということは、おそらく私は魔神に乗っ取られたか、封印されたか、くたばったかのどっちかだろう。まあ、どっちでもいいけど。今回、私がこれをお前たちに託したのは、松本千鶴について心理学者として調べてきた診療結果とデータだ。これを見てもらえば、松本がなぜこんな事件を引き起こしたのか、頭のいい幕ノ内なら理解できると思う。梶には・・・まあ、おそらく理解できない話かもしれない。アイツ、バカだし。
結論から言うと、松本千鶴は【自己愛性パーソナリティ障害】と思われる行動がいくつも見受けられる。自分自身を世界を救う英雄だと本気で思い込んでいる、人の感情や認識、人に対する痛みに対する感受性が乏しい、人を利用することに何の抵抗も持たないという点が挙げられる。
そして、松本がなぜ【人が死ねば神様になって救われる】という考えを持っているのか、私には心当たりがある。それは、千鶴が小学1年生の時に、彼女の祖母が亡くなり、葬儀を上げている時のことだ。私は当時同級生で、千鶴の家の近所に住んでいて、千鶴や千鶴の祖母とも付き合いもあったから、葬式に参加していた。
その時、まだ死というものが理解できていない千鶴は終始何が起きているのか分からないといった状態だった。そこへ、千鶴の父親が、娘が祖母が亡くなったショックで放心状態になってしまったのではないかと思い、彼女にこういった。
『おばあちゃんはずっと病気で苦しい思いをしたけど、やっと安らかに眠ることが出来たんだよ。おばあちゃんはこれからは神様になって、ずっと千鶴のことを見守ってくれているからね?』
『人は死んじゃったら、苦しくなくなるの?病気になったり、痛いことがなくなるの?』
『おばあちゃんは神様になったの?人間は、死んだら神様になれるの?』
千鶴の問いかけに、父親は「そうだよ」と答えた。
今思えば、千鶴が祖母を送り出すために、元気づけようとして千鶴にそんなことを言ったんだろうけど、その言葉を千鶴はそのままの意味で受け取ってしまったと思われる。彼女の性格は私たちの想像をはるかに超えるほどの素直過ぎる純粋なものだった。ゆえに、彼女は苦しんでいる人がいたら、その人が死ぬことによってもう苦しまなくてもよくなると本気で思い込んでいたと、私は彼女の過去に起きたことを踏まえて、推察する。
そしてその思いが、千鶴の心を歪めた要因の一つとして考えられる。
幕ノ内は覚えているかもしれないが、松本の父親が妻と次女と無理心中したことがあっただろう?飲み物に致死性の毒を混ぜて、それを飲んで服毒自殺した事件だ。当時、母親が父親が会社をリストラされて、精神的に不安定になって日常的に家庭内暴力を振るっていたことを悩んで、私が研修をしていたクリニックに相談に来ていた。当時小学生だった次女で、千鶴の妹も学校でいじめに遭っていて、不登校になっていた。警察は父親による無理心中とみて、早々に捜査は打ち切られた。
しかし、私は聞いてしまった。
葬式の時、千鶴が両親と妹が眠る棺に向かって、涙を流して彼女は笑っていたんだ。
そして、私が後ろにいる事にも気づかずに、彼女は優しい声で話しかけていた。
『これで、お父さんもお母さんも、睦月も苦しまなくていいよね?これで、私はお父さんたちのことを救ってあげることが出来たんだ。あの世から、褒めてくれるよね?毒を入れてくれてありがとうって、お父さんたちの声が聞こえるよ。私、間違ってないよね?』
彼女は本気でヤバい。これが本当なら、松本は自分の家族を手に掛けたということになる。今となっては証拠なんてないけどな。
今度の計画も、彼女はこの世界の危機を救いたいという思いは本物なのだろう。しかし、そのやり方が世界を滅亡させることというやり方だ。世界中の人間や魔物を苦しみから救いたいために世界を滅ぼすというあまりにも矛盾した考えだが、彼女は生きているということそのものが苦しみなのだろう。
松本には説得は通用しない。
私たちの考えている常識を常識とも思わず、彼女は自分だけの世界で、自分の振りかざす正義に酔っている。それによって何人犠牲になろうと、彼女にしてみればそれが彼らの苦しみから解放してあげたという考えだからだ。もし対峙したら、速攻で倒してくれ。これは、あんな狂人なんかに利用されて、身体を化け物に作り変えられたことに対する、私なりの彼女に対するささやかな反抗と思ってくれていい。
私はもう人間には戻れない。
このままでは、いつか自我が魔神に乗っ取られて、魔神として世界を破壊する存在になるのだろう。
そうなる前に、アイツに私からの恨みを込めたプレゼントとして、この情報をお前たちに託す。
追伸 もし、この手紙を読んでいるのが別人で、梶と幕ノ内を私が殺してしまっていたとしたら、この手紙を【彩虹の戦乙女】に届けてほしい。 宗像沙織』
「丸投げかよっ!!」
僕は思わず手紙を投げつけて、怒りの咆哮を上げた。宗像さん、アンタは死んだ後まで僕たちをバカにするつもりか!?そこまでヤバいヤツだと分かっているなら、自分で何とかしろや!!これ、松本を相手にするのが面倒なのか、自分では倒せないと思ったのかは知らないけど、明らかに松本の処分を全部僕たちに押し付けたとしか思えん。
それ以前に、僕たちの世界もこの世界もまとめて滅ぼすことが、勇者としての使命だと思い込んでいる時点でヤバいのは間違いないじゃないか。そんな危険人物にどう説得しろというのか。こちとら、最初から「倒す」一択しかないわい。
フォグライトさんたちも事情を知っているからか、表情から感情が消え失せたような無表情になっていた。うん、これにはさすがにブチキレますわな。松本がいくら頭がイカれたサイコパスだろうと、精神年齢が幼児レベルだろうと、知ったことではない。こんなの、どうやって理解しろというのだ。
「・・・本当にどれだけトーマ様たちを侮辱すれば、気が済むのでしょうか。クロス王国がいかに愚かであるか、分かりますわね」
「・・・それにしても、この勇者ってマジでろくでもないヤツね」
「・・・うん、鳳や雨野もろくでもないと思っていたけど、松本に関してはレベルが違うと言うか、一体何を考えているのか分からないって感じだよね」
桜の方を見ると、その表情は・・・真っ暗だった。
この事実に一番動揺しているのは、元カレである桜なのだろう。
まさか、人生初めての初恋の相手がここまでヤバい女性だったと知らされたら、そりゃ落ち込むよな。
「・・・そういえば、この勇者様って、サクラ様が昔お付き合いされていた女性でしたっけ?」
そこで、ラムアさんが空気の読めない発言をブチかましやがった。思わずフォグライトさんがキッと睨みつけて、ダイナモさんがラムアさんの頭を軽く叩く。
「ラムア!」
「あっ、ヤベッ!」
「・・・・・・・・・」
あれ・・・?
桜、なんだか身体が固まっているみたいだけど・・・?
というか、さっきから息をしているのかどうかさえ分からないほどに、すごく静かだ。
「・・・サクラ、様ぁ?」
カーミラちゃんが桜に触れた瞬間。
ドサッ(桜が倒れた音)
「・・・座ったまま、気絶している!?」
「さ、桜ぁぁぁっ!?しっかりしてっ!!ちょっと、ヤバい!!」
桜はあまりのショックで、目を開けたまま気を失っていた。
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【三人称視点】
一方、その頃。
「ふん、ふん、ふふん♥さぁーってと、この街のどこかに、愛しの梶きゅんがいるのよねん。ああ、早く会いたいわぁ~。アタシと梶きゅんとの小指と小指の赤い糸で結ばれているんだからぁん。うっふふふ」
栗色のロングヘアーをなびかせて、スキップをしながら楽しそうに歩いている一人の美女・・・にしか見えない、中性的で妖艶な美貌を持つ少年【花房青龍】が大通りを歩いていた。長身でモデルのような顔立ちをした彼は鳳のいじめグループにいたが、内心では弱いものにしか虚勢を張ることが出来ない鳳の意気地なしで臆病な本性を見抜いており、群れなければ何もできない可哀そうな子たちと思っていた。そういう輩が、自分のことを仲間だと信じているのが、無性におかしかった。
(鳳くんは最後まで残念な子だったわよねぇ。ああいうおバカな子をからかったり、無条件でアタシが自分の仲間だと信じているところを裏切って、全てを失って絶望するところを見るのが楽しみだっただけどぉ、処刑の時に見た彼の死に顔はいまいちだったわね)
自分のことを信じている相手が救いを求めて差し伸べた手を、土壇場で裏切り、その手を払いのけて裏切るという行為に、彼は酷く興奮する性格だった。彼にとって裏切りとは「アタシの美貌を飾り付けるアクセサリーよん」というものでしかない。
「・・・ウフフフ、その前にいいこと思いついちゃったわ。ちょうどあそこに、邪魔なメス猫どもがいるわねぇ。ただ倒すだけじゃユーモアにかけるからぁ・・・アタシの魔法でちょっとからかっちゃおうっと」
軽口とは裏腹に残忍な狂気を秘めた瞳を向けたその先には・・・。
夕飯の買い物をしている、レベッカたち7人の姿があった・・・!
次回から第九章【キウイの樹海編~VS木の魔神~】に入ります!
千鶴の底知れない狂気は、彼女なりの無垢な正義が暴走したものでした。善悪の区別がつかない彼女にとっては、今回の一連の悪事は全て世界を守るためにやったこと。千鶴を代わりに倒してくれと言わんばかりの宗像の置き土産に、斗真は怒り心頭、そして桜は・・・ショックで倒れる羽目に。
次回、花房がレベッカたちに襲い掛かります!
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!




