第十五話「3年前の真実~コーヒーを飲みながら話す昔話はほろ苦い~」
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新作が書きあがりましたので、投稿いたします。
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【三人称視点】
魔砲特急アルコバレーノのお披露目を行った、その日の夜。
屋敷が崩壊したことにより、急遽仮住まいとして個室で寝泊まりすることになった斗真たちは簡単な荷物を運び終えると、そのまま泥のように深い眠りについてしまった。地の魔神ゼルザールとの戦いで体力と魔力を使い果たし、疲労もピークを迎えていたのだ。
夜も更けてきたころ、桜、ヴィルヘルミーナ、オリヴィアの3人はラウンジで酌を酌み交わしていた。(桜は未成年ということでコーヒーを飲んでいた)強い度数の酒を一口、優雅に飲み干して、頬を赤らめたヴィルヘルミーナが桜に顔を向けて話しかける。
「・・・そんなことがあったんだね」
「・・・話を聞く限りじゃ、トーマちゃんが彼女を裏切ったっちゅうわけやないよな」
「・・・ああ、斗真は寅若さんと高橋さんを危険な目に遭わせたくなかっただけだ。しかし、それが寅若さんには、自分たちを置いて一人だけで何とかしようとする斗真に対して、どうして一緒に連れて行ってくれないんだって言う怒りと失望みたいなものを感じたんじゃないかな」
「・・・トーマ君の悪いクセだもんね。仲間のことを大切に思うあまりに、自分一人が犠牲になればいいって思って、無茶をしちゃうところはさ」
「そのすれ違いがこじれに拗れて、今度のようなことになってもうたっちゅうわけかい。やりきれへんな・・・」
桜は湯気がほのかに漂うコーヒーを見つめながら、3年前に起きた事件のことを思い出していた。
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3年前。
桜の父親が会長を務める地域最大の指定暴力団【竜桜会】に組織の地盤を揺るがすほどの大事件が起きた。
竜桜会の直系組織の組から拳銃が持ち出されて、その拳銃によって竜桜会が債権の取り立てを行っていた工場一帯が爆発し、工場の所有者の家族全員と、工場内にいた中学生が一人が巻き込まれて命を落とすという最悪の事件だった。
さらに、拳銃と共に本家に納めるはずの上納金1000万円まで盗み出されてしまい、会長は激怒した。堅気には手を出さないことを信条としている硬派な昔気質の彼は、拳銃で堅気の命を奪ったばかりか、上納金まで盗み出すようなことをする輩に対して、組のメンツにかけて必ず見つけ出してケジメをとらせると息巻いた。もし見つけられなかったら、拳銃を盗み出された組の組長を含む全構成員にケジメを取らせるとまで言い切り、全構成員が目を血眼にして、犯人の捜索に乗り出した。
しかし、防犯カメラを調べてみたところ、とんでもない事実が判明した。
その犯人とは、拳銃を盗み出された直系組織の組長の実子である中学生だったのだ。
さらに、その中学生こそが、寅若光の弟を虐めていたグループのリーダーであり、拳銃を撃って工場のガスボンベに弾丸を打ち込み、爆発を起こした真犯人だった。脅すつもりで持ってきた拳銃をつい撃ってみたくなった彼は、光の弟の明を拉致して暴行を加えた後、拳銃を一発、発射した。
それによって、工場一帯が吹き飛ぶ大爆発を起こしてしまったのだ。
まさかこんなことになるとは思っていなかった彼は恐れおののいた。
いつもならどんな相手であろうと、自分の父親がヤクザの組長をやっていると言えば、皆恐れて彼に逆らうものはいなかった。虎の威を借りる狐のごとく、万引きや傷害事件、同級生の女子に暴行をするなど常日頃から犯罪を繰り返してきた彼だったが、組の拳銃を盗み出した挙句に、撃った銃弾で爆発を起こして人の命を奪ってしまったということについては、さすがに父親も庇ってはくれないと察した。
さらに言えば、父親でさえも頭が上がらない本家の会長にそのような不祥事が耳に入れば、間違いなく父親は破門、もしくは重い罰を課せられるだろう。そうなると、当事者である自分はどんな罰を言い渡されるか、分かったものではない。そう思った彼は、とんでもない行動に出た。
拳銃が隠されていた金庫から上納金を封筒ごといただき、逃走用の資金として利用したのだ。 自分の逃走先を誰にも教えない様に、いじめに加担し、爆発を起こした時に現場に居合わせた仲間たちに大金を握らせて、彼は姿を消した。
これが、光の弟が亡くなった事件の真相だった。
「・・・それで、そのクソガキは見つかったんか?」
「ああ、俺の知り合いの情報屋に全力で調べてもらってね。海外に逃げようとしていたみたいだけど、パスポートがないから手に入れようとしていたところを見つけた。ドラマの見過ぎだよなぁ」
桜があくどい笑みを浮かべて、その瞳に絶対零度の光を宿した時、彼の末路がどんなものになったか、ヴィルヘルミーナとオリヴィアは察した。この表情になった時の桜は、敵に対して一切容赦がなくなることを知っているからだ。
「・・・トーマ君は、相手が拳銃を持っているということをどこかで聞きつけた。だから、そんな危険な相手の所に乗り込んだら、彼女たちがどんな目に遭うか分からないと思い、自分一人だけで彼らをどうにかしようと思ったんだね」
「・・・せやけど、トーマちゃんもかなり無茶しよるよな。武器を持っている集団の所に、たった一人で乗り込んでいったんやろ?」
「現場に乗り込んだ時には、こういう修羅場には慣れている組員たちでさえも、あまりの光景に思わず凍り付いていたね。何せ、ナイフや武器を持っている半グレたちが100人近く、ボコボコに叩きのめされていたんだからさ」
彼の仲間が所属している半グレグループがアジトにしているクラブの廃墟に、若い衆を率いて桜が殴り込みをかけた時、そこでは、すでに何者かの手によって痛めつけられて、ボロボロの姿で倒れこんでいる半グレのメンバーたちの変わり果てた姿があった。特に目を引いたのは、壁に突き刺さっている自動販売機や、人間業とは思えない怪力で引きちぎられたバーカウンターの一部が地面にまるで墓標のように突き刺さっていたという信じがたいものだった。
「・・・あとで、捕まえた連中から話を聞いたんだけどさ。全員が震えて『鬼姫が乗り込んできて、自動販売機やバーカウンターを持ち上げて、投げつけてきた!』って言っていたんだよ。どうやら斗真はキレると、筋肉のリミッターが外れてしまう体質のようだ。普通、自動販売機を持ち上げて投げつけたり、バーカウンターを引きちぎるなんて、まともな人間が出来る事じゃない」
「・・・た、確かに、レベッカ君の大剣を片手で軽々と持ち上げていたよね?」
「あれ、大の男が3人がかりでやっと持ち上げられるもんやからね。腕力と頑丈さに関しては、バケモンやな」
普段は大人しいが、一度本気で怒ると鬼姫の名前のごとく、敵と認定した相手を徹底的に追い詰めて、痛めつけて地獄を見せる斗真の苛烈な性格に、改めて二人は顔を見合わせると、血の気が引いたように青くなる。
「・・・でも、君たちの世界には確か”ケイサツ”とか言う、自警団や騎士団のようなものがあったんだろう?どうして、トーマ君は頼らなかったのだろうね」
ヴィルヘルミーナがそう言うと、桜の表情が苦虫を嚙み潰したような顔になる。
「・・・信用できなかったからさ。なぜなら、県警本部・・・まあ、例えて言うならその街の自警団の最高責任者や幹部が集まる組織のようなものなんだけど、そこの幹部の一人が、半グレグループが起こしていた事件をこっそりともみ消していたようだからね。なぜならそのグループに、自分の息子が金を積んで色々と悪いことを頼んでいたようだからね。そして、そいつは半グレグループに頼んで、斗真を捕らえるように命じていたんだ。まあ、結局は返り討ちに遭ったけどね」
その人物こそが、地の勇者【雨野柳太郎】であった。
斗真をいたぶることで、自分の欲望を満たそうとしていた雨野は、半グレグループに大金を積んで頼み込み、斗真を連れてくるように命じていたのだ。それまでにも、柔道の大会において出場する予定だった選手を闇討ちさせて、見返りに父親に頼み込んで彼らの悪事を見逃すように手配をしていたことを、桜は突き止めていた。
「親子そろって最悪のクズやな・・・」
「ああ、子が子なら、親も親さ。柔道の全国大会を連覇する自慢の息子の経歴に泥を塗るようなことは、自分自身の首を絞めるということさ。斗真はそれを知って、警察に相談してもまともに捜査など行われないと思ったんだろうな」
その結果が、自分の妻と娘を、庇ってきた息子に殴り殺されることになるとは夢にも思っていなかったことだろう。自業自得と言ってしまえばそれまでだが、雨野の父親も息子の暴走によって地獄に落ちる悲惨な結末を迎える事だろう。
「・・・斗真は言っていたよ。いくら警察に相談してもまともに取り合ってもらえない。両親だって平気で実の子供を捨てるんだから、他人に期待をすること自体が間違っていたんだって。その頃の斗真は、社会も、大人も、何も信用することが出来なかったのかもしれない。だからこそ、自分の手で大事なものを守ろうと必死になっていたんだ。それで、自分を犠牲にしてでも寅若さんたちを守ろうとしていたんだ。でも、それが寅若さんには分かってもらえなかった・・・」
「・・・何ともやり切れないね」
「・・・ほんまやな」
「・・・ここに来る前の斗真は、仲のいいクラスメートは一人もいなかった。誰とも話そうとしないし、授業もしょっちゅうさぼるし、いつも一人ぼっちで寂しそうにしていた。守りたかった寅若さんからは拒絶されて、寅若さんの弟を守れなくて、もう何を信じればいいのか分からなくなったのかもな」
ぬるくなったコーヒーをグイっと流し込み、桜は一息ついた。
「・・・でも、ここに来て、斗真は変わった。高橋さんが言うには、昔のように明るくて優しい笑顔を見せるようになったと言っていた。ちょっと気弱で大人しくて、女装とか嫌だけど断り切れないお人好しな性格・・・それが、高橋さんが知っている斗真だったのかもな。少しずつ、昔の熱さとか、明るさを取り戻してきているような気がするんだよ。それについては、みんなに感謝しないといけないね」
「・・・フッ、心に深い傷を負ったエンジェルの涙をぬぐうのは、王子の務めだからね」
「相変わらず、イタいことを言うやっちゃな」
「え?」
「まあ、うちらみたいなアホに出来ることやったら、それぐらいやからな。これからも、色々と世話になることがあるかもせえへんけど、お互いに仲良くやっていこうやないか」
これから先、斗真が再び孤独にならないように、自分自身を追い詰めてしまうことがないように、自分たちがしっかりと見守っていこうとオリヴィアが微笑むと、ヴィルヘルミーナも頷いた。
「ふにゅう~。オリヴィア、いいこと、言うー。だぁいしゅき~」
その時だった。
桜が急に蕩けた声を上げると、オリヴィアに抱き着いて頬に熱く口づけをしてきた。
オリヴィアが驚いて桜を見ると、桜の瞳は蕩け切っていて、頬が赤く染まっていた。
そして、なぜか彼から酒の匂いが漂っていた。
「さ、サクラぁぁぁっ!?どないしたんやっ!?」
「・・・ちょっと、サクラ、お水と間違えて、オリヴィアのお酒を飲んじゃったんじゃないかい!?」
「ンなアホな!?コップ半分ぐらいしか入ってなかったやろ!?」
「あたし、よっぱらってないもーん!オリヴィア、クールで大人っぽくて可愛い~。ねえねえ、もっといっぱい、チュウしようよ?オリヴィアともっといっぱいくっついて、楽しくて気持ちいいことがしたいよぉ!」
もはや普段のクールな姿はかけらもなく、小悪魔的な可愛らしさとコケティッシュな言動で、オリヴィアにくっついて、耳元で甘い言葉をささやく姿はさながらサキュバスのようである。
「・・・ま、まさか、サクラがお酒がまるでダメだったなんて」
「ちょっ、あはんっ!いやっ、耳たぶを甘噛みしちゃ、らめぇ・・・!気持ちよくて、おかしくなってまうからぁ!」
「オリヴィア、だぁいしゅきっ!ミーナもだぁいしゅきっ!あたしといっぱい、楽しいことをして遊ぼうよぉ~。もうあたし、ガマン出来ないよぉ~・・・」
呼吸も荒く、その場で服を脱ぎながら誘惑する桜がこれ以上暴走しないように、ヴィルヘルミーナが素早く桜をお姫様抱っこをすると、桜の個室に向かって全速前進で走り出した。
「えへへへ~、ミーナにお持ち帰りされちゃう~」
「サクラ、いい子だから少し黙っていてね!?もし、こんなところを他の誰かに見られたら、ボクたちが変なことをしようとしていると完全に誤解されちゃうからっ!!」
「そないなことになったら、ウチらお陀仏やで!?」
「あついー!あついの、やだぁー!脱いじゃうもん!!えーい!!」
「服を脱がないでー!!パンツを脱ごうとしないでー!!」
「早く部屋の中に放り込んで、寝かしつけんとアカンことになるー!!」
ギャアギャアと騒ぎながら、何とか個室の扉に近づいてきた、その時だった。
「・・・誰、こんな時間に騒いでいるの・・・?」
終わった。
ヴィルヘルミーナとオリヴィアは瞬時に、部屋から出てきた斗真と目が合った瞬間、そう思った。
半裸でパンツを脱ぎかけている泥酔した桜をお姫様抱っこして廊下を走っている姿は、どう見てもこれから何かをやらかそうとしている姿にしか見えなかった。
「・・・え」
「唸れ、ウチの両脚ッ!!」
ドガシャッ!!!
オリヴィアが飛び上がり、斗真の顔面に両足をめり込ませると、斗真は鼻血を噴き出しながらその場に倒れこみそのまま気を失った。オリヴィアは両手を合わせてわびを入れると、桜の個室に飛び込んだ。
そして斗真はそのまま、廊下で倒れたまま、一夜を過ごすことになった。
桜、お酒が弱点でした・・・。
お酒を飲むと、子供っぽくなってワガママを言ったり、甘えん坊になってしまいます。
そして、翌日になるとその時の記憶は綺麗さっぱりなくなっているという・・・。
斗真と兄弟の盃を交わした時のお酒の量は少なかったことと、アルコール度数も低いものを選んでいたため、ここまで酔っぱらうことはありませんでした。(オリヴィアが飲んでいた酒はアルコール度数が恐ろしく高いものだったため)
そして、最後に出てきた斗真はやっぱりこういう役がすごく似合います。
斗真、君は悪くない。悪いとすれば、運が悪かった。
ここまで読んでいただき、ありがとうございます!




