第十九話「斗真の過去②~壊れた友情~」
注意
今回の話は鬱な部分やグロテスクな描写、暴力的な表現が含まれております。
苦手な方はどうかお気をつけてください。
【三人称視点】
「・・・斗真のせいで、寅若さんの弟が死んだって、どういうことだよ?」
「・・・そもそもの原因は私のせいなんだ」
つばさは暗く沈んだ声で、話し出した。
「私が中学生の時に両親が離婚してね、そのことが原因でクラスメートからいじめを受けていたんだ。それをかばってくれたのが斗真と光だったんだ」
謂れのない悪口に暴力、陰湿ないじめにつばさが苦しんでいるにも関わらず、担任も見て見ぬふりを決め込んでいたらしく、つばさはクラス中からいじめの標的にされていた。その中で、つばさの味方をしてくれたのが、斗真と光だった。
「・・・しかし、今度は斗真と光がいじめの標的にされてしまったんだが、二人とも喧嘩は相当強いし、元々心から受け入れた人間以外には興味を持たないタイプだったから、徐々にいじめっ子たちの方が参ってしまって、少しずついじめが減っていったんだが・・・」
しかし、それでもまだ斗真たちをいじめのターゲットとして狙っている人物はいた。
そして、彼らは何を仕掛けても斗真たちが全然気にしていない上に、頭脳の回転が速くて悪知恵に長けていたつばさの作戦によって精神的に追い詰める陰湿なやり方で返り討ちに遭っていた。
証拠を掴んで、自分たちを追い詰めてくる斗真たちに対して、彼らは理不尽な悪意を拗らせて、卑怯なやり方で追い詰めようと思いついた。
「・・・私をいじめるように言い出して、そして、斗真たちをどんな手段を使っても追い詰めようと言い出したのが、鳳桐人だった」
「桐ちゃんって、もうその頃からクズだったんだね」
「そして、鳳は斗真のことを狙っていた雨野柳太郎と手を組み、私たちを徹底的に追い詰める方法を思いついたんだ。それは、私たちの家族、もしくは私たちとつながりのあるクラスメートや知人、老人や子供、女性ばかりを狙って闇討ちすることだった」
「・・・アイツららしいね。人間のクズらしい考えだ」
「そのことに気づいたのは、僕たちによくしてくれていた保健の先生が、何者かに襲われて大怪我をした時だった。その前にも、僕たちと接点のある同級生とか、先輩が、下校中に、顔を隠した集団から襲撃を受けて怪我をする事件が起きていてね。その時、犯人から”恨むなら梶斗真たちを恨め”と言われたそうだ」
その結果、斗真たちと仲良くしていると、次は何をされるか分からないと脅えだした同級生や先輩たちが斗真たちから離れていき、彼らは孤立してしまった。
「・・・光は何が何でも犯人を見つけ出して、襲われた人たちの敵討ちをすると意気込んでいた。でも、僕は光を止めたんだ。相手は武器を持って、集団で一人の女性を襲うような連中だ。被害もどんどんエスカレートしていることもあって、一人で犯人を探し出すのは危険だと思った」
「そりゃ賢明だね。警察には言ったのかい?」
「・・・何度も言ったさ。しかし、警察は学生同士の小競り合いだと言ってまともに取り合ってくれなかった。あとで分かったんだが、雨野の父親が県警のお偉いさんで、息子の不祥事を悉く握りつぶしていたそうだ」
「・・・ああ、雨野の父親ならそういうことぐらいやりそうだよね。息子が妻や娘を殴り殺したというのに、保身を守るために事件を隠蔽したんだからな」
「親子そろって、最悪のクズだよね」
そして、そのことで斗真と光が何度も衝突をするようになったのだ。
『どうしてここまでやられて、私たちが大人しくしていなければならない?次は私たちの家族にまで被害が及ぶのかもしれないのだぞ?斗真、お前まさかビビったのか?』
『そういうことを言っているんじゃない!相手がもうここまで手段を選ばない以上、むやみやたらに突っ走るのは危険すぎるって言っているんだ!警察に任せておいたほうがいい!』
『無駄だな。第一、先生まで襲われたというのに、警察は忙しいとまともに取り合ってくれなかったじゃないか。同級生が何人も集団に襲われているというのに、あれから警察の捜査に何か進展があったのか?捜査をまともにやっている素振りさえなかったじゃないか』
『・・・そうだとしても、町中の不良グループを根こそぎ潰して回るなんて、無謀過ぎる!何かあってからじゃ遅すぎる!』
『・・・このままでは、私の家族も危ない。向こうが手段を選ばないというなら、こっちだって大人しくしてやる必要などない。襲われた彼らだって、私たちに良くしてくれた人たちじゃないか。そんな人たちが襲われて、何もしないというのか。・・・もう、いい。お前のような臆病者の手なんか借りるものか』
『光!お願いだから、少しは落ち着いて!』
『もうお前など、友達でも何でもない。見損なったよ。お前のことは一生の友だと思っていたのに』
親しくしてくれていた同級生や教師を襲われて、怒りに任せて報復に臨もうとしていた光。
いくら何でも集団の正体が掴めていないのに、むやみやたらに殴り込んで話を聞き出そうとすることは危険すぎると、まずは情報をかき集めてから行動しても遅くはないという斗真。
二人の考えは対立し、光から一方的に絶交を叩きつけられてしまったのだ。
光のことをつばさが必死で説得して、何とか無茶をしないようにしていたのだが、光はこの時点で斗真のことを完全に見限ってしまった。斗真だったら、自分と一緒に犯人を探し出してくれると信じていた思いを裏切られたと思い込んでいたのだ。
「・・・そんな矢先に、光の弟が集団に襲撃されて、命を落としたんだ」
「・・・3年前、僕たちが中学3年生の時だったよ。明は僕たちのことを実の兄弟のように慕ってくれていてね、僕たちのようなろくでなしにも優しく接してきてくれていた。光は両親が離婚していて、引き取った母親もあまり家に寄り付かない人だったから、唯一の家族である明のことを大切にしていた」
「私たちも明のことを、実の弟のように可愛いがっていた。だからこそ、斗真は光が集団の正体を掴もうと無茶をすれば、残された明が一人きりになってしまうことを恐れて、光を止めようとしていたんだ。集団に、女性の光が一人で乗り込んで返り討ちに遭わないようにと、思っていたのもあるがね」
斗真は光のことを男女の関係を超えた、大事な友達だと思っていた。
だからこそ、光が無茶をして取り返しのつかないことになる前に、光を止めようと説得したのだ。
そして、明が狙われているかもしれないのなら、出来る限り明のそばから離れないようにしてほしいという願いもあったのだが、怒りで頭がいっぱいになっていた光にはその言葉は届かなかった。
「・・・3年前に鏡美で起きた【廃工場全焼事件】は覚えているか?」
その言葉に、桜が心当たりがあるのか、はっと目を見開く。
「・・・ちょっと待て。あの事件に、まさかその時のいじめが関わっていたっていうのか!?」
「桜、何か知っているの?」
「・・・その事件が関わっているというなら、俺も無関係っていうわけにはいかないね。あの事件のせいで、うちの組も大損害を出したうえに、警察にひどい目に遭わされたんだからな」
その事件とは、工業団地の近くにあった自動車の修理工場の廃墟が原因不明の出火によって炎上、工場の中に置かれていたガソリンや油に引火して、工場は1日中炎に包まれて全焼した事件だ。焼け跡からは、工場の所有者だった家族4人の遺体と、男性の焼死体が発見された。警察は工場の中にあった油に何らかの機械トラブルで火災が発生して、家族たちが逃げ遅れて被害に遭ったというのが当時の警察の見解だった。
「・・・しかし、真相は違っていたのさ。あれは機械トラブルによる火災なんかじゃない。警察に、俺の知り合いがいてね、ちょっと締め上げて話を聞き出したら・・・あれは放火だったことが判明した」
桜が話し出した内容は、斗真たちの想像を絶するおぞましい内容だった。
「あの工場の所有者はうちの組の金融会社から金を借りていてね、担保としてあの工場と土地一帯を預かっていたのさ。金が返せなかったら、あの工場と土地を売り払うということでね。それで、工場が潰れた後で、その土地を高く買い取りたいという人が出てきたから、その土地一帯を売値の倍以上の金を払って、所有者たちの借金もそれでチャラにしようということで話しがついていたんだ」
桜が苦虫を嚙み潰したような表情になる。
「立ち退きを翌日に控えていた日に、あの事件が起きたんだ。おかげでうちの組は大損害さ。機械トラブルで火災が起きたなんて、どうしても納得が出来なかったから、個人的にあの事件のことを調べてみたのさ。そしたら、あの工場に夜な夜な忍び込んで騒いでいる半グレ共がいることが分かってね。彼らがたまり場にしているクラブに行って、彼らから話を聞いてみたら・・・何とも胸糞悪いことをやっていたんだ」
「・・・その先は知っているよ。僕も、その連中から話を聞き出したからね」
「・・・もしかして、雁野が言っていた半グレグループをたった一人で壊滅させたって言う殴り込みの話は、その時のことかい?」
「・・・そうだね」
雁野が目撃したのは、斗真が武器を持った50人ほどいる不良たちをたった一人で叩き潰して、半グレグループを壊滅させたという事件だった。その時の斗真が暴れている姿を見て、一目ぼれしてしまったというのだから、皮肉な話である。
「・・・奴らはそこで、男子中学生を捕まえてリンチにかけていやがったのさ。そして、しこたま痛めつけた後に、チームのリーダーをやっていたヤツが、その男子中学生に灯油をぶっかけて、火をつけてやると脅したらしい。しかし、それでも彼は命乞いをしなかったそうだ。彼らの目的は、彼の姉をここに呼び出すためだったらしい。姉に危害を加えようとすることを察したその男子中学生は、何が何でも姉を呼び出すことを拒んだそうさ。そして、激昂したリーダーが本当に火を・・・」
「・・・それが明だったんだ。光の言うとおりだった。そこまでやるようなヤバいヤツらなんて、とっくに分かっていたはずなのに。警察に任せようなんて言わなければ、こんなことにはならなかったのかもしれない。警察がろくに警護もしてくれないなんて分かっていたはずなのに、光たちが危険なことに巻き込まれないようにしようと思っていたのに!」
「雨野たちのせいで、警察もろくに動かなかった結果が、こんな大惨事を引き起こしたんだ。それから、俺は雨野たちが言い逃れが出来ない証拠を揃えて、柔道界の期待の星と言われていい気になっているアイツを地獄のどん底に叩き落してやるために、手あたり次第いろんなルートから情報を集めていた。そして、雨野が”スレッジハンマー”であることを突き止めて、彼を糾弾しようとした矢先に、この異世界に召喚されちまった」
その半グレグループに雨野が大金を積んで、斗真を苦しめるために、光の弟を狙わせたのだ。
そして、雨野の父親が自分の保身のために、鳳と雨野が半グレグループに頼んでこれまで多くの人たちを襲うように命令していたことを隠蔽してしまったのだ。
そして、その時に工場内に残っていた油に引火して、工場で爆発が起きて炎上し、瞬く間に何もかもを焼き尽くしてしまった。そこで、明が焼死体で発見されたという報せを、斗真たちは聞かされたのだ。
「・・・明の葬式の日、私たちも光の家に行ったんだ。そして、棺の前で呆然と座り尽くしていた光に、私たちが声をかけようとしたのだが・・・」
『・・・どうして、斗真じゃなくて、明が死ななければならなかったんだ。アイツが臆病風に吹かれて、警察に任せようなんて言わなければこんなことにはならなかったんだ』
『・・・斗真が死ねばよかったんだ・・・』
『・・・お前が私や、明を裏切ったから、こんなことにはなったんだ・・・』
『・・・お前のことは・・・絶対に・・・許さない・・・』
棺に顔を向けたまま、怨嗟に満ちた言葉を聞かされて、斗真は完全に打ちのめされた。
「・・・僕が売られた喧嘩を買い続けていなければ、恨みなんて買わなければ、明は死ななかったのかもしれない。そもそも、僕が喧嘩をしていなければ、こんなことにはならなかったのかもしれない。そう思うと、もうやり切れなくなった」
それから、斗真は喧嘩をやめた。
それから、斗真は誰とも接することをやめて、一人で過ごすようになった。
その後、斗真はつばさの前からも姿を消した。
「三神市を離れた後に、海外にいた両親がそれぞれ病気と事故で死んだって言う話を聞いて、財産分与や遺品の整理で僕は三神市にもう一度戻ることになった。それで、今の学校に編入してきたわけ」
「そこで、まさか高橋さんや寅若さんと同じクラスになっちまうなんてな」
あまりにも皮肉な運命に、桜は頭を抱えてしまう。
神様の悪戯にしても、ここまで斗真を追い詰めなくてもいいだろうと思えるほどに、あまりにも不幸すぎる展開だ。
それから斗真は一人で、クラスの誰とも話さずに、一人きりで過ごしていた。
クラスでは、つばさが何度か斗真に話しかけようとしたが、光に止められていたのだ。
そして、光が斗真に何をするか分からないほどに憎んでいることを察していたつばさは、光を刺激しないために常につばさのそばにいて監視していた。そのため、斗真に近づくことも出来ずにいたのだ。
「でも、光ともう一度向き合わなくちゃいけない。喧嘩をすることになるとしても、話し合うことが出来ないとしても、もうこれ以上光から逃げちゃダメだと思う。光の言いたいことはもっともなんだからな」
「寅若さんたちが半グレたちからひどいことをされないために、自分一人で決着をつけるつもりだったんだろう?だったらそう話せばいいじゃないか」
「光は分かっているんだ。頭では理解していても、心がどうしても受け入れることが出来なかった。自分を置いて、一人だけで何とかしようとしていたことや、弟を失い、一度振り上げた拳を下ろすことも出来なくなって、彼女は行き場のない怒りと憎しみを背負ってしまった。そして、その矛先が斗真に向けられてしまったんだ」
光に残されているのは、もう憎しみと怒りしかない。
斗真に対する憎悪だけを糧にして、格闘技の腕を磨き続けて今日まで生き残ってきたのだ。
その意志の強さが皮肉にも、魔神の意識を飲み込むほどの強靭な自我を作り上げてしまった。
もう、光と斗真には、戦うことしか残されていなかった。
三人がうなだれて、重々しい空気が漂う。
(・・・周りが敵だらけで、大好きだった親友からも恨まれて、ずっとトーマは孤独な日々を送ってきたというのか)
そんな中、斗真の痛々しい姿を見て、アイリスは心が痛むのを感じた。
斗真が喧嘩をやめて、ずっと陰キャとして一人きりで過ごしていた理由を明らかにしました。
光は全ての事情を察していても、自分を復讐させなかったせいで弟が死んだと思い込み、斗真を恨んでおります。理不尽なことは分かっていても、そうでもしないと心が壊れてしまうほどに追い込まれているのです。
光やつばさとも話さず、ずっと一人で周りから距離を置いていた斗真が光と向き合う覚悟を決めて、近々彼女と戦うことになります。
次回で、第七章が終了します!
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!




