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第六話「魔法裁縫師、テントを作る~魔法のテント~」

いつも拙作を読んでいただき、本当にありがとうございます。

新作が完成しましたので、投稿いたします。

 エンプーサを叩きのめした後、騒ぎを聞きつけて【ミルティユ】の王国騎士団の人たちが駆けつけてきてくれた。僕はアイリスさんの光の魔法で身動きが取れないようにしておいたエンプーサを突き出した。


 「チクショォォォォォォッ!!テメェ、マジで覚えておけよっ!!次に会ったら絶対にブッ殺す!!」


 「大人しくしろ!・・・プププッ、プヒッ、はっ、いかんいかん!」


 「何を笑っているんだ・・・ぷーっ!!はっ、お、落ち着け、落ち着くんだ、俺・・・!」


 エンプーサは鎌田さんの姿に戻ると、鬼のような形相で、目に涙を浮かべながら僕に向かって怒鳴りつけていたが、騎士の人たちに数人がかりで押さえつけられて、馬車に乗せられて連れていかれた。


 騎士の人たちは、連行する鎌田さんの顔を見ると、思わず吹き出しそうになるのを必死でこらえていた。隊長らしき厳格で屈強な身体つきをしている人まで、僕たちに顔を背けて、肩をわずかに震わせていた。


 何もそこまで怒ることないじゃん。


 僕の命を狙ってきたんだから、その仕返しに【ハゲのヅラを被せる】、【額に『肉』と書いて、泥棒のような黒ひげを口の周りに、ほっぺたにそれぞれ【バカ】【呪】と油性マジックで書く】、【ロープでぐるぐる巻きにしてはりつけにして、タラスク族の人たちに泥団子を投げつけまくらせる】ぐらいやっても罰は当たらないでしょ。


 その結果、騎士団が彼女を回収する時の姿は顔や全身が泥まみれ、頭にはハゲのヅラをかぶせて、額に肉、ほっぺたには呪いの梵字、口の周りに太い油性マジックで大きなドロボーヒゲを書かれた姿で鎌田さんは連行されたのでした。

 

 「・・・お前って普段は大人しいけど、一度本気で怒るとすごく怖いのな」


 「・・・だがしかし、そういった意外と苛烈で気性の激しい一面も私にとってはすごく魅力的に思えるぞ」


 レベッカさんとアイリスさんがなぜか遠い目をして、疲れたような顔をしていた。


 「・・・この度は我々の村をお守りしていただき、本当にありがとうございます。わたくしは、この村の長老をしております【ブルーベル】と申します」


 そんな僕たちの前に、長老にしてはまだ20代前半ほどの若々しい、綺麗な女性が話しかけてきた。

 黄緑色のベリーショートの髪型と、エメラルドのような深く澄んだ緑色の瞳、そしてモデルのようなスタイルが抜群の身体には黒いビキニの上下しか着ておらず、両手と両脚、お尻の周りを隠す程度に深緑色の刺々しい甲羅の甲冑を身に纏っていた。


 「・・・ブルーベル・・・タラスク・・・?あれ、どこかで聞いたことがあるような名前だな」


 レベッカさんがブルーベルさんをまじまじと見つめて、しばらくの間、「うーん」とうなりながら考え込むと、何かを思い出したように目を見開いた。


 「お前ってもしかして、300年前にこの村で長老のお付きをしていた、あのちんちくりんのブルーベルかよ!?」


 「・・・え・・・?その呼び方、声、もしかすると、貴方は・・・!!」


 「レベッカ・レッドグレイブだよ!久しぶりだな!!」


 レベッカさんが思わず叫ぶと、ブルーベルさんの表情が驚きのあまりに呆然とした表情になる。そして、フルフルと震えだすとブルーベルさんは感極まったような顔になって、目に涙を浮かべ出す。


 「・・・やはり・・・貴方でしたか。300年前に貴方がたが【外なる神】と呼ばれるものと戦って、命を落としたという話を聞いておりましたが、私はそんな話とても信じられませんでした。貴方がたはきっとどこかで生き延びていて、天寿を全うしたものだと思っておりましたが・・・まさかこうしてもう一度お会いできるとは・・・!!レベッカ姉さん、アイリス姉さん!!」


 ブルーベルさんがもう我慢できずにレベッカさんの胸に頭から飛び込むように抱き着いて、身体を震わせて泣きじゃくる。


 「お前があのブルーベルか!?大きくなったな、あの時は長老にいつもくっついてばかりいる、甘えん坊で泣き虫だったお前が立派に成長したではないか!」


 「本当に・・・お久しぶりでございます!!嬉しい・・・こうしてまたもう一度会えるなんて!!」


 ブルーベルさんがボロボロと涙を流してしゃくりあげると、レベッカさんが彼女を抱きしめて頭を優しく撫でて、優しい笑顔を浮かべた。


 そうか、この人はレベッカさんたちの知り合いだったんだ・・・。


 というか、つまりこの人って見た目は若そうだけど、300年以上は生きているってこと!?


 「タラスク族は竜族の血が流れているからな。若々しい姿のまま、私たちの倍以上の長い時間を生きる事が出来るんだ」


 アイリスさんがそう、説明をしてくれた。


 なるほど、一見は僕よりも少し年上ぐらいにしか見えないけど、彼女がなぜ長老と呼ばれているのかが分かった。


 ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


 レベッカさんたちが長老のテントで何やら話し込んでいる間、僕は外で待つことにした。


 それにしても、家が何軒が焼かれてしまい、死人が一人も出なかったことが救いだったけど、多くの負傷者が出てしまった。広場では傷ついて手当てを受けているタラスク族の痛々しい姿があった。


 怪我している人たちが木陰の下で巨大な葉っぱを何枚も敷き詰めて作られた簡易的なマットの上に寝ころび、苦しそうに呻いている。


 そりゃそうだ、こんな地面に直に引いている薄いマットでは、怪我した身体で眠るには辛いことだろう。


 何か、僕に出来ないかな・・・。


 タラスク族の人たちに話を聞いてみると、この村には病院のような施設がないらしい。


 病気になった時には村の中央に置かれていた野戦病院のような施設で治療を受けるらしいが、その建物も鎌田さんの襲撃によって焼かれてしまったそうだ。


 こういう時、僕のスキルが医者だったら、この人たちの治療や介護の世話が出来るのに・・・。






 いや、ちょっと、待てよ?


 僕のスキル【魔法裁縫師】の力で、何か出来ないかな?


 今までは武器や防具を作り出す能力だけだと思っていたけど、もしかすると、裁縫師というぐらいだから、もしかしたら清潔なシーツや布団を作り出すことぐらいは出来るかもしれない。


 僕はステータスの画面を開いて、さらに詳しく調べてみた。


 「ステータス、オープン!」


 ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★

 名前 :トウマ・カジ

 種族 :人間(異世界人)

 性別 :男性(一応)

 年齢 :17歳

 レベル:5

 信頼度:C(冒険者登録済み)

 強さ :B

 器用さ:S

 持久力:A

 敏捷性:A

 賢さ :A

 精神力:S

 運  :B

 職業 :魔法裁縫師

 スキル:魔法闘衣錬成 S

    :身体強化   A

    :精神強化   A

    :裁縫     S

    :魔力探知   A

    :魔力操作   S

    :解呪     S

    :危険探知   A

    :罠設置    A

    :武器の極意  S

    :木工師の極意 S【NEW】!!

 武器 :不明

 属性 :無

 合成 :【木工師の極意】+【裁縫】=【家具作成】【NEW】!!

 ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


 はて、見たことのない新しいスキル【木工師】が加わっている?


 見てみると、それは木材を加工して様々な武器や道具、家具といった木工製品を作り出すことが出来るスキルのようだ。そして【裁縫】のスキルと組み合わせることによって【テント】や【ベッド】などが作れるみたいだ!!


 「・・・これなら、きっと、僕にも出来るはずだ!」


 そうと決まったら、僕は早速頭の中でタラスク族の人たちがゆっくりと休める快適なテントのイメージを思い浮かべる。


 広々とした空間・・・。


 強風にもビクともしない頑丈な作りのテント・・・。


 ぐっすりと眠れる、快適なベッド・・・。


 夏の暑い時には涼しく、冬の寒い時には暖かい、空調設備が調っているようなヤツがいいなあ。


 リラックス効果がある、清潔感があるそんなテント・・・!!


 「自動(オート)作成(クラフト)、開始・・・!!」


 僕の頭の中がキーンと音を立ててスッキリしたかと思うと、思い浮かべた設計図がより精巧に書き換えられていったかと思った瞬間、僕の身体は自分でも気づかないうちに動き始めていた。


 ★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★


 「いや~、悪い悪い、ちょっと話し込んじまった。トーマ、どこだぁ?」


 気が付くと、僕は中央広場にいた。


 時計を見ると、さっき動き始めてから3時間ほどの時間が経っていた。


 「あ、いた!トーマ、悪い・・・え・・・?」


 レベッカさんの声を聞いて振り返ると、レベッカさんたちが立っていた。


 いや、なぜか・・・ものすごくポカーンとした表情をして、立ち尽くしているようにも見える。


 「・・・な、な、なんだ、これは・・・?さっきまではこんなものはなかったぞ・・・?」


 「・・・こ、これは、もしかすると、診療所・・・?し、しかし、ここにあったのは、こんなにも綺麗で頑丈な作りはしていなかったはず・・・!私は、夢を見ているのでしょうか・・・?」


 あれ?アイリスさんやブルーベルさんもどうしてそんな茫然唖然としているのだろう?

 ていうか、よく見るとタラスク族の人たちがなぜか僕のことを見て、同じように目を丸くして、言葉が出てこないほどに驚いた様子で立ち尽くしている。


 「・・・あの、皆さん、どうかされましたか?」


 「おい!!まさかこれ、お前が作ったのか!?」


 レベッカさんが興奮して僕の肩を両手で掴みながら、目をキラキラさせて話しかけてきた。


 何だろう?


 僕が後ろを振り返ると、そこには・・・。






 「・・・ええええええっ!?て、て、テントぉっ!?ていうか、これ、もう、建物ぉっ!?誰が作ったんですか!?」


 『いや、お前だよっ!!』






 その場にいたタラスク族の人たちが一斉に僕を指さして、そう叫んだ。


 え、ええーっ!?ぼ、僕がこんなに大きくて頑丈そうな【ゲル】のようなテントを作ったっていうの!?


 「すげえな、姉ちゃん!!いきなりパムの木を切り始めたかと思ったら目にも止まらねえ速さで加工して、あっという間に骨組みや柱まで作り上げちまうなんてよ!!」


 「そのうえ、君はいったいどうやってあんな分厚いのに軽くて丈夫な布を【水の聖霊石】や他の聖霊石から作り出したというのだ!?こんなに分厚くて丈夫なのに、触れると水気を含んでいてすごく涼しくて心地よい風が感じられるのだ!!目の前で何が起きているのか、全く分からなかったよ!!」


 「こんなに美しくてきれいな紋様の布をあんなにも早く編み上げるなんて、貴方、もしかして王宮にお仕えしている超一流のメイドさんなのかしら!?あたしにも、どうやったらこんな風に綺麗な編み物が出来るのか、教えてほしいわ!」


 タラスク族の人たちが興奮のあまりに、僕を取り囲んで次々と質問責めをしてくる。

 しかし、僕は一体全体何て答えればいいのか分からず、半ばパニックになりかけていた。


 魔法闘衣を作り出す時と同じ、一度作り始めると思考がどこか飛んで行ってしまうっていうか、何も考えてないから、僕だってどうやってこんなすごく大きいものを作れたのかなんて、聞かれても答えられるかい!!


 僕が作ったらしい巨大なゲル型のテントは、12室の個室とリビング、エントランスホール、木製のトイレに、清々しい香りを放つ木製の大浴場が離れで繋がっているちょっとした宿泊施設のような大きなものが出来上がっていた。


 いや、ちょっと待って、これを本当に僕が作ったの!?


主人公、一度作り始めると集中し過ぎて周りが見えなくなり、自分でも何を作っているのか分からなくなる模様。昔、我を忘れるほど集中する【忘我】という言葉を聞いて覚えていたので、それを使ってみました。

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