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第四話「怒りを力に変えろ~豪熱のハードパンチャー・ハヌマーンナイト~」

いつも拙作を読んでいただき、本当にありがとうございます。

新作が完成しましたので、投稿いたします。

どうぞ、よろしくお願いいたします。

 「・・・僕が裏切者だって?どういうことだよ!!」


 「はんっ、桐人から聞いたぜ。お前ひとりだけ、魔王軍にビビッて逃げ出したってな!!」


 鎌田さんから告げられた話を聞いて、僕は開いた口が塞がらない。

 冗談じゃない、僕はアイツらから僕のスキルが【魔法裁縫師】だから、という理由だけで命を狙われたというのに。


 「それは、鳳がそういう風に言っていたの!?」


 「ああ、そうさ。鳳のほかにも雨野や幕ノ内も目撃したってよ。でも、お前のスキルって言うのがかなり珍しいスキルだから、連れ戻して勇者軍に入れるようにって王様からのご命令ってわけだ」


 僕は腹の底から、激しい怒りが湧き上がってくるのを感じて、拳を強く握りしめる。


 そっちが僕のことを「役立たず」だの「無能」だの散々言って、理不尽な理由で命まで奪おうとしていたくせに、僕のスキルがレアスキルだと分かると手のひらを返して勇者軍に戻れだって!?


 「鎌田さんには悪いけど、そんな話は僕は聞くつもりはない!!そもそも、僕のことを追放して、殺そうとしていたのは鳳たちなんだからな!!」


 「・・・あー、面倒くせぇな。アタシはお前に何があったのかとか、桐人たちが何をしたとか関係ねぇんだよ。お前が大人しくアタシと一緒にクロスについてくれば全てが解決するんだからよ。ゴチャゴチャ言ってんじゃねえよ」

 

 鎌田さんが髪の毛をガシガシとかき、つばを吐き捨てながら僕のことを睨みつけてくる。

 その鋭い眼光は恐ろしく冷たく、人間らしい感情というものが一切感じられないほどに怖いものだった。


 「トーマ!!」


 「大丈夫か!!」


 そこへ、レベッカさんとアイリスさんが駆けつけてきた。

 

 「レベッカさん、アイリスさん!!」


 「お前がこの村を襲ったんだな。人間の姿をしているみたいだけど、腐った肉のような死臭と土の匂い、それに加えて魔物の匂いがするぜ!!」


 「トーマ、下がっていろ。コイツは人間じゃない。おそらくだがコイツは・・・【魔人まじん】だ」


 え・・・?


 僕は二人が何を言っているのか一瞬分からなかった。

 どういうこと?僕の目の前にいる鎌田さんがもう死んでいるだって?

 そして、彼女から死人と魔族の匂いがするって、それじゃ、彼女は何者だって言うんだ!?


 「・・・お前たちが確かセルマが言っていた【七人の獣騎士(プレイアデス)】とかいう連中か。そう言えば、お前たちもついでにブッ殺してくるようにって言われていたんだったな」


 鎌田さんの瞳が緑色の光を放ち、顔に不気味な紋様が浮かび上がった。

 そして、彼女の身体から緑色の電撃が迸ると、その姿が人間離れした姿に変貌していく。


 「”エンプーサァァァァァァッ”!!」


 鎌田さんがまるで狂ったかのような、喉が張り裂けそうな高い声で叫んだ。


 巨大な複眼がついた【蟷螂】のような頭部。

 両腕には巨大な鎌が装備されて、右足がパンクミュージシャンのような無数の棘がついた装甲で覆われている。

 さらに、胸元には緑色の気味が悪い光を放つ石が埋め込まれていて、その石から放たれる魔力を実体化させて生み出された緑色の蟷螂の特徴を持つ防具で全身を覆った姿は人間とは思えなかった。


 まるで、理性を失った獣を目の当たりにしているような気がした。


 『アハハハハハ・・・どうだ、アタシの生まれ変わったこの姿は。人間なんていうクソつまらねえ生き物の身体を捨てて、アタシは生まれ変わったんだ。この力があれば、もう誰にもアタシのことをバカになんてさせない!!その力を見せてやるよ!!』


 ノイズが混じった低くて重い声が響き渡る。


 その声はもはや人間が放つ声とは思えないほどの醜悪で、無機質で、負の感情に満ちているものだった。


 「下がってろ!!もうコイツは人間じゃねえ!!」


 「行くぞ!!」


 レベッカさんが大剣を取り出して勢いよく斬りかかっていく。


 炎を纏った大剣を振りかぶって【エンプーサ】という魔人と化した鎌田さんの身体に刃を叩きつける。


 しかし、大剣の刃は高い音を立てて弾かれ、その反動でレベッカさんの動きが一瞬止まった。


 「ゲッ!?固い!?」


 『死ね!!』


 エンプーサがすかさず、風を切る音を上げて大鎌で切り付ける。


 レベッカさんが彼女の素早い一撃をかわして、砂浜の上をバク転しながら下がり、再び身構える。


 「これならどうだ!!」


 アイリスさんが両手から黄色の電撃を迸らせて弓矢のような形に変えた。

 

 そして、人差し指を向けて銃を討つような仕草で、何本もの雷の矢が放たれる。


 エンプーサは電撃の矢を両手で弾き、すかさず鎌を振った。

 すると、砂浜の砂が舞い上がりながら空気の刃が飛び出し、アイリスさん目掛けて放たれた。


 「ちっ!!」


 アイリスさんが素早く避けると、空気の刃は近くにあった家の壁に直撃して、壁にはまるで爪で引き裂かれたような無残な傷跡が刻み込まれていく。


 『アハハハハハッ!!大したことねえな!!何が最凶最悪の傭兵団だよ!!これじゃアタシの敵じゃねえな!!』


 「野郎、調子に乗りやがって・・・!!」


 『さっさと殺されちまえよ!!そしたらここの魔物どもを一人残らず片付けてやる!!なぜなら、アタシたちは勇者様だからなぁ!!この世から魔物も亜人種も一人残さず、殺して殺して殺しまくってやるぜ!!素晴らしいだろう、この力はよぉっ!!』


 




 その言葉を聞いた瞬間、僕の頭の中がキーンと音を立てて、さっきまで戸惑っていた感情や迷いが・・・自分でも不思議に思えるぐらい冷静になっていくような気がした。


 「・・・今・・・何て言ったの・・・?」


 僕はまるで世間話でもするかのように、彼女の近くにゆっくりと歩いて近づいていく。


 「お、おい!?トーマ、危ないぞ!?」


 アイリスさんが僕を引き留めようとするが、僕はもう止まるつもりなどない。


 僕の思考回路が、彼女の存在を「敵」として決定づける。

 すると、さっきまでクラスメートが魔人になってしまったことに対する戸惑いや、彼女がかつては同じクラスで一緒に勉強をしてきた、会話はしたことはないけどそれでも彼女のことをどこかまだ話せば分かってもらえるんじゃないかという思いがあった。






 でも、さっきの言葉を聞いて、その思いは全て・・・消えた。

 もう、彼女は人間でも、僕が知っている【鎌田みどり】ではない。

 人間としての心を失い、穏やかに暮らしていただけのタラスク族の人たちを自分勝手な理由で殺そうとする”怪物”に変わり果てたのだ。






 「・・・この人たちを、一人でも傷つけることは許さない・・・!!」






 腰にバックルを押し付けて、ベルトが腰に巻かれていく。


 そして、懐から取り出した【緋色】の宝箱を取り出して、スイッチを押して作動させる。


 




 『ハヌマーン!!』


 




 緋色の光が、この間倒した【キラーコング】の姿を映し出した。

 キラーコングの姿が全身を真っ白な体毛で覆われて、神聖なる炎を全身に纏い、黄金の輪を頭にはめ込んだ神々しい姿へと変わっていく。


 「それはキラーコングの魔石で作った宝箱か!?」


 「いや、この強大な炎の魔力はキラーコングのものではない!!」






 「変身!!」


 窪みに宝箱を装填すると、鍵のギミックを回し、宝箱の蓋が開いた。


 『闘衣召喚!!ハヌマーン!!』






 

 宝箱から燃え上がる炎が勢いよく噴き出して、ハヌマーンが僕の身体を抱きしめるような形で包み込むと、僕の姿はこの間の赤色のポニーテールと赤色の瞳を持つ女の子の肉体へと変わり、その上から重厚な大胸筋をイメージした甲冑を身体に装着し、額には孫悟空のような金の輪がつき、猿を模した耳が飛び出した。


 両手には巨大な拳骨のような形をしたグローブが装着されて、ミニスカートがめくれてお尻からぴょこんと猿のような長い尻尾が飛び出した。


 




 『豪熱のハードパンチャー!!ハヌマーン・ナイト・・・ドレスアップ!!』






 「新しいフォームに変身しただと!?」


 『・・・これが魔法裁縫師の力だと!?面白ぇ、お前みたいな弱そうなヤツにナメられるなんて冗談じゃねえ!!桐人、悪いけど梶はここで仕留めるぜ!!』


 エンプーサが僕に向かって飛び上がり、鋭い鎌を振り下ろしてきた。


 僕は鎌の一撃を迎え撃つように、鎌の刃に目掛けて勢いよく拳を突き出した!


 バキッ!!

 バキバキバキィッ!!


 ガラガラガラ・・・!!


 鎌の刃が拳の重みと衝撃に耐え切れず、無数のひびが入ったかと思うと、粉々になって崩れ落ちていく。


 『何だとぉぉぉっ!?』


 「君のことを止める。どんな手を使ってでも!」


 落ちてきた彼女のあごに、思い切り拳を突き上げた。


 『グアアアアアアッ!?』

 

 エンプーサの顔面がひしゃげたかと思うと、思い切り垂直に吹き飛び、そのまま回転しながら地面に全身を叩きつけられた。


 エンプーサが痛みに耐えつつ立ち上がろうとするが、痛みに身体の機能がマヒしているのか、思ったように動けなくなっており、膝を地面に突いたまま立ち上がれずにもがいていた。


 『・・・て、テメェ、アタシのことを殺すつもりか?アタシを殺したら、お前は人殺しなんだぜ!?』


 「殺しはしないよ。だって、死んだらそこでおしまいでしょ?」


 『はぁっ!?』


 「君には死んだ方がまだマシだと思えるぐらいまでやらないと、お仕置きの意味がないと思うんだ」


 死んだらそれでおしまい、相手が反省しようとしてまいと、それですべてが終わってしまうのだ。

 でも、死んで詫びるとか、そういうのってただの逃げでしかないよね?


 本当に自分がやったことに対して心から謝罪をするというのは、生きて罪を償うことだと思うの。


 「だから、君をとりあえずはマリブの騎士団に突き出す。村を襲った犯人としてね」


 『何だと!?』


 「そして、君をマリブに送り込んだ鳳や残りの勇者たち、そして、クロス王国にも他国の領土に突然宣戦布告もなしに乗り込んで村を襲ったということで、きっとクロス王国にはマリブはもちろんだけど、世界中の国々から抗議されると思うよ?だって、これはもう立派な侵略行為だもん」


 『・・・何が言いたいんだよ!?』


 「つまり、君がやったことは勇者として魔物を討伐するというものではなく、いきなり他国の領土に乗り込んできて、平穏に暮らしていたタラスク族の人たちの村を焼き払い、多くの人たちを傷つけたただの侵略行為でしかないってこと。下手すれば、クロス王国はマリブとの交易も全て中止されるかもね」


 つまり、鎌田さんがやらかしたことはクロス王国に対する重大な背信行為というわけだ。

 そりゃそうだ、いくらクロス王国が偉かろうと、いきなり交易をしている国に勇者の使いと名乗る犯罪者を遣わして、タラスク族の人たちを一方的な理由で傷つけて、村を攻めたなどということになれば戦争の火種にもなりかねない重罪だ。


 「そうなったら、クロス王国は君のせいで他国からの信頼を失う。いくら勇者を召喚して、魔王軍を討伐する使命を与えたと言っても、いきなり交易を結んでいる付き合いのある国に説明もなしで乗り込んで暴れまわった日には、クロス王国の管理責任が問われるよね?」


 そうなったら、君のことをかばってくれる人なんているかな?


 そう言うと、鎌田さんは自分が相当ヤバいことをやらかしたことを悟り、青ざめた表情で崩れ落ちた。


 まあ、この程度じゃまだ終わらせないけどね?


 これからが僕の【報復】の始まりだ。


今回からようやく斗真の反撃が始まります。


普段は大人しくて可愛いけど、一度本気で怒ったら一切合切容赦のない冷徹な性格になります。

絶対に怒らせてはいけないタイプの人間です。相手が誰だろうと、徹底的に追い詰めていきます。


次回は勇者軍側の話になります。

ここから彼らの転落が始まります。

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