第二十話「死者の都ネクロポリス~私の眼鏡はどこですか?~」
本日二回目の投稿になります。
復活して早々、ポンコツ系悪の幹部、渾沌がとんでもないことをやらかした・・・?
紫の大陸【パルフェ・タムール】有数の行楽地【フォルトゥナ】。
カジノや高級ホテルといった観光施設が充実している、高原のリゾート地。
その中でもひときわ目立つ、巨大な古城を改装した高級ホテル【エスポワール】の一室では、四凶の一人、窮奇将軍が、フォルトゥナの街並みを見下ろしながら、魔道具の通信機を使って会話をしていた。
「・・・こっちは順調といったところだな。いやはや、苦労したぜ。こんな禁書一冊のために、どれだけ死にそうな目に遭ったことか」
左目を隠した金髪のショートカット、頬に刻まれた虎縞模様を彷彿させるような入れ墨、頭から生やした金色の虎の耳と、背中から生やした純白の翼が特徴的な美女は、肩をすくめながら、同僚である【橈骨】に話し続ける。人間界でお気に入りのワインをくゆらせながら、のどを潤し、つかの間の休息を楽しんでいる様子だった。
そんな彼女の手には、四大禁書の一つである【風神の禁書・ハストゥール】があった。
『・・・見事だ。こっちもなんとか、火山の中に封印されていた【獄炎の禁書・クトゥグア】を手に入れることに成功した』
「これで、彩虹の戦乙女の所に1冊、アタイたちが2冊、そして、最後の【ネクロノミコン】がまだどっちの手にも渡っていない状態っていうことか」
『そういうことだな。饕餮が上手くやってくれることを、願うばかりだ』
「まあ、その為に、復帰して早々に渾沌ちゃんに、饕餮のサポートを任せたから、どうにかなるっしょ。・・・しかしまあ、饕餮も本当に災難だよな。まさか、アムレットの国王があそこまでバカだったとはよ」
『クロス王国も、随分と勝手なことをしてくれたせいで、饕餮もかなり振り回されたからな』
「しかし、クロスも手段を選ばなくなってきたっつーか、まさか、ハニートラップを仕掛けて、国王を篭絡することに成功させて、アムレットを同盟国として引き入れようとするとはな。やっぱり、勇者たちの不祥事はシャレにならないからな。そりゃ、友好国が離れていくだろうよ」
『・・・自業自得だ。勇者と言うスキルを持っていることだけしか、価値観がないと思い込んでいるのだからな。報告に上がっている通りの人間ならば、こんな人間たちに、世界の命運を託すなど、悪い冗談にもならんぞ。まあ、唯一見どころがあったのは、このサクラという勇者だけだったが、それさえも、追放してしまったからな』
今度のアムレット国王が起こした事件のほとんどは、アムレット国王の暴走によるものであり、それを引き起こす要因を作ったのは、クロス王国だった。
クロス王国の国王は、勇者たちの数々の不祥事によって、次々と友好を結んでいた国が離れていき、孤立していくことに危機感を抱き、なりふり構わず、道連れ同然に過去に友好を結ぼうと交渉をしてきた国に声をかけて、同盟国を一国でも多く増やそうとした。
しかし、元々大陸の支配者気取りで、傲岸不遜にして尊大な態度を取り続けていたクロス王国に対して、今更友好を結ぼうとする国などあるはずもなく、焦った国王は、とにかくどこの国でもいいから友好を結ぼうと必死になり、その結果、エルフの里のオリガや、アムレット国王でもいいから手を結ぼうとしたのである。
そんなクロス王国の横暴で身勝手な振る舞いに、アルビナ王妃とアンジェリカ王女が不信感を抱くのは当然のことだった。誰もが、これまで他国に対する横柄な態度と、召喚した勇者の管理がずさんだったために、世界中に迷惑をかけまくっているクロス王国と手を組むことなど、ありえないと思っていた。
ところが、そこで、手を組もうと考えたバカが、よりにもよってアムレットの最高権力者であった。
王妃や王女の目覚ましい活躍を疎ましく思っていた国王が、世界的な大国のクロス王国と同盟を結んで、さらなる国の発達と成長のきっかけを自分が作り出すことによって、王妃たちに自分こそが、この国において最も絶大なる存在であることを証明して、一泡吹かせてやろうと、子供じみた仕返しのような行為を全身全霊でやらかした結果、現在に至る。
「まあ、王妃や王女は、クロスのことを良く思っていなかったのは無理ないぜ。つーか、まともな感性や常識を持っていれば、あの国がいずれ自滅するかもしれないってことぐらい、読めるだろうよ。いつまで過去の栄光に縋り付いているんだかってな」
クロス王国は、アニタを遣わして国王に篭絡させることに成功すると、同盟を結ぶのに邪魔な王妃と王女を亡き者にするために、アムレット国王に、王妃と王女の陰謀をでっち上げて、罪人として追放し、極秘裏で始末しようという話を持ち掛けた。その話を、アムレット国王はあっさりと承諾した。
『300年間、偽りの栄光に縋り付いて、現実をまともに直視しなかった、非常におめでたい国だ。魔の勇者の陰謀にも気づかずに、もてはやされて、すっかり世界の支配者を気取っていたぐらいで済めばよかったのだが、まさか、禁忌にまで手を出すとはな』
「まあ、元々この喧嘩は、クロス王国の方から派手に売ってきたものだからな。今更、謝ってきたとしても、もうこっちは聞く耳なんざ持ってねえよ。もうそろそろ、英雄ごっこもおしまいにして、連中には、アタイたち邪眼一族に喧嘩を売ったらどうなるのか、現実ってものと向き合ってもらわねえとな」
その時だった。
窮奇の使い魔が戻ってきて、何か、彼女に耳打ちする。
その話を聞いて、窮奇の目が大きく見開き、愕然とする。
「ぶふぅーーーーーーっ!?」
口に含んでいたワインを噴き出し、派手にむせた。
「はあっ!?おい、それ、マジかよっ!?」
『ど、どうした!?窮奇?』
「・・・橈骨、一旦、ヴェロニカ陛下の下に報告だ!クロス王国で、とんでもねえことが起きたみたいだ!!アタイも今すぐに向かう!!」
『・・・そんなにヤバいことなのか?』
「説明する時間が、惜しいぐらいだぜ!!」
血相を変えた窮奇が、通信を一方的に切り、彼女は転移魔法を使って、部屋から姿を消した。
「・・・まさか、クロス王国が、勇者によって壊滅しただと・・・!?どうなってやがるんだ!?」
この予想外の展開に、四凶きっての切れ者と呼ばれる窮奇でさえも混乱していた。
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「・・・もうすぐで、写本も完成しますね。それにしても、本当に不気味な所です。早く、こんな気味の悪い場所から、立ち去りたいものですわ」
渾沌は、祭壇の間の異様な冷気に身体を震わせて、早く、写本が完成されないかと、イライラしながら待っていた。ここは、長い間いるだけで、頭がおかしくなってくるような場所だった。
常に、自分の背中に、この世のものではない何かが潜んでいて、自分を闇の中に引きずり込もうとしている、得体のしれない感覚が、いつも以上に研ぎ澄まされた五感に訴えてくる。
王の棺が置かれている祭壇の奥にある巨大な扉。
この扉が開くとき、現世と、あの世が繋がると言われている。
そして、現世のものが、あの世の亡者に姿を見られては、絶対にいけないことだという言い伝えがある。一度命を失った亡者たちは、かつて持っていた「生」の光、命への渇望、現世への蘇りに異常なまでの執着心を持っており、生者の身体を貪り、魂を喰らうことで、現世によみがえる事が出来ると本気で思い込んでいるらしい。
「・・・そ、そろそろ、いいでしょうか?」
祭壇に埋め込まれている禁書【ネクロノミコン】。
ボロボロになった装丁の本からは、近づくだけで鳥肌が立つほどの、異様な寒さが伝わってくる。
触れた瞬間、生命を奪われていきそうな異様な感覚。
渾沌の精神は、かなり追い詰められていた。
もう、これ以上、長い時間こんな場所にはいられない。
そう思って、写本が書きあがると同時に、渾沌は、ネクロノミコンにかぶせて、魔法で内容を写し取っていた写本を勢いよく取り出した。
-禁書のネクロノミコンごと、引き抜いた。
「・・・あれ?」
自分が手に持っている、写本と、その本に被さっているもう一冊の本。
そういえば、任務のことばかりを考えていて、眼鏡をかけるのも忘れていた。
眼鏡を取り出そうとするが、どこにもない。
「わ、私の眼鏡は、眼鏡は、どこですか!?」
慌てて、自分が作業をしていた場所の辺りを探し回ると、眼鏡ケースが転がっていた。
ケースを開き、愛用の眼鏡が入っているのを見つけると、ホッと安堵し、眼鏡をかけた。
「ホッ、これで少しは落ち着きましたわ・・・」
そして、顔を上げた瞬間、彼女の表情が固まった。
ギギギ・・・。
扉が、音を立てて、開いていく。
「・・・え?」
扉の奥から、青白い不気味な光が差し込み、怖気を感じる肌寒い風に流れて、地の底から響くような冷たい亡者たちのうめき声が聞こえてきた。
扉の奥から、無数の人影が、こっちに入ってこようと押し寄せてくる。
そして、その人物は、肉と言う肉がそぎ落ちて、ケタケタと歯を鳴らして笑うガイコツだった。
無数のガイコツが、光を求めて、押し寄せて今にも扉から出てこようとしていた!
「い゛や゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛ーーーっ!!!」
渾沌が悲鳴を上げて、ネクロノミコンを急いで祭壇に押し込む。
すると、扉が音を立てて閉じていき、ガイコツたちの腕が扉を強引にこじ開けようと、腕を伸ばして、扉の間に挟んだ。
「嫌っ!!こないで!!私、オバケはダメなのよぉぉぉっ!!」
四凶の一人であるにもかかわらず、彼女は、涙目で必死になって扉を閉じようとする。
見た目は知的な美人で、明晰な頭脳を持つ知性派な美女なのだが、内面は・・・少々ポンコツな所があった。
骨が砕かれて、地面に落ちると、さらさらと砂になって崩れていく。
そして、扉が音を立てて閉まった。
死者のうめき声が、まだ、部屋の中に響いて聞こえてくるような気がする。
渾沌は、写本だけを抱えると、一目散に部屋から飛び出していった。
だから、彼女は気づいていなかった。
亡者たちの間をすり抜けて、現世に飛び出す瞬間を長い間、ずっと待ち続けていた邪悪な存在が、もうすでに現世の彼岸に出てきてしまっていたことに。
暗闇の中、地面を削りながら、巨大な蛇のような影が映し出された。
「・・・ウフフフフフ、やぁっと、現世に出てこれたわぁ・・・♥この時を、どれほど、待ち続けていたことか。まさか、儀式の手順を踏まずに、ネクロノミコンの封印を解こうとするおバカさんがいるとはね。まあ、おかげさまで、この通り、外に出てこれたんだけどね♥」
妖艶な女性のような、甘ったるい声を上げて、紫色の光を放つ瞳を輝かせながら、その異形の化身は現れた。
腰まで伸ばした艶やかな黒髪。
皮膚の色が毒々しい紫色に染まっているが、官能的でグラマラスなスタイル抜群のボディ。
豊満な乳房には、先端を隠す装飾品しか身に纏っていない。
そして、その下半身は、湿り気のある濃い紫色の大蛇のそれだった。
コアントロー大陸で、神話で語り継がれる絶対的な『悪』の存在として語り継がれる邪神。
太陽を喰らう獣、混沌の闇、冥界の女王とも呼ばれている、古の存在。
『アポピス』。
彼女は、気の遠くなるような永い時間、死者の都に追いやられて封印されてから、ずっと、現世に戻るために、待ち続けていたのだ。
愚かな人間が封印を解いて、現世に舞い戻る瞬間を。
「・・・さあ、もう一度、この世界の太陽を喰らい、妾の闇で全てを覆い尽くしてあげるわぁん・・・♥」
アポピスは狂気に満ちた笑みを浮かべながら、地面を削り、日の当たる世界へと向かって動き出した。
【悲報】渾沌、焦って、死者の都の封印を解いてしまった。
【悲報】死者の世界から、伝説級のヤバい魔物【アポピス】が現世に復活した。
【悲報】斗真たち、巻き込まれることが確定。
もうここまで不幸だと、強く生きてくれと言わずにはいられない、斗真たちの不運っぷりよ。
そして、窮奇将軍たちが、クロスで起きた大事件のことを知り、彼女たちも動き出します。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!!




