第十八話「乱暴狼藉な勇者の末路~桜VS雨野~」
いつも拙作を読んでいただき、本当にありがとうございます!
今回は胸糞表現がありますので、苦手な方はどうかお気をつけてお読みください。
「くそっ!!一体どうなっているのだ、あんなヤツが出てくるなど、話が違うではないか!!」
雨野は悪態をつきながら、必死で逃げていた。
千鶴から授かった【ベヒーモス】の名と能力を司る甲冑は見るも無残なまでにボロボロとなり、負傷した腕を抑えながら、痛みと屈辱、怒りで表情が引きつっている。
(俺は世界最強の勇者となったはずなのだぞ!?それなのに、あのような愚物に、手も足も出ないだと!?おのれ、おのれ、おのれぇぇぇっ!!何が、勇者の力を高めてくれる魔道具だ!!松本のヤツ、とんだ欠陥品を寄こしおって!!許さん!!)
自分が饕餮に負けたのは、ベヒーモスの武具の力が、あまりにも弱すぎたせいだ。
雨野はそう結論付けて、千鶴に対する恨みの炎を燃え上がらせる。
(ああ、この苛立ちを解消するためにも、早く、松本の顔面を跡形もなく潰さねば・・・!いや、もう、クロスに着くまで我慢が出来ない。誰でもいい。あの男を思い出させる、黒髪のショートヘアーのメスの血を、早くこの神聖なる拳に、筋肉に捧げなくては・・・!)
2時間ほど前に、見張りをしていた因幡を後ろから斧で殴りつけて、顔が誰のものだか分からなくなるまで、殴りつけて、潰した時に一旦は収まっていた発作が再び起こり、雨野は気が狂いそうになる。
「・・・おのれぇっ・・・!!梶、全ては貴様のせいだっ!!貴様が生きている限り、俺様は、お前の呪縛に永遠に苦しみ続けなければならないのだ!お前があの時、死んでくれていれば、全てが上手くいっていたものを!!」
斗真への憎しみで、今にも血管が破裂しそうになるほどに膨れ上がり、怒りの感情が理性を飲み込んでいく。
自分にとって、都合の悪いことが起きたら、全てを斗真のせいにして、その怒りを、罪のない女性にぶつけて殺害するという、八つ当たり以外何物でもない最悪な行為をしても、雨野は罪悪感を一切感じない性格であった。
むしろ、自分の怒りを鎮めるために、犠牲となったことに感謝をしてもらいたいと思うほどの、常人には理解しがたいほどの鬼畜な性格だった。
彼にとって、女性とは、男性よりも劣る生物であると、本気で思い込んでいた。
警察官僚である父は、家では、妻を奴隷のように従えており、彼女のやること為すことに腹を立てては、目立たない所を狙って暴力を振るい、痛めつけて、苦しむ姿を見て楽しむ暴君だった。
そんな父親に溺愛されて育ってきた柳太郎は、自然と、母親や後に生まれてきた妹のことを見下し、嫌悪し、自分の言うことを何でも聞く奴隷のように思うような、性根が歪み切った男性に育ってしまった。
母親や妹は何度も逃げようとしたが、独占欲と支配欲が異常なまでに強い父親は、母親たちを何度も連れ戻し、都合の悪いことは全て権力を利用してもみ消し、逃げようと考えないように、しつけと称して、暴力を振るい続けた。柳太郎も、それが彼女たちの主としての義務だと本気で思い込んでおり、母親や妹に何度も暴力を振るっていた。
「・・・都合が悪くなったら、全部、斗真のせいにするんだ?」
冷たく嘲笑を浮かべながら、目の前に現れた人物の姿に、雨野は目を見開き、驚愕する。
「・・・き、貴様は!?ま、幕ノ内!?」
「・・・ナメたことを抜かしてンじゃねーぞ・・・ゴルァ」
可愛らしい容姿とは裏腹にドスの利いた低い声に、雨野は面食らった。
今までに見たことがない怒りと殺意のオーラを全身から放ちながら、桜は、無表情で自分を睨みつけている。氷のように鋭く冷たい視線に、雨野は不覚にも、一瞬だけ怯んだ。
「・・・貴様、寝返ったのか!?」
「・・・最初から、アイツのことなんざ、信じちゃいねーよ。まあ、こうして無様な生き恥を晒しておいて、偉そうなことは言えないけどな」
「ふ、ふん!!所詮、貴様のような愚か者など、俺の敵ではないわ!」
戦斧を構えて、雨野が醜悪な笑みを浮かべながら、桜を挑発する。
しかし、桜には、雨野の傲慢な物言いが、今は、哀れに思えた。
どれだけ威勢のいいことを言っていようが、彼の表情からは、憔悴と恐怖の色がハッキリと現れていた。自分よりも弱いと勝手に判断し、一方的に見下し、それにより、自分の方が立場が上であるという優越感を得なければ、彼は自分というものを保てないほどに、自分のことだけが大事で、自分こそが世界の中心なのだと、本気で信じている。
「・・・随分とボロボロじゃないか。大方、自分よりも強い敵と戦って、手も足も出なかったってところか」
「な、何だとぉっ!?」
「・・・それで、お前ひとりだけか。残りの仲間はどうしたんだよ?」
「ふん!!アイツらには、俺様が撤退するために、足止めとして置いてきたわ!!俺様の足を引っ張るしか能のない役立たずには、俺様と言う人類の希望を活かすための犠牲になると言う、名誉ある役目を与えてやったのだ。今頃あの世で感謝しているだろうな!!」
「・・・ふうん、テメェ、仲間を見捨てて、一人で逃げてきたんだ」
桜の声がさらに低くなり、目つきがさらに鋭くなる。
全身から放つ殺意がさらに強くなり、近くにいたオリヴィアも、桜のただならない気配に、これはまずいと思い始める。
(・・・アカン、完全に沸点超えてもうてる。こら、巻き込まれないように、離れとこ)
「仲間?仲間だと?ふん、下らんな。俺には仲間などおらぬ!!仲間など、群れなければ何もできない弱者どもの仲良しごっこに過ぎぬ!!俺様は、全てを支配し、気に入らないものは力でねじ伏せる、右に並ぶものなどない帝王となる男よ!!俺の周りにいるのは、俺様の奴隷であり、俺様のことを神と崇め奉る信者、歯向かうものは敵、それ以外は路傍の石に過ぎぬぅ!!」
「・・・何や、コイツ。もう、メチャクチャやないか」
「・・・今更、精神鑑定にかけるまでもねーな。まあ、お前が神だろうと何だろうと知ったこっちゃねえけどな。最後に、一つだけ聞かせてくれよ」
桜は、鋭い目で雨野を睨みつけながら、怒りを孕んだ低い声で聞いた。
「・・・因幡を殺したのもお前か?殺人鬼【スレッジハンマー】さん?」
「・・・き、貴様、どうしてそれを!?」
確定だ。
今、雨野は自分が、連続殺人鬼【スレッジハンマー】であることを認めた。
目が見開き、わなわなと震えだすが、雨野はもはや虚勢を張ろうとしているのか、それとも、完全に理性が失ったのか、狂気に満ちた笑みを浮かべた。そのおぞましい笑みに、桜とオリヴィアは、全身に怖気が走るような感覚を味わい、気持ち悪そうな顔になる。
「・・・そうか、知られてしまったのだなぁ。どこで、その事を嗅ぎつけたかは知らぬが、まあ、いい。どうせ、ここでお前たちには死んでもらえば、真実は永遠に闇の中だ。それに、前の世界でやった俺の殺人が、この世界では裁かれることなどないのだからな」
「・・・認めるんだな。しかし、それなら一つだけ分からないことがある。どうして、1人目の犠牲者と、2人目の犠牲者が、お前の母親と妹だったんだ?お前、自分の家族を手にかけたのか」
「ふん!!アイツらが悪いのだよ。俺様と父親にあくまでも歯向かって、弁護士事務所に相談しようとしていたからな!!それになぁ、本当に悪いのは、梶であろうが?」
「はぁ?どうして、そこで、斗真が出てくるんだよ?」
「・・・俺様は、アイツに3年間ずっと、騙され続けて、何度挑んでも破れて、プライドがズタズタにされたんだ・・・!!だから、いつかアイツに復讐を果たすと、心に誓ったのだ!!毎日毎日、鍛えて、鍛えて、鍛え抜いて、手に入れたこの美しき筋肉で、アイツの顔をメチャクチャに潰して、二目と見られない顔にして、俺様の恨みを思い知らせてやろうと、ずっと、鍛え続けていた!!」
そして今年の四月に、斗真が、自分がいるクラスに転校してきたとき、雨野は、すぐさま斗真に、復讐を果たすために、勝負を挑んだのだ。
その結果は・・・秒殺だった。
斗真の渾身のハイキックを喰らい、脳震盪を起こして、一発でノックアウトされたのだった。
『・・・二度と話しかけるな。もう、僕、喧嘩しないって決めたから』
復讐のために、全てをトレーニングに捧げてきた雨野の努力は、水の泡となった。
そして、斗真が、自分を見る目つきは、まるで虫けらでも見るかのような冷たいまなざしだったという。
「・・・うわっ、ダッサ」
「・・・あっさり返り討ちやないか。てか、勝負にもなっとらんし」
「うるさいっ!!アイツが、あの時、大人しく俺に倒されていてくれれば、俺様は、苛立ちのあまりに、あの女たちをうっかり殺してしまうことなどなかったのだ!!あの日以来、俺様は、ずっとあの梶のあの目つきを思い出すたびに、アイツと同じ黒髪ショートの女性を見ると、気が付いたら、殴り殺してしまうようになっていたのだ!!」
斗真に負けて、怒り心頭で家に帰っていたとき、不運にも、雨野の母親と妹は、父親と雨野の家庭内暴力に耐えかねて、弁護士事務所に向かっていた途中で、雨野と鉢合わせになった。カッとなった雨野は、母親と妹に襲い掛かり、気が付いたら、母親と妹は、顔が潰された無残な亡骸となっていた。
あの日以来、黒髪のショートヘアーの女性が、自分を見下していた斗真の姿にかぶって見えるようになり、精神的に追い詰められていた雨野は、妄想の中で、毎日、斗真を殴り殺していた。
その妄想があまりにも強くなると、母親たちの時と同じように、黒髪ショートの女性を手にかけていた。そして、それをやることによって、斗真に対する憎しみや怒りが幾分か治まるようになった。
「・・・アホくさ、トーマちゃんにボロクソに負けて、トーマちゃんにリベンジするのが怖くて出来なくなったから、トーマちゃんに似ている黒髪ショートの女の子を殺すことで、憂さ晴らしをしとっただけやないかい。てか、それ、ただの八つ当たりやないかい」
「黙れ黙れ黙れぇぇぇっ!!俺様は選ばれた人間なのだ!!俺様の怒りを鎮めるために、命を捧げるのは、下級市民の中でも最も価値のないメスに出来る、最低限の奉仕であろう!!」
もうダメだ。
まともに人の話を聞ける状態ではないし、雨野には、人の命の尊さが理解できない。
桜は、もう自分の怒りが限界を超えたことを悟り、不思議と、頭がキーンと冷たく、冷静に、自分がやるべきことが何か、理解することが出来ていた。
「まあ、貴様のようなクズには理解出来まい?親にも捨てられた、薄汚いドブネズミどもを好き好んで従えているようなゴミにはなぁ?」
「・・・今、何て、言った?」
(ドブネズミ?親に捨てられた?)
「ふんっ!!和田と、矢守と、神谷のことだ!!松本に騙されて、バケモノにされて、みじめな最期を遂げた、あの生きる価値のないゴミクズどものことさっ!!アイツらが親に捨てられたことなど、俺が知らないと思っていたのかね!!アイツらはこの世のメスの中でも、最も生きる価値などない、クズだ!!」
(アイツらのことを、バカにしたのか?)
「どうせ、生みの親からも捨てられるような、生きていいてもいいことなど何一つないクズなんだ!!死んでくれて清々するな!!あのどぶ臭い匂いを放つ虫けらどもが、群れて、人間の真似をしている姿を見ると、いつ、殺してやろうかと思っていたが、勝手に死んでくれて何よりだ!!」
(俺の、大事な仲間を、家族を、バカにしたのか?)
桜の頭の中で、何かが、切れた音がした。
「ふははははははっ!!ゴミはゴミらしく、さっさとくたばればいいのだ!!そして、お前も、クズどもの所に送って・・・え?」
雨野の首が、胴から切り離されて、宙に舞い上がった。
目が大きく見開かれて、ぽかんと口を開いたままの雨野の顔に、無数の線が刻み込まれる。
そして、それが、一気に・・・爆ぜた。
桜は、刀を振ってしぶきを散らせて、懐紙で刃をぬぐいながら、さやに収めた。
「・・・お前は一生、斗真には勝てねえよ」
首を失い、倒れこんだ雨野だったものに、桜は背を向けたまま、話しかける。
「・・・アイツは、俺よりも、何百倍も、強いんだからよ」
自分の仲間の死を、嘲り笑い、罵り、バカにした雨野。
自分の仲間の死を、まるで自分のことのように涙を流して、悲しんでくれた斗真。
雨野ごときが勝てるような相手ではない。
むしろ、雨野のようなヤツに、復讐を誓う相手として狙われること自体が、不愉快極まりなかった。
「・・・俺にも勝てないお前なんかが、斗真に挑むなんざ、百年早いんだよ・・・!」
親指で首を切るような仕草をしてから、そのまま、親指を立てたまま、桜は下に向けた。
その瞳は、どこまでも冷たく、そして、激しい怒りの炎が燃え上がっていた。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
(・・・何か、この子、メッチャ、ええやん・・・!)
(トーマちゃんは可愛いけど、正直、ちょっと、ウチの好みには足りんっちゅうか、もうちょっと、こう、ワイルドでワルなところがあるとええな~とか思うんやけどな・・・大人し過ぎるねん)
(可愛い男の子は大好きやねんけど、ウチの女心をここまで高ぶらせてくれる、激しさと熱さを秘めているこの子のことを見ていると・・・すっごく興奮しとる♥サクラ、確か、ヴィルヘルミーナとデキとるっちゅう話やったけど・・・)
オリヴィアの強欲に、火が点いた。
鋭い切れ長の瞳に、情欲の炎が宿り、桜を見て思わず舌なめずりをしていた。
身体が熱い。
女としての本能が、桜を欲していると気づいた。
(せやけど、ウチ、欲しいものは何でも手に入れんと、気が済まん性分やねん)
(金も、男も、力も、この世の全てのものが欲しいんや)
(・・・サクラも、ウチのものにしたい♥)
雨野柳太郎がここで脱落しました。
残る勇者は、松本千鶴のみとなりましたが、邪眼一族も絡んできており、一筋縄ではいきません。
そして、オリヴィアは大人しい斗真よりも、桜のようなタイプが好みだったことが判明。
どのような形で、桜に手を出すのかは、近々明らかになります。
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!!




