第十七話「金剛の饕餮~土塊の傀儡師~」
いつも拙作を読んでいただき、本当にありがとうございます。
新作が完成しましたので、投稿いたします。
「・・・すごい・・・!」
ここ、本当に、地下なのか・・・?
目の前に広がる、荘厳な雰囲気を感じさせる、巨大な神殿を見て、僕は言葉を失っていた。
何百年、何千年、もしかすると、それよりも遥か前に作られた神殿は、退廃的でありながらも、幻想的な美しさを感じさせる。
燭台の上で、ゆらゆらと揺らめく炎の灯りを頼りに、僕は辺りを見回す。
「・・・・・・ここが、もしかしたら、死者の都の入り口?」
「えっ?それって、もしかして、この神殿のどこかに、ネクロノミコンがあるってこと?」
「・・・・・・強い魔力を感じる。この場所は、あまり、長くいたくない。何て言うか、すごく、怖くて、寒くて、気持ち悪い」
ビビ姉が、水を浴びたかのように、汗を全身から噴き出していた。
寒い?
僕は何ともないけど、もしかして、ビビ姉、風邪引いたのかな?
それなら、とにかく、まずはあったかくしないと!
僕は着ていたジャケットを脱いで、ビビ姉にかぶせた。
「・・・・・・え?」
「僕は大丈夫だから、これ、ビビ姉が着て」
「・・・・・・い、いや、そういうことじゃなくて」
「大丈夫、スペアはあるから!体調が悪いなら、無理をしないで!」
カバンから、自分で縫ったスペアのジャケットを羽織り、困惑しているビビ姉に、ジャケットをかぶせる。自分の命を守ってくれる、ジャケットがなかったら危ないことを心配してくれているのだろうか。
ビビ姉の気遣いが、すごく嬉しかった。
(・・・・・・トーマの匂い、トーマの体温、トーマが着ていたものを、私の身体を包んでくれている♥ヤバい、これ、幸せ過ぎて、もうこのまま、死んでもいい・・・!!私の死に装束は、トーマのジャケットで決まりッスわ!!トーマと、私が、今、一つになった・・・!!)
そして、僕たちの後を追いかけて、大アネキたちもやってきた。
「・・・おいおい、コイツは、大発見やないかい。まさか【現世の彼岸】を、生きているうちに拝むことになるとはなあ」
「現世の彼岸?」
「ああ、一国の王族でも、国を挙げての盛大な葬儀でもない限り、足を踏み入れることは叶わんっちゅう、この遺跡のこっちゃ。歴代の王の遺体をミイラにして、常世に向かう【死者の船】っちゅう棺桶に、王家の秘宝と呼ばれる装飾品や金貨などを詰め込んで、祭壇に捧げるっちゅう風習があるんやけどな。翌日、棺桶の中を見ると、王の遺体や財宝はなくなっとるらしい。それを見て、国王は英霊となり、常世・・・つまりあの世に無事、旅立ったっちゅうことを確認するっちゅうんが、この地方では、神聖な儀式として行われているんや」
その儀式が行われるのが、現世の彼岸と呼ばれる、この遺跡のことらしい。
「かなり詳しいんだな」
「オリヴィアはトレジャーハンターとしても一流だけど、考古学者としても、一流なんだぜ!」
「へへへ、それほどでも・・・ありますよってな」
大アネキの話によると、彼女も、過去に何冊か本を書いている、有名な考古学者でもあり、歴史学者であるらしい。
「それがどうして、あの洞窟と繋がっていて、俺たちみたいなのが出入りできる状態になっているんだろうな・・・」
そうだよね。
これじゃ、ピラミッドの警備なんて意味がないじゃない。
「そういえば、どうして、さっきからビビアナは、ニヤニヤしているんだ?」
「・・・・・・うへ、うへへ、うへへへへへ♥」
「・・・クスリとか、やってねえよな?」
そんなことを話している時、オリヴィアさんが、何かに気づいた。
それは、部屋の奥から、ドスドスと地面を揺らしながら、こっちに向かってくる足音だった。
「隠れましょう!もしかしたら、敵かもしれません!」
「様子を見た方がよさそうやな」
物陰に隠れると、、血相を変えて、必死になって逃げている大柄な男が飛び出してきた。
ボロボロになった黒い甲冑を身に纏い、負傷したのか、左肩を右手で抑えて、痛みをこらえるように歯を食いしばって、血の気が引いた青白い顔で、足がもつれながらも必死で駆け抜けていく。
そいつの横顔が見えた。
「・・・雨野?」
間違いない、あれは、雨野柳太郎だ!
僕を殺そうとしていた、あの傲岸不遜でいやらしい笑みを浮かべていたアイツとは思えないほどに憔悴しきっていて、まるで、何かから逃げているようだった。
「・・・こっちは、俺に任せてもらってもいいかな。斗真たちは、この奥の探索を頼む」
「・・・この奥から、ものすごい血の匂いと、強い魔力を感じるぜ。間違いなく、この先には、ヤバいヤツがいる」
大アネキが獰猛な笑みを浮かべて、舌なめずりをすると、戦闘モードに切り替わる。
「それやったら、ウチも、サクラちゃんのお供をしたほうがええな」
「頼むぜ」
そういって、オリヴィアさんと桜は雨野の後を追いかけていった。
そして、僕たちは、警戒しながら、長い長い通路を、慎重に進んでいく。
雨野が出てきた部屋からは、むせかえるような血の匂いが立ち込めている。
この匂いがあるということは・・・。
僕は意を決して、部屋の中に入った。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
部屋の中に入ると、僕たちの前に現れたのは、上半身と下半身がちぎれた状態で横たわる、頭からは曲がりくねった角を生やし、白い体毛で覆われた、山羊のような魔物の変わり果てた姿だった。
しかし、その魔物が履いているズボンは、まぎれもなく、僕たちの学校の制服だった。
血だまりに沈んでいる、生徒手帳を拾うと、そこには【八木沢淳史】の顔写真があった。
つまり、これは、八木沢・・・!?
「・・・随分と、ひでぇ死に方をしてやがるな」
「・・・・・・こっちにも、いる」
ビビ姉があまりにも惨たらしい死にざまに、眉をひそめている。
ビビ姉の元に向かうと、そこには、頭部は梟、身体はクマのような黒い体毛で覆われて、鋭い爪を生やした魔物【オウルベア】が、腕や足が奇妙な方向に折れ曲がったまま、全身の骨と言う骨を砕かれて、息絶えていた。その近くには、壁にもたれたまま、頭部を失った遺体が座り込んでいる。
【熊谷睦月】。
【日比谷渉】。
間違いない、雨野のチームにいた連中だ。
雨野と同じチームの人たちが、どうして、こんなことになっている?
部屋をよく見ると、激しい戦いが繰り広げられた跡があった。
「・・・そこにも、まだ、いたのか」
僕たちの上から、冷たく低い声が聞こえてきた。
顔を上げると、そこには、全身を黄金の甲冑で身を包んだ、巨大な獣のような姿をした人物がいた。
羊や牛のような曲がりくねった雄々しい角を生やし、顔を仮面で覆っているせいか、性別が男性なのか、女性なのか、分からない。
僕たちのことを貫くような、冷たく、殺意と怒りに満ちた視線を放ちながら、そいつは、僕たちの前に降り立ってきた。
かなりの巨体で、地面が揺れて、踏みつけた地面にひびが入るほどの凄まじい力に、僕は息をのむ。
「・・・渾沌とかいうヤツと、同じ性質の魔力を感じるぜ。お前も、邪眼一族か!!」
「・・・いかにも、私の名前は【金剛の饕餮】。四凶の一人で【土】の力を司る【土塊の傀儡師】よ」
この人が、四凶の二人目、金剛の饕餮・・・!!
全身から放ってくる圧倒的な殺意は、一瞬でも気を抜くと、恐怖で理性が保てなくなるほどだ。
「・・・・・・あの魔人たちを、あんな目に遭わせたのは、お前なの?」
「・・・その通りよ。あの連中は、ヴェロニカ様のことを軽んじたばかりか、ネクロノミコンを横取りして、その力を自分のものにしようとしていた。主を侮辱し、出し抜こうとする愚か者は、断じて許さぬ・・・」
なるほどね。
つまり、さっき、雨野が必死になって逃げていたのは、きっと、饕餮と戦って、負けたんだ。
そして、日比野たちを見捨てて、自分だけ逃げたということになる。
「・・・カジ・トーマ。渾沌の一件では、随分と世話になったな。お前のことは、ヴェロニカ様が大変お気に入りになられている。ハイドラの書を封印した、魔法裁縫師としての腕前といい、お前の戦いぶりといい、敵でありながら、実に見事なものだった。お前のことは、尊敬している」
え・・・?
いや、いきなり、尊敬されていると言われても、心の準備が出来ていないというか、驚きなんですけど。
「あ、いや、そんな、大したものではありませんよ!?僕なんて、全然、まだまだ未熟者ですし・・・」
「・・・謙虚だな。自分の能力に驕ることなく、腕を磨き続けて、確実に成長している。先ほどの勇者などと名乗っていた、薄汚いドブネズミどもよりも、はるかに好感が持てるというものだ。私も見習わなくてはいけないな」
「トーマのことを分かってくれるヤツが、邪眼一族にもいるんだな。それで、お前は、ネンネンコロリヨとかいう禁書を手に入れに来たっていうのかよ?」
「ネクロノミコン、ですってば!」
いい加減、覚えてくださいよ!?
「・・・その通りだ。まあ、正確に言えば、あの禁書の内容を写して、写本を作り出すのが目的だがな。あの男たちは、あの禁書がどれほど危険な代物か知らずに、無理矢理祭壇から引き抜こうとしていた。だから、私は、あの連中を一掃することにした。一人、逃がしてしまったことは迂闊だったがな。まあ、地の勇者は、もはや戦うことなど出来はしないだろうがな」
雨野たち、禁書を手に入れて、何をしようとしていたんだろうか。
まあ、きっとろくでもないことだというのは、間違いないだろうな。
それに、今の言葉は、どういうことだ?
「・・・どういうことですか?」
「・・・さて、おしゃべりはこの辺にしておくとしよう。名残惜しいが、お前たちの存在は、放っておくと、のちに我らの計画の最大の障害となり得る。今ここで、死んでもらおうか」
饕餮の全身から、さらに強い殺意と魔力が放たれる。
まるで、嵐を身体に浴びているような気分だ。
ビリビリと伝わってくるこの魔力の波動は、息が出来なくなるほどの、強烈なものだった。
「・・・渾沌から、お前たちの話は聞いている。だから、私も一切容赦はしない。お前たちと「敵」とみなして、全身全霊をかけて、倒す!!」
饕餮が地面を叩くと、土がボコボコッと盛り上がって、見る見る巨大な人の形をした魔物【ゴーレム】の姿へと変わっていく。太い腕、巨大な拳骨、見るからに硬そうな、土の鎧で覆われた巨人を前にして、僕は息をのむ。
「土に還るがいいっ!!」
ゴーレムたちが命令を受けて、一斉に、襲い掛かってきた!
こうして、饕餮との戦いが始まった。
四凶の二人目、饕餮との戦闘になりました。
物静かで思慮深く、斗真のことは敵でありながら、尊敬しているというまっすぐな気骨の持ち主です。
ゴーレムを自在に生み出して操る饕餮と斗真の戦い、次回も、気合を入れて書いていきます!
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!




