第十四話「ピラミッド探索②~冷眼傍観の女戦士~」
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湿気の少ない神殿の中は、砂漠とは思えない涼しい空気で満ちている。
【宗像沙織】は、一人、武器の戦鎚を持って、歩いていた。
今頃、他の連中は雨野に命令されて、禁書の行方を探していることだろう。
だが、そんなことは自分には関係ない。
宗像は、雨野の存在など、正直どうでもいいと思っていた。
勇者に選ばれただけ、それだけしかない、傲岸不遜で傍若無人な愚物。
元々、他人を見下し、物事を何でも強引に、力任せで解決したがる脳筋としか言いようのない人間だ。
そんな雨野のことを、宗像はもちろんだが、クラスメートの女子たちは内心嫌悪していた。
父親が県警本部のお偉いさんで、自身も、柔道部の期待のエースとしてもてはやされており、オリンピックの出場も夢ではないと言われるほどの実力の持ち主。
そんな、曲がりなりにも裕福な家庭で生まれ育ち、将来を有望視されている彼であっても、彼の横暴な振る舞いと、人を人とも思わない傲慢な性格には、宗像は嫌気が差していた。
見張りの場所にたどり着いた。
そこに、一人の人間が、岩壁にもたれるようにして座り込んでいる。
近づいて、声をかけてみるが、返事がない。
「・・・因幡、宗像よ。交代の時間よ。・・・因幡?」
いくら話しかけても、クラスメートの【因幡弥生】が反応しない。
無視している、というわけではないということが分かったのは、彼女がピクリとも動かないことに気づいたことだ。
「・・・因幡・・・!」
因幡弥生は、すでに事切れていた。
陸上部の選手で、島田と仲が良く、明るく爽やかで、いつもコロコロと笑う、太陽のようにまぶしい笑顔が特徴的だった彼女は、生前の面影を全く残さない、無残な姿で死んでいた。
彼女の顔は、原形が無くなるまで、潰されていた。
近くには、大岩が粉々になって散らばっている。
まるで、何かで思い切り殴りつけたかのように。
顔が何かで殴られたかのように、目や鼻、口などを徹底的に押しつぶし、砕き、腫れあがった肉で覆われて、見るも無残な姿に変わり果てた因幡の遺体を見て、宗像は舌打ちする。
「・・・アイツ、魔物たちだけでは飽き足らず、鹿島や、因幡にまで手を出したのか」
彼女は、自分が着ていた制服のジャケットを、因幡の遺体にかぶせて、両手を合わせた。
目を閉じて、黙とうをささげると、彼女の中で、湧き上がる熱い感情で、身体が震えているのが分かった。
しかし、それ以上の、冷静な思考が、本能や激情を完全に抑えつける。
彼女は冷静沈着かつ、合理的な性格で、自分の心を完全にコントロールすることが出来る。
因幡に手を下した相手の正体、そして、それを証明する、これまでの行動の数々。
そして、彼女の殺され方は、前の世界で起きた、あの事件に酷使している。
「・・・殺人鬼【スレッジハンマー】。まさか、アイツがそうだったとはね」
その時だった。
「・・・おい、トーマ、グリゼルダ、大丈夫かよ?」
「・・・あの歌がまだ、頭の中に残っているような気がするわ。身体が重くて、思うように動けない」
誰かが、のんきな会話をしながら、こっちに向かってきている。
この感じは、盗賊や、ましてや勇者軍の仲間でもない。
岩陰に隠れて、様子を伺うと、そこにいたのは5人の女性たち・・・のようにも見えた。
その中に、意外な人物の姿があった。
「・・・梶?」
それは、鳳たちから、魔王討伐の任務に恐れをなして、逃亡し、鳳たちに粛清されたと言われていた【梶斗真】だった。
鳳たちからの報告に対して、彼女は、あり得ないと判断した。
人間のあらゆる生活信号と思考パターンを読んで、心理学の膨大な知識を使って分析した彼の人柄は、決して目の前の困難から逃げ出すような人間ではなく、根っからのお人好しで、目の前で困っている人を見たら放っておけず、気が付いたら本人が騒ぎに巻き込まれているような、良くも悪くもバカだ。
常識の範囲を超えるレベルのバカだが、クラスメートを放って逃げるようなことはしない。
人間観察が趣味というか、心理学者としての性分なのか、梶を見て、そう判断していた。
彼には不思議と、人の心を惹き付ける魅力がある。
人望もあるし、鳳たちと比べると、全体的な面から見て信頼がおける人物だ。
(唯一信頼できる相手が、敵になるとはな。難儀なものだ)
このまま、雨野という暴君についていけば、自分に待ち受けているものは確実に破滅だ。
この現状を打破するためには、強力な破壊力を持つ爆弾を投下しない限り、何も変わらない。
雨野を殺すことは簡単だ。
しかし、勇者を殺すという行為によって発生する問題は、彼女にとっても厄介なことになると察していた。正直に言うと「面倒くさい」の一言に尽きる。
「賭けてみるか。この状況を引っ掻き回してくれれば、上出来だ」
意を決して、彼女は、梶の前に姿を現した。
★★★★★★★★★★★★★★★★★★★★
「久しぶりだな、梶」
「・・・宗像さん!?どうして、ここに?」
僕たちの前に、左目を隠した黒髪ロングヘアと、日焼けした褐色の肌が特徴的な、長身の美少女【宗像沙織】が現れた。
「それはそうだろう。私は雨野と同じチームなのだからな」
「・・・つまり、僕たちと戦うために来たってこと?」
宗像とこうして、向かい合うの初めてだけど・・・。
なぜだろう。
彼女に、勝てる見込みが、全くないなんて・・・!
僕の行動をまるで全部お見通し、といったように、彼女に不用意に近づいたら、反撃を受けそうだ。
さっきから、足が、地面に押さえつけられているかのように、動けない・・・!
「・・・おいおい、コイツ、かなり出来るんじゃねーか?」
大アネキが不敵な笑みを浮かべつつも、冷や汗を、一筋流した。
よく見ると、オリヴィアさんやグリゼルダさん、アレクシアさんまでもが、表情が強張って、警戒心をあらわにしていた。
(コイツ、何ちゅう殺意と覇気を放っとるんや・・・!?ものすごく”寒く”感じる、圧倒的なこのオーラ、こんな子供が放つような代物やないで・・・!?)
(あらあらまあまあ、困りましたわねぇ。コイツぁ、わたくしでも、手が余るかもしれませんわね)
(・・・見える。コイツの背後に、巨大な”象”のような姿をした、巨大な魔力のオーラを・・・!)
「・・・まあ、本来ならそうなんだけど、少し、事情が変わった」
「・・・え?それは、どういうこと?」
「梶、お前は雨野を倒すために、ここに来たんだろう?そして、雨野が探している、禁書ネクロノミコンを守るために来た。違うか?」
「・・・どうして、それを!?」
「アムレット国王が起こした事件や、お前が巻き込まれたこと、そう言った情報は常に収集するようにしているからな。監獄を脱獄し、お前が次にやることを推察した結果、お前なら、この事件の黒幕を潰して、計画を何が何でも阻止すると思った。そういう時、お前は手あたりしだいに潰して回るような、無駄なことはしない」
僕の行動や思考パターンが、全部、読まれている!?
「黒幕の正体を突き止めて、確実に追い詰めるために情報を集めて、最も避けなければならない事態を防ぐために行動する。それが、禁書ネクロノミコンの封印を解かれるということに繋がるのだろう?だから、ここに来た。雨野がここで、ネクロノミコンを手に入れようとしているなら、彼にも報復をするためにな」
「・・・さすがは、高校生で、心理学者の博士号を、取得するだけのことはあるね」
「お褒めにあずかり、光栄だ」
その時だった。
地面から腕が生えて、ボコボコっと、砂を舞い上げて、何かが飛び出してきた。
身体中に包帯を巻きつけた、生ける屍の魔物【マミー】だ!
マミーは、宗像の背後に向かって、太い腕を振り上げて、殴りかかった!
しかし、マミーの岩を砕く一撃を、宗像は片手で受け止めた。
マミーの腕が、いくら押しても引いても、動かない。
「・・・面倒くさいな」
彼女の目が殺意の光を宿し、マミーの腕を握っていた手に力を籠めると、一気に握りつぶした。
マミーが狼狽えて、後ずさりすると、すかさず、マミーの身体に振り向きざまに、強烈なストレートパンチを炸裂させる!!
マミーの頑丈な身体に、拳がめり込み、身体を回転させながら吹き飛んでいった。
壁に思い切り全身を叩きつけられて、崩れ落ちていくマミーの頭部に、驚異的な跳躍で跳んできた宗像の脚が迫り・・・。
マミーの頭部を、粉砕した。
その重さは、壁に巨大なひびを刻みつけるほどに、強烈な一撃だった。
強い。
彼女は、これまでに戦ってきた魔人とは比べ物にならない、桁違いの強さだ・・・!
人間の姿のままで、これほどなまでの破壊力と身体能力を持っているのなら、彼女が魔人の力を全開放した時、どれほどの強さを発揮するのだろうか?
「・・・邪魔が入ったな。私が言いたいのは、雨野を倒すのなら、倒してほしいということだ。このままでは、私や他の女子、いや、この世界中の、黒髪ショートの女性が危機にさらされる可能性があるからな」
「それは、いったい、どういうこと?」
「・・・こっちだ」
宗像さんの後を追いかけると、そこには、無残な女子生徒の遺体が岩壁に座り込んでいた。
顔じゅうの骨を折られ、砕かれているせいで、生前の彼女の顔がどういうものなのか、全く判別がつかないほどに、彼女の顔が無くなっていた。
「・・・おい!?何だよ、これ!?」
「ムゴい殺し方をしよるな・・・!」
「・・・死因は、頭蓋骨を重い鈍器のようなもので殴られたことによる脳挫傷。撲殺ですわね。この傷口の形状を見ると、ハンマーのようなもので殴られて、死亡した後に、彼女の顔を拳で殴り続けて、顔を潰した可能性がありますわ」
「・・・そいつは、因幡だ。因幡だけじゃない。鹿島も、一昨日、同じように殺されていた。頭を鈍器で殴られて、顔を拳で殴られて潰された姿で発見されたんだ」
「鹿島さんまで!?」
頭の中が混乱して、状況が整理できない。
「これ、魔物に襲われたというわけではなさそうだぜ。魔物だったら、獲物をしとめて、巣穴に持ち帰るからな。こんなところに野ざらしになんて、しねーよ」
「上級魔族の仕業とも考えられるけど、ここに来た時、そう言った魔物の気配は感じられなかったわ。私の気配探知でも探る事が出来ないほどの、高度な気配遮断を使えるなら、話は別だけど」
「梶、お前はこの手口に、覚えはないか?」
え?それって、もしかして、同じような手口の事件を、僕が知っているってこと?
しばらく考えてから、僕は、前の世界で同じような事件が、三神市で起きていたことを思い出した。
黒髪のショートの女性ばかりが襲われる、連続猟奇殺人事件・・・。
被害者は全員、顔を殴られて、潰されていた・・・。
僕の近所で、そんな物騒な殺しが、今年に入ってから6件も起きている。
犯人は、まだ捕まっていない。
ネット上で大きく騒がれて、話題にもなっていた。
そして、誰かがこの犯人のことを、こう呼んでいた。
『殺人鬼スレッジハンマー』と。
そこで、僕は、思わず凍り付きそうな考えが浮かんだ。
前の世界で起きた手口と同じ、殺人事件が、こっちの世界でも起きているってことは。
セルマの召喚魔法によって、召喚されたのが、僕たちだけだったとしたら。
殺人鬼スレッジハンマーは、僕たちのクラスの中の誰かだったってことか!?
「・・・この世界に来てから、あの事件と同じ手口で、魔物娘が殺される事件が起きている。現場となった地域では、反魔物派の考えを持っていたから、人間の敵となる魔物を討伐してくれたということで、そいつは英雄としてもてはやされていたがな。その手口は、間違いなく、殺人鬼スレッジハンマーのやり方と一致している」
この口ぶりから、彼女は目撃したのだろう。
殺人鬼スレッジハンマーと呼ばれる人物の、犯行現場を。
しかし、それが魔物から人間を守るための対策と言ってしまえば、それが通ってしまうのが、この世界だ。
反魔物領に限定して、おそらくだけど、自分の欲望を満たすために、何の罪もない魔物娘たちに襲い掛かって、殺すだけじゃ飽き足らず、顔を潰していく。
これを、自分の正義だと疑わない、外道がいる。
そして、宗像さんは、口を開いた。
「・・・殺人鬼の正体は、雨野だ」
雨野も、やはり、ろくでもない人間だった模様。
鳳=自殺者まで出した、いじめグループのリーダー。
雁野=イライラするという理由だけで大量虐殺も躊躇なくやる、ヤンデレ。
桜=極道の息子で、狡猾だけど、仲間思いで義理堅い一面がある。
松本=国王や城内の人間を皆殺しにした、感情が欠落したサイコパス。
雨野=殺人鬼。
セルマ、見る目がなさ過ぎました。
というか、唯一まともともいえる桜を「自分よりも目立つから追放する」といって、陥れたことから、彼女よりもいい意味で注目される勇者は、セルマが潰していくつもりでした。その結果が、クロス王国の滅亡の危機を招いております。
余談ですが、5人の勇者の名前は花札からとりました。
鳳桐人=「桐に鳳凰」
雁野美月=「月に薄と雁」
幕ノ内桜=「桜と幕」
松本千鶴=「松に鶴」
雨野柳太郎=「柳に雨と小野道風」
ここまで読んでいただき、本当にありがとうございます!




